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海の森を守れ!寿都町独自のサステナブルな堆肥づくり20240807

海の森を守れ!寿都町独自のサステナブルな堆肥づくり

日本海に面した寿都町(すっつちょう)は、水産業がメインのまち。豊かな海を持続的に利用するための取り組みをいち早く行い、水産庁の「海業」モデル地区にも指定されています。昔からまちぐるみで海岸の清掃活動を続けているほか、20年前からは「海の森」といわれる藻場(もば)の再生事業を行ってきました。貧栄養化している海の養分を補うため、たい肥をつくる寿都町独自の施設があり、原料の選定から製造方法の開発、海に投入した後の効果の検証などを研究しています。

今回は、寿都町のたい肥製造施設で働く、移住歴12年の田名辺薫(たなべ・かおる)さんと、寿都町役場産業振興課水産係の山崎賢流(やまざき・たける)さんのお二人に、施肥事業を中心に海の藻場を守るまちの取り組みについてお聞きしました。海水温の上昇などにより全国的に磯焼けが進み、漁獲高の減少が進むなか、磯焼けをなんとか食い止めたい、寿都の海を守りたいとまちぐるみでの奮闘がうかがえるレポートです。

suttu_umizukuri00027.jpg今回お話をうかがった山崎賢流さん(左)と、田名辺薫さん(右)

イベントで海の栄養「施肥玉」をみんなで投入!

日本海に面した寿都湾を囲むような形をした寿都町は、江戸時代から続く漁業と、水産加工業が盛んなまちです。春はサクラマス、小女子(こうなご)、寿都ブランドの「寿かき」、夏はウニ、秋はサケにホッケ、冬はアンコウにタラとバラエティに富んだ魚介が取れるのが特徴。イカナゴの稚魚である小女子は、特産物の「生炊しらす佃煮」として、寿都ブランドの「寿かき」は春でも食べられる旬の味として、脂がのったホッケはおなじみの開きや、昔からの保存食「いずし」として愛されています。

寿都町では、このように豊かな魚介を育み与えてくれる、前浜の海を守る取り組みを早くから行ってきました。例年、春には「全町民海岸クリーン大作戦」と呼ばれる、約5kmの海岸でゴミを拾う清掃活動が行われています。多くの町民が参加し、帰りにはカキやホタテの引換券がお土産にもらえます。

suttu_umidukuri71.jpg町には清掃活動が根付いています

そして今年は、海岸クリーン大作戦に、「施肥玉(せひだま)」を海に投げるイベントが新たに加わりました。土を丸めて固めたようなボールには、魚介類にとって大切な藻場(もば)をつくるための栄養分がギュッと詰まっています。子どもたちから大人まで、「おいしい魚が獲れますように!」と、施肥玉を次々に投げ入れる姿が見られました。

suttu_umidukuri72.JPGみなんで、願いを込めて投入!

ゴミだった自然資源を利用、循環型のたい肥づくり

寿都町では、全国的に問題となっている磯焼けを少しでも食い止めて、魚介類に必要な海藻をふやすために、海に栄養分を補う施肥事業を20年近く前から行ってきました。2011年度には寿都町漁協が主体となって、海にまくたい肥ブロックの製造施設をオープン。試行錯誤を重ねながら、海藻に届く栄養としてのたい肥をつくり上げてきました。

suttu_umizukuri00064.jpg寿都の美しい青い海

まちの中心部から車で5分ほど、寿都湾の西側にあるたい肥製施設の前には、木のチップのみ、チップと汚泥を混ぜたもの、チップと汚泥と魚など混ぜたものと、3つの山がありました。施設内でほとんどニオイは感じませんが、「原料を持ち込んだときなど、発酵前ではかなりニオイがします」とのこと。一次発酵として、土場で魚や木のチップを重機で掻き混ぜながら分解した後、このように積んで二次発酵させているそうです。

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現在、たい肥ブロックに使っている主な材料は、サケ・マスなど魚介類の残さ(廃棄物)やフィッシュ・ソリブルと呼ばれる濃縮液、間伐材などを利用した木のチップ、下水の汚泥と、すべてはゴミとして廃棄されてきたものです。また、鉄を製造する際に出る鉄鋼スラグを、必要な養分として日本製鉄から購入し混ぜています。

製造を担当する田名辺さんが説明してくれました。「イクラを取った後のアキアジ(サケ)や、種苗施設に上がってきたほっちゃれっていうんだけど、弱ったサケとかを持ってきて混ぜています。たい肥になるだけでなく、魚のたんぱく質は有機発酵をさせるためのエネルギー源にもなるんですよ。木のチップも良質なたい肥になるけれど分解するのが遅いからね。下水汚泥は、たい肥として必要なアンモニアや尿素が入っているので、7年前から入れるようになりました」

suttu_umizukuri00040.jpg発酵の様子を確認

それまでは、業者さんにお金を払って町の下水道から出る汚泥の処理をしてもらっていたそうで、産業振興課の若手職員、山崎さんも「まさに良い循環ができていますよね」と話します。生まれも育ちも寿都っ子の山崎さん、実は小学生のときに体験授業や見学でこの施設に数回来ていたのだとか。「そのときの講師が、田名辺さんだったと思います」という言葉に「えっ、そうなの?」と驚く田名辺さん。

