【対談・増田修治✕高山恵子】すべての子供が自分らしく成長できる教室のつくり方#6|みんなの教育技術

【対談・増田修治✕高山恵子】すべての子供が自分らしく成長できる教室のつくり方#6

白梅学園大学子ども学部子ども学科教授

増田修治

学級崩壊や子供の問題行動について研究されている増田修治先生と、ADHDをはじめとする発達障害のある人の支援と教育に尽力されている高山恵子先生に、今、子供たちに起こっている問題とその対策法などについてお話しいただきました。今回は、授業の在り方や学習レディネスについて言及されています。

増田修治先生,高山恵子先生
(左)増田修治先生
(右)高山恵子先生

増田修治(ますだしゅうじ)白梅学園大学子ども学部子ども学科教授。埼玉大学教育学部卒業。28年間小学校教諭として勤務。2008年より現職。教育開発プログラム修士。小学校教諭をめざす学生の指導と並行して、公立保育園や私立保育園との共同研究を行う。

高山恵子(たかやまけいこ) NPO法人えじそんくらぶ代表。臨床心理士。薬剤師。昭和大学薬学部卒業後、約10年間学習塾を経営。1997年アメリカトリニティー大学大学院教育学修士課程修了(幼児・児童教育、特殊教育専攻)。’98年同大学院ガイダンスカウンセリング修士課程修了。木村泰子先生との共著『「みんなの学校」から社会を変える』(小学館新書)など、著書多数 。

教師が教え込むのではなく、子供が発見から学んでいく授業に変えよう

高山先生 子供たちが熱心に取り組む課題づくりに困っている先生も多いと聞きます。

増田先生 僕は勉強したこと、学校で学んだことを、おうちに帰って説明してって言ってます。

高山先生 素晴らしい宿題ですね。

増田先生 本当に理解してないと、説明できません。1年生で面白かった授業が、「花を育てよう」という教材を使ったものです。子供たちは、いろんな種を選びます。僕は500円玉を選んだんです。すると、1年生の子供だって「先生バカじゃん」って言うんです。そう言いながら、朝、みんなそのプランターを見てから教室にくるんです。みんな1列に並んで、「芽、出てないよ」って32人の話を聞いてから、授業が始まるんです。

高山先生 増田先生の授業は楽しそうですね。

増田先生 結局1週間後、子供たちのプランターは芽が出てくるけど、僕のは芽が出ないじゃないですか。そこで、「何でかな?」と子供に問いかけるんです。僕は、勉強好きになるためには、子供に問いかけることだと思うんです。

子供から最初に返ってきた答えが、「先生が欲張りだから」でした(笑)。でも、そうやって話し合っているうちに、 ある子が「種に秘密があるんじゃない?」と言い、「じゃあ種を割ってみるよ」ということで、種を割って見せたのです。そうしたら、種の中に白い部分と芽を出すもとになる緑の部分があったのです。胚乳などの種子のしくみは5年生で習うのですが、教えておいてもいいかなと思ったので、やってみたのです。すると、子供は「種には芽を出す力があるんだけど、500円はそれがないから芽が出ないんだよ」と、僕が説得されました。

このように、一方的に教師が知識を注入するんじゃなくて、子供たちが発見する中で、いろんなことを学んでいくという授業に変えていくべきだと思います。

高山先生 「子供たちが発見する」、それがあったら、ワクワクして学校は楽しいはずなんです。ドーパミンが出ますから。「ティーチャブル・モーメント(Teachable moment)」っていう言葉、アメリカの教育概論で学んだときにいいなと思ったんです。「教えどき」ですね。先生の今のエピソードは、まさにティーチャブル・モーメントですね。先生が問いかけたときとか、子供が質問したときが教えどきだと思います。

先生は、教科書にない内容を教えたわけじゃないですか。でも、興味をもっているそのときに教えることで、「学びって楽しい」と教えることになります。計算するとか、漢字を覚えるだけじゃなくて、「新しいことを知るのが楽しい」というふうに、一人一人の子が、それぞれのレベルで感じてくれると嬉しいですよね。

増田先生 そのような授業では、障害をもってる子も一生懸命考えるわけです。インクルーシブ教育っていうのは、もともとはその子のために特別な支援をするというだけじゃなく、そういう子供も興味をもてるような、子供の学力が高まっていくような授業をしていくべきだ、ということだと思っています。

高山先生 それが今でいうUDL(Universal Design for Learning=ユニバーサル・デザイン)ですね。一人の子によいものはみんなに使えて、その中から選べるということで、まさにその通りだと思います。

私はアメリカの大学院に行く前、塾を10年間経営してたんです。英語を教えていたときに、教材としてピラミッドを見せて説明していました。そのとき小学生が、「分度器もないのに、どうして90度にできたの?」と質問しました。英語の時間で、相手は小学生だったけど、中3で習うピタゴラスの定理を教えたんです。そして、「先生が説明したように、おうちの方に自慢してごらん」って言ったんです。みんな「僕やる!」って言って、全員やってきたんです。宿題として、出していないですけど。そして、「算数って面白いって思った」と言ってくれました。

