いとなみ研究室 ライター編 「きいて、書くという冒険」 | くじらの髭

いとなみ研究室 ライター編 「きいて、書くという冒険」

申込受付終了

企画・文

こんにちは。ライターの中川晃輔です。

この度、東彼杵町で、書くこと・聴くことに関する学びの場をひらくことになりました。

全5回の座学や実践を通じて、インタビューライティングの世界をともに冒険する人を募集します。

どんな場をつくっていこうと考えているのか、自己紹介も兼ねて書いていきますので、関心のある方は続けて読んでみてください。


ぼくはもともと、いろいろな生き方・働き方を紹介する求人メディア「日本仕事百貨」のライターとして、東京を拠点に活動していました。

コロナ禍でフルリモートになったことをきっかけに、2021年10月に東彼杵町へ移住。今も日本仕事百貨の仕事をメインで続けながら、くじらの髭の記事を執筆したり、トークイベントの聴き手を務めたりと、東彼杵のみなさんとも一緒に仕事をしています。

ライターと一口に言っても、そのスタイルはさまざまです。映画評や書評など、何かの作品に触れ、感想や体験を言葉にするのが得意なライター。さまざまな地域におもむき、風景や食を、写真とともに情感豊かに伝える旅ライター。自分の身に起こったことを、ときに愉快に、ときに心の奥底へ潜るように、赤裸々に綴るライターなど。

そのなかでぼくは、インタビューライターとしての経験を積み重ねてきました。

書くことの手前にあるのが、知ることや感じること、理解することです。書き手としての個性は、文体や構成などのアウトプットにも表れますが、その端緒はインプットにあります。

テーマに迫るため、この世界をより知るために、どんな手法を、どのように選ぶか。その選択肢の一つとして、生身の人と言葉を交わすインタビューは、とても魅力的な手法だと思います。記事を書くための材料集めにとどまらず、ときにはその場に立ち会った人たちの価値観さえも変える力を持っているのです。

ひとつ、ぼく自身がインタビューを通じて得た体験について書かせてください。

群馬・北軽井沢に「スウィートグラス」というキャンプ場があります。この場所を30年ほど前に立ち上げたのが、有限会社きたもっく代表の福嶋誠さん。もともと牧草を育てる採草地だった草っ原に、人と自然の接点となる理想のフィールドを求め、木を一本ずつ植えるところからスタートしたそうです。

今では、スウィートグラスには年間10万人が訪れます。さらに、山から木を伐り出し、薪や建材にして、自分たちでツリーハウスやコテージを設計・施工。個性のある広葉樹や小径木は家具や建具に、製材過程で生じるおが粉はきのこの生育用に。移動型の養蜂を営むかたわら、耕作放棄地で育った梅をジャムやビールに加工して販売するなど、山の資源を活かしきる循環型の事業を展開しています。

はじめてインタビューした日、福嶋さんはこんなことを話してくれました。

―――
「もちろん社会も人をつくるけれど、ベースは自然が人をつくるんだなって。ここに生きてると思うんですよね」

〜中略〜

「なぜ年間9万人(※2017年当時)もの人がキャンプ場に来るんだろう?と考えていて。普段の疲れを癒しにくるとか、単純な娯楽には当てはまらないんです」

たしかに。食べ歩きして、温泉に入って、という観光とは別物のような気もする。

「なぜなのか、はっきりとはまだ分かっていません。でもね、ひとつ言えることがあって。人間ってすごく小さいんです」

小さい。

「それを卑下する必要はないけれど、人間の小ささを知っておくことは、豊かに生きるためにはとてもいいことで。ここだと浅間山がそれを教えてくれるんです」

このあたり一帯の大地は、数百年に一度の噴火によって何度も塗り替えられてきた。今も活動を続ける浅間山が噴火するのは、明日のことかもしれない。

「浅間山の強さに比べたら、人間の力なんて話にならない。だからこそ、力を合わせないといけないよね。ここは浅間山のおかげで、そういう感覚が強く素朴に生まれる。その素朴な感覚が、人を育てるんですよ」
―――
日本仕事百貨 『The future is in nature』より

このインタビューをきっかけに、自然に対するぼくの見方は少し変わりました。

自然が人のベースをつくること。安らぎをもたらし、生きる糧となる一方で、そこに息づく命や築いてきたものを、一瞬でさらう恐ろしさもはらんでいること。その両面をわかりながら、小さな存在であるという自覚を持ちながら、それでもともに自然と生きることが、人を豊かにするということ。

非日常の安らぎを求めて、自然豊かな環境へ足を運ぶのではなく、日々自然を感じられる環境で暮らしたい。福嶋さんのインタビューを経てたしかなものになった感覚が、のちに移住を決断する際にも背中を押してくれたように思います。

インタビューはときに、聴き手や記事の読み手の認識を変えるだけでなく、話し手の意識や価値観にも大きく影響します。

誰かや、何かへの感謝。今の仕事や暮らしに至る道のり。自分は何に根ざしているのか。じつは腑に落ちていないけれど、日々の忙しさに流されていることなど。

普段、なかなか言葉にしないことについて語るなかで、自分自身の新たな一側面が見えてくる。インタビューには、そんな効用もあるようです。

今回の企画は、そんなインタビューのおもしろさを味わうところからスタートします。会話と取材とインタビューの違いは何か。よいインタビューとはどういうものか。インタビューがうまくいかないのはなぜか。いろんな角度から、聴くことについて考えてみましょう。