この施設にはもう一人、瀧山さんという元産業振興課長だったスタッフが働いています。田名辺さんは次のように紹介してくれました。「4年前に役場を定年退職した方なんです。この場所は、昔は稚魚を育てる種苗施設でね、瀧山さんは長年、種苗や海のことに取り組んできた『大先生』なんですよ。施肥事業の取り組みも瀧山さんのアイデアで始まったしね。この施設ができるときに、私は誘われてこちらに来たんだけれど、瀧山さんから話を聞いて『これはすごいプロジェクトだ、人間の手で磯焼けから海を守ることができるんだ!』と思って寿都行きを決めました」

容赦ない海水温の上昇、それでも磯焼けから守るためにできることを

寿都町に移住した田名辺さんは、瀧山さんとともに材料の選定や施肥方法で試行錯誤を重ねます。「毎日が実験でしたね。いろいろな材料を使って、海に入れては試してみて。昔はたい肥ブロックの成形加工も手作業で大変だったけれど、20トンの力で圧縮するプレス機を購入してからは大量生産できるようになりました」

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あらためて、完成に近いという発酵中の山を見せてもらいます。表面を少し削って測った内部の温度は約60度。手を入れさせてもらったところ、感触はフカフカで砂蒸し風呂のような温かさでした。下のほうの中心部は80度にもなっているそうで、自然の材料だけでこれだけの熱を出して発酵していることに驚きます。1週間に1度、重機で撹拌(かくはん)を行い、たい肥が完成すると、プレス機で人が持ちやすい円柱状のブロックに成型します。この重さと形も、漁師さんが船から海へ投げ込みやすいように改良していったものだとか。

suttu_umizukuri00031.jpg試行錯誤の末完成したたい肥ブロック。ずっしりと重みを感じます

ちなみに、全町民海岸クリーン大作戦のイベントで参加者の人たちが投げた「施肥玉」は、どうやってつくったのか聞いてみると
「浮き玉を半分に切って型にして、たい肥を詰めたものを2つ合わせて、おにぎりみたいに固めたのさ」ということでした、なるほど!

この堆肥分解性ブロックを海に投げ込む作業は、町内にある5つの港をメインに、春と秋に行われています。実際の効果はどうなのでしょうか?田名辺さんが答えます。「目に見える効果はありました。それでも、この12年間で海水温はどんどん上がって、全国的に海が貧栄養になっているからね。たい肥の効果も追いついていないようで、いまは厳しいところ。仕方ないことではあるけれど、それでも寿都の、この近海だけでも守ろうと、海藻の森にかえていこうというスタンスでやっています」

それに加えて、産業振興課の山崎さんが説明します。「寿都では、ほかにも海藻をふやす取り組みを行っています。例えば、コンブの種苗、つまり赤ちゃんですね、それをロープに挟んで、蓄養施設で成長させてから、そのロープを潜水士さんと一緒に海中に結びつけて成長させ『コンブの林』をつくっていくんです」

suttu_umizukuri00046.jpg子どもでも投げ入れられるように、つくったおにぎりのような施肥玉がこちら!

海を磯焼けから守るために、できることをする。その取り組みは数十年、脈々と続いています。

ちなみに、好きな魚についてお伺いすると、お二人とも「ホッケ!」とのこと。ただし、田名辺さんは煮付け派、山崎さんは開き派。「今年はイワシの大群が来たでしょう、それを食べているから脂のりがすごいんですよ」と山崎さん。「そういえば、海にニシンも増えてきたよね」と、ひとしきり話が盛り上がりました。

海岸クリーン作戦は1日だけじゃない、まちぐるみでゴミ拾い

水産業が大半を占める寿都町の人たちにとって、海を大切にする思いは共通していること。まちで行う海岸の清掃活動は、「全町民海岸クリーン作戦」の日だけではありません。雪が降る冬以外、四季を通じて町内会、職場の組合、保育園と、さまざまなグループでの海岸清掃活動が生活に根付いています。山崎さんも、つい先週に水産課でゴミ拾いをしてきたのだそう。田名辺さんは、この2週間、毎日ゴミ拾いをやっているそうで、「3人でやっているけれど、出るゴミは1日に300kgぐらいかな」

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えっ、1人あたり100kg・・・ですか?

