OVERTURE
大学での学びのフィールドは、インターンシップや海外留学を通じて世界中に広がっています。
青山学院大学でグローバルな発想と思考を養い、世界で活躍する人材へと成長している学生・卒業生を紹介します。
世界の注目を集める都市「東京」の窓口役
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、今、東京には世界中から非常に多くの視察や要人の訪問の依頼が寄せられています。その窓口となっているのが、私が所属している東京都政策企画局外務部です。よろず海外に対することを全て担っている部署なので、「東京都における外務省」といったところでしょうか。「都知事に会いたい」「下水道の施設を見学したい」「障害者施策について聞きたい」といったあらゆるご要望をお聞きし、庁内の各部署と調整して実現させていきます。その方々が来日された時には、ツアーコンダクターのようにアテンド役も務めます。大学で身に付けた英語と中国語の語学力、世界各国に対する知識を活かせる仕事ができ、とても幸せだと感じています。
私たちの元に寄せられるご要望は、そのまま実現できるものだけではありません。漠然としたご要望や、実現が難しいご要望をいただいたときには、丁寧にお話をうかがい、そこに隠された「本当に望んでいること」を引き出していきます。そして、都の施設や人材を使ってどうやって希望を叶えるか、と具体的に考えていくことが必要になります。
例えば、先日、アジアのある都市の市長が東京都を訪問されたとき、事前のご要望の中にあったのが「東京の街をふかんしながら、まちづくりについて学びたい」というもの。それを都の施設で実現するにはどうしたらいいのか、ずいぶん頭を悩ませました。いろいろなアイデアを先方に提示してご希望をうかがい、「都庁の高層階の会議室で、東京の街並みを見ながらまちづくりの担当者がレクチャーをする」という形で実現させることができました。
「東京都のことなら、この人に相談すれば大丈夫」。そんな信頼を寄せていただける、顔の見える関係を築くことが私たちのセクションではとても重要です。そのために、相手が東京都の何を知りたいのかを親身になって聞く、ということが何よりも大切だと考えています。
「公務員は全体の奉仕者」という言葉になじめた理由
中等部から青山学院で学び、大学では国際政治経済学部に進みました。英語や国際情勢に本格的に興味を持つようになったのは、高等部時代です。フィリピンからの留学生の友人ができたこと、ホームステイプログラムでロシアを訪れ、ストリートチルドレンの姿を見て格差問題に関心を持ったことがきっかけでした。
国際政治経済学部でのキャンパスライフをひと言で表すと「多様性と調和」。個性豊かでバックグラウンドも多彩な友人に囲まれ、お互いを尊重し、認め合いながら、充実した学生生活を送りました。
先生方の熱意あふれる授業にも、大いに感化されました。
特に所属していたゼミの指導教員である押村高教授は、世界各国の政治思想から、文化や歴史に至るまで、幅広い知識をお持ちでしたので、学内にいながらにして世界中の事象に対する視野が広がりました。周りには留学する学生も多かったのですが、私は留学をしませんでした。海外に出なくても、学ぶべきことはこのキャンパスの中にあるという思いを持っていましたし、学内での学びにとても満足していたからです。大学卒業後は他大学の大学院で学び、2008年に都の職員として採用されました。
当初は民間企業への就職も考えていたのですが、いざ就職活動を始めてみると、エントリーシートを書こうとしてもどうしても筆が進みません。企業で働いてキャリアを重ねる自分を想像してみても、どうもしっくりこない。自分が長く働く姿がイメージできる仕事とは何だろう、とあらためて考えて、思い浮かんだのが公務員でした。
「公務員は全体の奉仕者」。憲法にも規定されたその言葉に、私は自然になじむことができました。それは、青山学院でキリスト教の「愛と奉仕の精神」に親しんできたからだと感じています。とはいえ、在学中にキリスト教を意識したことはあまりなく、毎日の礼拝や賛美歌を歌うことにも特別な思いはありませんでした。公務員になり、はじめて私の中にも愛と奉仕の精神がしっかり根を張っていることに気付くことができました。業務の中では、厳しいご意見や難しいご要望をいただくこともあります。そこで相手に向き合い、親身になって頑張ることができる力は、青山学院で過ごしたからこそ身に付いたのだと思っています。
大切なのは、心を通わせるおもてなし
さまざまな国の方と接する時、いつも考えているのは「東京を好きになってほしい」ということです。依頼をくださった方にとって、私たちは東京都の窓口であり、都の代表です。それどころか、その方が初めて接する日本人が私たち、というケースも少なくありません。私たちの印象が東京の印象を決める。そう考えると、仕事とはいえビジネスライクな関係ではなく、「人と人とのお付き合い」をすることが大切ではないかと思っています。
