学習をあきらめてしまっているLDの子の学びを支える方法とは|みんなの教育技術

学習をあきらめてしまっているLDの子の学びを支える方法とは

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支援を要する子への適切な対応ポイント記事まとめ

NPO法人えじそんくらぶ代表

高山恵子

教室の中に、「学習をあきらめてしまっている子」はいませんか? LD(学習障害)という特性のある子(以下、LDの子)の学びを支えることについて、 NPO法人えじそんくらぶ代表・高山恵子さんと島根県公立小学校特別支援学級教諭・井上賞子さんにお話を伺いました。

発達障害児
イラストAC

「やれば、できる」が子供と教師を追い詰める

新学習指導要領では、特別支援に関する記述が充実しました。「主体的・対話的で深い学び」の実現のためには、その大前提として、教師が子供の「学びの特性」を理解し、保障する必要があります。

LDの子の学びを支える教育実践を重ねている井上先生は、こんなふうに言います。

「LDの子の学びを支える方法の一つとして、 リハビリテーション協会が提供しているマルチメディアDaisy教科書などの音声教科書の導入をご提案すると、『私は、この子の読みをあきらめたくないんです』と、おっしゃる先生がいます。その先生は、『苦手なことは、努力をして克服した』という御自身の経験に照らし合わせて考えているのでしょう。けれども、その思考回路だけだと、LDの子が抱えている困り感が、矮小化されてしまう可能性があります」(井上先生)

確かに200%の気合を入れれば、LDの子ができることは増えるでしょう。けれどもへとへとになるので、後が続かないのです。

「教師が『やれば、できる』と言うのは、『あなたには、その力がある』と励ましたいからです。けれども、200%の気合で到達したラインを、『やれば、できた』とベースラインにされてしまうと、LDの子は厳しいんです。少しでも気を抜くと、『怠けているからできない』という解釈になってしまいますからね」(井上先生)

多様な選択肢を知ることで、子供の困り感に寄り添える

「この時に大切なのは、教師の側が、学びには多様な選択肢があることを知っていることです。たとえば、『読みが厳しくても、音声教科書であれば情報のインプットが可能』というのは、学びの方法の選択肢の話です。多様な選択肢があることを知っていれば、『この子は、何に困っているのかな?』という問いが教師の側に生まれます。それは、自分の方法〜努力をして克服する〜ではなく、『その子の困り感に寄り添う』という発想が、教師の側に生まれる瞬間だと思うのです」(井上先生)

学習をあきらめてしまっている子

学習をあきらめてしまっている子

きちんと授業を受けないから
ちゃんと授業を聞いていないんだもの。そりゃあ、わからなくなっちゃうよね……。

やる気がない態度の裏には悲しい体験があるのかも

「私は、基本的に『学ぶことが嫌いな子はいない』と、思っています。LDの子の中には、これまでの授業の中で、悲しい思いをたくさんしてきて、『どうせ勉強してもわからない』と思ってしまっている子もいるのです」(井上先生)

注意をすると反抗的な態度になる
注意をすれば、逆ギレする。正直、どうしたらよいのかわからない。

「やりたくない!」は質問攻めから逃げる方法

「『どうして、やらないの?』と質問責めにされてきた子は、『やりたくない』と言えば大人があきらめてくれるのを知っています。言葉の背景にある子供のSOSをキャッチして欲しいですね」(井上先生)

支援策 LDの子供たちが生きる世界を想像することから始めよう

井上先生は、「LDの子の生きる世界」を想像力を働かせて感じてみることが大切だと言います。

「特別支援教育が必要なたくさんの子供たちと関わる中で、『勉強がわからない』と話す子供たちは、目の前にがらがらとシャッターを下ろされたような状態だと感じることがあります。どこへ向かうのかもわからず、その場で立ち尽くしている……。これはとてもつらいことです。
『読みや書き』に困難を示す子供たちは、そのような経験を毎日の授業の中で重ねてしまいがちです。『読めない』ということで学ぶことのスタートラインに立つことができず、『書けない』ということで学習の定着という機会を逃してしまったり、正当な評価を受けられずにきてしまっている子供たちが実にたくさんいます。でも、その学習内容は、本当にその子にとって『できない』ものなのでしょうか?」(井上先生)

