ネットワークオーディオとOpenHomeとRoon Ready
ネットワークオーディオの「プラットフォーム」
Roonがあれば他には何もいらない?
そんなことはない。
最近の「Roon最高、Roonさえあれば他はいらない」的な物言いの中で最も気になるのは、Roon/Roon Readyのネットワークオーディオのプラットフォームとしての価値を述べる時に、UPnP/DLNAのみならず、OpenHomeまで「ろくでもない過去の遺物」扱いされていることだ。
国内では今までOpenHomeとは何かや、それがもたらすメリットについてまったくと言っていいほど言及されてこなかったにもかかわらず、Roon/Roon Readyの文脈でOpenHomeという言葉が出てきた途端、臆面もなくDLNAと一緒くたにして貶めるなんて所業、私にはとてもできない。
ただ、まぁ、正直なところ、DLNA(UPnPはDLNAのベースながら、あまり表には出てこない)に関してはボロクソに言われても仕方がない部分はある。
「DLNA対応/準拠」と言えば聞こえはいいが、残念ながらDLNAはそのままオーディオ用途に使うには大きすぎる問題を孕んでいた。DLNAベースのプレーヤーはかつてはギャップレス再生すらできず、未だにOn-Device Playlistに対応しないなど、事実上「まともな音楽再生機器とは到底呼べないプレーヤー」の代名詞となってしまったのである。
間違いなくDLNAはネットワークオーディオの黎明期を牽引し、システム構築の概念を浸透させるうえでも大きな役割を果たした。私自身、ネットワークオーディオの三要素――「サーバー」・「プレーヤー」・「コントロール」という考え方は、DLNAにおけるデバイスクラスから着想を得た。
一方で、DLNAという言葉が独り歩きした結果「ネットワークオーディオ=DLNA」という固定観念もとい誤解が生まれ、さらにはDLNAベースのプレーヤーの悲惨なユーザビリティのおかげで製品ジャンルの信用が崩壊し、「ネットワークオーディオはまるで使い物にならない」というイメージすら醸成されてしまった。
こればっかりは、どれだけLINNが孤軍奮闘したところで、「LINN DSは特別だから」の一言で片付けられてしまい、大勢を変えるには至らなかった。さらに悲しいことに、その流れは今なお続いている。つらい。
しかし、LINNは諦めなかった。
LINNがUPnPをベースに築き上げたソフトウェア・ライブラリ――「ネットワークオーディオプレーヤーをまともな音楽再生機器たらしめる諸々の機能」を、LINN自身のポリシーに従ってオープンにしてきた。
それを基に誕生したのが、広く利用可能なネットワークオーディオのプラットフォーム「OpenHome」である。
つまるところ、OpenHomeに対応・準拠すれば、「純粋な再生機器としてはLINN DSと同等」のユーザビリティが担保される。常に例外・特別扱いされてきたLINN DSと同等になるのである。(製品によってはちょっとアレな場合もあるが……)
DLNAという限界の中で嘆き悲しむ数多の人々(メーカー・ユーザー問わず)にとって、これがどれだけの福音となり得ることか。
いわば自らの最大の強み、ユーザビリティの根幹部分を惜しげもなくオープンにするというLINNの英断。なんという偉業。
私がOpenHomeという言葉を明確に意識するよりも前、2014年頃からLUMINやAURALiC、あるいはDELAといった「LINN DSと同等」の再生機能を備えたプレーヤーが現れ始めた背景には、OpenHomeの存在があった。
ネットワークオーディオに大きな可能性を見出した一人として、私はLINNに尊敬の念を抱かずにはいられない。未踏の領域を先駆するだけでなく、後から続く者のために道まで残すとは、なんと偉大なメーカーなのだろう。
私が出会った最初のネットワークオーディオプレーヤーがLINN DSで本当に良かったと思う。そうでなければ、「なんだこの絵に描いた餅は! ふざけんな!」という具合に、ネットワークオーディオそのものに絶望していたかもしれない。
OpenHomeに先立つ「LINN DSというプラットフォーム」も、今なお機能拡張を続けており、単なるOpenHomeとは一線を画した地位を確立している。さすがすぎる!
