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東京未来大学非常勤講師

山中伸之

50代のベテラン女性教師から「みん教相談室」に相談が寄せられました。赴任先の小学校で指導内容や提案がことごとく却下されてしまうそうです。今までにない状況に「高ストレス」と診断され悩んでいる相談者に、東京未来大学非常勤講師 山中伸之先生が回答した内容をこちらでシェアします。

イラストAC

Q. 自分の指導や提案がことごとく却下されます

50代の女性教員です。退職まであと10年、経験を積んで来たつもりですが、昨年度転勤してきた小学校では、自分が今まで経験してきた指導内容のほとんどが提案しても却下されてしまいました。学年末にも、全体指導(1年生)をする自分に対して、横やりを入れられたり、私が話していても他の先生が同じ内容を児童に向けて話したりされるので、非常に気分が悪いです。自分の指導や声がけが悪いのだろうかと思ってしまいます。

歴任校ではそんなことがなかったので、年甲斐もなくへこんでしまいました。どのような気持ちで、教壇に立てば良いでしょうか。1年間、ずっと引きずったままで、高ストレス診断とも言われてしまいました。(ビビアン・リーをめざすウーマン先生・50代女性)

A. ご自身を否定せず、心の「安全地帯」を確保しましょう

新しい学校に赴任しますと、システムの違いに戸惑いながら1日を過ごすので、それだけでもかなりのストレスです。その上、ご相談内容のような対応をされてしまっては、そのストレスは相当なものだろうと拝察いたします。

このような場合の対処法は3通りあります。

  1. 相手を変える
  2. 環境を変える
  3. 自分を変える

1 相手を変える

相手の先生に対して、ご自身のお気持ちや現状を伝えることです。相手の先生は、意外に先生ご自身のお気持ちに気付いていないことがあります。現状を伝えることで改善する可能性があるのではないでしょうか。

直接お伝えすることが難しい場合、同僚や上司や管理職に相談し、間接的に伝えてもらうという方法もあります。

2 環境を変える

提案をしたり、子供たちに直接指示を出したりする際に、つらい対応をされるということですから、そのような状況や場面になることを、極力避けるようにします。感情は自分でコントロールするのは難しいものです。ですから、そのような感情を呼び起こすような状況を避けることで対処するのがよいでしょう。

具体的には、提案はしばらく控える、全体での指示は他の先生にお願いする、または事前に指示内容を決めてもらう、などです。

3 自分を変える

自分を変えるには、いくつかの考え方があります。

(1)受け入れる

世の中にはいろいろな人がいるものです。「そういう人もいる」「そういう考え方もある」と受け入れてみます。受け入れてみると、意外に心がすっきりするものです。相手を否定しようとすると多くのエネルギーが必要となり、それがストレスになることもあります。

(2)ジャッジをしない

受け入れることと似ていますが、目の前で起きていることにいちいち判定を下すこと、評価をすることをやめてみます。「ただそういうことが起きている」とだけ考えてみます。ジャッジをすることは優劣を決めようとすることで、ご自身を否定してしまうことにつながることがあります。

(3)ご自身の思い込みに気付く

ある出来事が起こり、そのことによってご自身に何らかの感情が生まれます。そこには一見必然性があるように思われますが、実はそうではありません。同じ出来事が起きても、人によって生まれる感情の種類や大きさは異なります。それは、その人の「認知の仕方(くせ)」が関係しているからです。信念とか思い込みと言ってもよいでしょう。

人は往々にして、非合理的な認知の仕方(信念、思い込み)をしてしまいがちで、そのことが自分を否定することにつながっていることがあります。先生ご自身の中にも「100か0かの両極で考える」「1回がすべてのように極端に考える」「成功してもまぐれだとマイナスに思考する」などの認知のクセがないかを、見直してみてはいかがでしょうか。

その上で「1度や2度のダメ出しで自分の価値は変わらない」「このダメ出しはあくまで相手の判断、相手の意見」「否定されても全否定とは限らない。6対4かもしれない」などと考えてみましょう。

(4)専門性を高めて納得してもらう

ありきたりですが、先生ご自身の専門性をさらに高めていくということも考えられます。人は誰でも劣等感を抱いて生きています。その劣等感を成長の糧として生きることが健全な生き方です。劣等コンプレックスに陥らないことも大切な視点かもしれません。

(5)相手の気持ちを想像してみる

他人に攻撃的な人は弱い人だとよく言われます。自分自身を必死に守るために攻撃的になるのです。相手の方も、先生のご見識によって自分自身が否定されないように、自分の立場や感情や自尊心を守ろうとしているのかもしれません。そのために、先生に攻撃的に振る舞う(否定する)のかもしれません。そう思うと、少し心のゆとりが生まれるのではないでしょうか。

さて、ここまで述べてきましたが、先生のお気持ちを想像すると、おそらくそれほど納得はされていないのではないかと思います。

「理屈ではそうだけれども……」
「分かっていても簡単には実行できない……」

と思っていらっしゃるかもしれません。
人はだいたいそうです。私もそうです。(もしかしたら相手の先生も、分かっていても実行できずに悩んでいるのかもしれません)

