今回は音質面の話。
「Roon ReadyはDLNAやOpenHome――UPnPベースのシステムと比べて、音質的にはどうなんだ?」という議論に対する考え方を示す。
つまり、「OpenHome・DLNA/UPnP」と「Roon Ready/RAAT」という2つのプラットフォーム/プロトコルは、どちらが高音質なのか? という議論である。
なお、この記事でのOpenHomeは、同じくUPnP畑ということでDLNAと読み替えてしまってもとりあえず問題ない。いちいち二つを併記するのはアレなので、以降はOpenHomeのみ記す。
また、他のプラットフォームとは一線を画すRoonのユーザー・エクスペリエンスについては既に書き尽した感があるので、この記事では触れない。あくまでもこの記事は音質面での話である。
さて、いささか刺激的な記事タイトルにしておいてアレだが、音質比較における「OpenHome/UPnP vs Roon Ready/RAAT」という対決の構図は、実のところほとんど意味を成さない。
というのも、この二つのシステムは、同じ機器を使った場合でも、「プレーヤー(データ処理としての再生機能)」を担う機器が異なるからだ。
ここでいう「データ処理としての再生機能」は、さらに音源ファイルのデコードなどの機能に細分化可能で、そのなかでも特に音質に関わる部分は「再生エンジン」といった呼び方もされる。
以下、私のシステム(この記事を書いた当時のもの)で例示する。
オーディオ用PCにcanarino Fils、ネットワークプレーヤーにLUMIN A1を使用するシステム。canarino FilsにUPnPサーバーソフトとRoon Serverを両方インストールすることで、同一の機器で二通りのシステムとして機能する。
ちなみに、RoonでUSB DACを使う場合、ユーザーから見た違いは機器をLANケーブルで繋ぐかUSBケーブルで繋ぐかでしかない。
上図を見てのとおり、OpenHome/UPnPのシステムとRoon Ready/RAATのシステムでは、必然的にそれぞれ「プレーヤー」を担っているものが違う。
OpenHome/UPnPのシステムではネットワークプレーヤーが再生機能を担うのに対し、Roon Ready/RAATのシステムではRoonのCoreが再生機能を担う。
同じ機器を使った場合でさえ、システムにおける「プレーヤー」からして違うのだから、そりゃ音が違って当然である。プラットフォーム/プロトコル云々以前の問題として、そもそも前提条件が揃わない以上、比較にならない。
というわけで、「OpenHome/UPnPとRoon Ready/RAATの、プラットフォーム/プロトコルのレベルでの純粋な音質比較は不可能」である。
よって、あちらこちらで見かける「OpenHome/UPnPとRoon Ready/RAATの音質比較」という表現は正確ではなく、実際には「個別のネットワークプレーヤーのUPnPベースの再生機能と、Roon(Core)の再生機能の音質比較」をしているに過ぎない。
「OpenHomeとRoon Readyに両対応する製品はどちらで使うのが高音質か」という話はあくまでも個別の製品に留まるものでしかなく、「UPnPとRAATではどちらのプロトコルが高音質」などと一概に言うことは不可能だ。この手の話をするなら、主語には細心の注意を要する。
※一方で、「Roon Ready対応ネットワークプレーヤーであり、USB DACでもある」製品においては、上図のようにRoon Ready/RAATとUSB接続は「再生」の主体が同じであるため、ケーブルの影響はあるにせよ、同じ土俵で音質比較を行うことができる。
Roon Ready/RAATとDirettaでは、使用する機器もケーブルも「再生」の主体もすべて同じままで、プロトコル同士の音質比較を行うことができる。そして、結果はDirettaの圧勝である。
ハードにせよソフトにせよ、総合的なユーザー・エクスペリエンスでRoonに比肩し得るなんてことは相当に困難だ。そういう意味で、オーディオメーカーが手掛ける単体ネットワークプレーヤーがRoonとは異なる価値を打ち出せるとすれば、得てしてそれは使用するプロトコルまで含めたトータルの「プレーヤー部分の音質」ということになるだろう。
そしてもし、音質すらもRoonに負けるなんてことがあれば、すなわちネットワークプレーヤーを「プレーヤー」として使うよりも、Roon Readyで使う方が高音質なのだとしたら、それはもはやプレーヤーである意味がないということにも繋がってしまう。オーディオメーカーとしては格好がつかないどころの話ではない。