「そう、寿都は風が強くて湾になっているから、大量のゴミが流れ着いてくるんだよね。ゴミを拾った次の日には、もう浜辺がゴミだらけになっていることもある」と田名辺さん。清掃活動をしながら、強く感じていることがあるそうです。「やっぱりね、プラスチックのゴミは本当にやばいと思うんですよ。目に見えないような細かいマイクロチップになってプランクトンや魚が取り込む、それを食物連鎖で我々も食べているからね」と危機感を持って語る田名辺さん。誰もが、決して他人事ではないことを思い知らされます。

日本中を、世界を見て回ったことも。寿都町の自然と人に惚れ込む

取材に伺った日は珍しく凪(なぎ)でした。加工所の前には濃いブルーの海が広がり、遠くには雪を被った山々が眺められます。「こんな景色を見たら、生きていて丸もうけだよね」とつぶやく田名辺さんに、山崎さんも深くうなずきます。

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山登りやスキーが好きで、世界を放浪したこともあったという田名辺さん。寿都にたどり着いた、これまでのいきさつをお聞きしてみました。

田名辺 薫さんは旧幌別町、いまの登別市生まれ。父親の転勤で愛知県に移り、小学校から大学時代を過ごして就職しますが、やがて国内各地を、そして世界を旅するようになりました。これまでに行った国を聞いてみると、「ユーラシア大陸をグルッと回って、中近東も行ったし、アフリカ大陸以外は行ったかな...、えっ、こういうことまで記事に書かれちゃうの?」(書かせていただきました!)。世界を回ってみて、生まれ故郷である北海道の良さを再認識し、道内の造園会社で働きはじめたそうです。

「そこでは、間伐材を発酵させたチップをたい肥として売っていたんだけど、当時のお客さんは植林をする漁業者が多かったんだよね。里山の川から流れる木の落ち葉によって、自然分解した養分が海に行くでしょう?だから、海を育てるための植林として、われわれも広葉樹を植えたり、漁師さんも一緒になって作業をしたりしてね。寿都町にもチップを1年間、毎日運びに行っていたんだけど、あるときに『うちも自前で木のチップを作りたいから来てくれないか』と依頼があって。その後、このたい肥製造施設ができて、チップ製造機も購入してもらって、ここで働くことになりました」

suttu_umizukuri00001.jpg世界を旅した結果、北海道に住むことを決めたそう

寿都町に移住して12年。いまではすっかりこの土地に根付いています。「寿都の人たちはやさしいんだよね。漁師町だから、みんな友だちみたいな感じでしゃべってくる」との言葉に、うれしそうにうなずく産業振興課の山崎さんです。

生まれも育ちも寿都町、自分を育ててくれたまちに恩返しを

穏やかな語り口で私たちを案内してくれた山崎さんにも、これまでのことを伺ってみましょう。「町役場に入って2年目、今年20歳になります」という言葉に、取材班一同「えーっ!」と驚きの声が。「もう孫に近いよね」と、隣で田名辺さんが温かな笑みを見せます。

水産業からまちのことまで、私たちに分かりやすく解説をしてくれる山崎賢流さん。役場職員として、そして地元で生まれ育った若者としての、寿都町の魅力について語ってくれました。

suttu_umizukuri00052.jpg生まれ育った寿都町が大好き、と話してくれた山崎さん

「寿都では、保育園ではサケの稚魚の放流、小学校ではウニやホタテ、ホッケなど、水産に関しての授業を各学年でやっています。私も、小学校5年生のときにサケの人工授精を行い、学校にある大きな水槽で1年間お世話をして、放流させるという一連の流れを体験しました。とても記憶に残っていますし、寿都町ならではの授業だと思いますね」

高校卒業後は、札幌方面に就職する同級生が多いなか、山崎さんは地元に残ることを希望しました。「寿都は田舎ですけれど、この自然、田舎であることが自分は良いと思うんです。育ててもらったこのまちに恩返しをしたい、貢献したいという思いで、公務員試験を目指して勉強をしました」

希望がかなって、寿都町役場に就職した山崎さん。まだ2年目ということで、苦労があるのではと尋ねると「いろんなことを経験させてもらえるので、楽しくやらせてもらっています。この施肥事業をはじめ、たくさんの課題に取り組んでいけるのもやりがいですね」と話してくれました。休日の趣味はゲームで「スプラトゥーンが好きで、キャラクターがイカなんです」と、これも水産物つながり。

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高校時代にコンビニで働いていたという山崎さんは、イベントでの接客も好きで、海鮮屋台が大人気の「寿都湾・春の海フェスタ&軽トラ市」では自ら屋台に立っているそうです。「寿都産のものを対面で売る貴重な機会ですし、もっといっぱい観光客に来てほしいと思うんですよ。温泉や無料キャンプ場もありますしね」と、寿都の魅力アピールにも意欲的です。

「先日に行った、海に施肥玉を投げるイベントは初めての試みですが、若い人たちや子どもたちにも、海藻をふやす意義を知ってほしいと思い企画しました。水産業のまちとして、やれることはやっていきたい、そう思っています」

まちぐるみで豊かな海のために動き、また奮闘する人たちがいる。そう感じながら、帰りに地元の鮮魚店に立ち寄ると、「今日は小女子が揚がったんですよ!残念ながら売り切れてしまったんですけどね」と、奥さんの明るい声を聞きました。まちの人たちも楽しみにしている旬の味わい。寿都の海の恵みが、ずっと続いていきますように。

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寿都町堆肥製造施設
寿都町堆肥製造施設
住所

北海道寿都郡寿都町字矢追町347-1

電話

0136-62-2511(寿都町役場)

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海の森を守れ!寿都町独自のサステナブルな堆肥づくり

この記事は2024年5月16日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。