2020年度教員採用試験での調査では、競争率が小学校は2.7倍となり、過去最低【教育ニュース】
先生だったら知っておきたい様々な教育ニュースについて、東京新聞の元教育担当記者・中澤佳子さんが解説します。今回のテーマは過去最低の競争率となった教員採用試験についてです。
執筆/東京新聞記者・中澤佳子
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ほぼ横ばい傾向の受験者数に対して採用者数は増え「広き門」に
「教員の質の確保が急務」。4月に開かれた財政制度等審議会(財政審)の分科会の資料に、こんな危機感のにじむ言葉が書かれています。
会合では、文教予算に絡んで教育を巡る課題が議論されました。財政審が厳しい目を向けてきた、公立小学校の35人以下学級の導入が取り上げられ、学力への影響、いじめや不登校問題に対する効果を専門家が検証するよう促しました。費用対効果があやふやなままではいけないと、釘を刺したのです。
大量退職が当面続くことや少子化に伴う新社会人の減少に触れ、近年の教員採用倍率の低調も俎上に。競争がなければ質が落ちるそんな恐れが、教員の世界にも起きかねないと問題視したのです。
実際、文部科学省が2020年度採用の教員試験について行った調査では、公立小中高校教員の競争率は3.9倍で、過去最低だった1991年度の3.7倍に迫る低さ。小学校は2.7倍と、過去最低を更新しました。
受験者数はほぼ横ばい傾向が続いているのに、採用者数は増え、「広き門」になっていることが、競争率低下の一因と言われます。
財政審は、多様な知識や経験をもつ人が教育現場に入ることを提案し、中途採用の拡大に向けた教員免許制度の見直しを唱えました。一定の基準を満たす社会人経験者に国が免許を与えるなど、教員になるルートの新たな仕組みを考えるよう説きました。
教育現場は中途採用に積極的ではない
社会人が教育現場に参加する道は、採用試験に合格して転職する以外にもあります。まず専門的な知識を生かし、兼業や副業の先生として定期的に授業の一部を行う「特別非常勤講師」。経験豊かな人が学校などの推薦を受け、都道府県教育委員会の検定に合格して与えられる「特別免許状」もあります。
ただ小学校では、民間勤め経験のある教員採用者は2020年度で2.8%。特別非常勤講師の届け出数は04年度が8881件に対し、18年度は4235件と半分以下。特別免許状の取得割合は同年度で普通免許状の0.05%にとどまります。多様な道があっても、活用されていません。財政審も「新卒中心の教員養成システムが前提の教育現場は、中途採用に積極的ではない」と批判しています。
萩生田光一文部科学大臣は3月、今後の教員養成や採用のあり方について中央教育審議会に諮問し、検討項目に「多様な専門性を有する質の高い教職員集団のあり方」を盛り込みました。諮問理由では「学校は均質な集団ではなく、多様な専門性や背景をもつ人材を取り入れた組織であるべきだ」と説き、制度の根本的な見直しを求めています。国は教員の裾野を広げるべく動きだしたのです。
新卒一括採用は功罪ありながらも、日本の企業や官公庁などに根付いてきました。けれど多様性が重視される今、社会は変化を迫られています。学校も例外ではないようです。
『教育技術』2021年8/9月号より