OpenHomeの洗礼を受けたLUMINやAURALiCといったメーカーも、「ただOpenHomeを使う」だけにとどまらず、彼ら自身の理想を実現するためにシステムを作り込んでいった。結果的にLUMIN Appなどは、「自分のライブラリの中から聴きたい曲をスムーズに選び、快適に再生する」という点で、これ以上ないと思えるレベルの完成度に到っている。
メーカー独自でアプリを作らずとも、汎用的に使えるKinskyやKazoo(※追記参照)、BubbleUPnPがあるおかげで、ユーザーは高度な快適性を享受できる。
さらに、OpenHomeは基本的に「プレーヤー」と「コントロール」の間の仕組みのため、サーバーはUPnP/DLNA対応のものがそのまま使える。
【2017/02/01追記】
OpenHomeに対応したプレーヤーでも、Kazooでは操作できない場合がある模様。
【追記おわり】
こんな具合で、Roonの登場に際してOpenHomeまで一緒くたに「ろくでもない過去の遺物」扱いされることは、ネットワークオーディオに大きな可能性を見出した者としても、現にOpenHomeベースのシステムでネットワークオーディオの本懐たる「快適な音楽再生」を存分に味わっている身としても、看過し難いのである。
DLNAだろうとOpenHomeだろうと、根底には「ユーザー自身の意思を反映させて構築したライブラリ」が存在する。逆にそれがない限り、LINN DSを使おうがLUMINを使おうが、絶望的な結果に終わる。この事実は揺るがない。
自分自身のルールに基づく音源の管理もライブラリの構築もまともにやったことがないユーザーからすれば、Roonの「魔法」はユーザーを無明の絶望から救い出し、鮮烈な驚嘆と感激を生むことだろう。「Roon最高、Roonさえあれば他はいらない」的な発想に到っても仕方がないのかもしれない。どれだけ真剣にユーザー側で音源の管理をしていても、むしろしているからこそ、決して完全ではないにせよ、Roonの魔法の威力には素直に感動してしまうのだから。
私はRoonの価値を心から認めている。なんて素晴らしいアイデア、これほどまでに魅力的なソフト/サービスがあっただろうか、との想いを抱いている。
一方で、OpenHomeの価値を否定するような思想とは相容れない。
こればっかりは、Roonの中の人とも意見が合わない。
良さを認めることと盲従することは違う。
OpenHomeに限った話ではない。私は従来から存在する「音源にユーザーの意思を反映させて構築した、ユーザー自身にとって理想的なライブラリ」を基盤とするプラットフォームの価値を最大限認めている。たとえRoonを使おうと、ユーザー自身で音源を管理し、ライブラリを構築することの重要性と必要性が消えることはない。
もっとも、オーディオ的な性能とまともなユーザビリティを両立できるプラットフォームはそれほど多くない。ユーザー・エクスペリエンスの絶対値でRoonに匹敵するレベルになると、ほとんど存在していないこともまた事実である。
DLNAは……とりあえずBubbleUPnP Serverを使おう。
Roon/Roon Readyと、OpenHomeをはじめとする従来のプラットフォームは否定し合うことなく、共存できる。むしろ共存させてこそ、ユーザーは両者を最大限に活かせる。
なぜならば、これも以前から言っていることだが、得られる体験の質が異なるからだ。
Roonがユーザーに与えようとしている体験がどのようなものかは、かつてHPに掲載されていたこの一文に集約されている。
With Context & Meaning
Music isn’t files and streams. It’s the work of passionate people who compose, collaborate, and perform live. Stop looking at lists and start experiencing a multi-dimensional world of music.
