インタビュー/二川佳祐さん|学びを「習慣化」――継続した先に見える景色がある【注目の若手&中堅教師に聞く「わたしの教育ビジョン」Vol.05】|みんなの教育技術

インタビュー/二川佳祐さん|学びを「習慣化」――継続した先に見える景色がある【注目の若手&中堅教師に聞く「わたしの教育ビジョン」Vol.05】

連載
注目の若手&中堅教師に聞く「わたしの教育ビジョン」

東京都の公立小学校で教鞭をとる傍ら、教員によるコミュニティー「BeYond Labo」や、Googleを学ぶ教員グループ「GEG Nerima」の運営、InstagramやVoicyといったSNSを活用した発信など、さまざまなフィールドで活躍する二川佳祐先生。学校を飛び出して活動する二川先生に、その背景や原点、教師の学びなどについて語っていただきました。

東京都練馬区石神井台小学校教諭
二川 佳祐(ふたかわ・けいすけ)

1986年東京都生まれ。教職の傍ら、「教育と社会の垣根をなくす」「今までの自分を超える」をビジョンとするコミュニティー「BeYond Labo」、Googleを学ぶ教員グループ「GEG Nerima」を運営。「大人が学びを楽しめば子どもも学びを楽しむ」をモットーに活動している。共著に『いちばんやさしい Google for Educationの教本』(インプレス)がある。
Instagram:https://www.instagram.com/futakawa.sensei/
Voicy:https://voicy.jp/channel/4074

全ては「好奇心」から生まれる――学校という組織を超えて

なぜ二川先生が学校外部へと精力的に働きかけるようになったのか――コミュニティーやグループ創設のきっかけは、「好奇心」から始まったと二川先生は語ります。

「僕の性格上、誰もやっていないことをいちばんにやるのが好きなんです。なので、『教育に改革を起こそう!』とか『変えてやろう!』みたいな意識は全然なくて、自分がおもしろそうと感じた方向に進んできた結果、こうなりました(笑)。BeYond Laboの活動も、話を聞いてみたい人をお呼びして、地域の人たちといっしょに学びたいという思いから発足したんです」

現在、完全オンラインで実施しているというBeYond Laboは、教育と社会をつなぐコミュニティー。なかでも、派生企画である『マイチャレ』は、毎週日曜日の朝6時から30分間、実施しているとのこと。マイチャレは、1つの目標を掲げ、毎日できたかを日曜日にメンバー同士で発表し振り返り、「来週は、こんなことやります!」と習慣づけることを宣言する活動。半年間お互いに伴走することで、「習慣化」を身につけることをめざしているそうです。

マイチャレの様子の写真
目標は、「1日に1回腹筋する」「肌のケアを行う」など、どんなことでもいいそうで、毎日継続して行うことに重点を置いているとのこと。

また、教師同士でGoogleのツールを学び合う「GEG Nerima(Google教育者グループ練馬)」は、区内の小中学校の教師がICT教育についてともに学び、情報交換できる場。こちらも毎週水曜日の夕方から30分間、オンラインでお互いの実践について語り合っています。いずれの活動も毎週決まった時間に実施していることがポイントで、習慣化を意識して活動しています。

「いちばんやさしいGoogle for Educationの教本」の書影
「Google for Education」を用いた実践例をまとめた一冊。二川先生も共著として参加しています。

「私は、『教育は習慣』だと思っています。典型的な例でいえば、朝の会がまさにそう。もっと広く捉えれば、ランドセルで通うことも、ノートをとることも全部習慣です。

いかに子供たちにとってよい習慣をインストールできるかが重要で、そのためには環境を十分に整えなければならないですし、教師自身が常に新しいものを取り入れ、子どもたちに見せ続けなければなりません。まずは、教師が習慣化を実践することが大切なのです」

教師の学びも「習慣化」を――長期分散投資のような視点で

教員の学びについても、「習慣化」が大切であると語る二川先生。教員研修も一つのきっかけにしかすぎず、打ち上げ花火のように一時的な学びになっては意味がないと語ります。

「もちろん、研修を通して知識はつくでしょう。しかし、次の日から劇的に何かが変わるということは決してありません。何回も何回も学び続け、習慣化することで、初めて変化が訪れます。自らアクションを起こし、連続性をもたせ、常にPDCAサイクルを回していくことが重要です」

