指示出しは「~するな」ではなく「~しましょう」|8月【特別支援学級の学級経営】
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文部科学省からは、すべての新任教員が10年以内に特別支援教育を複数年経験するよう努めるように通知が出されています。特別支援の知識や経験が乏しいまま、手探りで特別支援学級を担任している先生も多いことでしょう。この記事では特別支援学級でよくあるケースを挙げて、その道の専門家がポイント解説します。今回は、子どもへの指示出しについてのお話です。
構成・執筆/兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー 関田聖和
目次
登場人物
皆川先生:自閉情緒クラス担当。教師生活25年のベテラン。特別支援学級主任・特別支援教育コーディネーター
島原先生:知的クラス1担当。教師8年目。特別支援学級担任1年目
根本先生:知的クラス2担当。教師3年目。特別支援学級担任2年目
始業式を翌日に控えた教員室での会話
(島原先生)
夏休みも終わりですね。この間、遭遇した場面なんですが、特別支援教育ってまだまだ伝わっていないなって感じたんです
(皆川先生)
どんなことがあったの?
(島原先生)
図書館で本を探してたんですが、子どもが走り回っていたんですね。きっと本棚が迷路のようになっていて、おもしろかったんだと思います。そして母親と思われる人が、「走るな! 走るなって言ってるでしょ!」って大きな声で……。結構、響いていたんです。皆川先生から、「走るな」より「歩こう」って、教わったことを思い出したんです
(根本先生)
私もありましたよ。お菓子コーナーで、「欲しい」って泣き叫んでいる子に、厳しい言葉を言い続けている大人の方を見ました
(皆川先生)
特別支援教育の知見を家庭教育で使えるといいなと思うことって、あるわよね
【POINT1】タイミングを見計らい、指示やルールは、命令形や否定形で伝えずに、肯定形で伝える
○○してほしいときに、「しなさい」という命令形の文末、~しないという時に使う「するな!」や、走ってほしくないと考えた時の「走るな!」などの否定形で終わる文末での伝え方は、子どもたちに伝わりにくかったり、定着しなかったりすることがあります。
それは、子どもたちのなかには、「~するな」と言われると、どうしていいのか分からない子どもたちがいるからです。
もう教育界ではあたり前のことになっていてほしいのですが、校内研修や研究会などで学校を訪問させてもらったとき、校舎内にいまだに「廊下は走りません」と張り紙がしてあったり、校内のきまりのようなものに「~しない」という文字のオンパレードに出合うことがあります。
- しなさい → しましょう
- 走りません → 歩きましょう
- 勝手に入らない → 先生の許可を得て入りましょう
- 学習に使わないものは持ってこない → 学習で使うものを持ってくる
などに置き換えられるといいですね。また、指示されたことが、子どもたち自身の優先順位の上位に、上がってこないと、指示通りに行動できないこともあります。つまり伝えるタイミングが大事であるということです。たとえば、集中して見ているドラマのクライマックスに、何かを言われると、「今、いいところなのに!」とイライラすることはありませんか。これと同じなのです。
【POINT2】愛のある無視+褒めるで次への行動につなぐ
ときには、癇癪(かんしゃく)に似た行動を示すことがあります。お菓子が欲しくて、床に寝転んで泣き叫ぶような場面などは見聞きしたことがないでしょうか。私の知人から聞いた話ですが、子どもが床に寝転んで泣き叫んだときに、目が泣いていないと感じたことがあるそうです。そこで「嘘泣きはやめろ」って言ってしまったそうです。
子どもは、どうやったらお菓子を買ってもらえるのかを試していることがあります。もしここで負けてしまって買ってしまうと、この泣き叫ぶ行動は続いてしまうでしょう。応用行動分析の理論でいうところの、「こうすれば手に入れることができる」ということを学習してしまうからです。
応用行動分析(ABA)についてはこちらの記事をご覧ください↓↓
不適切な言動を繰り返す生徒に、支援員として何ができますか?
少々、つらいかもしれませんが、ここはあえて「愛のある無視」です。じっと黙って見たり、まったく別の行動をして見せたりするなかで、時間はかかるかもしれませんが、落ち着いてきます。泣き止んで落ち着いたときに、「泣くのをやめたね。えらいなあ」って褒めます。
そして「お菓子が欲しいときは、“お菓子が欲しい”って言うんだよ。でも買えるときと買えないときがあるから、買えないときは、次のお買い物を楽しみにしてね」と伝えます。これを実践してみてもいいでしょう。そうすることで、正しい伝え方を学習することができます。
特別支援教育を学んでいくと、何だか生きやすいというか、気持ちが穏やかにいられますね
私もこの夏、いろいろな研修会で、特別支援教育の重要性を感じました
特別支援教育って、通常の学級、特別支援学級・学校などの垣根を越えて、教育全般に必要な知見ですね。インクルーシブ教育が文化として根付くには時間がかかるかもしれないけれど、できることから始めていきましょう
いかがでしたか? 休日でも、頭の片隅で学校のこと、子どものことを考えてしまっている自分がいます。ある意味仕方がないのかもしれませんが、特別支援教育の知見が、学校だけでなく、広く伝わることを願っています。
イラスト/terumi