「放課後バブル」のゆくえ
業界が少しだけざわついているようなので、およそ半年ぶりのブログ更新。
障害児預かり、運営厳格化へ 全国8400カ所、不正防止で
https://this.kiji.is/189297838486110214
放課後デイ運営厳格化 厚労省方針、不正防止図る
http://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=309159&comment_sub_id=0&category_id=256
いちおう非関係者にもわかるように説明すると「放課後に障害児を預かる(「療育」する?)事業の報酬単価をがーんと上げたら、営利企業の参入が急増。「儲かりまっせ」というコンサルまで登場。保護者はどんどん子どもを預けるようになり、給付費はぐんぐん増大。やばい、もっと厳しくしていこう」ということである。
記事にあるような不正は実際に指摘されているのだけれど、多くの不正は「いない人間が書類上はいることになっている」「やっていない支援が書類上やったことになっている」ことで給付費が請求されてしまうのだから、事業所の設立要件を高めたところで大した解決にはならない。もちろん、そんなことは国だってわかっている。
これは増大する給付費を抑制するためのひとつの方法であり、「抑制しようと頑張っている」ことのアピールとして見るべきだろう。次の報酬改定は30年度だから、単価をすぐには変えられない。資格や従業歴の要件を厳しくするくらいならば、システムの大きな変更は必要がなく、すぐにできる。内容によっては、各都道府県に「変えたよ」と通知するだけで済む。
もっとも、その程度のことに大きな効果を見込んでいるとも思えない。「パフォーマンス」という言葉さえ浮かぶ。
給付費について、国が2分の1を負担してくれるとはいえ、地方自治体の予算もどんどん膨れ上がっている。運営実態調査によれば、収支差率は他の障害福祉事業と比べても、高い。財務省からも睨まれているだろうし、厚生労働省の内部でだって予算の奪い合いはあるだろう。国会議員の目もある。だから「努力」を見せておかねばならない。
国はこれまでにも基本報酬を下げて有資格者の配置に加算をつける形にしたり、運営のガイドラインを作成したりもしてきた。障害福祉の中でも「障害児支援の強化」は積年の課題だったわけで、ようやく社会資源を増やせた放課後等デイサービスという事業を「守る」ためにも「適正化」しなければならないわけである。
27年度の報酬改定でぐんと単価が落とされてもおかしくなかった。障害児支援はもともとが脆弱だっただけに、「あと3年」と猶予をくれたのだろう、と思っている。また、抑制のタイミングを誤ると、「このご時世に『子育て支援』を削った」という評価にもなりかねない。その後、さらに事業所数は増え続けていて、利用する側にとってみれば選択肢は増えた。不正のニュースもたくさん流れた。国としては「そろそろ梯子を外しても社会的に非難されない」という時期だ。ひとたび立ち上がった事業所は、簡単に無くなりはしない。もちろん、そこにつけこまれている、とも言える。が、長くこの業界にいる者にとっては想定内。あとは、今後の「下げ方」「下げ幅」の問題。
おそらく経過措置が設けられるので、いま仕事をしている無資格者がすぐに首を切られるようなことにはならないだろうし、保育士ほどではない資格要件や研修要件が含まれてくる可能性もある(もともと「児童指導員」とか含んでいるけれど)。管理責任者の要件についても同様。そもそも「障害児支援のスキルを担保するような公的資格」が存在しないのだから、人員に関する要件は厳しくしづらい。
行政による実地指導(俗に「監査」と呼ばれる、厳密には意味が違う)は、事業所の適正運営について一定のプレッシャーにはなる。が、実地指導の主体は都道府県であり、日常的に支援の中身なんて知る機会はない。支援の質を評価できるような人材もほとんどいないだろう。利用者や内部からタレコミがあるくらいにタチが悪い不正請求しか防げない。
給付費の「適正化」のために、ひとまずは今回の「運営厳格化」で時間稼ぎをしながら、「30年の報酬改定」でどのように手を入れるか。この予測は難しい。正直言って、どんな形がよいのか、自分にもよくわからない。何を報酬上で評価するのか。「客観化」できるものでしか、報酬に区別はつけられない。支援の必要度? 従業者の資格? 子どもの利用時間? すでに多くの事業所が多様な形での事業所運営をしているだけに、穏当な落としどころが見つけられるのかどうか。現場で多様な事業所を見聞きする自分ですら良い案が浮かばないのだから、きっと厚労省としても頭が痛いところだろう。
供給サイドの質が責められやすいが、これからは利用サイドに目が向けられるかもしれない。給付抑制をかける立場から、大っぴらには説明されないだろうが。静かに。
家にいても何かと目が離せない子どもを預かってくれるのだから、放課後等デイをどんどん保護者が利用したがるのは当然だ。わが子と同世代の子どもたちが、放課後を学童保育や部活や習い事で過ごしている。それがこの国の自然な「放課後」のあり方であるならば、「障害児」だけが否定的なまなざしを向けられる理由はない。「おにいちゃんは週6日部活で、夜まで帰ってこない」のだから、「障害をもつ弟だって週6日どこかで過ごしたってよいではないか」と。
一方で、「子どもを放課後等デイに毎日預けたいが、理由がないと支給決定をしてもらえないので、働く」「子どもと関わるのがしんどいので、週5日預かってほしい」という保護者が増え、それらを「上客」として喜んで受け入れる事業所が増えてくると、いびつさを感じる。それは「子ども」自身の望んでいることなのかどうか。「子どもとの関わり方がわからない」と言う保護者に必要なのは「放課後等デイ」なのか。「預ける」「預かる」以外の選択肢がまず検討されるべき場面で「放課後等デイ」が安易に選ばれてしまってはいないか。これらはまっとうな問題意識だ。
放課後等デイを利用するには、相談支援事業者等といっしょに「サービス利用計画」を立てる(そして、行政から支給決定を受ける)ことが前提になっているのだから、そのプロセスで支援の内容が吟味されるべき、とも言える。ただ、これを強調すると、今度は相談支援事業者が「給付抑制のための番人」にされてしまうおそれもあるので、つらいところ。また、相談支援と放課後等デイが同一の事業者ならば、どうしても利用計画はお手盛りになるし、計画は自分で立てることも認められているので(「セルフプラン」)、抜け道は多い。
すべての親子にとって必要な支援をゼロから丁寧に考えたうえで支給決定されるような状況を、今のシステムには期待できない。こうして、支給を「適正化」するには報酬を下げることが最も簡単だ、という結論に至っていくわけである。
ちなみに我が地元では、この放課後等デイの給付費増大もあって、別の市町村事業について報酬改定が検討されており、マンツーマンの支援を必要とする事業について行政が最低賃金を割る単価を提示して「もう反論は受け付けない」と開き直る異常事態となっている。ちなみに、ここでも表立っての理由づけは「不正受給の防止」であった。給付抑制は、いつも「不正防止」を掲げてなされる。保護者へのお願い。相手がたとえ世話になっている事業所であっても、実際に提供されていないと思われる実績記録には印鑑を押さないように気をつけてほしい。結果的に、皆が足を引っ張られることになる。