走り花 夏 : 木洩れ日の森から
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木洩れ日の森から

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2005年 04月 02日

走り花 夏


曝す書の張り失はず麻表紙


食べしことすぐに忘れて生身魂


箱庭の水なき川の水車小屋


肉を焼くワインの炎パリー祭






毬ついて地にはとどかぬ手毬花


摺り鉢の底明るすぎ蟻地獄


ボート漕ぐ嫁の決まらぬ者同志


黴もまた母の匂ひの形見分け






銅像のまなこするどき木下闇


糠床を後生大事に生身魂


鳴きに来るにいにい蝉や忌中札


甚平や見て見ぬ振りの出来ぬらし






後ろから前から通夜の扇風機


山蟻のあだやおろそかならぬ数


帰省子を加へ文殊の知恵そろふ


横書きで来る子の便り聖五月






肩の凝る様な夢みて昼寝覚


掃除機の音をひきづる梅雨畳


児はあやし兄は叱りて天瓜粉


葉桜に寄り葉桜の気を貰ふ






玄米にこだはりつづけ夏を病む


火の色を風に煽られ凌霄花


道楽のあとふり返り土用干し


うつくしき人にもなやみサングラス






臨月の腹をかばひて茅の輪抜け


発掘の木篦手に手に夏帽子


名水も交じり苗代水となる


太陽が噴水の穂をさそい出す






肩巾に余る夏帽行商女


向日葵のみなうつむきて霊柩車


サングラス背中向けても吠える犬


母の日の母も飲めよと赤ワイン






母の日の母は御馳走もてあまし


人ごとのやうに母の日小商


帰省子の父におとらぬ飲みっぷり


帰省子の近寄り難き不精髭






十薬を咲かせ病院裏に住む


コピー機の律儀に写す紙魚のあと


風鈴のひとりにさびしすぎる音


裏町が好きで通ひしつばくらめ






更衣はやりすたりのなき絣


歯切れよきこともひと味夏料理


若者の愛はあけすけ砂日傘


箱庭の一天かげる影法師






牡丹の百花背にして多聞天


太りたくなくて食べたし終戦忌


裏見せぬ滝を横から斜めから


帰省子の胃袋小さくなりしかな






甚平の泰然として自若かな


野の花を活け込み避暑の第一夜


たたみ皺かぶりて伸ばす夏帽子


せはしげな世をばせかせて油蝉






みどり児の眉のぴくりと日雷


帰省子を壁にもたれて待つギター


箱庭の山河を越えて飛ぶ落葉


長生きを励まし合うて終戦忌






一杯のワインの火照りパリ祭


曇りのち晴れを予言のせみの声


世の一歩先を歩めと道をしへ


おのが香に酔うてうつむくかのこ百合






甚平や世のしがらみに遠くゐて


火口へと降りてこの世の汗を拭く







虫干しの一つ一つにある思ひ


鮎解禁かたまって釣る一人釣る


新茶汲む齢にはかてぬ物忘れ


長病みを知らぬ夫の更衣






人並みが好きで祭りの寄付もまた


船虫の群れて船虫色の岩


父の日や父の好みを知りつくし


病院の非常階段雲の峰






検眼の窓に立夏の城近し


飴湯売るうしろ大原美術館


有線で流す人の訃麦の秋


到来のどれも遜色なき新茶






雲の峰めざすごとくに救助隊


風騒ぐほどには散らず夏落葉


尺取の機械仕掛けに似し歩み


銅像の背広緑雨をしたたらす






片蔭へ急ぎ片蔭出て急ぐ


名刹の法説くごとく滝の音


行儀よく並ぶ一つ葉寺がかり


羽振りよき頃を語りて生身魂






開園を日の出に合はせ蓮見会


ふた匙で足ひら給ひし生身魂


子に支えらるるくらしや五月尽


来し方は坂道野道凌霄花






前向きに歩く下闇濃きところ


自愛てふことばかみしめ暑気払ひ


お悔やみを受けつつ西瓜持ち直す


気楽さもときには淋し新茶くむ


点て出しの夏のお茶碗形見分け



■ 走り花

■ 「狩」に掲載された入選句

    誌上にて鷹羽狩行先生をはじめ諸先生方の
    御批評・御解説を賜りました

■ 受 賞 句

    マスメディアに取り上げられたり・賞を頂きました


私なりに選び集めました

■ 走り花 春 

■ 走り花 夏 

■ 走り花 秋 

■ 走り花 冬 

■ 走り花 新年

■ 五 七 五

by takibiyarou | 2005-04-02 11:21 | 五 七 五


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