150周年記念企画
「未来を拓く青学マインド」
報道の現場で思いをつなぐ縁の下の力持ち
|校友・卒業生|
キャスター
小川 彩佳
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青山学院高等部
座間 耀永
今年、創立150周年を迎えた青山学院。その歴史の中で学院から羽ばたいた多くの卒業生は、在学中の学びを生かし、サーバント・リーダーとして各分野で社会に貢献しています。今回は、報道番組で情報の伝え手として活躍を続ける小川彩佳さんに、「言葉の力」をもとにした活動に取り組む青山学院高等部の座間耀永さんが、キャスターという仕事に向き合う思いや青学で培った今につながるマインドについてお聞きします。
Profile
キャスター
小川 彩佳
2007年 国際政治経済学部 国際政治学科卒業
青山学院初等部から青山学院で学び、2007年にアナウンサーとして株式会社テレビ朝日に入社。『報道ステーション』サブキャスターを7年半にわたって務めるなど、報道・情報番組を中心に担当。2019年にテレビ朝日を退社し、フリーランスとして活動している。同年6月『news23』メインキャスターに就任。
青山学院高等部3年
座間 耀永
小学生の頃から作文を書くことが好きで、数々の作文コンクールで入賞、優勝歴多数。2023年6月に「言葉の力」コミュニティ 非営利型一般社団法人AZ Bande(アイジー・バンデ)を設立、代表として主に小・中学生に向けた作文教室を実施している。また、2024年3月発表の文芸社主催「第3回Reライフ文学賞」の長編部門では最優秀賞を受賞し、書籍化が決定。11月に全国出版予定。
TALK THEME
1st TALK
「キャスターとして大事に
していることは?」
「なかなか声が届かない方たちの
言葉をきちんと伝えていく。
その信念はぶれないでいたい」
私が小学生のときからずっと好きで続けていることが作文です。書くことで気持ちが整理できますし、文学賞などの結果にもつながるようになって自信がつきました。自分が頑張って取り組んできたことで社会貢献したいと思い、昨年、非営利型一般社団法人AZ Bande(アイジー・バンデ)を起業して、「言葉の力」を理念に子どもの作文教室や大学とのコラボイベントを行っています。
座間さん
小川さん
高校生で起業なんてすごい行動力ですね。小さい頃から思い立ったらやってみるタイプだったのですか?
そんなこともなくて、今もそうですが、人見知りや場所見知りがとても強かったです。そういうところを克服したい気持ちも作文を書くことにつながっていったのではないかと思います。
座間さん
小川さん
自分を表現できるようになって、自分自身をよく知るきっかけになるかもしれないですね。
はい。皆さんが自由に楽しく書けるようにサポートしたいと思っています。
受け取る人に伝わる言葉を模索する中で、小川さんは相手を重んじる言葉を大切にしている方だと尊敬しています。作文は修正ができますが、ニュース番組は一度発信してしまった言葉を取り消せない緊張感があると思います。情報を届けるうえで意識されていることはありますか?
座間さん
小川さん
そんな風に言っていただいてありがとうございます。おっしゃるとおりで、生放送の現場では、自分の口から出てしまった言葉は取り消すことも、フォローすることもできません。その瞬間が全てなので、憶測や自分の思いを先行させて言葉を発するのは極力控えています。それでも、とっさに発言をしなければならないことが多いので、オンエアの時間までにひとつひとつのニュースや事象を精一杯インプットして自分自身を補強するしかありません。細心の注意を払ってはいますが、それでも何か誤ったことを言ってしまったならば、真摯に反省して、その後の発信や自分自身の姿勢、向き合い方で信頼を取り戻していくしかないと思っています。
放送時間は短いですし、視聴者の皆さんの目には粛々と進行しているように見えると思いますが、実際のところ裏側では慌ただしく動いています。そうしなければ、戦えないという感覚です。
ニュース番組のキャスターとして、日々の生活の中で取り組んでいることや意識していることはありますか?
座間さん
小川さん
プライベートで行うことも知識や経験として積み重なり、出てくる言葉につながる面があるので、かつては「こういうところに出かけておくと仕事で役立つかもしれない」と、休日の行動もすべて仕事前提で考える時期もありました。現在は子育てをしながら働いているので、自分の時間や仕事のための時間を制限せざるを得ない部分があります。でも、同じように家庭と仕事を両立しながら日々頑張っていらっしゃる方は大勢いますし、子育て以外にも介護や闘病、そして仕事など、何かの狭間で葛藤している方は多いと思います。そうした方たちの代弁者になれたら、という思いです。日常生活での気づきや、仕事と子育てを両立しながら自分自身もどう感じているか、どう希望を見出せているか、そういったところに敏感であろうと心掛けていますね。
報道には中立性が求められますが、そればかりだと真意が伝わらないこともあると思います。小川さんはどうやってバランスを取っていますか?
