皆さんこんにちは!レディ魚― 漁村訪問担当のふなっしーこと船橋河輝です!
愛知県名古屋市出身の北海道大学水産学部海洋生物科学科2年生で、レディ魚ーでは大学にいるだけでは知ることができない実際の水産現場を訪れ、自らの体を動かして漁を体験して漁師さんの本音を伺い水産の「今とこれから」を考えることで、さらに大学での学びを深める漁村訪問を目指しています!
今回も記事を書かせていただくふなっしーです!よろしくお願いします!
今回レディ魚―メンバー3人(きのこ、さく、ふなっしー)で6月末の2日間、八雲町落部(おとしべ)の漁師 舘岡勇樹さんのもとを訪問させていただきました。舘岡さんは北海道の水産業における6次産業化(生産者自ら加工・流通販売までを行うこと)の第一人者といえる凄い方です!私自身は昨年に一度訪問させていただいたことがあるのですが、衰退していく水産業を活性化していこうという熱い想いや、画期的な取り組みの数々に胸を打たれ、今回再び舘岡さんのもとを訪れ、お話を伺えることを楽しみにしていました!
今回の訪問ではアイナメ釣りや丘作業の体験、活気あふれる競りの見学などをさせていただきましたので、ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです!
舘岡さんオリジナルTシャツを着てレディ魚ーポーズでパシャリ!(左からふなっしー、舘岡さん、さく、きのこ)
八雲町ってこんな町‼
『基本情報』
所在:渡島総合振興局
人口:14,607人(令和6年5月末現在)
特産品:ボタンエビ、毛蟹、ホタテ、二海サーモン、八雲牛
観光名所:噴火湾パノラマパーク、八雲町木彫り熊資料館
噴火湾から眺める八雲町落部付近
八雲町は道南・渡島半島の北部に位置し、日本で唯一日本海と太平洋の2つの海に面する町です。太平洋側の噴火湾は最大水深が100m程と浅く、波風が穏やかで豊かな漁場が広がっています。今回訪問させていただいた落部は太平洋側にあり、ボタンエビや毛蟹といった噴火湾の豊かな海の幸に恵まれている漁村です。
また八雲町は、北海道土産の定番として有名な、木彫りの熊の発祥の地としても知られています。
落部で水揚げされた毛蟹。活きがよくとてもおいしそうでした。(食べたかった...)
今回の漁村訪問で学びたいこと!
今回の漁村訪問では、10年目を迎える舘岡さんの6次産業化の取り組みについて学びたいです!
舘岡さんは魚が安くなり続けていくことに危機感を持ち、奥様の志保さんの支えを受けながら、噴火湾鮮魚卸龍神丸を立ち上げられたのですが、今年はそれからちょうど10年の節目の年になります。東京で営業職をされていた志保さんの尽力もあり、ECサイトなどを通じて一般消費者や飲食店に対して独自の販路を開拓し、こだわって仕立て加工した噴火湾産の鮮魚の良さを伝え、さらには水産業を活性化するために6次産業化の普及にも今まで取り組んでこられました。
その取り組みの実際の様子や込められた想い、そして10年間もの活動の中で見えてきたことについて実際にお話を伺い、体験することを通し学びたいです!
龍神丸Tシャツを着る舘岡さんと落部の海
初日 漁師が競り落とす⁈活気あふれるカニの競りを見学‼
それでは今回の訪問の様子を紹介させていただきます。
初日の朝、舘岡さんがECサイトで注文のあったオオズワイガニの仕入れをするとのことで、落部地方卸売市場に同行し競りを見学させていただきました。
皆さん、ちょっと違和感を覚えませんか?市場に並ぶ魚を獲ってくるのが漁師の仕事で、市場で競り落として流通に乗せるのは仲買人の仕事ですよね..。そうなんです!舘岡さんは漁師でありながら仲買人でもあるのです!
もともと舘岡さんは仲買人ではありませんでした。しかし舘岡さんによると
「仲買人として競りに参加するようになるまで、落部では仲買人が減り続け入札において競争が起こりにくい環境となってしまい、どんどん魚の値段が下がっていってしまっていた。これでは漁師はいつかやっていけなくなるし、もっといい魚を届けたいと努力するモチベーションもなくなる。だから自分が仲買人になって良いものは高く買い、市場に競争をとりもどそうとしている」
と、漁師という枠にとらわれずに競りに参加されています。漁師と仲買人を兼ねることで沖に出ずに仕入れるという選択もでき、注文や海の状況をみて臨機応変に対応できるというメリットもあるそうです。
競りにかけられたオオズワイガニ。元気に動きまくっています!
お待たせしました、、それでは実際の競りの様子をご紹介します!