まず、自分が癒やされ、受け入れてもらえ、心の安全が保障されないと、次の一歩がなかなか踏み出せないのが人間です。そこで、ご自身を癒やすことも同時に行ってみてはいかがでしょうか。

癒やし方にも3通りあります。

1 誰かに癒やしてもらう

誰か他の人に癒やしてもらう方法です。気の置けない友達に愚痴を聞いてもらうのがよいでしょう。このとき、あらかじめ友達に次のことをお願いしておきます。「否定はしないで聞いてほしい」「対処法やアドバイスはしないで聞いてほしい」ということです。ただただ、先生の思いの丈を「そうだね、わかるよ」と聞いてもらうのがよいでしょう。

文字に書き出すのもよいと思います。思いがあふれたときに文字に書き出します。心の中に想定した誰かに話すように書きます。神様でも、理想のパートナーでも誰でもかまいません。思いは表出しないと、自分の中で何度も湧き上がってくるものです。その度に不快な思いももれなく付いてきます。いったん表に出してしまうことで、それが少なくなります。

2 環境に癒やしてもらう

ひたすら先生の好きなこと、好きなものに囲まれている時間を過ごします。好きな場所で好きな音楽を聴きながら、好きな物を食べ、好きな人と、好きなことを話したりします。仕事とはまったく関係のない趣味を楽しむのもよいでしょう。

3 自分に癒やしてもらう

自分で自分を癒やすこともできます。これがもっとも大事なことかもしれません。自分への癒し方としては、次の3通りがあります。

(1)心の安全地帯を確保する

まず、先生の「心の安全地帯」を確保してください。または作ってください。相手の先生や、まわりの先生との間に「境界線を引いて」ください。相手に踏み込まれないようにすることです。実際的な距離を置くことも有効です。心理的な距離をとることも有効です。自分のまわりに大きな硬質プラスチックをイメージして、相手の言葉や感情を跳ね返してください。

この境界線が弱いと、簡単に相手の感情が流れ込んできます。そして自分の感情を害そうとします。同時に、自分の感情も流れ出てしまい、相手に依存したりします。相手に依存してしまうと「相手は〇〇をしてくれない」という思考になりがちです。

この境界線の内側には、嫌な言葉や感情を入り込ませないようにしてください。受け入れてはなりません。拒絶してください。「心を開いて対応しなくては」「心が狭い自分ではだめだ」などと考えてはいけません。そのような言葉は、相手をコントロールしようとする人間が利用する手段です。心が強く元気になれば、いくらでも心は開けるものです。順番が逆です。

何を聞いても、それが嫌なことや嫌な感情なら、聞くだけで受け流すようにして、境界線の内側に入れないことです。相手は相手、自分は自分です。文末で紹介する「ゲシュタルトの祈り」を何度も繰り返して読んでみてください。

(2)自分で自分を癒やす

境界線をつくって心の安全地帯を確保したら、先生ご自身で先生ご自身を癒やしてあげてください。今のご自分の感情を否定せずに受け入れてください。嫌なことを言われたときに

「嫌なことを言われてすごく嫌な気分になった。どうしたらいいだろう。どうすればよかったのかな。こんな自分はだめだな」

というふうには考えず

「嫌なことを言われてすごく嫌な気分になった。ああ、自分は今、嫌な気分なんだな。嫌なことを言われて嫌な気分になっているんだな」

と、ご自身の感情を受け入れてあげてください。感情を受け入れることは、ご自身そのものを受け入れることです。その上で、共感してあげましょう。

「嫌なことを言われて落ち込んでいるんだね。落ち込むよね。落ち込んでもいいよ」
「否定されて無力感を感じているんだね。無力感を感じるよね。感じてもいいんだよ」
「嫌な人だなって思ってるんだね。思っちゃうよね。思ってもいいよ」

(3)自分をねぎらう

さらに、ご自身をねぎらってあげてください。

「大丈夫」
「今の自分でOK」
「今までだってよくやってきたよ」
「これでいいんだよ」

このようにしてご自身を癒やしてあげて、1歩進む活力が生まれたら、冒頭から読み返してみていただければ幸いです。

どんなコミュニティーにも、「何をしても自分を嫌う人」「何をしても自分とうまの合う人」「どっちでもない人」が一定数いるものです。先生を嫌う人もいますが、先生をわかってくれる人も必ずいるものです。誰よりも先生ご自身が先生ご自身のことをよくわかっていると思います。

そんな事を思い出して、ご自身を認め、ねぎらってあげてください。先生の心の負担が少しでも軽くなることを願っております。

ゲシュタルトの祈り

私は私のために生き、あなたはあなたのために生きる。

私はあなたの期待に応えて行動するためにこの世に在るのではない。

そしてあなたも、私の期待に応えて行動するためにこの世に在るのではない。

もしも縁があって、私たちが出会えたのならそれは素晴らしいこと。

たとえ出会えなくても、それもまた同じように素晴らしいこと。

ゲシュタルトの祈り(精神科医フレデリック・パールズが、ゲシュタルト療法の思想を取り入れて提唱した詩)
引用元「ゲシュタルト療法ーその理論と実際」フレデリック・S. パールズ (著)  ナカニシヤ出版

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