マグネットを使用した玩具について、2023年より、安全のための規制が新設されました。詳細を調べた結果をまとめます。
↑マグフォーマーは規制対象外
★マグネットセット、誤飲による事故が発生!
「ネオジム磁石」は、永久磁石の中でも、特に強力なものです。この磁石は、さまざまな玩具に使用されます。その中で、剥き出しのままの小さな磁石(直径3~5mmなど)を用いる「マグネットセット(マグネットボール)」という製品が、玩具の一種として販売されていました。
この「マグネットセット」を誤飲したために、胃腸の中で互いに引きあって固着し、胃腸の壁に穴を開けてしまう、という事故が複数件発生していたそうです[1]。恐ろしいことです。
[1]国民生活センター:「強力な磁石のマグネットボールで誤飲事故が発生」、2018/4/19付 報道発表資料
★磁石玩具を規制する法令
これに関連して昨年(2023年)、強力なマグネットを使用した玩具について、規制が導入されました。以下が、関連する法令です。
1)法:消費生活用製品安全法
2)政令:消費生活用製品安全法施行令
3)省令1:経済産業省関係特定製品の技術上の基準等に関する省令
4)省令2:消費生活用製品安全法施行令別表第一第十一号及び第十二号に規定する経済産業省令で定める大きさを定める省令
各法令の原文(抜粋)は、本記事の末尾にまとめました。
★規制対象となる条件は?
以上の法令の記載内容をまとめると、規制対象となる磁石おもちゃ(磁石製娯楽用品)は、以下の条件をすべて満たすものです。
・磁石と他の磁石とを引き合わせることにより使用する。
・玩具その他の娯楽用品として使用する。
・構成する個々の磁石または磁石を使用する部品が、所定寸法の容器に入らないこと
※最大長57.1mm、直径31.7mmの円筒を45°斜めに切断した形状の容器
そして、規制対象の「磁石製娯楽用品」であると判断された場合は、以下の技術基準を満たす必要があります。
・磁束密度の2乗と磁極表面積の積が、50[kG^2・mm^2]未満であること。
・包装上に、規定に沿った事業者名、注意事項の表示がされていること。
この技術基準を満たした場合は、製造者は、製品に所定の表示(PS Cマーク)をすることができます。販売者は、この表示がある製品だけを、販売することができます。
具体的に、どのような製品が対象になるのかは、法令の解釈について経済産業省から発行された文書[2]が参考になります。以下は抜粋です。
[2]経済産業省:消費生活用製品安全法特定製品関係の運用及び解釈についての廃止及び制定について、20230714保局第2号、2023/7/24発行
これによれば、以下の内容が記載されています。
規制の概要 | ・以下をすべて満たすものが対象 イ)磁石と他の磁石とを引き合わせることにより使用する(磁石同士を結合・分離させることが、使用する際の前提となっている) ロ)玩具その他の娯楽用品として使用する(磁石が他の磁石と引き合う現象を楽しむ製品) ハ)構成する個々の磁石又は磁石を使用する部品が規定の大きさ以下 |
規制の対象となるもの | ・子ども向けとうたっていない製品についても、娯楽用品なら対象 ・磁石同士を引き合わせることが製品の目的となっている立体パズル ・マグネットセット:健康グッズ・インテリア等、どんな名目でも対象 ・マグネットパズル ・子ども向けのアクセサリー玩具 |
規制の対象とならないもの | ・磁石を使用する部品と金属盤等の磁石以外の磁性部品が引き合うもの ・個々の磁石又は磁石を使用する部品がいずれも互いに反発するもの ・マグネット付き将棋・囲碁セット ・掲示板等に用いる文具用マグネット ・構成部品を簡易固定するために磁石を内蔵した模型組立てキット ・工作の材料や模型等に使用されるホビー材料として販売される磁石 ・成人向けに販売されるマグネットピアス等の装身具(装飾品) |
★実際、どの製品が対象になるの?
