児童への図工的「ほめ言葉」をトレーニングして、楽しく自由な図工の授業をつくろう!
図工の授業の本質。それは、児童一人一人が、技術のあるなしに関わらず、伸び伸びと自由に楽しく、自己表現をすることではないでしょうか。そのためには、教員の児童に対する、効果的な声掛けが力を発揮します。今回は、日々の実践の中で役立つ、効果的な声掛けをするためのトレーニングを考えていきましょう。
題字・イラスト・執筆/埼玉県公立小・中学校教諭 坂齊諒一
連載【いちばん楽しいアート】#08
児童の「素敵な表現」を見つけたこと知らせる声掛け
図工の授業の雰囲気は、
★児童の「素敵な表現」を見つけたこと知らせる声掛け
がどれだけできるかで決まると私は思います。
児童が、技術の良し悪しに囚われず、自分の表したいものを自由に伸び伸びと表現できるか。それこそが図工の授業の本質ではないでしょうか。そして、この本質に到達するための、一つの効果的な手段が、教師による適切な声掛けに他ならないのです。
さて、皆さんは、授業中にこのような言葉を多用していませんか?
・すごいね!
・上手だね!
・綺麗だね!
・よく描けたね!
実は、これらは、あまりおすすめできません。
まず、曖昧で具体性を欠く言葉には説得力がない、と言えます。
さらに「上手だね」や「よく描けたね」は「自由に描こうと言っておきながら、けっきょく上手い下手で判断されるのか」という受け止めになる可能性があります。
では、どのように伝えればいいのでしょうか。それは
感嘆詞 + 見つけたこと + 自分の気持ちの変化 or 例え話
です。
これは私が休み時間に児童の前で描いた絵です。この絵を児童が描いたとして、上記の「感嘆詞+見つけたこと+自分の気持ちの変化」での声掛けをしてみましょう。
例えば、
「お!これはこれは!(感嘆詞)奥の方のボヤっとした木と、桜吹雪から(見つけたこと)儚なさを感じるね!(自分の気持ちの変化)」
「ほうほう、なるほど!よく見せて!(感嘆詞)桜の花びらがピンクだけじゃなくて、紫も入っているね!(見つけたこと)花見の客が騒がしくて寝不足でクマが出来たのかな?(例え話)」
「むむ、あれに見えるぞ!(感嘆詞)奥の方の木と離れているから(見つけたこと)一匹狼ならぬ一本桜だね!(例え話)」
お笑い芸人さんのように、頓智のきいたことを言えるかどうかは重要ではありません。このように伝えられると「技術の良し悪し」ではなく「どんな気持ちを絵に込められたか」で絵を見たり描いたりするようになります。
トレーニング方法1:色イメージ
色から連想されるものをリスト化しておくと、児童の絵に使われている色から「この色は〇〇みたいに見えるね!」と伝えやすくなります。
トレーニング方法2:形イメージ
色イメージと同じように、この形から連想されるものをリスト化するものです。〇、△、□、◇、☆、~、=、>、<、などの形から連想されるものをリスト化します。これをしておくと「この部分のでっぱりが鳥のくちばしに見えるね」など、絵の細かい部分の形に注目して気持ちを伝えることができます。
トレーニング方法3:即興声掛け
他の学年やクラスの絵を借りて、1枚ずつ絵を提示してもらいます。その絵に対して、「あ、ここがこう見えるから、こんなイメージを感じたよ!」と即興で答えます。今回の声掛けは経験が必要です。どんな小さなことでも、多少強引だったとしても、少しテンションを高めにして反応する練習をしてみましょう。
児童との人間関係は大切です
最後に、図工に限らないことですが、授業づくりや学級づくりで大切なのは、児童との信頼関係が構築できているかどうかです。適切なほめ言葉が言えるようになったからと言って、それだけで効果があるわけではありません。児童と信頼関係を作ることで、教師の言葉が児童に届く土台ができるのです。
関係が出来ていない人から褒められたところで、こちらの意図は伝わりません。私自身も、「パッと見ただけなのに何を言っているの? この人は一体自分の何を知っているの?」と穿った考えをしていた児童でした。
日々の人間関係の上にある言葉こそ真の力を発揮します。
【著者プロフィール】
坂齊諒一●さかさいりょういち
1991年埼玉県生まれ。文京学院大学人間学部児童発達学科卒業。埼玉県公立小学校教諭として7年間勤務した後、2022年に一旦退職。翌年度から小学校、中学校教諭として勤務しながら、フリーランスイラストレーターとして活動を始める。企業や教育委員会からの依頼で絵を描きつつ、教員の働き方や図工の授業について研究をしている。