特別支援学級の急増に思うこと<後編>~スクールソーシャルワーカー日誌 僕は学校の遊撃手 リローデッド⑦~|みんなの教育技術

特別支援学級の急増に思うこと<後編>~スクールソーシャルワーカー日誌 僕は学校の遊撃手 リローデッド⑦~

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スクールソーシャルワーカー日誌 僕は学校の遊撃手 リローデッド

一般社団法人Center of the Field 代表理事/スクールソーシャルワーカー

野中勝治
スクールソーシャルワーカー日誌
僕は学校の遊撃手
リローデッド

虐待、貧困、毒親、不登校──様々な問題を抱える子供が、今日も学校に通ってきます。スクールソーシャルワーカーとして、福岡県1市4町の小中学校を担当している野中勝治さん。問題を抱える家庭と学校、協力機関をつなぎ、子供にとって最善の方策を模索するエキスパートが見た、“子供たちの現実”を伝えていきます。

Profile
のなか・かつじ。1981年、福岡県生まれ。社会福祉士、精神保健福祉士。高校中退後、大検を経て大学、福岡県立大学大学院へ進学し、臨床心理学、社会福祉学を学ぶ。同県の児童相談所勤務を経て、2008年度からスクールソーシャルワーカーに。現在、同県の1市4町教育委員会から委託を受けている。一般社団法人Center of the Field 代表理事。

授業から吹きこぼれる “ギフテッド” の子供

「2年生の柊(しゅう)君の発達検査をお願いしたいんやけど……」

2月のある日、B小学校の校長先生から連絡を受けました。

校長先生から話を聞くと、「『授業中、柊君がずっと落ち着かない。周りの子供たちも引きずられてしまうけ、来年度から特別支援学級に転籍させたほうがいいんじゃないか』と担任から相談を受けたので、発達検査をしてほしい」とのことでした。

校長室に入ってきた柊君と話をすると、落ち着かないどころか、語彙も豊かで、私の質問にしっかりと答えてくれます。

「授業中、落ち着かんて聞いたけど、今はちっともそんなことないねえ。柊君の頭ん中に、誰かもうひとりおるん?」

私が軽くそう尋ねると、柊君は「そんなん、おらんよー」と笑顔で返してきました。

母親に、家庭の様子を尋ねても特に問題を抱えているわけではなさそうです。

「先生に検査を受けたほうがいいと言われたので……」と、特に発達検査を望んでいる様子もなく、何となく学校側に押し切られた印象を受けました。

(柊君は発達障害ではないだろう)

そう思いつつ、一応検査をしてみたところ、やはり発達障害ではなく、むしろIQが140以上もあることがわかりました。「学校の授業はあまりおもしろくない」と話してくれた柊君。授業中に落ち着かなかったのは、授業内容が簡単すぎてつまらなかったのかもしれません。

担任の先生が、もっとしっかり柊君の様子を見ていれば、柊君がいわゆるギフテッドであるということに気づけていたのではないか。“自分の指導” からはみ出た子=問題がある子、と決めつけていなかったか。そう感じずにはいられませんでした。

校長先生も、「柊君には悪いことをしてしまった」と反省していました。自閉・情緒学級に在籍している児童が定員いっぱいだったため、柊君が転籍すると1学級増えることになる。そうなると、教員も教室も新たに確保しなければならなくなる、という焦りから、ついフライングをしてしまったようでした。

通常の学級に収まらない子は “問題がある子” なのか

通常の学級に収まりきれない子供には、「問題がある困った子」というレッテルを貼り、個別の指導が必要とされる特別支援学級に転籍させる学校。そこには、学級に収まりきれないという理由で、ギフテッドのような、本来、特別支援学級には当てはまらない子供も含まれています。

「問題を起こすのは、障害があるからに違いない」と決めつけて、発達検査を希望し、特別支援学級に転籍させる保護者。家庭の事情で不安定になった子供が学校で問題行動を起こしている事実から目を背けているのです。

こうした大人の思惑で、「困った子」の基準はどんどん下がっていきます。

障害に対応する特別支援学級には本来、専門的な知識と技量が必要なはずです。ところが、急増した学級に対応するため、専門知識の浅い教師が担任を受け持つこともあります。なかには、再任用の退職教師や通常学級の担任を受け持つには問題がある教師などが当たることもあるようです。特別支援学級をただ増やせばいいという問題ではないのではないでしょうか。

昨年12月、文部科学省が「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の結果を発表しました。調査結果によると、小学校・中学校で「学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒数の割合」は8.8%。特別な教育的支援が必要な子供が1学級に3人いることになります。

10年前に行った調査の6.5%から、2ポイント以上増えている結果となりました。たった10年でこんなに増えたことを、「認知されるようになった」「受け入れられるようになった」と安易に受け止めていいのでしょうか。

“一人一人に合った指導” をするため、特別支援学級をさらに増やすのか。それとも、これまで行われてきた通常学級での “一斉授業” そのものを見直すのか──。これからの学校教育が問われているのではないでしょうか。

授業がつまらなくて退屈して手遊びをしているギフテッドの子をにらみつける担任

*子供の名前は仮名です。

取材・文/関原美和子 撮影/藤田修平 イラスト/芝野公二

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