ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #31 「Goal 15 陸の豊かさも守ろう」・その2|葛西もえ 先生|みんなの教育技術

ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #31 「Goal 15 陸の豊かさも守ろう」・その2|葛西もえ 先生

連載
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~
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北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #31
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全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回は「陸の豊かさも守ろう」について学ぶ授業実践提案の第2回です。ご執筆は、岩手県の葛西もえ先生。小学5年道徳科での実践例です。

執筆/岩手県公立小学校教諭・葛西もえ
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

みなさん、こんにちは。岩手県で小学校教諭をしております葛西もえです。
今年度、5年生の担任をしており、社会科の授業や総合的な学習の時間を通して、子どもたちと一緒に、産業や環境について学びを深めています。
今回、SDGs Goal15「陸の豊かさも守ろう」にスポットを当て、社会科の「森林と共に生きる」の単元の最後に、世界の状況について考える授業をつくりました。
岩手県の中でも、豊かな自然に囲まれ、森林の減少に気付きにくい環境にいる子どもたちだからこそ、日本の森林だけでなく、世界の森林も守っていくために何ができるかを考えられるようにしたいと考えました。

2 SDGsのGoal 15についての解説

SDGs Goal 15 ロゴ

SDGs Goal15は「陸の豊かさを守り、砂漠化を防いで、多様な生物が生きられるように大切に使おう」とされています。
1990年から2020年の30年間で、世界の森林面積は1億7800万haも減少しています。国連の2020年SDGs報告では、2015年以降年間約1000万ヘクタールもの森林が失われていると発表されました。
主に、家畜や農作物を育てるために森を切り開いたり、人間の都合で森林を切り倒して開発したりしていることなどが原因とされています。
樹木の伐採や資源の開発などによって山が削られることにより、土壌流出による水域の汚染、山崩れなどの災害につながることもあります。森林の減少に伴って、そこに生息する生き物たちのすみかや生活の場が失われています。

3 SDGsのGoal 15を扱った授業の実際

⑴ 対象学年:小学校 第5学年

教科及び領域
 教科:特別の教科 道徳
 主題名:緑豊かな未来になるように
 内容項目:D 自然愛護

ねらい
植物の成長にかかる時間や世界の森林面積減少の実態を知り、自分たちにできることは何かを考えることを通して、自然環境を大切にし、持続可能な社会の実現に努めようとする道徳的実践意欲と態度を育てる。

授業展開
今年、学校に新しく校庭に植樹された「ハナミズキ」の木があります。

校庭に植樹されたハナミズキ

植えた時、この木の幹の太さは32.5㎝でした。

発問① 半年間たった現在、この幹の太さは何でしょうか?

なんと、幹の太さは32.6㎝です。

ここで、年輪が1年ごとに成長する際にできるものであることを説明し、この木の幹と同じ大きさの木を輪切りにしたものが何年かけて育ったものなのかを調べます。

同じ大きさの木を輪切りにしたもの

鉛筆で印をつけながら数えてみると、およそ30年の月日をかけて成長したことがわかります。
木の高さを基準に成長の速度を感じていた子どもたちは、実際に木材として使うことができる太さになるまでの果てしない時間を目の当たりにしたようで、とても驚いていました。

【展開】
今日まで、社会科の授業で、森林の働きや森林を守るための取り組みを学習してきました。

森林の様子1
森林の様子2

これは岩手県の森の中です。
林業に携わっている友達が送ってくれました。
岩手県の森も、間伐などの管理を行い、しっかり守られているんですね。
様々な取り組みの結果、日本の森林面積は、過去50年間大きく減ることなく過ごしてきました。
では、世界の森林の状況はどうでしょう?
ここでWWFのホームページ「今日、森林破壊を止めるためにできること」を見て、森林破壊の現状とSDGs Goal15の内容を確認します。

https://www.wwf.or.jp/campaign/forest/

世界では、毎年約1000万ha(北海道の1.2倍の面積)の森林がなくなってしまっています。
切られてしまった木はどこへ行ったのでしょう。
世界の現状を知った子どもたちの反応です。

こんなに木が切られているなんて知らなかった。
日本に輸入されているのは、もしかしてこうやって切られた木?
森がなくなったらどうしよう。
木が切られた森は見た目も悪いし、災害とかも起こって結局、人間が困るんじゃない?