個別指導をしても全く改善されず

個別指導をしても全く改善されず

この子の学びをあきらめたくない
この子の学びをあきらめたくなくて、放課後、個人的に指導をしている。

子供を追い詰めている可能性も視野に入れて

「敢えて厳しい言い方をすれば、ポイントの外れた個別指導は、子供を追い詰めてしまう可能性もあります。大人が一生懸命やっているのに成果が出ないと、子供は『自分がだめだからだ』と感じてしまうこともあるからです」(井上先生)

何で、できないの?
努力をして練習をすれば、できるようになるはずなのに。何で、できないの?

自分の一生懸命を後悔している支援者がいる

『特性』という概念を知らず、自分の方法~努力で克服する~を一生懸命に押し付けてしまったことを後悔している支援者の方は少なからずいます」(井上先生)

支援策 子供はもちろん教師(支援者)も救われる

「LDの子供たちと関わってきて感じるのは、『その方法では難しい』というケースがとても多いということです。みんなと同じ方法では『できない、わからない』けれど、『別の方法ならできる、ここを支えてもらったらできる』というケースも少なくないのです。
方法が変わることで、『できない』が『できる』に転じたケースを、これまでたくさん見てきました。
みんなと同じ方法でできないことであきらめてしまうのではなく、その子の『できる』につながる方法を教師が探してみる。LDの子が『自分はできない』ではなく、『こうしたらできる、わかる』という経験を、日々の授業の中で重ねら れるとよいですね」(井上先生)

多様な選択肢を知ることで、「がんばらせるしか方法はない」と苦しんでいた教師の側も、救われます。多様な選択肢があることは子供、教師(支援者)両方にとって、メリットですね。

合理的配慮とは「不平等」を「平等」にすること

手軽に試せる教材

一斉指導をうけるというスタートラインに立てていない子
矢印
多様な選択肢は「台」を探してみること

支援策「今日の授業への参加」には何が必要なのか?を考える

「高学年の授業は、『下の学年で積み上げたこと前提』です。たとえば、多動症がひどく、低学年の時は教室にいることができなかった子が、高学年で授業を受けることができるようになった場合。この子は、算数の時、理解力はあるので立式はできるのですが、『計算練習』を積み上げてこなかったので、『3+6は、多分7?』という感じなんです。高学年の授業の中で、『ただ、計算の練習をする』という機会を見つけるのは難しいので、不正解になってしまう。その体験が、彼のやる気を失わせてしまいます。けれども、この子に下図のような「たしひきものさし」(※)を持たせてあげれば、正解が導き出せます。それは、『できた』という体験を積み重ねながら、苦手だった計算の練習にもなります」(井上先生)

たしひきものさし
「魔法のお手伝い」のサイトの中の「教材館」⇒HP「賞子の部屋」に「たしひきものさし」の動画があります。
「賞子の部屋」 https://maho-prj.org/otetsudai/post-103/

キーワードは、「今日の授業参加」。「授業に参加できた」という体験をした上で、中学校に送り出してあげられるとよいですね。

<監修者プロフィール>
高山恵子さん: NPO法人えじそんくらぶ代表
アメリカの大学院で教育学を学ぶ。1997年に同団体を設立し、日本の特別支援教育を牽引する存在として文部科学省の委員などを長年務める。新著、教育技術MOOK『オールカラーで、まんがでわかる!子どものよさを引き出し、個性を伸ばす「教室支援」』(小学館)が好評発売中。
井上賞子さん:島根県公立小学校特別支援学級教諭
東京大学などがチームで実施するI CT教育の実証研究「魔法のお手伝い」に参加。LDを持つ夫との共著「読めなくてもかけなくても勉強したい」(ぶどう社)などがある。

取材・文/楢戸ひかる 構成/浅原孝子 イラスト/畠山きょうこ

『教育技術 小五小六』2020年11月号より

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