増田先生 教科の枠にとらわれず、子供たちが興味をもったことにちょっと入ってみる、ということですね。だから、教師って雑学が必要なんですよ。

高山先生 同感です。

増田先生 例えば、指かけ算って知ってますか? 江戸時代は九九の5段目まで覚えればよくて、6段目以上は指かけ算でやってたんです。こういうことを学級通信に書くと、保護者も学びに対して興味をもってくれるんです。

保育園・幼稚園から学習レディネスを取り入れることが大切

高山先生 そういう意味でも、先生がある程度余裕をもてるということが、すごく重要ですよね。ほんとにこれからは、人間しかできないことを教師がやっていくべきです。ICTでできるものは、ICTにやってもらう。宿題の丸つけなんかも、ICTでやったらどうですか? そういうところで差がついてきますよね。導入している学校と、してない学校と。

増田先生 問題は、いっぺんにアクセスすると、ダウンしてしまうんです。ネット環境は自治体によって違います。そういうのも問題だし、僕はタブレットを授業で使ってるところを見たりしてるんですけど、どっちが主流なのか、という問題もあります。タブレットを使うための授業もあって、4人グループが無言でネットでつながっていました。そんなの、単に4人で話し合えばいいじゃんという話ですよ。異様な光景でした。

高山先生 道具の使い方を教えるのはいいけど、その道具の使い方を教えるために授業を考えるのは、本末転倒ですね。まあ最初はいろんなことが起こると思いますけど、不登校の子の対応とか、タブレットを導入すれば解決しそうな感じですか?

増田先生 文科省は、家でタブレットで学習した場合は欠席にしませんと言っています。その意味では、不登校の処方箋の1つにはなり得るだろうと思います。ただ、不登校の子供たちの中に、学習面の認知の力が弱い子がいて、そういう子はタブレットだけでは解決しないんです。

高山先生 計算の前に、数の概念が入ってない子もいますよね。

増田先生 乳幼児教育の中で、よくお風呂の中で数を数えるのがあるじゃないですか。でも、あれは意味ないですよと言ってます。順序数だから。そうじゃなくて、基本はまず集合なんですよ。集合の概念がきちんと分かっていると、順序数の概念は分かっていくので、まず乳幼児教育の中で集合の概念をきちんと教えていく。それも、遊びの中で教えていくのが大事です。

高山先生 それができてないから、小学1年生で計算が入ってきても分からないということが起こってしまうので、最初のところがかなり大切だと思います。例えば、4年生で学力がついていないとき、3年生の内容に戻って勉強させますけど、それも意味がなくて、数の概念からやっていかないと。

それをきちんと教えると、ヘレン・ケラーじゃないけど、「ウォーター」というのが「水という言葉」だと理解するということが、一気に起こると思うんです。それができるのは低学年で、2年生で数の概念が分からないときは、戻りやすいと思います。低学年で本当の基礎のところをやるのが大切です。

増田先生 保育園・幼稚園からのちょっとした工夫で、小学校での学びの基礎概念というのは身に付いていくわけです。

高山先生 「学習レディネス」ですね。残念ながら、それが大切というのが、特に保育園の先生がご存じない気がします。巡回支援をしていても、幼稚園では教室に文字があふれているんです。でも、保育園って、全然文字がないところとかあるんです。「なんで文字を入れないんですか?」と聞くと、「学校じゃないから」って言うんです。

そこで、学習レディネスの話をしました。文字を書く練習をしなくても、動物に名前をつけて、カードに名前が書いてあったら、毎日それを見て、その字を自然に覚えるんです。持ち物もシールで区別していましたが、シールの下にその子の名前を書いてあげれば、シール+文字を毎日見るんです。それが大切ですと言ったら、翌日から変わりました。レディネスという視点で、小学校の先生に保育園や幼稚園に行ってもらったらいいと思うんです。

増田先生 そうですね。ただ、小学校の先生が、乳幼児教育におけるレディネスの考えを分かってないんです。小学校ではこんなことやりますよ、こんな力が必要ですよというアナウンスはあるんですね。ただ、保育園・幼稚園のレベルで考えると、具体的にどういうことが小学校の学びにつながっていくか、ということが分からないんです。一つずつ四角形が積みあがっている棒グラフを見るとかも、そういう練習にもなるんです。そういうことがレディネスなんです。

高山先生 「階段を登るときに1、2、3と言って上るだけでも、算数のレディネスですよ」と言ったら、「意外と簡単ですね」とおっしゃいました。研修も大切だと思いました。

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構成/平田信也 撮影/横田紋子

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