新学期が始まっても生活リズムが戻らない子への接し方|9月【特別支援学級の学級経営】|みんなの教育技術

新学期が始まっても生活リズムが戻らない子への接し方|9月【特別支援学級の学級経営】

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兵庫県公立小学校校長

関田聖和

文部科学省からは、すべての新任教員が10年以内に特別支援教育を複数年経験するよう努めるように通知が出されています。特別支援の知識や経験が乏しいまま、手探りで特別支援学級を担任している先生も多いことでしょう。この記事では特別支援学級でよくあるケースを挙げて、その道の専門家がポイント解説します。今回は、夏休み明けで生活リズムが戻らない子どもについてのお話です。

構成・執筆/兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー 関田聖和

登場人物

皆川先生:自閉情緒クラス担当。教師生活25年のベテラン。特別支援学級主任・特別支援教育コーディネーター

島原先生:知的クラス1担当。教師8年目。特別支援学級担任1年目

根本先生:知的クラス2担当。教師3年目。特別支援学級担任2年目

しゅんたさん:皆川先生担当。独特な自分の世界をもっていて、彼なりのルールがある。他人とは打ち解けるまでにかなり時間がかかる。粘土や工作などは緻密で動物などは本物そっくり、大人顔負けの作品を作りあげる。
長期目標:同じクラスの友だちといっしょに作品作りをすることができる 
短期目標1:大人といっしょに作品作りをすることができる

るなさん:島原先生担当。よく動く。出し抜けにしゃべる。思いついたことをすぐに伝えてしまう。言わないでいいことまで言ってしまうことがある。発想が豊か。次から次へと案が浮かぶ。
長期目標:会話のキャッチボールを楽しむことができる 
短期目標1:先生としりとりなどの遊びに取り組むことができる

ゆうかさん:根本先生担当。不注意。衝動性が高い。よく忘れてしまう。様々なことが気になってしまい、失敗することが多い。いろいろなことに気が付いてくれるので、友だちが忘れていたことを思い出してくれるようなことがある。
長期目標:タブレットで記録を取ることができる 
短期目標1:タブレットで必要な事柄を写真に撮ることができる

2学期がスタートした教員室での会話

(皆川先生)
いよいよ2学期が始まったわね。まずは、2週間、子どもの姿に一喜一憂しすぎず、取り組んでいきましょうね。

(島原先生)
るなさんは、もうずっとしゃべってます……。ほかの活動をして少し話さなくなる時間もあるのですが、すぐにまた、ずっと話をしたがります。夏休みに遊園地に行った話なんですが、もう私が覚えてしまいそうです。

(根本先生)
ゆうかさんは午前中、いつもぼうっとしている感じです。お昼前からスイッチが入ったように、活動し始めます。生活リズムが戻っていないみたいです。

(皆川先生)
きっと先生たちもそうかもしれないけど、夏休みだということでほっとして、遅くまで起きてテレビや動画を見たり、家族と遠出して帰りが遅かったりすることが習慣化しちゃったのかもしれませんね。

【POINT1】まずは2週間。助走のつもりで取り組む

私たち教師もしっかり準備をしてきたつもりなのに、夏休み明けの1、2週間は、強い疲労を感じることが多いです。私自身、年々、疲労感が抜けにくくなっていることを感じています。大人よりもうんと若い子どもたちですら、学校生活の疲れは小さくはないと考えています。

1学期にできていたことがうまく取り組めなかったり、この活動はこれぐらいできるだろう、と思っていたことがそうではなかったりすることがあるかもしれません。

そのようなときには、一喜一憂せずに、今の状態をありのまま受け止めましょう。人間の成長は、まっすぐな右肩上がりではありません。らせん状で緩やかに右肩上がりなのかなと考えています。らせん状のぐっと下がるところは、「伸びていくための充電期間」です。待つことも大事な指導です。

人間の成長もこのらせん状のように、一度下がってから次に向かって上がっていくものと考えます

【POINT2】2学期の見通しを視覚化しておく

子どもたちの状態や特性にもよりますが、2学期の活動の見通しを口頭で伝えるのではなく、視覚化して伝えておくといいでしょう。それらの活動のなかで、楽しみになりそうなものをピックアップしておきます。前年度の様子が分かる写真や活動手順を掲示しておくと、毎日見るなかで理解してくれる子どももいます。今や各授業で使われ始めているのは動画です。視覚化としては、

1.動画 → 2.写真 → 3.イラスト →4.文字

の順で、分かりやすさが変わるのではないでしょうか。もちろん、子どもの特性を見ながらの取組になります。

【POINT3】エラーレスで、行事や活動のなかでの不安要素を小さくする

行事や活動の事前学習として、自立活動のなかで取り組んでみてはいかがでしょうか。スムーズに取り組むことができるように活動をスモールステップに分け、練習としての学習を仕組むこともいいでしょう。

たとえば、電車で校外学習へ出かけ、調べ学習をすることを挙げてみます。保護者に電車に乗ることを伝え、普段の電車内での様子などを教えてもらいます。駅にはたくさんの興味を誘うものがあります。校外学習の下見の際には動画や画像を撮っておき、行程を確認しながら、子どもたちに見せておくこともいいでしょう。

プラットホームに下りれば、電車にすぐ乗れると思っている子どもに出会ったことがあります。そのときは、電車は決まった時間に来るのだということを、時刻表を見せて説明しました。事前の説明とは違ったデザインの電車が来てしまい、子どもが戸惑ってしまったこともありました。現地の様子は許可の出る範囲で、動画や画像を撮っておくのがいいでしょう。そしてこれらを示しながら説明しても、一度で理解できるのは、一部の子どもだけだと思うので、何回かに分けて伝えるといいでしょう。

体育学習の研修会で、トライ&エラーの大切さを学ぶ機会がありました。特別支援学級の子どもたちや通常の学級の子どもたちのなかには、エラーが許せない子どももいます。ミスをしてしまったために、自傷行為につながる子どももいます。

ときには、序盤でエラーレスの活動に取り組むことも大切だと感じています。そして徐々に、支援のあり方を変えてもいいのではないでしょうか。特別支援学級の子どもも、学力の向上や社会性スキルの向上は大切です。

文科省も次のように定めていて、これはどの子にも当てはまることです。

学校で学んだことが、子供たちの「生きる力」となって、
明日に、そしてその先の人生につながってほしい。

これからの社会が、どんなに変化して予測困難になっても、
自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、
それぞれに思い描く幸せを実現してほしい。

文部科学省生きる力 学びのその先へ

そうですね。焦らずに、ゆっくりと取り組みながらも、2学期の活動に進んで取り組むことができるように支援したいです

私も生活リズムを整えなくっちゃ!

子どもも教師も、笑顔がいっぱい増えるように。そして、「分かった」「できた」「楽しい」「さらに」と感じられる毎日にしたいですね。

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いかがでしたか。毎日子どもを見ていると、その姿に一喜一憂してしまいがちですが、ここはぐっと我慢。焦らずに取り組んでいきましょう。きっとその先には、笑顔の花が咲いていますから。

イラスト/terumi

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