以上を踏まえ、実際の製品について、規制の対象となるかどうかを確認します。
◎マグフォーマー
「マグフォーマー」は、磁石を内蔵したプラスチック片を吸着力で組合せ、さまざまな立体形状を組み立てる玩具です。本商品を扱うボーネルンド社のホームページには、本品が規制対象外であることが記載されています[3]。上述の法令と照らし合わせると、規定の大きさ以上の寸法があり、かつ、磁石が容易に外れない構造となっており、「磁石製娯楽用品」に当たらないためと推察されます。
ただし、破損した場合は、誤飲の危険があるサイズの磁石が飛び出します。損傷した場合、すぐに破棄すべきことが、同社の同ページに注意事項として記載されています。
また、「マグフォーマー」でない、廉価な「類似品」については、規制対象外となる条件(磁石が容易に外れない)を満たしていない可能性があり、購入の際にはじゅうぶんな注意が必要です。
[3]ボーネルンド:【経済産業省発表 磁石製娯楽用品(マグネットセット)の販売規制について】
◎むきだし磁石を使うボードゲーム
むきだしの磁石を用いるボードゲームがあります。具体的商品として、「侍石(じしゃく)」「クラスター/Kluster」などがあります。これらのゲームでは、限られたサイズの盤面に、互いにくっつかないように磁石を配置していきます。くっつくとペナルティがあり、いかにうまく磁石を置いていくか、を競うゲームです。
今回の規制を受けて、「侍石」は、2023/12をもって国内販売終了となっています[4]。いっぽう「クラスター」は、規制対象外となる磁石サイズを用いた新商品「クラスター・デュオ/Kluster DUO」として、販売が継続されています(従来品は規制対象で、2023/12販売終了)[5]。
[4]ホビージャパン:侍石
[5]REPLA:Kluster DUO
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◎クラスク
「クラスク/Klask」は、テーブルを挟んで磁力でコマを操作する、エアホッケーのようなゲームです[7]。このゲームは、「娯楽用品」であり、「磁石を引き合わせる」ことで使用します。磁石を含む部品は、操作コマ(テーブル上、下に分割)、小マグネット(白いパーツ)があります。操作コマはサイズ的に対象外になりそうですが、小マグネットは規制対象のサイズに見えます。小マグネットが操作コマにくっつくと失点、というルールなので、「磁石を引き合わせる」ことが前提になっています。
[7]カワダ:KLASK(クラスク)
ただ、取扱い業者のホームページ[7]を見る限り、規制になっているのか、ならないのか、あるいは規制対象だが技術基準に適合している(磁力が弱い)のか、コメントが見つかりませんでした。結局、大丈夫なのか、確認できませんでした。
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◎囲碁・将棋セット
マグネットを使って盤面に固定する、囲碁・将棋などの商品は、経済産業省の文書[2]に、規制対象外と明示されています。磁石と磁石でなく、磁石と磁石以外の磁性体が引き合うものだから、という理由です。したがって、「カセットゲーム」も規制対象外と判断できます(もう販売されていませんが)。
◎マグネットセット
むきだしの磁石をそのまま使う「マグネットセット」は、規制の対象となります。ただし、技術基準を満たせば、販売は可能です。この技術基準は、①磁束密度の制限、②包装上への表示、となっています。特に重要なのが、①の磁束密度の制限です。
この制限は、「磁束密度の2乗と磁極表面積の積が、50[kG^2・mm^2]未満であること」です。この値が、具体的に、どれくらいなものかを検討します。
検討には、磁石の表面磁束密度が必要になります。表面磁束密度として、サイト[6]の値を参照し、以下を用います(サイズにより異なるため、φ6×厚さ2mmの円筒形状磁石の値を使用)。
・ネオジム磁石:316mT≒3kG
・フェライト磁石:102mT≒1kG
[6]マグテック株式会社:オンラインショップ
技術基準を満たすための磁極表面積は、以下となります。
・ネオジム磁石:5.6mm2以下 →辺が2.4mmの正方形相当
・フェライト磁石:50mm2以下 →辺が7.1mmの正方形相当
ネオジムでは約2ミリ角の寸法となってしまいます。玩具として用いるには、非常に扱いにくいサイズです。いっぽうフェライト磁石では、7ミリ角の寸法になります。このサイズであれば、まだ実用可能性があると思われます。ただ、磁力が弱いため、従来の「マグネットセット」としての使用が可能かは、なんとも言えません。
なお、今回の規制は「玩具その他の娯楽用品として使用する」もののみに適用されます。したがって、従来の「マグネットセット」とまったく同一の寸法・形状でも、「鉄製掲示板における掲示物の固定用」などと称すれば、規制の対象外と思われます。(実際、ネット通販で検索すると、円板形状の小型マグネットの集合体が「文房具」などのカテゴリで、現在(2024/8時点)も販売されています。)
★まとめ:強力マグネットおもちゃ、誤飲に注意!