つまり、とある自前のプレーヤー機能(UPnPベースに限らない)とRoon Readyに両対応するネットワークプレーヤーがあり、その製品に対し「Roon Readyで使った方がずっと音がいい!」と評価する人がいるとすれば、その人は「メーカーが仕上げた再生方式がRoonの再生方式に劣っている」と言っていることになる。もちろん実際にそういう場合もあるだろうが、このように言うこと自体、なかなかに恐ろしいことだ。相当な覚悟が要る。
例えるなら、Roon Ready“にも対応する”ネットワークプレーヤーを作ってるメーカーが「Roon Readyで使う方が音がいい」と言われることは、自信を持ってソース込みで提供しているハンバーグ屋が、ソースを全部はぎ取られて、客が持ち込んだソースをかけられて「こっちの方が美味い」と言われることに等しい。もちろん実際にソースがいまいちなハンバーグ屋もあるだろうが、そんなことを言われて気分がいいはずがない。
Roonは素晴らしいソフトである。そしてRoonならではの優れたユーザー・エクスペリエンスを音質を担保しつつネットワークプレーヤーでも実現するために、Roon Readyに対応するというのはメーカーとして至極真っ当な判断と言える。しかし、それは必ずしも「Roon Readyで使った方が音がいい」を意味しない。前述したように、音質については個別の製品ごとに判断するしかないのである。
なお、「システムでプレーヤーの役割を担うものは何か」という問題は、いうまでもなくRoonに限った話ではない。「プレーヤー」の所在をきちんと把握・理解しておかないと、ファイル再生におけるハード・ソフトの音質比較を正しく行えない場合がある。
この記事で取り上げたRoon Ready/RAATとOpenHome/UPnPはもちろん、他にも「USBとLAN入力(ネットワークプレーヤー機能)の両方を備えた機器」で、「USBとLAN入力のどちらが高音質か」なんて比較をする時も、「システムでプレーヤーの役割を担うものは何か」を考えることは極めて重要になる。
頓珍漢なことを言わないためにも、気を付けよう。
さて、ここで気になるのは私のLUMIN A1だ。
LUMIN A1はそれ自体で優れた単体ネットワークプレーヤーであり、同時にRoon Readyにも対応する。
もしRoon Readyで使った方が音が良かったとすれば、ちょっと……
……なので、比較した。
・OpenHome/UPnP――LUMIN A1を「プレーヤー」として使う場合
・Roon Ready/RAAT――LUMIN A1をRoonのOutputとして使う場合
……幸いにして、「プレーヤー」として使う方が良かった。つまり、「LUMINの再生エンジン」の方が「Roonの再生エンジン」よりも音が良かった。
よかったよかった。
とはいえ、両者の差は必ずしも大きなものではなく、空間の見通しの良さなど、Roon Readyで使った時の方が良いと感じる要素もあった。
LUMINのネットワークプレーヤーは傑出してユーザビリティの完成度が高いので、いくらRoon Readyで使った場合の音が良くても「Roon Readyでしか使いません!」なんて選択肢はとても考えられない。
一方で、それ自体では使い物にならないネットワークプレーヤーがRoon Readyに対応するのだとしたら、それはユーザーにとって素晴らしいことだ。Roonが全部面倒を見てくれるのだから。
「プレーヤー」の領域には、ただでさえJRiverやJPLAYといった強力な競合がひしめいている。さらに今後もRoonの再生機能――音質が進化し続けるとすれば、単体ネットワークプレーヤーが独自性を発揮することはますます厳しくなっていくだろう。
割り切ってRoon Readyであることに――RoonのシステムにおけるUSB DACならぬ「LAN DAC」であることに専念するというのもひとつの手だが、そうなると今度は「プレーヤー」としての立ち位置を失ってしまう。端からプレーヤーを作る気がないメーカーなら話は簡単なのだが。
ただ、「純粋なネットワークオーディオ」への憧憬を禁じ得ない身としては、オーディオメーカーとしての矜持を全開にしてRoonとは隔絶した「プレーヤー」としての音質を実現した、そんなネットワークプレーヤーが存在してほしいと思っている。
Roonはそのライブラリ機能において比類のない価値がある。別に音質面だけで最上の地位を目指して火花を散らす必要もない。
ユーザーとしては、そもそも得られる体験の質が違うのだから、同時に使えばいいだけである。