大空を舞台にグライダーで滑翔する楽しさとチームの大切さを知った体育会航空部
OVERTURE
上昇気流に乗って空を飛ぶグライダー。体育会航空部の瀬戸口薫さんは、『第40回久住山岳滑翔大会』で優勝を果たし、現在は自家用操縦士ライセンス取得を目標にさらに技術を磨く一方、学科では日本近現代史を学ぶ面白さを実感しながら、国産旅客機製造産業の歴史をテーマにした探求に励んでいます。
飛行機好きが高じて、航空部に入部
幼い頃から、空を見上げて飛行機を見るのが好きだったこともあり、現在に至るまで根っからの飛行機、航空ファンです。大学入学後、航空部があることを知り、部活動で空を飛べる環境が整っているのは大学ならでは、と思い入部しました。
航空部では、エンジンもプロペラもない「グライダー(滑空機)」の操縦練習をしています。通常の飛行機と同じように翼と車輪を持ち、人間が乗って操縦するのはグライダーも同じです。
最大の違いは、エンジンなどの動力を用いずに滑空「グライド(=滑る)」する点です。エンジンがないのでウインチという曳航(えいこう)装置とグライダーをロープでつなぎ、グライダーは引っ張られて離陸します。上空でグライダーとロープを切り離した後は、上昇気流という自然の力が約500kgもある機体を上空へ押し揚げてくれます。目には見えない上昇気流を見つけることによって、動力のないグライダーは高く、長い時間、そして遠くへ飛ぶことができます。抵抗を小さくして滑空性能を最大化するための、長い翼や細い胴体といった外見上のフォルムも特徴的です。
青学航空部は、埼玉県熊谷市にある妻沼(めぬま)滑空場を活動拠点にして、保有する3機のグライダーなどで滑翔練習をしています*。月に一度は週末を使っての合宿を、長期休暇には1週間ほどの合宿を行っています。青山・相模原の両キャンパスの部室には操縦シミュレーションの機材があり、時間がある時には自主的に練習ができる環境です。
また、安全に空を飛ぶためには、飛行技術の体得に加えて、学科と呼ばれる「航空工学」「航空気象」「空中航法」「航空法規」など多岐にわたる知識の習得も不可欠です。そのため、毎週水曜日にミーティングの時間を設けて練習計画や目標について確認するだけでなく、幅広い座学の勉強会も行っています。
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青山学院大学が表彰台を独占した『第40回久住山岳滑翔大会』
入部して1年間は、複座機という二人乗りの初歩練習機を用いて、ライセンスを持つ航空部OB・OGが教官となって一緒に乗ってくださり、滑翔経験を積んでいきます。初めて教官と一緒に妻沼で空を飛んだ時には、離陸の時に少し怖さを感じたものの、景色の美しさを存分に楽しめました。旅客機に搭乗していると左右の景色しか見えませんが、グライダーでは前の景色もきれいに見えて、筑波山の姿が印象的だったことを鮮明に覚えています。そして、まず目指すのは、一人でグライダーに乗る「ファーストソロ(初単独飛行)」です。2年生になって、いよいよファーストソロを迎えたときには、一人で空を飛ぶ不安以上に、自分の操縦で自由に飛べる嬉しさが勝って、格別な思いでした。
そして、2年生の8月に出場した『第40回久住山岳滑翔大会』では、我ながら驚いたことに優勝することができ、本当に嬉しかったです。この大会では6回の飛行での得点の合計で結果が出るのですが、全て減点なく飛ぶことができました。ただ、最も手応えのあった1回目の滑翔が、高度の規定の範囲内で上昇気流を捉えられていたかという審議が入ったため、結果が出るまでは全く油断できませんでした。幸い優勝できたうえに、航空部の同期が準優勝、3位と続いてくれ、青山学院大学が表彰台を独占するという、素晴らしい成績を残すことができました。
この大会の特徴は、(公財)日本学生航空連盟の加盟校の部員が集まり、西部地区・関西地区・東日本地区の学生間の交流を図りながら山岳滑翔をするところにあります。なかなか顔を合わせる機会のない大学の航空部とも交流でき、とてもいい思い出になりました。
優勝をきっかけに、私が学友会表彰(体育会表彰)最優秀選手をいただきましたが、この受賞は「チーム」のおかげであると考えています。単座機での単独滑翔でも、動力のないグライダーは一人だけの力では絶対に飛ぶことができません。部員は選手でありながら、それぞれが動力係、機材係、機体係、無線係、シミュレーター係といった係を分担しています。さらに、学科係、広報係、会計係といった組織運営に不可欠な役割があって、部の活動が成立しています。私自身も、動力係と学科係を担当しています。また、休日返上で教官を務めてくださる青学航空部OB・OGの方々のご指導があっての成果です。3年生として過ごす今年は、チームを下支えする存在となって感謝を示していきたいです。
見方が変われば意味も変わる、だから歴史は面白い