そのため、教員研修のあり方について、二川先生は「長期分散投資」のような考え方を提案します。

「数ヶ月に1回、1つの会場に集まって長時間の研修を実施するよりも、オンラインで短時間かつ定期的に行うほうが、多忙な教員には合っているのではないでしょうか。

正直な話、内容によっては『自分、これ受ける必要あったかな?』と思う研修があると思うんですよね。なので、長期分散投資のように、細かく分散して、あとは継続的に利益(知識や技術)を得ていくというスタイルに変えていくほうがいいのかもしれません。それに、もっと気軽で手軽に受けられるようデザインしたほうが、インプットしやすいでしょう」

学びの習慣化にあたっては、SNSを活用した学びがおすすめだと続けます。スマートフォンは日々の生活のなかで絶対に欠かせないからこそ、学びの連続性をもたせるのに最適なのだそう。

「自分の興味の赴くままでいいんです。まずは、検索してフォローして、情報を得るところから始めてみましょう。情報収集するなかで、『これ、ちょっとやってみよう』と入り口をつくることが大事。そこから、ちょっとしたスキマ時間に継続して触れていくことで、たとえパッチワークのような学びだとしても、積み重なっていけば、習慣化が生まれ、学びが蓄積されていきます

自ら発信できることも、SNSの魅力のひとつ。主体的に動くことで、人とのつながりが生まれ、より情報の濃度が高くなっていくと言います。

「どんなことでもいいんです。とにかく『えいやっ!』と一歩を踏み出してみましょう。さまざまなことを発信していれば、どれか一つでも共鳴する部分を見つけてもらえて、人とのつながりが生まれます。人とのつながりが増えれば、さらに多くの情報が集まってくるようになります。SNSなら、そういった過程が距離に関係なく、スピーディーに実現できるんです」

自分もよくて、人もいい――Win-Winな関係にこそ生まれる、新たな価値

学びの場の運営やSNSでの発信を通じて、教師だけでなくさまざまなジャンルの人々と出会い、つながりが増えたという二川先生は、「いい仲間」の存在も、学びにおいて重要であると語ります。

「何かを学んだり、実践したりしたいと思い立ったとき、一人だけで頑張れる人もいるかと思いますが、なかなか大変です。それに、自分だけの力では実現できないことも必ず出てきます。そうしたとき、同じ志をもった仲間がいれば、どんなに難しい課題でも解決の糸口が見つかったり、自分一人では思いつかないアイデアや新しい視点なども発見したりすることができます」

「とてもいい仲間たちに囲まれています」と笑う二川先生は、人との出会い、つながりのために、自ら新しい分野について学んだり、知らない世界に飛び込んだりしています。例えば、応用神経科学の専門家である青砥瑞人さんとは、高校の同級生だったという縁もあり、青砥さんのコンサルティングによって、菊池省三先生の「褒め言葉のシャワー」という教育実践に挑戦しました。

2020年には、「先生インターン」と称し、ベンチャー企業の研修にインターン生として3日間参加。その際、企業での仕事を通して教員の仕事に応用できることを学び得るだけでなく、企業の社員研修などに対してアドバイスをする機会もありました。

「私は、誰かと協働するとき、自身の利益(成長)を考えることも大事ですが、自分のもっている知識や技術を提供することで相手の利益にもつながるよう、双方がプラスになる活動を意識しています」

二川先生が大切にしている言葉の一つに、「自分もよくて、人もいい」という言葉があります。この言葉は、先輩教師から教えてもらったとのことで、子供たちにもよく伝えているそう。

「自分さえいい思いをすればいい、というのはとてもワガママなことです。しかし、相手がよい思いをできるように、自分を押し殺して我慢することも違います。『自分もよくて、人もいい』、Win-Winな関係づくりをめざすことが大切です。そうして築いた、人とのつながりこそが、さらなる出会いを生むと同時に、新たな価値を創出するきっかけになるでしょう」

また、「何かを変えたい」と思ったとき、一人だけでアクションを起こそうとするのではなく、チームをつくって説得することが有効だと教えてくれます。

「チームは、学校内部でもいいですし、学校外部から力を借りてもいいんです。ただしチームづくりには、当然信用が必要です。信用を得るためには、誰よりも汗をかくこと。日頃から、積極的に周囲の人をサポートし、継続的に貢献するよう心がけましょう」

BeYond Laboのリアルイベントでの集合写真
BeYond Laboのリアルイベントの様子。

学び、発信し続ける背景――教師観の原点と挫折

常に新しいことに触れ、決して学び続けることを止めない二川先生。好奇心をもって、さまざまなフィールドへ果敢に飛びこんでいく、その大きなエネルギーの源には、一人の先輩教師の影響があると語ります。