マグネットを使用した玩具に関する、2023年に新設された販売規制について調べました。分かったことをまとめます。
・玩具その他の娯楽用品として用いるもので、所定の大きさ以下のものが、規制の対象。
・規制対象でも、技術基準を満たせば販売は可能。
・ただし技術基準は厳しく、強力なネオジム磁石では、適合は現実的に難しそう。
・「マグフォーマー」など、サイズが所定以上のものは、規制の対象外。
・「将棋」など、磁石と磁石以外を引き付けるものは、規制の対象外。
・規制を受け、販売を中止した商品(ボードゲーム)がある。
・娯楽用品でないものは対象外。「文房具」と称される小型磁石セットが、現在も販売されている。
・規制は販売に関するもので、使用については制限はない。
磁石を使った玩具は、磁石ならではの楽しさがあります。しかし、「誤飲」による深刻な健康被害が報告されています。規制対象外の製品でも、危険性を十分理解して、正しく扱う注意が必要です。
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★付録:磁石おもちゃの規制に関連する法令原文
各法律について、関連する部分を見ていきます(抜粋。ウスズミは当方表示)。なお、当方は法律の専門家でなく、知見のある人間でもないことにご留意ください。
1)消費生活用製品安全法
第1条 | (目的) この法律は、消費生活用製品による一般消費者の生命又は身体に対する危害の防止を図るため、特定製品の製造及び販売を規制するとともに、特定保守製品の適切な保守を促進し、併せて製品事故に関する情報の収集及び提供等の措置を講じ、もつて一般消費者の利益を保護することを目的とする。 |
第2条 | (定義) この法律において「消費生活用製品」とは、主として一般消費者の生活の用に供される製品(別表に掲げるものを除く。)をいう。 |
第2条 第2項 | この法律において「特定製品」とは、消費生活用製品のうち、構造、材質、使用状況等からみて一般消費者の生命又は身体に対して特に危害を及ぼすおそれが多いと認められる製品で政令で定めるものをいう。 |
第3条 | (基準) 主務大臣は、特定製品について、主務省令で、一般消費者の生命又は身体に対する危害の発生を防止するため必要な技術上の基準を定めなければならない。 この場合において、当該特定製品について、政令で定める他の法律の規定に基づき一般消費者の生命又は身体に対する危害の発生を防止するための規格又は基準を定めることができることとされているときは、当該規格又は基準に相当する部分以外の部分について技術上の基準を定めるものとする。 |
第4条 | (販売の制限) 特定製品の製造、輸入又は販売の事業を行う者は、第十三条の規定により表示が付されているものでなければ、特定製品を販売し、又は販売の目的で陳列してはならない。 |
第11条 | (基準適合義務等) 届出事業者は、届出に係る型式の特定製品を製造し、又は輸入する場合においては、第三条第一項の規定により定められた技術上の基準(以下「技術基準」という。)に適合するようにしなければならない。 (後略) |
第11条 第2項 | 届出事業者は、主務省令で定めるところにより、その製造又は輸入に係る前項の特定製品(同項ただし書の規定の適用を受けて製造され、又は輸入されるものを除く。)について検査を行い、その検査記録を作成し、これを保存しなければならない。 |
第13条 | (表示) 届出事業者は、その届出に係る型式の特定製品の技術基準に対する適合性について、第十一条第二項(特別特定製品の場合にあつては、同項及び前条第一項)の規定による義務を履行したときは、当該特定製品に主務省令で定める方式による表示を付することができる。 |
(解釈)
第2条の2では、この規制の対象となる「特定製品」が定義されています。そして具体的な製品は「政令(『消費生活用製品安全法施行例』のこと)」で定める、とされています。
第3条では、特定製品の満たすべき技術上の基準について書かれています。技術基準の具体的な内容は、「省令(『経済産業省関係特定製品の技術上の基準等に関する省令』のこと)」で定める、とされます。
第11条により、特定製品の製造者・輸入者は、上述の技術基準を満たす義務があります。そして第4条では、これら「特定製品」の販売には、規定に沿った表示が必要とされます。この表示は、技術基準を満たした場合だけに可能です(第13条)。
2)消費生活用製品安全法施行令