座間さん
小川さん
本当に難しくて、試行錯誤です。一つの意見が先鋭化しがちな時代にあって、ある事柄に対して、自分自身にはない視点でどのように捉えられているのか、多角的な見方を意識的に取り込むようにしています。現在、私が担当している『news23』は、多様な意見を提示することを重視して、出演者が円卓を囲んでディスカッションする新しいスタイルを取り入れています。全ての視点を網羅することは難しいですが、なるべく多様な意見をお伝えできたらと思っています。そして、社会で絶対的に困っている方や脆弱な立場にいる方にしっかり寄り添っていこうというのは番組全体の意思でもありますし、私自身も仕事をする中で大事にしている価値観です。世の中に声を届けることが難しい方たちの言葉をきちんと伝えていく。その信念は、ぶれないで持ち続けていたいです。
2nd TALK
「今の仕事につながる
大学での学びは?」
「どんなに伝えようともがいても、
相手に届くとは限らない。
今も仕事を
しながら身を持って感じています」
大学進学について考えているところです。今のお仕事につながっていると感じる大学での学びはありますか?
座間さん
小川さん
国際政治経済学部は英語で行われる授業の選択肢が多く、私自身は履修した授業の7割くらいが英語講義だったと記憶しています。英語力と専門力とコミュニケーション力を同時に磨くことができるカリキュラムは、グローバル社会において大変意義がありますし、外国の方にインタビューする際にも生きています。
それから、まさに今の仕事に直結していると感じるのが、末田清子先生のゼミナール(ゼミ)での学びです。末田先生のご専門は異文化間コミュニケーション学で、言葉以外の行動や表情、仕草でもメッセージになること、非言語コミュニケーションの概念を教えていただきました。座間さんは言葉をテーマに活動をされていますが、言葉を介さないコミュニケーションを意識したことはありますか?
あります。ヨットマンだった父は、2年半ほど闘病生活を送った後、去年の6月に他界しました。父が危篤状態だったとき、ヨット仲間が、父の愛艇から父が作った亀と海賊の旗を高々とたなびかせている写真を送ってくれたことがありました。父の表情から、言葉を介さなくても、仲間の思いが確実に伝わっていること、それだけで私たち家族を応援している気持ちがはっきりと伝わってきました。
座間さん
小川さん
「伝える」とか「伝わる」というのは、いろいろな形、いろいろな可能性がありますよね。末田先生の授業では、こんな実験をしたことも印象に残っています。教室でA、B、Cの三人が対角線上に並び、BとCはAに背中を向けます。この状態でAが「おーい」と声を掛けると、BとCはその声がどちらに向けられているかわかるのか、というものです。声を掛ける側も声のトーンや言い方を工夫するのですが、簡単に思えてこれがなかなか難しくて。伝えようと思う側に強い思いがあって、もがいて伝えようとしても、独りよがりでは必ずしも相手に届くとは限らないのだと実感しました。そのことは今も仕事をしながら身を持って感じているところで、言葉を一生懸命探したり、練ってみたりしても、実際にはうまくいかないこともあります。さらに、こちらが伝えたいと思ったことが、受け取り手の思いで変わってしまうこともありますから、伝えるという行為は自分だけではコントロールできない「生き物」のようだと感じています。
私もコミュニケーション学を学んでみたいです!
小川さんはスペインに短期留学もされたそうですね。私もスペイン語に興味があります。スペインはどうでしたか?