「私の教育観・教師観の根底に、ぬまっち先生こと、沼田晶弘先生の存在が大きくあります。沼田先生は、私の教育実習先の先生だったんです。当時、大学生だった私にとって、沼田先生の、教室の外へ飛び出して行う授業や教育実践は、どれも本当に衝撃的でした(笑)

既定の教育にとらわれず、イノベーションを起こそうとする姿にも感銘を受けました。教育実習後も交流させていただき、勉強会などにも参加しました。学びたい人、楽しいことをしたい人をつなげるという面でも多大な影響を受けたと思います」

沼田先生との出会いによって、教育実習生の頃から、教師という仕事の楽しさを見いだしていた二川先生。しかし、教師として働き始め、5年目を迎えた頃、大きな挫折を味わいます。

「当時、担任をしていたクラスで学級崩壊を起こしてしまいました。子供たちに辛い思いをさせてしまったこと、保護者の方々や、ほかの先生方にも大きなご迷惑をおかけしてしまったことを、今でも本当に申し訳なく思っています」

10年以上たった現在でも、後悔と自責の念に駆られているという二川先生。ですが、当時の教え子が教師になったといううれしい出来事もありました。

「報告をしてきてくれたことが本当にうれしかった。しかし、だからといって当時のできごとが消えるというわけではありません。もう二度と、子供たちや保護者の方々、ほかの先生方にあんな思いをさせたくない。だからこそ、私は常に学び、発信し続けているのだと思います

教師の仕事は「複利的」――新しいことへの挑戦を習慣化

今年で教師人生16年目を迎える二川先生。教師として過ごしてきた日々のなかで、やりがいや楽しいことだけでなく、耐え忍ぶ時期もありました。しかし、そうした経験も経たからこそ、現在の二川先生があります。

「5年目のときに挫折を味わい、そこから少しずつ何年もかけて学びを積み重ねてきました。新しいことに触れ、ひたすら学び続けてきたからこそ、今がすごくおもしろいと感じています。研修を投資に例えましたが、教師の仕事の醍醐味(だいごみ)は『複利的』なところだと思うんです。経験を重ねれば重ねるほど、どんどんおもしろくなっていくし、そのおもしろさの加速度が年々、増していきます」

また、若手教師と中堅教師のそれぞれに、次のようなメッセージを送ります。

「若手の先生には、ぜひ『1年1実践』を意識してみてほしいです。教師に同じ1年なんて存在しません。だからこそ、まずはどんな小さなことでもいいので、1年かけて1つの実践を継続してみてください。長く続けることだけが正解ではありませんが、続けたからこそ得られるものは必ずあります。

ミドルの先生方は、ウェルビーイングを意識しましょう。私たちミドル世代が笑っている、幸せでいることが職場に与える影響は結構大きいと思っています。なぜなら、私たちの姿が若手の先生たちのロールモデルになるわけですから。仕事でも私生活でも、何かと大きな変化が生じたり、逆に安定してきたことで、これからを考えたり……。まずは、自分自身をちゃんと大切にしてほしいです」

世の中には、いまだに「教師は世間知らず」といったイメージが根強く残っています。それは、学校という組織が十分に社会に開けていないという側面もあるでしょう。しかし、「おもしろいことをやっている先生はいっぱいいる」と二川先生は力強く語ります。そして、新しいことに挑戦する教師、学校がさらに増えていくよう、これからも発信し続けていきます。

二川先生のインタビューカット
筋トレを習慣化し、ジムに通っているという二川先生。仕事終わりに取材に応じていただいたのですが、取材後にその足でジムへと向かわれていきました。

『変えられない』と思い込んでいることは、無思考であり、悪習慣です。柔らかい思考へとマインドリセットをし、新しいことに挑戦する習慣が大切だと思います。今日も教育現場で頑張る教師たちの力によって、もっともっとエンパワーメントしていきましょう!」

「学校」「教師」というキーワードに縛られず、ボーダーレスに活躍する二川先生。「何か一つで勝負するよりも、OSのような土台、何でも乗っけられるようなお皿みたいな存在でありたい」と楽しげに語る二川先生の姿からは、これからの教育界にさらなる新風を吹かせていくであろう未来が見えました。

二川先生も著者として参加した『35の実践事例 明日から使えるミライシード 子ども主体の学びを実現』(時事通信社)。ベネッセが開発した学習アプリ「ミライシード」の基本操作はもちろん、明日から導入できる実践事例も詳しく紹介されています。2024年7月12日発売。

取材・文/鷲尾達哉(カラビナ)

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