競り場に入るとそこにはずらっとカレイやサクラマス、ツブといった水揚げされたばかりの魚介類が並んでて圧巻でしたが、中でも目を引いたのはやはりカニでした!オオズワイガニと毛蟹が水揚げされていましたが、今回舘岡さんが仕入れるのは今問題になっているオオズワイガニです。舘岡さんは並べられたオオズワイを一つ一つ手に取り、殻の硬さや身の入りを確かめて品定めをしていらっしゃいました。
オオズワイガニを手に取り殻の硬さを確かめる舘岡さん。できるだけ硬いものを選ぶのだそうです。
競りの開始が近づくと仲買人さん方同士で談笑して市場が活気づいてくるのですが、この時からすでに探り合いが始まっているようです。落部地方卸売市場での競りの方式は一度しか入札できない一発競りであるため、このような事前の探り合いが大事なのだそうです。舘岡さんは競りが始まると、入札したオオズワイを次々とほとんどすべて競り落としていきます。
なぜそんなにも競り落とせるのか?
それは舘岡さんがほかの仲買人の約10倍の値で入札されているからだそうです。それほどの高値を出さなくても競り落とすことができるのですが、これこそがまさに舘岡さんが仲買人として参入して成し遂げたかったこ との一つでもあります。
「二束三文で買いたたかれたら漁師はいつかオオズワイを市場に持ってきてくれさえしなくなる。そうなってしまって困るのは仲買人のはずだけど、周りからは変わり者としか見られていないのが現状。それでも漁師仲間から高く買ったことを感謝されるとやりがいを感じる」
と、なかなか改善されていかない現実と、確かな成果があることを知りました。
かなり多くのオオズワイガニを競り落とした舘岡さんですが、なんでもかんでも入札しているわけではなく、事前に確認した殻が堅く良いカニを競り落としています。舘岡さんは仕入れるだけで終わるのではなく、市場に出された魚を見て、漁師としてほかの漁師仲間に、魚の冷却・保存方法や選別についてアドバイスをするように心がけているといいます。
いいものには相応の値段をつけることで、漁師はより状態のいいものを卸そうと、仲買人は魚により高い値段をつけようとなる好循環を作ろうとされているのですが、まだまだ浸透していないそうです。
競りの様子を見学する2人(きのこ、さく)。オオズワイのあとに行われた毛蟹の競りは緊迫感があり見ごたえがありました!
全国の消費者に直送でピンチを乗り越える!
競りが終わると競り落とした大量のオオズワイガニをすぐにトラックの荷台に積み込み、作業場へ直行して発送の準備に取り掛かります。殻が堅い選りすぐりのオオズワイガニのみ箱詰めして、道内はもとよりECサイトから注文があった全国の消費者の元に直送されていきました!殻が柔らかいオオズワイガニはむき身にして販売されるそうです。
噴火湾ではオオズワイガニが近年急激に増加してしまい、網を破壊するうえに商品価値が低く、カレイやボタンエビなど従来の対象魚種が獲れなくなってしまうなど、漁師さんからは厄介者扱いされていることはご存じの方も多いと思います。実際のところ、そんな厄介者オオズワイガニに漁で苦しめられていた舘岡さんですが、ECサイトを通じて消費者に鮮度抜群な状態で直送することで、うまくこの危機を乗り越えていらっしゃいます。
昨年は全国から注文が殺到し、発送作業に明け暮れる日々でほとんど沖に出ることができないほどだったといいます。市場に出荷して終わりの従来のスタイルとは異なり、消費者の方と直接やり取りするECサイトでの販売について舘岡さんは、
「最初は慣れないことで大変だったけど、今はお客さんの感想がダイレクトにわかって楽しいし、おいしかったといってもらえるとやりがいを感じる」
と笑みを浮かべていらっしゃいました。
トラックの荷台いっぱいに積まれたオオズワイガニ。これでもすくないほうなのだそうです。
発泡スチロールに一杯ずつ丁寧に詰めて、全国へと発送されていきます。
地道な丘作業を体験‼
舘岡さんがオオズワイガニの発送準備をされている間、ホタテの耳吊りに使われたロープから、ホタテを吊っていたピンク色のひもを切って抜き取る作業をさせていただきました。
舘岡さんのお母さんからコツを教えていただきながら、再利用するロープを傷つけないように丁寧にひもを除去していくのですが、一向に減る気配を見せないロープの山を横目に、気が遠くなるように感じる地道な作業でした。
舘岡さんのお母さんによるとこの耳吊りに関する作業は1年のうち半年以上は行っているそうで、漁師さんの仕事の多くが沖でなく丘で行われる、どちらかと言えば地味な作業であるけれど、欠かすことのできない重要なものであると痛感させられました。
舘岡さんのお母さんにコツを教えていただいている様子。ロープを傷つけないよう神経を使います
ロープの山に囲まれながら昼食を楽しみに必死に作業するメンバー
最終日 念願のアイナメ釣りに‼
最終日は好天に恵まれべた凪の中、今回の訪問で一番楽しみにしていたアイナメ釣りに連れて行っていただきました!アイナメは通称アブラコと呼ばれる高級魚で、その身は白身で強い甘さが特徴です。この日に備え、必要な釣り道具を一式そろえてきた私は気合十分です!(舘岡さんからは私が落部に到着したとき、あまりに釣り人な装備を見て「漁村訪問というより釣りに来ただろ!」と笑われてしまいました..。)
港から船を走らせ沖に少し行ったところに設置されている、ホタテ養殖用の「桁(ケタ)」という構造物付近に居つくアイナメを狙って釣りを行います。今回使用した仕掛けは「テキサスリグ」と呼ばれ、おもりとビーズと針、そしてエビの形をした疑似餌のみで構成される簡単なもので、海底付近を探りながら釣っていきます!
