シニア会たより 第29号 - JSME関東支部シニア会からのお知らせ

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シニア会たより 第29号

エンジニアの三種の神器 思い出と変遷

福地真理夫

【カテゴリー:趣味】

 昨年、シニア会行事で、学生(会)からシニア(会)への 「エンジニアとしての大先輩への質問」 にシニア(会)が答えるという企画があり加えて頂きました。 質問はエンジニア人生の多岐に亘るものでしたが、面白いものに「家電製品で三種の神器があったように、エンジニアの「三種の神器」を選ぶならば何か?又その理由は?」 というのがあり、私の回答は; 胸ポケットに収める「直定規(時には小さいノギス)」、「ルーペ」、「小さい計算尺」、「関数表が巻末に付いている手帳」とルール違反ながら4点あるが、計算尺三角関数表付手帳は、関数電卓に置き換えられたので、直定規、ルーペ、関数電卓の3点であろうとしました。 そして理由は、「現場・現物主義で不具合品の確認と解決策をその場で探る道具であり、これらを使いこなす先輩を見て、エンジニアのアイデンティは、これらポケットに収まっている道具であろうと感じてきた」 というものでした。

 その後、同年代の集まりで、若い頃利用していた「道具」や「計測機器」の話題が意外と盛り上がることに気づき、そこに、アナログ、マニュアルからデジタル、機械化への移り変わりなどの話も加わると、シニア世代にこういった話のタネは尽きないのだと感じました。

 そんなことから、机をひっくり返して昔の「道具」を見つけ出して、「エンジニアの三種の神器」の思い出話をまとめさせて頂きました。 尚、会社の設備や会社購入品を含めると、とても紙面が足りなくなりますので今回は、個人持ちの道具で進めさせてもらいます。

計算尺

 大学には、昭和44年(1969年)に入学し、計算尺は、写真にある25センチのものを購入しました。 工学実験での考察や材力等機械工学講座の演習などに使いましたが、卒業の頃には高価ながらも電卓を購入した者が出てきていましたので、恐らく私の年代が計算尺を使っていた最後に近い年代と思われます。

 昭和48年(1973年)に建機メーカーに入り、エンジン設計部署に配属されました。その頃、四則演算の電卓なら買えた時期と思いますが、クレーム返却品の会議などで、さっと計算尺を取り出して上司からの質問に答える先輩に憧れ、胸ポケットに入る15センチ程度の計算尺も購入しました。(計算は、設計側はトルクで考えるも他部署では馬力を聞きたがるなどでその換算を行うなど。) ただ、既に「時代錯誤」であったことは明らかで、15センチのものは、手入れ不良でのカーソルや滑尺の不具合も出て、行方知らずとなりました。 手許に残った計算尺(写真)は、革ケースに入っていて健在ですが、息子が高校生の時、対数の理解にと、対数スケールの刻み線があるから乗除算の解が足し算・引き算をするように求まることを示したのですが、電卓のある時代に、私の思いは、殆ど伝わりませんでした。

直定規

 写真は、製図用ドラフター付属の短い方(25センチ)の定規です。 社内にCADワークステーションが導入され、大量にドラフターを処分したとき、貰い受けました。 長い方の定規は、余り希望者がいませんでしたが、短い方は、全て引き取られたと記憶します。 胸ポケットに入れていたものは、竹製15センチのもので、現場での現物測定などに使いましたが、竹製故に端面から破損が出てきて、いつの間にか紛失となり、銀行の景品などのプラスチックのものに置き換わりました。 ドラフターの定規は丈夫な作りで刻み線も濃く深いため、直線を引く時のガイド、コンパスやデバイダへの寸法取り、部品に当てて平面度確認などで活用しました。 これには定規としてのJIS検定証がないので、部品寸法を測定して合否判定はダメだと笑いあったのも思い出です。

ルーペ、ペンライト

 ルーペは、昔ながらの独特の金属製ケースにガラスレンズのものが倍率も高く正統派の道具と思いますが、高倍率故に視野が狭く対象物と目の位置関係が難しく、後に購入したプラスチック製の倍率は低くとも大きなレンズのものと併用して破断面の観察などを行いました。 ペンライトは、以前は、胸ポケットに止めるクリップが付いた「ペンライト」で、エンジン内部の狭い空間内にある部品の組立状況確認やその動き確認などで使いましたが、80年代後半に米国出張者のお土産に写真のマグライトを貰い、その明るさ故に即、切り替えとなり、古いペンライトは、処分いたしました。

関数表

 写真で関数表を写しても面白くないので省略しますが、机上では、機械要素設計の参考書や分冊形式だった機械工学便覧第1分冊「数表、物理定数」などを置いて利用していました。 ポケット用には、輸入計測器代理店が年末の挨拶に届けてくれる手帳の後半部分に数表、関数表、物理定数などがあり、これを何年か使っていました。  また、会社では毎年「理科年表」を購入していて古くなった版は処分していたので、譲り受けて関数表、物理定数などの部分を使用している人もいました。 尚、今の理科年表には「関数表」は入っていないとのことで、調べてみると機械工学便覧からも既に無いようです。 歯車の設計に必須のインボリュート関数などは、途中に引き算が入ることもあり、桁数の多い「関数表」が取り合いでしたが、Excelからでも容易に算出出きる時代となり、懐かしい思い出です。

まとめ

 私の若い頃の「エンジニアの三種の神器」とその思い出を紹介させて頂きましたが、今では、スマホのアプリケーションとして、関数電卓機能は当然ながら、エンジニア向けの多くのソフトが公開されています。 実務での有用性は分かりませんが、音の周波数分析ソフトなどもあるので、現場の不具合確認などは、これらソフトを使って、時には、接写撮影なども行ってデータを記録、送信することが可能です。 この変化を考えると、今のエンジニアには、胸ポケットの「かさばるもの」ではなく、適切な情報収集を助け、その情報からの判断のためのガイドとなるものが大事なのかと分かります。 そしてこれは、私の時代でも同じで、胸ポケットに入っているものも、使いこなしてその場その場の適切な判断を即座に下してこそ意味があったのだと改めて思う次第です。

 最後に、思い出話は、会社の設備も含めると; 手に持って触針を対象物に当てて測った振動計でのデータ解析作業の困難さや、IBMの大型計算機を使用して多質点系の振動解析をするも収束判定部分の間違いから一晩中稼働させて始末書を書いたなど、きっかけがあるとどんどん出てきます。 それらの話題で皆様と盛り上がる機会があることを楽しみにしております。