1.「取調べの可視化」とは何ですか?
被疑者の取調べは、弁護士の立会いを排除し、外部からの連絡を遮断されたいわゆる「密室」において行われています。
素人が取調べのプロに対して対応せざるをえません。
このため、警察官・検察官が被疑者・被告人に怒鳴ったり威圧したり、素直に話せば軽い処分にしてあげるなどの甘い言葉で自白させる(利益誘導)といった違法・不当な取調べが行われることが多々あります。
その結果、自分の思いに反して話を無理にさせられたり、話したことと違う部分やニュアンスが異なる部分がある調書が作成されたりします。
また、長期間の密室での取り調べで、精神や健康を害されるといったことが少なくありません。
一方、検察官が起訴した後、裁判所において、供述者が「脅されて調書に署名させられた」、「言ってもいないことを調書に書かれた」と主張しても、取調べの際にどんなことが行われたかを証明することは非常に難しいといえます。
弁護人と検察官の間で、違法・不当な取り調べがあった、なかったという議論に意味のない水掛け論で終わってしまうことも多いです。
結局は取調室で違法・不当な取調べがあったことを証明することができず、最悪の場合、やっていないにもかかわらず犯人にされてしまうこともあります。
そこで、このような弊害を打破すべく刑事訴訟法に新しい規定が設けられました。
- 「密室」の取調べに対処するために裁判員裁判対象事件(国民の関心が高く、社会的にも影響の大きい事件が対象となります)・検察官が独自に捜査する事件(収賄等の罪があげられます)について、警察及び検察官の取調べにつき、原則として取調べの状況についてビデオ撮影(録音・録画)が実施される運びとなりました(平成31年6月までに施行)。
- 検察官は、対象事件に係る被疑者調書として作成された被告人の供述調書の任意性が争われたときは、当該調書が作成された取調べ等における被告人の供述及びその状況を録音・録画した記録媒体の証拠調べを請求しなければなりません。
※なお、対象事件以外については録音録画の明文上の義務化はないものの、事件の種類によっては録音録画の申入れをした際には捜査側ができるだけかかる要請に応えるよう通達が出されています。
現在の録音録画の運用は下記のとおりです。
【現在の取調べ録音・録画の運用】
1.原則として録音録画を実施すべきもの【実施対象事件】
- 裁判員裁判対象事件
- 知的障害がありコミュニケーション能力に問題のある被疑者
- 責任能力の減退・喪失が疑われる被疑者
- 検察独自捜査事件
2.公判請求が見込まれ、取調べ録音・録画が必要と考えられる事件【施行対象事件】
- 公判請求が見込まれる身柄事件であって、事案の内容や証拠関係等に照らし被疑者の供述が立証上重要であるもの、証拠関係や供述状況等に照らし被疑者の取調べ増強をめぐって争いが生じる可能性があるものなど、被疑者の取調べを録音・録画することが必要であると考えられる事件
- 公判請求が見込まれる事件であって、被害者・参考人の供述が立証の中核となることが見込まれるなどの個々の事情により、被害者・参考人の取調べを録音・録画することが必要であると考えられる事件
2.誰に対する取り調べで録音・録画が義務付けられるのですか?
逮捕・勾留されている被疑者です。つまり、逮捕前の被疑者や被害者・参考人は対象外です。
3.録音録画されない場合はあるのですか?
以下の4つの場合が挙げられます。
- 録画機器の故障など、記録が困難なとき
- 被疑者が録画・録音を拒否するなど、記録をすると被疑者が十分に供述できないとき
- 被疑者の供述内容が明らかにされると、被疑者や親族に危害が及ぶ恐れがあり、記録をすると被疑者が十分に供述できないとき
- 指定暴力団の構成員による事件
しかし、弁護士に依頼していただけますと、仮に検察官が上記の例外事由にあたると言ってきても、具体的な事柄を述べて「例外事由にはあたらず録音録画をするべきである!」と検察官に対し主張していきます。
4.取調べの可視化(録音・録画)で何か良いことがあるのですか?
取調べが録音録画されていますので、怒鳴ったり威圧したりといった無理な取調べが少なくなります。
また、身体拘束された当初の段階では精神的に動揺しており、自分の思いとは異なった話を警察や検察にしてしまうことがありえます。
しかし、その後、録画されている取調べの中で、本当の事実や思いを話すことにより挽回することができます(リカバリーショット)。
録音録画されている開かれた状況で話したことは、それがされていない状況で話したことよりもより真実に近いことを話しているという推測が働くためです。
更に、厳しい取調べが行われにくいため、言いたくないことを言わなくてよい権利(黙秘権)も行使しやすくなります。
無罪を主張する事件(否認事件)においては、意に反した供述を強制されないためにも録音・録画は有効な手段です。
5.弁護士に依頼して録音録画の申入れをしてもらおう!
改正刑事訴訟法では、録音録画が義務としてなされるのは、大きく分けて2つです。
それは、裁判員裁判対象事件(国民の関心が高く、社会的にも影響の大きい事件が対象となります)と検察官が独自に捜査する事件(収賄等の罪があげられます)です。
しかし、この対象事件は全事件のわずか3%にすぎません。
ただ、この対象事件以外でも前述のように知的障害を有する方に対する取調べや否認事件等で録音録画の申入れをすれば、これが認められる場合があります。
弁護士が、検察官に録音録画の申入書を提出し、直接交渉することにより録音録画がされやすくなります。
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