これが仕掛け(テキサスリグ)の全容です!食欲旺盛なアイナメは貪欲に食いついてきます!
船の上でバランスを取りながらアイナメを狙っています!
釣りを開始すると早々にガツンと強いあたりがあり、巻き上げると念願のアイナメがあがってきてくれました!根魚特有の強い引きがたまらなかったです!釣りがほとんど初めてのさく君も、見事アイナメを釣り上げ大満足でした!ちなみに舘岡さんは私たちの倍以上コンスタントに釣り上げていらっしゃり、さすがの腕前でした。釣ったアイナメは魚籠(びく)に入れて、活魚として出荷できるように海中で活かしておきます。
念願のアイナメを釣り上げ満面の笑みをうかべる筆者
立派なアイナメを釣り上げたさく君
4時間ほど釣りをして、小さいアイナメは逃がしましたがそれでも大漁で帰港。今回は高水温で魚が弱ってしまったので活魚として処理しての出荷はできませんでしたが、通常は東京の得意先に血抜きや神経締めを施して直送されているそうです。
釣り物のアイナメは高値で取引され、アイナメ釣り自体は効率が良く楽しくもあるのですが、舘岡さん曰く、「ほかの漁師からは遊びとしか思われていないんだよ。周りがせっせと網を入れて頑張っているときに一体何をやっているんだって..。魚が安くなってきている今こそ柔軟にやっていくべきなんだけど、全然昔と変わらないままだな」と、画期的な取り組みをしながらも、孤軍奮闘している現状も垣間見れました。
大漁のアイナメ!たくさん分けていただき家に帰って調理してみたのですが、その強い甘味と旨味に驚かされました!
舘岡さんから学んだこと
今回6次産業化に取り組まれてちょうど10年目という節目の年に訪問させていただきましたが、舘岡さん個人としては成功体験を積み重ねつつも、地域全体には浸透していかない現状が見えました。ECサイトや懸命な営業を通して数多くの顧客を獲得し、6次産業化の成功モデルを創り、道内各地の漁師さんの6次産業化をサポートされてきたという確かな成果があります。しかしそれとは裏腹に舘岡さんは、「これまで10年頑張り続けて結果も出してきたけれど、廃業せざるを得ない漁師がいたり、大きな仲買が撤退したりと状況は悪くなるばかり。漁師の意識も一向に変わらない。結局ただの自己満足だったのか」と、やりきれない思いを抱えていらっしゃいました。漁村全体として持続可能な方向に舵を切ることの難しさを知り、私たちもその実現に何が必要か考えていきたいと感じました。
今回の漁村訪問を振り返って
今回の訪問では、舘岡さんの6次産業化や地域活性化の取り組みについて、実際の体験と見学を通して学ぶことができました。一緒に行ったメンバーからは、「漁師と仲買人の両方の視点を持ち、双方の苦悩と不満が分かる舘岡さんだからできていることがあり、互いにそれらを共有して尊重・協力しあえる関係ができたらいいと思う」であったり、「舘岡さん夫妻の取り組みは誰にでもできるものではなく、今は周囲から理解されづらい状況かもしれないが、遠くにいる消費者や活動に賛同する漁師からは確実に支援されている。そういった外からの声が漁村を変えていくと思う。自分自身も地域活性化にも関わっていきたい」といった声が聞かれました。これから私たちは水産学部での学びや研究を通してだけでなく、水産業に関わる方々のことをよく知り、協力していくことで水産により貢献できるようにしていきたいと思います。
舘岡さんには2日間大変お世話になりました。これからも頑張ってまいりますのでよろしくお願いいたします。
それでは次回の漁村訪問もお楽しみに!
- 移動式鮮魚店レディ魚ー×くらしごと
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