航空部は滑空場での合宿活動が中心なので、毎日のように練習することはありません。学業との両立はさほど難しくはないと思いますが、それでもテストや課題提出の時期に合宿が重複すると時間のやりくりは大変です。何事も早め早めに、なるべく事前に準備をしておくことが習慣化しています。
私は文学部史学科で、近現代の日本史を専攻しています。もともと歴史が好きで、歴史を通じて社会を見ると、無関係に見える事象がつながりを持って理解できること、文化や社会に対してより深い理解力を得られるところに面白みを感じます。
学部では史料を多面的に見ることを求められますが、特に嶋村元宏先生の「日本史特講(9)」では、通説を疑うということを叩き込まれました。例えば、ペリー艦隊が日本にやって来た時に大砲で脅したという通説があります。授業で、当時貿易のため長崎へ来航したオランダ船は、攻撃をする意思がないことを示すため入港する前に空砲を打っていたということを聞きました。このことから、大胆な推論かもしれませんが、ペリーも空砲を放つことによって戦闘の意思がないことを示そうとしたとも考えられます。捉え方によって歴史的事実の意味は変わる。そこが史学の、面白くも難しくもあるところだと思います。
また、2年次に履修した小宮京先生の「基礎演習A」「基礎演習B」では、まず日本現代史研究のための基本的な知識や研究法を教わり、その上で卒業論文につながるような興味のあるテーマを選んで自由に研究発表を行います。
航空機好きの私が選んだテーマは、「国産ジェット旅客機の事業化撤退」の要因を探る研究です。実は、テーマを決めた頃、報道で知る内容や論調に引っ張られた浅い視点でテーマを捉え、レジュメを作成し、授業内で発表したところ、先生から「一次史料に安易に影響を受け過ぎている。技術を規制した要因分析に着目して、もっとしっかり骨子を固めて」とかなり厳しいアドバイスをいただくことになりました。現在は、日本で旅客機製造産業が根付かなかった原因を、行政との関係から考察するという新しい視座をもって研究に取り組んでいます。これから卒業論文として仕上げるために、もっと法律関係の史料を掘り下げて内容を充実させていくつもりです。
自由度が高い環境の中で好きなことに取り組む
私は青山学院高等部からの内部進学でしたが、大学にはさまざまな地域からさまざまなバックグラウンドを持った人が集まっており、人間関係の幅も広がったと思います。青山学院大学は、キリスト教を土台に、進んで人と社会とに仕え、その生き方が導きとなる人「サーバント・リーダー」を育てるという核を持ちながらも、興味に応じて自由にチャレンジできる環境があります。実際に私も、航空部の活動にも歴史の勉強にも興味に応じて取り組み、教職課程も履修中です。
現在は、3年生での自家用操縦士ライセンス取得を目指しています。ライセンスを取得できたら、今の自分には参加資格がない「全日本学生グライダー競技大会」「関東学生グライダー競技会」、三校戦と呼ばれる「青山・法政・立教対抗グライダー競技会」の3大会の出場を目指したいと考えています。
その先の将来についてはまだ方向性が定まっていませんが、まず大学での生活を充実させながら、可能性を探っていきたいです。
※各科目のリンク先「講義内容詳細」は2022年度のものです。
文学部 史学科
青山学院大学の文学部は、歴史・思想・言葉を基盤として、国際性豊かな5学科の専門性に立脚した学びを追究します。人間が生み出してきた多種多様な知の営みにふれ、理解を深めることで、幅広い見識と知恵を育みます。「人文知」体験によって教養、知性、感受性、表現力を磨き、自らの未来を拓く「軸」を形成します。
ギリシア語の“historia”は英語の“history”と“story”の語源で、歴史・物語という両方の意味をもちます。人間の歴史に物語性がある証左でしょう。しかし、歴史学は史料を読み解き、過去を再構成する科学的・実証的な学問です。史学科では日本史、東洋史、西洋史、考古学の視点から学びを深めます。歴史を通して、人間とその社会について広く深い理解力を養い、社会の持続可能性も探ります。
バックナンバー
多様性の街「渋谷」で、自分だけの特別な場所を見つける
(フランス・トゥール大学)
Maxime Labbé
入学時からの努力で開いた公認会計士への道。誠実に財務諸表と向き合い監査の価値を高める
経済学部 経済学科卒業
夢は日本のビジネスを支える弁護士。正確な知識と「説明できる力」で、司法試験に挑む
法学部 法学科 4年
将来を模索していた私が
経営学科で見定めた
公認会計士という目標
経営学部 経営学科 4年
研究を通して積み重ねた
挑戦と成功体験が大きな自信に
理工学研究科 理工学専攻 知能情報コース
博士前期課程2年
オリジナルの分子を使って
新たな核酸の検出手法を開発
理工学研究科 理工学専攻 生命科学コース
博士後期課程2年
*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。