序文 | 内閣は、消費生活用製品安全法(昭和四十八年法律第三十一号)第二条第二項、第三条、第二十五条第一項、第六十四条第三項、第八十二条、第八十三条、第九十四条、第九十五条第一項第三号及び第二項、第九十六条並びに別表第九号の規定に基づき、この政令を制定する。 |
第1条 | (特定製品) 消費生活用製品安全法(以下「法」という。)第二条第二項の特定製品は、別表第一に掲げるとおりとする。 |
別表第1 項目11 | 磁石製娯楽用品(磁石と他の磁石とを引き合わせることにより玩具その他の娯楽用品として使用するものであつて、これを構成する個々の磁石又は磁石を使用する部品が経済産業省令で定める大きさ以下のものに限る。) |
(解釈)
第1条で、「消費生活用製品安全法」の対象となる「特定製品」の定義が示されています。具体的な内容は別表1にあり、項目11に「磁石娯楽製品」が記載されています。この製品は、以下のように定義されます。
・磁石と他の磁石とを引き合わせることにより使用する。
・玩具その他の娯楽用品として使用する。
・構成する個々の磁石または磁石を使用する部品が、所定の大きさ以下である。
「所定の大きさ」については、次の省令「経済産業省関係特定製品の技術上の基準等に関する省令」に書かれています。
3)経済産業省関係特定製品の技術上の基準等に関する省令
序文 | 消費生活用製品安全法(昭和四十八年法律第三十一号)及び消費生活用製品安全法施行令(昭和四十九年政令第四十八号)に基づき、並びに同法を実施するため、通商産業省関係特定製品の安全基準等に関する省令を次のように制定する。 |
第3条 | (技術上の基準) 法第三条の主務省令で定める技術上の基準は、別表第一の特定製品の区分の欄に掲げる区分ごとにそれぞれ同表の技術上の基準の欄に掲げるとおりとする。 |
第22条 | (表示) 法第十三条の主務省令で定める方式は、次の各号に掲げる表示を、別表第五の特定製品の区分の欄に掲げる区分ごとにそれぞれ同表の表示の方法の欄に掲げる方法により表示する方式とする。 (後略) |
別表第1 項目11 | 1 磁石製娯楽用品を構成する個々の磁石及び磁石を使用する部品の磁束指数(磁束密度の二乗と磁極の表面積との積をいう。)のいずれもが、50平方キロガウス平方ミリメートル未満であること。 2(1) 届出事業者の氏名又は名称が磁石製娯楽用品の容器包装の表面の見やすい箇所に容易に消えない方法により表示されていること。ただし、届出事業者の氏名又は名称は、経済産業大臣の承認を受けた略称若しくは記号又は経済産業大臣に届け出た登録商標をもつて代えることができる。 (2) 次に掲げる注意事項その他安全に使用する上で必要となる使用上の注意事項が磁石製娯楽用品の容器包装の表面の見やすい箇所に容易に消えない方法により適切に表示されていること。 ①満三歳に満たない乳幼児に使わせない旨 ②満三歳に満たない乳幼児の手が届かないところに保管する旨 ③子どもが万が一誤飲した場合には、速やかに医師の指示を受ける旨 |
(解釈)
第3条で、「消費生活用製品安全法」で満たすべきとされた「技術上の基準」を定めています。その内容は、別表第1に列記されています。これによれば、以下の基準を満たす必要があります。
・磁束密度の2乗と磁極表面積の積が、50[kG^2・mm^2]未満であること。
・包装上に、規定に沿った事業者名、注意事項の表示がされていること。
また、第22条には、技術基準に適合したときに表示できる内容が示されています。
4)消費生活用製品安全法施行令別表第一第十一号及び第十二号に規定する経済産業省令で定める大きさを定める省令
序文 | (前略) 消費生活用製品安全法施行令別表第一第十一号及び第十二号に規定する経済産業省令で定める大きさは、別図に示す寸法の円筒形の容器内に収まる大きさ(同表第十一号に掲げる特定製品であって、これを構成する磁石を使用する部品から磁石が容易に外れる構造となっているものにあっては、当該磁石が当該容器内に収まる大きさ)とする。 |
(解釈)
政令「消費生活用製品安全法施行令」で示された「磁石製娯楽製品」を定義する大きさを規定します。ここには、円筒形の容器の図面が記載されています。内直径31.7ミリの円筒を45°斜めに切断した形状で、最大長さは57.1ミリとなっています。この容器に入ることが、規制対象の「磁石製娯楽製品」と判断される必要条件となります。
なお、「これを構成する磁石を使用する部品から磁石が容易に外れる構造となっているもの」とは、ISO8124-1(2022)の試験方法で、磁石が本体から分離するものを示すとのことです(文献[2]参照)。
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