世界の貧困問題を解決したい。その一途な思いでさまざまなアプローチを模索する日々
OVERTURE
幼い頃に見たアフガニスタンの貧しい子どもの写真が心に残り、将来は諸外国の貧困問題を解決する仕事に就きたいと考えている桂潤弥さん。本学の地球社会共生学科は、国際関連の中でも特に開発途上国に焦点を当てた授業が充実していることや、経済成長の目覚ましい東南アジアへの留学がカリキュラムの特長となっていることなどから進学を決意しました。現在は将来の目標に向け、意識の高い仲間たちと勉強に励む毎日です。
アジア経済史をマクロな視点で考察
履修した授業の中で特に印象深いものを挙げると、ひとつは専門科目 である「現代アジア経済史」です。本学科ではタイやマレーシアといったアジア地域への留学をカリキュラムの柱としていますが、それらの地域で1970年代以降に起こった「東アジアの奇跡」と呼ばれる急速な経済成長について学びます。東南アジア諸国を中心にこれまでの経済発展を振り返りながら、開発途上国に必要な経済政策をマクロな視点で考察しました。頭がショートしてしまいそうなほど難しい内容も多かったのですが、林拓也先生のユーモアに満ちた魅力的な講義のおかげで楽しみながら理解することができました。この授業で、ものごとを俯瞰する“鳥の目”の視点を養えたことは自分にとって非常に有意義でした。この視点は開発経済学を研究している現在も役に立っていますし、社会人になってからも大切にしたいと考えています。
もうひとつは、本学独自の全学共通教育システムの青山スタンダード科目の「キリスト教概論Ⅰ」です。青山学院大学の教育の土台となるキリスト教について学び、本学の理念を理解する授業です。藤原淳賀先生はいつも熱心かつ穏やかにお話され、わたしたちが生まれた意味や、今後社会で成すべきことを考えるきっかけとなりました。自分自身を深く見つめ直すこともできたと思います。授業で紹介されたシスターである渡辺和子さんの「置かれた場所で咲きなさい」という言葉は、私の成長に大きな影響を与えてくれました。現状を受け入れた上でどう輝けるか、逆境を嘆くのではなく、それをも楽しみながら結果を出すことに注力する大切さを学びました。
本学科では留学や就職を見据えた英語教育にも力を入れています。通常は実際に留学する2年次前期まではほぼ毎日英語の授業があり、ネイティブ・スピーカーの教員と話す機会があります。「毎日」ということが私にとっては重要で、帰宅後に英語を予習復習し、疑問点があれば翌日早めに教室に行って先生に質問するというサイクルで力をつけ、TOEICの点数を1年で250点ほど上げることができました。
また、“コミュニケーションツールとしての英語能力の習得”に重点が置かれているのも特色です。自分自身、英語学習のゴールは世界中の人々と自由に話せるようになることだと考えています。英語はあくまで手段のひとつであり、語学を習得したその先を考えることが重要だと感じています。
自主的な補講で知識不足を解消し、ゼミに臨む
現在は、開発経済学や経済発展論について学ぶ咲川可央子先生のゼミナール (ゼミ)に所属しています。経済発展を遂げた国がある一方で貧困から脱することのできない国があるのはなぜか、貧困の状態にある人々が直面するさまざまな制約と、それらをもたらす制度、市場、政府の欠陥などについて考察します。3年次前期は、開発経済学の標準的な教科書を用いて、世界の貧困状況や、貧困を撲滅できない原因、東アジアやアフリカの事例を学びました。後期には、さらに多国籍企業の海外直接投資(FDI)やグローバル・バリュー・チェーン(GVC)などの国際経済学と関係の深いテーマや、産業集積や経済協力についても学びました。
学びを深めていくうちに専門知識の不足を痛感することがあったため、自主的にゼミ生だけで補講を始めました。毎週木曜日4限目のゼミの授業終了後、次回のゼミで扱う範囲の基礎を学び直したのです。経済学の知識に長けたひとりの学生を中心に講義形式で行い、時には終了時刻が20時を過ぎることもありました。この補講の甲斐あって、ゼミでは回を追うごとに議論が活発になり、咲川先生も「議論の質が高まってきている」と評価してくださいました。誰かの発言に対して、別の学生がホワイドボードに図式を書いて解説する。議論が間違った方向に向かったり、行き詰まったりしたときは咲川先生が助言をしてくださいます。私の学年は咲川ゼミの一期生で人数が少ないこともあり、和気あいあいと常に笑顔でゼミ活動が進みます。ゼミでの一連の経験は、私に「自走力」「結束力」「主体性」を育んでくれました。