そのための「魔法」。「音楽の海」。
続・Roonの「魔法」の正体と、その限界
Roonの「音楽の海」がもたらすもの
Roonでクラシックの大洋に漕ぎ出す
Roonがユーザーに与える体験とは、端的に言えば「聴くだけではない多面的な音楽の楽しみ」そのものである。でもって、RoonはやはりTIDALと連携してこそ真価を発揮する。
あくまでRoonあってのRoon Ready、Roonならではのユーザー・エクスペリエンスを再生品質の劣化なくネットワークに拡張するためのRoon Readyである。RAATがUPnPと比べてどうだのこうだの、そんなもんは実際に使う側からすればどうでもいいのだ。
ローカルとクラウドの境なく広がる音楽の海。膨大な情報と繋がりの中を漂いながら、時に手持ちの音源の未知の側面に驚き、時にラジオ機能で曲を垂れ流しながら、まだ見ぬ音楽との出会いに心を躍らせる。
これがRoonである。
正直楽しい。実に面白い。
が、Roonはあくまでも「音楽の諸相を巡る」のが楽しいのであって、純粋に「聴きたい曲を再生する/聴く」ことを考えれば、はっきり言って、煩雑である。
ライブラリの主導権が奪われてRoon色に染め上げられ、何処に何があるのかがわからなくなる。ただ、これがRoonの体験を生むものでもあるので、そういうもんだと割り切るしかない。
まさにこの点で、OpenHomeをはじめとする従来のプラットフォームの価値が光る。「自分のライブラリの中から聴きたい曲をスムーズに選び、快適に再生すること」を徹底的に追求し、磨き上げてきたからだ。
そしてこれこそが、OpenHomeをはじめとする「音源にユーザーの意思を反映させて構築した、ユーザー自身にとって理想的なライブラリ」が基盤となるプラットフォームがユーザーに与える体験である。膨大な情報を活用することを前提にデザインされたRoonでは実現し得ないシンプルな操作性は、今なお大きな価値を持っている。
実例を示そう。
OpenHome勢は、私が現時点で最も優れたコントロールアプリと思っているLUMIN Appと、おなじみTwonky Serverを代表として使用する。
Roonはネットワークオーディオの本懐に則り、iPadのRoon Remoteを使用する。
toe / songs, ideas we forgotの3曲目を聴こうと思う。
まずはOpenHome/LUMIN App/Twonky Server。
以上。
他ならぬ私自身が構築したライブラリである。
何が何処にあるかは体に染みついている。
続いて、Roon。
Overviewからであれば下に「Genres」の「View All」があるが、基本的にはメニューから選ぶことになる。
iPadのRoon Remoteではジャンルを表示すると一覧性が低い上にすべてのジャンルが表示されるわけではないので、「View All」。
で、この状態ではリニアなスクロールができずページ単位での切り替えになるので、次のページへ。
運よくInstrumentalのアーティストハイライトにtoeがいたので助かった。
以上。
聴きたい曲が明確に決まっている場合、どちらが楽か……?
なお、設定で「Show Genres From File Tags?」のチェックは確実に入れておくこと。
でなければ、「Instrumental」のように、本来Roonのデータベースにはないユーザー独自のジャンル情報しか持たない音源が行き場を失ってしまう。
その昔は「Roon色のライブラリに異物を紛れ込ますな」と言わんばかりに、ユーザー独自のジャンルは有効にしたところですべて「Uncategorized」にぶち込まれるという仕打ちを受けたものだったが、さすがに顰蹙を買ったのか、今ではそんなこともなくなった。
ついでに、ジャンルの並べ替えもお好みで。
私は単純な名称順が性に合っている。
続いて、Flook / Rubaiの3曲目を聴こうと思う。
まずはOpenHome/LUMIN App/Twonky Server。
以上。
特に言うことはない。
続いて、Roon。
色々飛ばしてGenresを見ているが、「Celtic」が……無い!
