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文部科学省「特定分野に特異な才能のある児童生徒」支援の現在進行形 

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最近、「特異な才能のある児童生徒」という言葉を耳にする機会が、ありませんか? 文部科学省では、特異な才能のある児童生徒の支援事業を始めています。いったい、どんな事業が始まっているのでしょうか?

そんな素朴な疑問を、文部科学省に行って聞いてきました。お話をして下さったのは、初等中等教育局教育課程課の川口貴大(かわぐち・たかひろ)学校教育官(下写真右)です。

川口学校教育官から説明を受ける筆者

なぜ、文部科学省は「ギフテッド」という言葉を使わない?

ー 「特異な才能」のようなものを意味して、「ギフテッド」という言葉を使う人もいます。文部科学省が「ギフテッド」という言葉を使わないのは、なぜですか?

一番は、現場を混乱させないためです。文部科学省では有識者の皆さんに集まって頂き、議論したのですが、「ギフテッド」という言葉は、イメージも解釈も人それぞれです。そのような言葉を使うことで、さまざまな誤解が生じ、現場が混乱する可能性も考えられます。(川口学校教育官・以下同)

ー 「特異な才能」の内容を定義しないのは、なぜですか?

例えば、特定の基準により定義をし、それにより選抜された子供に特別のプログラムを提供することは、特定の子供にラベル付けをすることになります。選抜のための過度な競争が発生したり、才能というものが狭い範囲で捉えられてしまうこと、そして、同級生から異質な存在と捉えられたりする懸念もあります。このことも有識者の皆さんにしっかり議論して頂いたことです。

ー「特異な才能のある児童生徒である・ない」が問題ではない、と。

まず目指したいのは、「子どもの困難の解消」です。学校生活と学習、その両方で困っている子がいる…。その子たちが、どうすれば、学校で過ごしやすくなり、学びやすくなるのか? そこに取り組んでいきます。

ー 新事業が始まるとなると、「また、新しい仕事がおりてくるのか!」といった声も、教育現場からは聞こえてきます。

「特異な才能のある児童生徒」という言葉は確かに聞き慣れない、新しい言葉かもしれません。他方で、先生方は、日々、いろいろな子供に向き合っていると思います。困っている子供に対して、「なぜ、このような現象が起きているのか?」、そして、「今、目の前にいるこの子に、どう関わったら良いのか?」と、悩まれることもあるでしょう。そうした悩みに対する見方や指導・支援の工夫を提供できればと考えています。

令和5年度の推進事業、柱は4つ

令和5年度 予算7700万円

文部科学省は、「特定分野に特異な才能のある児童生徒への推進事業」の「令和5年度」の予算として、7700万円を確保。今年の4月から動き始めている事業は、次の4つの柱に分かれています。

  1. 特異な才能のある児童生徒に関する研修パッケージの作成
  2. 特異な才能のある児童生徒の特性を把握するツールや特異な才能のある児童生徒の支援に資するプログラム等のデータ収集・整理
  3. 特異な才能のある児童生徒に対する指導・支援に関する実証研究
  4. 特異な才能のある児童生徒の指導・支援を行う教職員・保護者を対象とする相談支援に関する実証研究

それぞれの柱について、どんな事業が進行中なのでしょうか? 質問してみました。

1 研修パッケージ

ー 研修パッケージの作成とは、どういうことですか?

これは、先生方に向けての研修をイメージしています。教育委員会や学校で使える、先生向けの研修用動画や研修教材を作成します。

2 データ収集と整理

ー 特性を把握するツールとは? 

認知や行動の特性を知るためのアセスメントツールやチェックリスト、検査等です。教室で困っている子がいた時に、どういう支援をすればよいか、適切に見立てるための手立てを提供したいと考えます。

ー 支援に資するプログラム等のデータ収集・整理とは、何ですか?

