祖母への想いが背中を押した
ウクライナ避難民支援。
国際政治学にも結びつく
OVERTURE
幼い頃から海外に興味を持っていた知念さん。高校時代にはカンボジア学生派遣なども経験して国際関係への関心を深め、本学の国際政治学科に進みました。2022年6月には、日本財団と日本財団ボランティアセンターが共催するウクライナ避難民支援ボランティアプログラムに参加。活動から得られたものについて、いま改めて語っていただきました。
けがを負った避難民の方の姿が祖母と重なった
2年生になったばかりの4月、私はニュース映像でロシアによるウクライナ侵攻の様子を目にしました。目にけがを負ったウクライナの避難民の方の姿が、1945年の沖縄戦で片目を負傷し失明した自分の祖母と重なり、私は「自分も何か力になれないだろうか」といてもたってもいられない気持ちになりました。同時に、これらの大きな出来事について「単なる知識ではなくリアルな現状を知らなければ」という思いも生まれました。そのタイミングで今回のウクライナ避難民支援ボランティア募集を知り、私は迷わず参加を決めました。
予想とは大きく異なっていた現地の姿
ボランティア活動の拠点となったのは、ウクライナとの国境付近にあるポーランドのプシェミシェルという街です。街に設けられた一時避難施設で、私たち学生ボランティアチームは1週間にわたって避難民の方々の受け入れ手続きや支援物資の配布などを行いました。
現地に着いてまず驚いたのは、一時避難施設の避難民には、スラヴ系をはじめ、いわゆる白人系の方がほとんどいなかったことです。避難民のほとんどは、少数民族であるロマ系と思われるアジア系の方で、これは日本で目にしていたニュース映像などとは全く異なる現実でした。一時避難施設でさらにショックだったことは、他民族の方からロマの方たちへの差別的な言動があったことです。ヨーロッパにおけるロマへの差別問題については、それまでも報道などで耳にしてはいましたが、実際目の当たりにした時には大きな衝撃を受けて深く考えさせられました。
その一方で、避難民の子どもたちとの触れ合いは心温まるひとときでした。休憩時間にはトランプやボールで一緒に遊ぶのです。元気いっぱいの彼らの姿に、私は自分の弟が幼かった頃を思い出し「天真爛漫な子どもの姿はどこの国でも同じなんだな」と普遍的なものを感じました。
国際政治の学びとも密接に結びついたボランティア経験
現地での経験は、大学での学びとも密接に結びつきました。例えば、ロマ系の方々の生活習慣は日本人である私の感覚とは大きく異なっており、文化の違いを肌で感じました。そこから移民問題に関する大学の授業が思い起こされ、移民受け入れ問題などもさらにリアルに考えられるようになりました。
また「政治学原論Ⅰ」の授業で国家や民族のアイデンティティーについて学んでいたことが、現地で役立ちました。ウクライナはかつて旧ソ連の構成国だったという歴史があります。そのためウクライナの人たちはロシアに対して複雑な感情を抱いていることが多いのですが、ボランティア期間中はそれらの背景を踏まえたうえで避難民の方と接することができたと思います
特に印象的だったのは、マリウポリ出身の避難民の方から「どうすればロシアと仲良くなれるんだろう」という言葉を聞いた時です。その時、彼女は「ロシア人」ではなく「ロシア」と表現しました。つまり彼女は、ウクライナとロシアの関係を、スラヴ系の同胞である人間同士の関係ではなく「国家対国家」として捉え始めていたのです。この瞬間、目の前の現実と、国家や民族のアイデンティティーに関する授業がつながり「授業で学んだのはこういう事なのだ」と衝撃を受けました。このように、私は現地を訪れたことで「単なる知識ではなく、自分の目で現状を知りたい」という当初の期待をはるかに超えるものを得ることができました。
また、これらの学問的な学びに加え、内面的な変化も得られたように思います。例えばこれまで当然だと思っていた事柄が決して「当たり前」ではなかったことを実感しました。爆撃や死の恐怖に怯えることもなく暖かい布団の中で眠れること。家族や友人と穏やかに過ごせること。「当たり前」という概念が覆されたのは自分にとって大きな出来事でした。
もう一つの変化は、今まで以上に「ありがとう」と口に出して言うようになったことです。この変化は家族や友人が教えてくれました。例えば帰省した時のことです。ボランティアを終え、夏休みに帰省した私に母が食事を出してくれました。その時はいつものように「ありがとう」と伝えたのですが、食後に食器を洗いながらもまた「そういえば、ご飯ありがとうね」と母に伝えていたのです。これは無意識のことだったのですが、驚いた母から「前よりもっと“ありがとう”が増えたね」と言われて気付きました。感謝の思いや自分の考えというのは、言葉にして初めて伝わることも多いと思います。こうした大切なことを、今のうちからできるようになったことはとても良かったと思っています。
豊かな「知」を得るために、まず疑うべきは「自分の思い込み」
現代では、テレビやインターネットなどを通じて多くの情報を知ることができます。しかしそれらの情報は限定的で、リアルな現実からは遠いものもあります。私は今回、ボランティア参加を通じてそのことを実感しました。本当に現実を知ろうとするなら、本を読んでもいろいろな人と話をしてもまだ足りません。自分で経験してさえも圧倒的に足りないと感じます。そこで大切になってくるのが「自分は世界のことを知らない」という自己認識、いわば「無知の知」ではないでしょうか。「自分は知らないんだ」と自覚することが「だからこそ知りたい、もっと知ろう」という原動力になると思います。
もっと世界を「知る」ために、私は「無知の知」に加えて「自分の思い込みを疑う」ことも大切にしています。人間は自分でも気づかないうちに周囲からの影響を受けることも多いのではないでしょうか。その結果、自らの判断に無意識のバイアスが掛かることもあると思います。それを防ぐには、まず行動を起こして自分の目で見て確かめること。そこから導き出した自分の答えにも何らかの先入観が含まれていないか「疑う」こと。こうした努力を積み重ねることで、より正確に、豊かに「知る」ことができるようになるのではないかと思います。
国際政治経済学部 国際政治学科
青山学院大学の国際政治経済学部は国際社会への貢献をそのミッションとし、国際系学部の草分けとして創設されました。3学科×5コース体制のもと、専門性と国際性、現場感覚を重視した学びを実践しています。グローバルレベルの課題への理解を深め、エビデンスにもとづいて議論・討論するスキルを養成します。世界の多様な人々と協働し、新たな価値を創造する実践力を育みます。
国際政治学科では国際社会を国際政治学の観点からとらえます。2年次に選択する「政治外交・安全保障」と「グローバル・ガバナンス」のいずれのコースも、大幅に刷新された新しいカリキュラムの下で、国際政治学の「最新」を広く深く体系的に学びます。学びを通じて身に付けた能力は、近い将来に、国際社会の諸問題の解決のために大いに活かされることになります。