が、「International」の画像にIonaが使われているので、「あぁ、ここか……」ってのがわかる。
言わんこっちゃない。基本、Roonはこんなんばっかりである。
ちなみに「Celtic」は「International」のサブジャンルとして扱われていた。
Flookを選択したアーティストページに行ってもよかったのだが、「ジャンル/アルバム」の雰囲気を出すために、ジャンルから「View All Albums」を選択。
そこからRubaiを選択する。
以上。
聴きたい曲が明確に決まっている場合、どちらが楽か……?
……
実を言うと、「聴きたい曲が明確にあるなら、Roonは煩雑すぎてやってらんねー!」という展開に持っていきたかったのだが、期待(?)したほどやってらんねー感はなかった。私もそれなりに長いことRoonを使ってきて、自分色とは別にRoon色のライブラリとその作法に慣れたおかげだろうか。
それでもなお、RoonのデザインがOpenHomeもといLUMIN Appに比べて煩雑なことも、自分の認識とRoon色のライブラリに齟齬が残っていることも、聴きたい曲を再生するまで余計な手間がかかることも確かである。
一応、両者が互いの強みを侵食しているような例も示す。
これはLUMIN Appならではの大きな美点なのだが、音源を長押しタップした際、付加されているタグを使ってライブラリを検索できる。
プレーヤーがTIDALと連携していれば、検索の対象をTIDALにすることもできる。
そりゃRoonのように豪華絢爛な情報で溢れているわけではまったくないが、これはこれで使いようによっては便利である。
一方のRoonは、非常に痒い所まで手が届く至れり尽くせりな検索機能を持っているので、ブラウズするよりも検索するほうが目当ての音源に素早く辿り着ける場合が往々にしてある。
AKIRAのハイレゾのように、情報としては破滅的な音源だってこの通りである。
TIDALからライブラリに追加した音源も、ジャンルが登録されていればいいが、からっぽの場合もある。アーティストとアルバムのジャンルが繋がらないなんてこともざらにある。Roonの魔法の限界である。
でも、せっかくRoonを使っているのだから、音源の整備なんて手間をかけたくない。というわけで結局検索に頼るというありさま。
もっとも、検索で文字を入力するのに手間がかかるという問題は残るが。
ここまで色々と書いてきてアレだが、やっぱり、それぞれの問題点をあれこれと指摘するのが馬鹿らしくなるほどに、どちらも素晴らしい。
明確に「アレを聴くぞ!」と思った時、あるいは音源・機器の比較試聴といったなんともオーディオ的な聴き方をする時は、LUMIN Appを使えば圧倒的に楽で快適である。
一方、「この人の曲いいな、他にどんなアルバムあるのかな」やら「作業中になんか流し聴きするか」やら、そんな風に思った時は、TIDALと連携したRoonはもう最強である。
同時に使えばいいのだ。
ネットワークオーディオにとって、本当にいい時代になったものだ!
居ながらにしてすべてを見、すべてを操ることで得られる、音楽再生における筆舌に尽くしがたい快適さ。
ネットワークオーディオの真のメリットを現時点で最も理想的に実現するものは、Roon/Roon ReadyとOpenHomeを同時に使用可能なシステムである。そんなシステムを構築できている人は幸いだ。
でもって、例えばOpenHomeに対応しているようなまともなネットワークオーディオプレーヤーは、続々とRoon Readyにも対応しつつある。ユーザーにより良い体験を提供しようと思うからOpenHomeを採用しているのだから、何かしら強烈な思想でもない限り、Roon Readyにも対応したところで何もおかしくはない。
「どちらが良い」、ではない。
「どちらも良い」、のである。
【音源管理の精髄】 目次 【ネットワークオーディオTips】
【レビュー】 視た・聴いた・使った・紹介した機器のまとめ 【インプレッション】
それはそうと、この記事が記念すべき1000本目でした。
いつも読みに来てくれてありがとうございます!