座間さん
小川さん
スペインは最高に楽しかったですよ。大学にスペイン語のとても面白い先生がいらして、その先生に留学を勧められ、ヨーロッパ最古の大学の一つと言われるサラマンカ大学の外国人向けコースで学びました。スペイン人は皆さん感情のままに動いていて、生粋の明るさにすごく癒されました。サラマンカ大学には世界中から留学生が集まっているので、多くの国の人と関わる機会を持てたことも貴重な経験になりました。特に私にとって大きかったのが、台湾からの留学生との出会いです。仲が深まったところで、お互いの国・地域の印象、という話になったのですが、そこで彼らから「慰安婦」という言葉が出てきたのです。思いがけない言葉に、衝撃を覚えました。異文化交流しなければわからない、双方の「常識」があるのだということを、実感させられる出来事でした。
振り返れば、アナウンサーを志したのも海外での体験が原点です。6~7歳の2年間をアメリカで暮らし、さまざまな人種や文化など自分の範疇を越えた世界に触れて、「知る」ということに楽しさを覚えたことから、自分も「知る」を通じて誰かの懸け橋になりたいという思いが芽生えたのです。皆さんにも在学中に留学や海外旅行で見聞を広めることをおすすめしたいです。
3rd TALK
「キャリアの礎となる
“青学マインド”とは?」
「目立つ立場にいる人たちだけで
なく、
支える人の存在の大きさを
教えていただいた」
高等部時代のお話もお聞きしたいです。印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
座間さん
小川さん
集会委員の委員長として、校内のバンドがライブを披露するミュージックフェスティバルのプロデュースを担当したことが印象深いです。音楽が大好きだったので、バンドをどう演出するか、演奏中のライトはどの色にしようか、など考えていくのがとても楽しかったのを覚えています。ところが、あれこれ考え過ぎてしまったようで体調を崩してしまいまして…。しんどい思いをしましたが、イベントの最後にバンドの皆さんが「集会委員が頑張ってくれました」と壇上に引き上げてくれました。裏方としてずっと「縁の下の力持ち」のようなことをしていた中で、それが報われる喜びや、そこにちゃんと目を向けてくれる人がいるということを感じられた忘れられない出来事です。
まさに青山学院が重んじているサーバント・リーダーの精神につながるお話だと思いました。
座間さん
小川さん
そうですね。「縁の下の力持ち」という言葉は初等部から先生方が大事に伝えてくださって、目立つ立場にいる人たちだけでなく、支える人の存在の大きさを感じることができました。
仕事においてそうした意識が生かされていると思うときはありますか?
座間さん
小川さん
キャスターは見た目としては画面に出ている最前線の人間ではありますが、実際に行っている役割は「縁の下の力持ち」なのではないかと思っています。ニュースの主役は報じられる側にいる当事者の方々です。私たちキャスターは、自分以外の誰かの思いをニュースの背景や社会的意味などを加えながら視聴者の皆さんにつないでいく中継者だと考えています。もしかしたら、この仕事に携わらせていただいていることが、点と点がつながった到達地点なのかなとも感じています。
思いをつなぐことができたと感じるのはどのようなときですか?
座間さん
小川さん
たとえば、取材で大変素晴らしい事業をされているのにもかかわらず、資金繰りが苦しくてその事業を諦めざるを得ないほど追い込まれている方にお話をうかがったことがありました。すると、放送を見ていた方が援助を申し出てくださって、事業を継続することができたというのです。その知らせを受けたときは、思いがつながっていったのだという実感が得られ、「ああ、お伝えしてよかった」と心の底から思えて本当にうれしかったですね。テレビの前にいる視聴者の皆さんの反応を知る機会は少ないのですが、このように、私の耳に届くような反響があったときは特にそう感じます。
最後に、私たち青山学院で学ぶ生徒や学生に向けてメッセージをお願いします。
座間さん
小川さん
青学には個々の在り方や生き方、思いを尊重し、「自分もあなたもそれぞれ素敵だよね」と自然に認め合える環境があります。SNSが発展し、人と比べることが容易にできてしまう時代だからこそ、自分にないものを持っている人を肯定したり、他者の良さを見つけたりしようとする気持ちを大事にしてほしいです。そうすることで自分自身をしっかり見つめることにつながるはずです。また、社会に出たら自分の意の赴くままに何かができる時間は少なくなってしまいます。学生時代は思い立ったら即行動でやりたいことにとことん挑戦し、いろいろな知識や興味の窓を開いていってください。
本日はどうもありがとうございました。
座間さん
After Interview
「言葉の力」を追究しながら将来を模索する座間さんが、小川さんのお話から得た気づきとは?
人に心を寄せて活動をしていきたい
小川さんがキャスターとして活躍されている中で、社会的弱者や自身の声がなかなか届かない方に寄り添うことを大切にされていることが心に残っています。私も、「言葉の力」を伝える活動をしているので、人に心を寄せた声掛けができるようになりたいと思いました。また、今後は活動のコミュニティに対話を取り入れようと思っていたので、コミュニケーション学を通して伝え方のさまざまな形についても学んでみたいです。普段から疑問に思ったことはすぐ調べるようにしていますが、これからも探究心を持つことを大事にして、自分の道を見つけたいです。(座間)