そして、記事の執筆や編集についても、実践を交えながら向き合っていきます。

インタビュー時の音声は、丁寧に文字に起こしていくと(インタビューの長さにもよりますが)数万字のボリュームになります。膨大な文字情報を目の前にし、文字には表れない、話し手のなかにある広大な世界にまで想いをはせると、つい途方もない気持ちになるものです。

そこからいかに、手と頭を動かして、アウトプットにつなげていくか。書いて伝える手段について、可能な限り具体的にお伝えしていこうと考えています。

学びの場をひらくと言いながら、こんなことを書いていいのかわかりませんが…ぼくは長いこと、書くことに対して苦手意識を抱いていました。すでに克服したというわけではなく、今も、です。書くのは大変だなあ、気が重いなあ、と思いながら原稿と向き合う日々を送っています。

それでも、聴いて・書くことの価値を感じる限りは、よりよい聴き手であり、書き手でありたいと思っています。「できない」ところから出発した自分だからこそ、お伝えできることもきっとあると思います。

これからひらくのは、講師から一方的に教わるというよりも、ともに学び合うための場です。さらに言えば、全5回のプログラムを終えたあとも、地域の聴き手・書き手が集い、お互いに学び続けられるコミュニティをつくっていきたいと考えています。

2ヶ月と少し、一緒に山を登っていくような時間になりそうです。

どんな方々と会えるのか、そしてこの山を登った先にどんな景色が広がっているのか。楽しみにしています。

▼スケジュールとプログラム

・2024.1.20(土) 14:00〜18:00 ※終了後、懇親会あり
第1回 はじめに
聴くことや、書くこと。日常、ごく当たり前に経験しているこれらのことについて、あらためて話してみましょう。登山で言えば、ベースキャンプに集まり、互いのコンディションや現在地をたしかめ合うような時間です。聴く・書くって、どういうことだろう? なぜ聴きたい・書きたいんだっけ? そのあたりからはじめます。

・2.3(土)  14:00〜18:00
第2回 聴く
初回の終わりに、ショートインタビューの実践があります。その音声を文字に起こしてみて、何が起こっているのか、つぶさに観察します。思った以上に聴けていないこともあるでしょうし、思いもよらない形で聴けていることもあるでしょう。思い通りにはいかないからこそ、探究のしがいがある、聴くことのおもしろさを味わいます。

・2.17(土)  14:00〜18:00
第3回 訊く
相手の発する言葉や表情、仕草などに心と身体を傾け、受け取る行為が「聴く」。一方で、問い、投げかける行為としての「訊く」もあります。取材やインタビューがうまくいかない場合、その両方あるいはいずれかに原因があるかもしれません。よく聴き、よく訊くために、大切な心構えや具体的な準備について、実践を交えつつ考えていきます。

・3.16(土)  14:00〜18:00
第4回 書く
前回から1ヶ月ほど空けての第4回。この期間中にインタビューを実施し、文字起こしまで完了した状態で迎えます。数万字の文字起こしデータや事前・事後の調べものをもとに、どのように記事を書いていくのか。一例としての書き方をお伝えします。人それぞれに合うスタイルがあると思うので、みなさんの考えもぜひ教えてほしいです。

・3.30(土)  14:00〜18:00 ※終了後、懇親会あり
第5回 書き続ける
継続すれば、何事も上達していきます。でも、続けることは楽ではありません。記事を何度も推敲し、完成度を上げていく過程も大切ですが、今回は「書き続けること」に的を絞ることにしました。個人でできる工夫や意識の話だけでなく、稼ぐことや、学び合うことなど。書き続けるために必要なことについて、さまざまな角度から交わしましょう。

※集まったみなさんの関心やその時々の状況に応じて、プログラム内容を変更する場合もあります。上記の限りではないこと、あらかじめご了承ください。

▼場所

Sorriso riso(長崎県東彼杵郡東彼杵町瀬戸郷 1303-1)

▼定員

実習生:5名
インタビューや執筆の実践・添削を伴います。全日程、現地参加可能で、最後まで(できればその先も)一緒に登りたいという方のみ、お申し込みください。
卒業制作の記事は、くじらの髭に掲載予定です。

聴講生:20名
全5回を聴講できます。実習生との違いは、プログラムを通じて制作した記事の添削やフィードバックができないことです(質疑等の時間でのご質問はもちろん歓迎です)。現地参加のほか、オンラインで遠方から参加していただくこともできます。

▼参加費

実習生:35,000円(税込)
聴講生:20,000円(税込)

▼こんな人に参加してほしい

聴くことや書くことを…
・仕事にしていきたい人
・ずっと我流でやってきて、あらためて自分の方法を見つめ直したい人
・日常生活でも、もっと大事にしていきたいと思っている人

いずれも、机の上だけでは完結しないことです。仕事に限定した話でもありません。よりよく聴くこと、よりよく書くことを通じて、よりよく生きたい。そう願う仲間を募るような気持ちで、このプログラムを企画しました。

まったくの未経験の方も歓迎です。参加したことで、次の日からすぐ聴ける・書けるようになる!というような、即効性のあるプログラムではありません。けれども、新たにはじめるよいきっかけにはなると思います。

参加希望の方は、下記フォームよりお申し込みください。

と き

全5回(1/20, 2/3, 2/17, 3/16, 3/30)
各回14:00開始、18:00終了

ところ
Sorriso riso 千綿第三瀬戸米倉庫

長崎県東彼杵郡東彼杵町瀬戸郷1303-1Google Map

料 金

実習生:35,000円(税込)
聴講生:20,000円(税込)

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