次に3枚の写真を見せます。
(1枚目)砂漠の中で、少ない草を喰むバッファロー
(2枚目)木が切られた森で佇む一頭の象
(3枚目)住宅街にいる熊の親子

発問② この動物たちは、何を思っているでしょう。

写真に吹き出しをつけたワークシートに、動物たちの気持ちや言葉を書いていきます。

食べ物がなくて、お腹が減ったよ、このままじゃ死んじゃうよ。
こんなことするなんてひどい。私たちのお家、返してほしい。
安全に暮らしたい。来たいわけじゃないんだよ〜(人里に)
こんな森、やだな。

これまで、森林の減少が人に与える影響について学んできたので、あえて動物の視点で森林伐採の問題について考えました。

【展開後】
ここで、岩手県の森の写真を撮って送ってくれた、江戸さんの話を紹介します。

日本では、戦後に植えられた木がそのままになっていて、歳をとった木はCO2の吸収量が少ないため、それらを木材として使っています。木を切った所には、新しい木を植えて、若い森を育てる取り組みもしています。
ただ、世界では森林伐採が問題になっています。「日本の森林は守られているから大丈夫」ではなく、日本にいる私たちに何ができるかを考えてほしいです。

 

発問③ 「私たちにできること」とはなんでしょう。

木を使わなければいいんじゃない?
でも、それじゃ私たち、生活しにくくない?
なんかできることある?

「世界の森林」となると、やはり教材との距離感があり、自分に何ができるかを考えにくいようでした。そうしているうちに、「タブレットで調べていい?」「SDGsの本があったから、図書室に行きたい」と子どもたちが言い始めました。
そこで、自由に調べる時間をとり、それぞれのできることを考えることにしました。
教室に戻ってきてから、改めて発問③を問います。子どもたちからは以下のような意見が出ました。

① 紙が木から作られているから、紙の節約はいいと思った。裏紙とかで使えばいい。
② 安いからといって、輸入されたものをいっぱい買ったり、いらなくなったからすぐ捨てたりしてはいけないと思った。いるかいらないかよく考えて買いたい。
③ 食べ物みたいに、木材の産地も意識して買い物をしたらいいと思った。
④ すみかがなくなって絶滅してしまう動物もいるから、どうにかして守ってあげたい。

最後は、全体でまとめたりせずに、教室内を立ち歩き、お互いのワークシートをじっくり読みました。「これなら私にもできそう」と自分のワークシートに付け足している児童もおり、何が良いか悪いかではなく、それぞれが森林の減少を防ぐためにできることと向き合う時間となりました。

評価
世界の森林減少の実態やSDGs Goal 15について、理解できたか。
植物の成長に必要な時間を実感しながら、自然環境を守ることの大切さに気付いているか。
自分にできることは何かを考え、実践意欲や態度を高めることができているか。

評価の実際
発問③に対する子どもたちの反応から、以下のように評価しました(①~④の番号は、上記の子どもたちの意見に対応しています)。

① 自然環境を守ることの大切さに気付き、自分との関わり合いの中で自然愛護について考えることができた。
②③ 自然環境を守ることについて、社会科での学びと繋げながら、広い視点を持ち、多面的・多角的に考えることができた。
④ 自然の中に生きる動物の立場から、自然環境を守ることの大切さを考えることができた。

4 成果と課題

【成果】
導入で身近にある校庭の木の成長速度を実感したことが、日本にいるとなかなか捉えにくい森林伐採の問題に対して、教材との距離感を縮め、自然を守っていくことの大切さをより深く感じることにつながりました。
終末をオープンエンドにすることで、学びが続き、家庭学習で日本の国としての取り組みを調べたり、家族と話したことをまとめたりする子がいました。
また、日々の生活の中でも、SDGs Goal 15についてアンテナを高くして過ごすようになり、授業の後もコンビニエンスストアやスーパーなど、身の回りで見つけた取り組みを教えてくれる児童の姿から、SDGs Goal 15だけでなく、環境保全への関心が高まったと感じました。

【課題】
木材を使った生活は縄文時代から続いており、森と私たち人間は切っても切り離せない関係にあります。森林伐採を止めるために、木材を使わずに生きていくということはとても難しく、子どもたち自身にできることを考えるのもとても難しい内容でした。取り組みを考えることはできるが、実際の行動につながる内容は多くありませんでした。できることは少ないかもしれないが、目標達成のために自分ができることを考え続けることが大切であることも伝えていきたいと考えています。

5 他教科とのつながり

5年生の社会科の内容は、SDGsと関係している内容が多く、単元の最後には「SDGs」をキーワードに未来の産業について考えてきました。
今回の単元は道徳的な視点からアプローチすることで、自然環境を守ることの大切さをより一層感じ、自分ごととして考えることができていたように感じます。
また、国語の学習で「固有種」や「絶滅危惧種」に触れていたため、多くの子が動物の視点に興味を持っていました。
国語で取り扱ったデータや筆者の考えを、知識としてインプットし、自分にできることは何かを考える際の手がかりとして考えていたようです。

【参考文献】
日本ユニセフ協会「持続可能な世界への第一歩 SDGs CLUB」
林野庁ホームページ「森林資源の現況(令和4年3月31日現在)
WFFジャパン「今日、森林破壊を止めるためにできること」

この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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