海外の方と「人と人とのお付き合い」をするときに、実は大学の授業で聞きかじった雑学が、とても役に立っています。国際政治経済学部の先生方は本当に話題が豊富で、学術的なお話はもちろん、ちょっとした豆知識や雑学もたくさん話してくださいました。世界中の方の依頼を受けていると、ふとした瞬間に、その国や地域について先生方が話していたエピソードを思い出すことがあります。それがとてもいい話のきっかけになるのです。
「そちらのお国では○○という料理がおいしいそうですね」「○○監督はそちらのお国の方ですよね。私、ああいう映画が好きなんですよ」そんなひと言がとても喜ばれ、話が盛り上がって気持ちが近付いたことが何度もあります。仕事を通じて心を通わせ、家族を連れて東京に遊びに来てくれる親友もできました。
学生時代から続けているいけばなも、外国の方とのコミュニケーションに役立つツールの一つ。独自の美を持つ日本のいけばなは、海外の方にとても喜んでいただけるので、お客様のために、その国にちなんだ花をいけることもあります。いけばなのレッスンは、私にとってリフレッシュできる大事な時間でもあります。勤務後の時間は、いけばなのほかに英語の語学学校にも通い、自己研鑽とセルフメンテナンスに充てています。オフに充実した時間を過ごすことが、仕事のパフォーマンス向上に繋がっています。
メガシティ東京が世界で果たすべき役割
今、世界は「都市の時代」と言われています。世界の人口の半数以上が都市部で生活するようになり、都市を効率的に運営、管理していくマネジメント方法は、多くの行政機関にとって重大な関心事です。そのトレンドの中にあって、世界のメガシティの代表である東京都の行政運営への注目度も高まっているのを感じます。
中でも最近視察の依頼が増えているのは、インフラに関する施設です。例えば、時間に正確な地下鉄、災害・防災対策に関する事業、環境課題に対応するリサイクル施設などは、特に高い関心が寄せられています。例えば、途上国では今、都市人口増にともなってごみ処理が大きな社会課題になっていますが、東京もかつて、ごみ問題に苦しんだ時期がありました。住民と話し合い、工夫を重ね、技術を向上させてきた経験をシェアしていくことは、東京が世界で果たすべき役割の一つだと考えています。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、世界の中から訪れる方々に最高のおもてなしをしたいですし、それ以降も、海外の方に「また行きたい」と感じてもらえるような魅力ある東京で在り続けることを願っています。国際関係を学び、世界中の方と接してきた経験を持つ者として、世界に東京を発信し、東京と世界を繋ぐ仕事にこれからも関わっていきたいです。
木村さんの1日
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AM 8:00
朝の日課である英語ニュースのリスニングやシャドーイングをしながら出勤。文書の決裁を済ませ、メールや海外メディアの報道をチェック
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AM 10:00
来月予定されている海外からの視察について、庁内でミーティング
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AM 11:00
午後に海外の要人を迎えるため、会場の準備
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PM 0:00
ランチ
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PM 2:00
海外の要人に対応
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PM 4:00
イベント開催に向けて、大使館員と電話で打ち合わせ
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PM 5:00
退勤。いけばなのレッスンのため表参道の教室へ
インタビュー動画
卒業した学部
国際政治経済学部
国際政治経済学部国際政治学科では、国際政治に特化したカリキュラムで国際社会や日本外交が直面する諸問題を歴史的、思想的かつ理論的に理解し、異なる文化や価値体系に対する高い感受性を身につけ、かつ国際的諸問題の解決のために積極的に思索し行動できる人材を育成します。
政治、経済の分野はもちろん、民族間の紛争や、人権、資源、食料、環境問題などの国際問題を掘り下げて考え、国際政治学を深く追究できる体系的なカリキュラムと充実した学習機会を提供しています。
国際政治学科の学生は、理論、歴史、地域、そして国際法や経済学を通して、国際社会の仕組みを総合的に分析する能力を身につけて、国際社会に貢献できる人材に育てることを目標としています。