学校外でも様々な学習プログラムやイベントが提供されていますが、それを探そうとしても、情報がまとまっていないと、探しづらいですよね…。そこで、必要とする人が、必要とする情報に辿りつきやすいよう、情報を集め、整理し、提供をします。

3 指導・支援に関する実証研究

ー 実証研究は、どんなことをするのでしょうか?

研究の概要については、一覧を文部科学省のHPで公開しています。

令和5年度特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業の採択団体について

令和5年度特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業の採択団体について

【資料1】

ー 冒頭のお話にあった、「子どもの困難の解消」には、これらのことを研究する必要があるのですね。この研究は、どこで行われているのですか? 

次にあげる、9か所で行われています。

令和5年度特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業(特異な才能のある児童生徒に対する指導・支援に関する実証研究)研究概要一覧

令和5年度特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業(特異な才能のある児童生徒に対する指導・支援に関する実証研究)研究概要一覧

【資料2】

ーこの9か所で、実証研究が行われているのですね。右の3枠「研究に取り組む領域」に、それぞれ●がありますが、これは何ですか?

各団体が選択した研究課題を基に、各団体がどのような研究に取り組むかを大まかに示したものです。研究領域「1」は、「学校内の取組」。「2」は、「学校と学校外との連携」。「3」は、「児童生徒を取り巻く環境整備」です。

ー 【資料1】と【資料2】は、どう関連するのでしょう?

【資料1】は、文部科学省が指定した事業としての研究課題です。【資料2】の各団体は、研究課題を選択し、取り組むことになっています。

  • 【資料2】●の「1」が、【資料2】<研究領域1> a ~ eに該当。
  • 【資料2】●の「2」が、【資料2】<研究領域2> f ~ hに該当。
  • 【資料2】●の「3」が、【資料2】<研究領域1> i ~ kに該当。 

4 相談支援の実証研究

- 相談支援に関する実証研究とは、どんなことをするのでしょう?

特異な才能のある児童生徒の指導・支援は教職員も分からないことがあるでしょう。また保護者のケアも、とても大切です。それぞれの相談を受け付けることにより、どのような体制で、どのように相談に応じればよいかを明らかにするものです。

ー 教職員はもちろんのこと、保護者のケアまで視野に入っているんですね。

はい。教職員や保護者から「相談を受ける立場の人」も育成していく必要があります。

多様な子どもが育つ土壌を作る

令和6年度 予算7700万円を要求

先月(8月)末に、文部科学省の令和6年度概算要求主要事項が公開されました。概算要求とは、各省庁が翌年度の予算を要求する根拠となる数字で、いわば国の動きを知る指標の一つです。

文部科学省は、令和6年度も特定分野に特異な才能のある児童生徒の支援のための予算を要求しています。

12月に政府としての予算案をとりまとめ、令和6年の年明けに行われる通常国会での審議が通れば、令和6年度も特異な才能のある児童生徒の支援の推進事業が続行されます。

国の動きから、目が離せません…。

多様性を認め合うためには

筆者は、有識者会議からの提言書の「多様性を認め合う個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の一環として」という副題に、着目しています。下記の文書名をクリックすると、提言書全文へのリンクが貼ってありますので、ぜひ一度、お目通しください。

特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 審議のまとめ~多様性を認め合う個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の一環として~

つまり、特異な才能のある児童生徒への支援事業は、特異な才能のある児童生徒のため「だけ」ではなく、多様性を認め合う学びの充実の一環なのです。

この分野の実証研究が積み上がっていくことで、「多様な子どもたちが育つ土壌には、何が必要なのか?」が、顕在化していくのではないでしょうか?

多様な個性を持った人達が、それぞれの在り方で存在できて、お互いに認め尊重しあえる…。

そんな社会は、きっと弾力があり、新しい社会だと思います。 

楢戸ひかる(ならと・ひかる)
ライター。息子の通級をきっかけに、「特別な教育ニーズのある子どもたち」を軸に教育記事を執筆。主婦業の最適化を考えるサイト「主婦er」運営中。

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