私自身の研究としては、MITのバナジー教授、ディフロ教授、ハーバード大学のクレマー教授が2019年のノーベル経済学賞を受賞した「世界の貧困軽減に向けたフィールド実験」で用いられたランダム化比較試験(RCT)※を深く学んでいます。将来社会人になった時、開発途上国の発展のためにどのような行動をすべきか、1市町村区、1企業、1民間人というミクロな視点で何ができるのか、何をすることが最適なのかを考えています。これには経営学系やコミュニケーション学系の授業で学んだ知識も役に立つと思っています。革新的なアイデア創出に多角的な学びは欠かせないものだと実感しています。
※評価のバイアス(偏り)を避け、客観的にその効果を評価することを目的とした社会実験の方法。
咲川可央子先生のAGU RESEARCH記事はこちら。
他大学の学生と国際問題に関する論文を共同執筆
入学当初は漠然としていた目標から将来像を明確に描けるようになれたのは、ゼミでの研究活動に加えて「十大学合同セミナー」に参加したことも大きいです。同セミナーは大学の垣根を越えて学生が活発な議論を交わし、学術のレベルを高めることを目的として1973年に設立された伝統ある学術団体です。学生が運営の中心を担い、東京エリアの10以上の大学から毎年100人以上の学生が参加しています。 国際関係論、国際政治学などをテーマに約25人ずつのセクションに分かれ、3ヶ月かけて最終的に約25,000文字の共同論文を執筆します。
私が参加した理由は、予定していた留学がコロナ禍で延期となり、国際問題を肌で学ぶ機会が欲しかったからです。活動は週2回で各3時間、予習も含めて非常に密度の濃い内容でした。さまざまな大学の学生と勉強や議論を行い、ある意味ガラパゴス化していた自分の視野を広げる良い機会となりました。同時に、国際問題の研究において求めるレベルが向上したと手応えを感じています。また、ゼミ単位で参加する学生が多い中、私は個人参加だったので、ひとりでコミュニティに飛び込んで自分の居場所を確立する力も身に付きました。成長の場として、後輩たちにもぜひ挑戦してほしいです。
将来の夢はITビジネスで貧困状態に置かれた人々を救うこと
将来はIT企業を立ち上げ、世界の絶対的貧困(生きる上で必要最低限の生活水準が満たされていない状態)の人々を救えるような事業を成功させたいと考えています。貧困問題というと、一般的にはJICAやNPOによる支援が思い浮かびますが、支援の持続の難しさに直面しているケースもあることから、私は双方に利益が生まれることで持続可能なビジネスという形を目指します。なぜIT企業かというと、ゼミでRCTを学び、テクノロジーの導入によるささいな変化が現地の人々の所得や生活様式を大きく向上させることを知ったからです。この夢を実現するためのファーストキャリアとして、AIチャットボットの開発やチャットコマース事業を展開する企業に就職を決めました。
コロナ禍で延期されていましたが、4年次後期である現在、タイのシーナカリンウィロート大学に留学しています。留学先では観光産業領域のビジネス論について学んでいます。観光業の発展は、外貨の流入によって途上国の開発を進展させ、貧困問題解決につながると思い選択しました。また、勢いのあるタイでの生活は学業のみならずさまざまな学びがあり刺激的な毎日です。現地で活躍されているたくさんの社会人の方から情報収集を行い、チャットコマースがどうタイで、特に観光産業で生かせるのかなど、自分のキャリアプランをより具体的に描き直している最中で、とてもワクワクして過ごしています。
インタビュー動画
※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2022年度)のものです。
地球社会共生学部
地球社会共生学部(School of Global Studies and Collaboration /GSC)では、世界中の人々と共に生きるための専門知と実行力を備えた人材育成を目指します。激動する世界を視野に「地球社会」の多様性に触れ、異文化理解を深める幅広い学びを展開。世界の人々との「共生」をキーワードに、コラボレーション領域、経済・ビジネス領域、メディア/空間情報領域、ソシオロジー領域の専門4領域を中心としてアジア留学や英語教育などの充実を図り、Global Issuesを共に解決し協働できる「共生マインド」を養います。
地球社会共生学科は、国境を超えた「地球社会」を研究対象としています。多角的な視点と語学力に裏打ちされたコミュニケーション能力をもって、さまざまなグローバル課題の解決策や持続的な社会を創造する方法を探究します。