特別支援教育における個に応じた背景分析と支援の実際
特別支援教育を進めていくためには、「個別の指導計画」と「個別の教育支援計画」の策定が必要です。
執筆/福岡県公立小学校教諭・中村雅司
目次
個別の指導計画と個別の教育支援計画の役割
- 一人一人の障がいの状態に応じたきめ細やかな指導が行える。
- 目標や指導内容、幼児児童生徒の様子等 について、関係者が情報を共有化できる。
- 園や校内の職員の共通理解や体制づくりに役立つ。
- 個別的な指導だけでなく、集団の中での個別的な配慮や支援についても検討できる。
- 幼児や児童生徒のめざす姿が明確になる。
- 指導を定期的に評価することにより、より適切な指導の改善につながる。
- 引き継ぎの資料となり、一貫性のある指導ができる。
『「個別の指導計画」・「個別の教育支援計画」ガイドブック』 (福岡市教育委員会より)
「個別の指導計画」
指導を行うためのきめ細かい計画です。児童の教育的ニーズに対応して、指導目標や指導内容や方法を盛り込んだものです。例えば、単元や学期、学年等ごとに作成され、それに基づいた指導を行います。
「個別の教育支援計画」
他機関との連携を図るための長期的な視点に立った計画です。一人一人の障がいのある子供について、乳幼児期から学校卒業までの一貫した長期的な計画を学校が中心となって作成します。作成にあたっては、関係機関との連携が必要です。また、保護者の参画や意見等を聞くことが求められます。
それぞれの計画は、校内支援会議で定期的に振り返り(評価)を行い、改善していきます。
困難の背景と支援の実際
困難の背景を分析
- 視覚的な情報に合わせて体を動かすことが苦手なのではないか。
- 空間関係の把握が難しいのではないか。
各種のチェックシートを活用して、日常の学習や生活を観察しましょう。
支援の実際
- 色使いや大きさを工夫することで、注目する場所以外の刺激を減らす。
- 矢印や番号をつけて示すことで、注目させたいところを絞る。
その他の視覚的支援
- ノートと同じ構成の板書
- 具体的な言語化
- 色分け
- シートの活用
聴覚の情報処理が困難な子供への支援
困難の背景を分析
- 気が散りやすく、必要なときに必要なものに注意が向けられていないのではないか。
- 聞いたことを覚えておくことが苦手なのではないか。
- 何をしなければいけないか忘れてしまいがちなのではないか。
各種のチェックシートを活用して、日常の学習や生活を観察しましょう。
支援の実際
- 個別に声をかけることで、注意を向けやすくすることもできます。
- 近づいて目を見て話すことで聞き取りやすくすることもできます。
- 指示カードを手渡すことで合図を送ります。
その他の視覚的支援
- ゆっくりはっきり話す
- 視覚的な支援
- 動作化
- 後から確認できる掲示物
合理的配慮
合理的配慮とは、「当該障がい者の性別、年齢、及び障がいの状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮」(障害者差別解消法第7条第2項)と示されています。
学校、教育委員会、自治体でインクルーシブ教育システムの構築をめざし、特別支援教育の充実に努めています。子供一人一人の実態に合わせて支援していくことを基本とし、教育的ニーズと支援のバランスをとる必要があります。
学校と家庭、教師と保護者と子供だけでなく、特別支援教育にかかわる施設や機関、医療機関などとも連携していきます。
Q&A
Q1 急に勉強に意欲を示さなくなってしまい、授業中なのに、眠ってしまうことが目立つようになってきました。どうしたらよいでしょうか?
A.原因を明らかにしないと手立てが打てません。家庭環境の変化や発達の特性から手立てを考えていきますが、まずは子供と話し合ってみましょう。
Q2 勉強についていけず、友達とのトラブルが増え、理由のない欠席も増えています。保護者もこの状態を心配しています。いろいろと手立てを打っても効果が見えません。こんなときはどうしたらよいのでしょうか?
A.状況から判断すると、原因は発達の二次障害の可能性が考えられます。校内の特別支援コーディネーターや管理職に相談してみてください。
Q3 子供の特性に応じて、有効な手立てを工夫してきました。これらを次の担任に伝えるにはどのような方法がよいでしょうか?
A.「個別の指導計画」と「個別の教育支援計画」をもとに、年度末に校内支援会議で確認する場が必要です。支援が必要な子供たち全員が対象になります。会議の設定がないのであれば、管理職に相談しましょう。
年度末には、保護者との面談や引き継ぎの話合いが重要になってきます。
イラスト/北澤良枝
『教育技術 小五小六』2021年3月号より