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【最終回!】能町みね子連載「買わりばえのしない私」vol.18 本誌発売と同日公開!!

買わりばえのしない私 vol.18
この連載最後の買い物はとびきりおしゃれな服と生活感たっぷりなグッズ。気張ってない、おしゃれと日常の絶妙なバランスで毎回綴ってくれた能町さん、そしてお買い物自慢(?)にお付き合いいただいたla farfa読者のみなさま、ありがとうございました!

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2024年10月17日
途中でやめるのジャケットを買った
 山下陽光さんの個展のようなものに行った。
 ふつうこういう原稿を書くとき、調べる。個展の正式なタイトルとか、展示のコンセプトとか、ちゃんと説明するために、公式サイトをのぞいたりして手間をかけて正確な内容を調べる。でも、今回はしない。面倒くさいのでしない。面倒くさいのでしないくらいがなんとなくこの個展(?)に合ってる気がするので、しない。
「途中でやめる」というブランドがある。山下陽光さんはそれを立ち上げた人である。「途中でやめる」は、たぶんリメイク服のブランドである(ここで「たぶん」はさすがにダメでしょ! と思うけど、調べたくなるのをグッと我慢して記憶だけで書くぞ)。服そのものもそうだけど、立ち上げのコンセプトからしてかなり挑戦的かつ実験的かつかわいいブランドなのである。
 でも、私は「なんかかわいいブランド」くらいの前知識で個展に行ったのだった。というか個展なのかなんなのかもよくわからず、友人に誘われるままに行ったのだ。
 東京三軒茶屋の公的な建物の一角でそれは行われていた。山下さんはそこにいて、何やら作業中であった。布を切ったり散らかしたりしていたように見えた。ここをいま仕事場にしちゃってるんですよね、みたいなことを言っていた。
 服も、展示されて、売られていた。そのほかにもオススメの本とか、古い雑誌とか、なんだかよくわからないものもたくさん置いてあり、全体的になんだかよくわからないけど落ち着く感じがした。
 途中で山下さんのお友達Mさんが来た。差し入れということで缶や小瓶のお酒をたくさん持ってきてくれた。あまりに空気感がゆるいので、みんな、ここで飲んじゃってもいいんじゃないかな? という雰囲気になった。
 椅子もテーブルもないけど、そこにいた人全員で車座になって飲んだ。なんだこれ。とてもいい。途中で警備員さんがのぞきに来たけど、特に何も言われない。「なんか数日前にたまたま来た人がここで暴れたんですよ。よく分かんないけど、その人は入院したっぽいんですけど。それから巡回してくれるようになって」。へー。なかなか、おだやかじゃないね。暴れる人に比べれば、お酒を和やかに飲んでる人たちなんて何の問題もないね。
 みんなでほろ酔いになりながら散らかった布地やらなんやら雑然とした部屋の中にいると、文化祭を準備してる学生みたいな気持ちになってきた。
 それからせっかくなので服を少し吟味した。いまつい言っちゃったけど「せっかくなので」ってなんなんだろうね。別に「せっかく」じゃなくても服を売ってたら吟味するよね。
 友達は、胸のところにキルト生地で思いっきり「SEX」って書いてある服を買うかどうか迷っていた。前のボタンを留めると「SIX」になるので、これならまあいいかな? ということで買っていた。
 私は、きなり色のジャケットの表面に、赤い毛糸をぐるんぐるん豪快に縫いつけて模様を描いたものを買うかどうしようか迷っていたら、お酒を持ってきてくれたMさんが「めっちゃ似合いますね」と言ってくれたので、買うことにした。
 こういうのが平和と言うんじゃないかな、という日でありました。


2024年10月22日
リモコンを買った
 寝ながら電気を消したい。それは、ふとんに入ったすべての人間による願い。
 それでいて、電灯のヒモを長~くするのはいやだ。ダサいから。ヒモを長~くすることなく、寝ながら電気を消したい。
 そんな願いを叶えるために、照明リモコンスイッチなるものがある。これを天井のプラグの部分に噛ませてから電灯を取り付けるとすぐにその願いは叶う。あとはリモコンを枕元に置き、スイッチオフすればよし。こうして私の寝室も無事に寝ながら電灯が消せるようになった。めでたしめでたし。
 ところがこのことによって、リモコンが絶対的なスイッチになってしまった。このリモコン以外では電灯を付けられないし、消せない。
 そのうえ、なんと、同居人がこのリモコンを紛失した!
 私の部屋は永遠に暗くなった(物理的に)。
 マジで困るのでヨドバシカメラに行き、わりとどんなメーカーにも使えるという万能照明用リモコンを購入したのがこの日であった。
 こんな照明のリモコンの話で最終回を迎えていいのか。いいと思う。特別な日なんてそんなにないんだから。これからもほとんどの普通の日を生きるのだよ。




Illustrator/Takayuki Kudo


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