~ストーカー~
近年、次第に増加傾向にあるのが、ストーカーによる犯罪です。ストーカーとは、恋愛感情やその他の好意の感情が満たされなかったことから生じる怨恨の感情を充足する目的で、つきまとい行為などを繰り返して行う者をいいます。
古くは、ストーカー行為に対して警察が介入することは困難でしたが、ストーカー行為がエスカレートして殺人事件のような重大事件に発展する危険を秘めていることが認識されるようになり、平成12年にストーカー行為等の規制等に関する法律が制定されました。その後もストーカーの検挙数は増加傾向にあり、SNSの普及なども相まって、依然として大きな社会問題とされていることから、平成28年12月に上記法律が改正され、罰則の強化とともに、規制対象の行為が拡げられることになりました。
第1条の目的規定には次のように定められています。
この法律は、ストーカー行為を処罰する等ストーカー行為等について必要な規制を行うとともに、その相手方に対する援助の措置等を定めることにより、個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的とする。
□ ストーカー規制法により、規制される行為
・ つきまとい等
つきまとい等とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、その特定の者又はその家族などに対して行う以下の行為をいいます。
- つきまとい、待ち伏せ、住居や勤務先、学校などでの見張りや押し掛け行為・住居等付近をみだりにうろつく行為
- 行動を監視していると思わせるような事項を告げる行為
- 面会や交際など義務のないことを要求する行為
- 著しく粗野又は乱暴な言動をする行為
- 無言電話や連続した電話・電子メールの送信等をする行為
※電子メールの送信等の行為には、SNSを用いたメッセージの送信等や、ブログやSNS等の個人ページへの書き込みを含みます。 - 汚物や動物の死骸等の著しく不快な物を送付する行為
- 名誉を傷つける行為
- 性的羞恥心を害するような行為
・ ストーカー行為
ストーカー行為とは、同一の者に対して、つきまとい等を反復して行うことを意味します。
ただし、つきまとい等の①~④までの行為及び⑤の電子メールの送信等の行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合のみを対象としています。
□ ストーカー規制法による罰則
- ストーカー行為をした場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(18条)。
- 公安委員会による禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金となります(19条)。
- 単純な禁止命令等違反の場合は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金になります(20条)
ストーカー行為は、つきまとい等の行為を反復して行うことです。したがって、つきまとい行為を一度行っただけでは、ストーカー行為には該当しません。この場合、軽犯罪法による処罰対象になります。
□ 被害を受けている方へ
ストーカー規制法では、ストーカー行為を抑止するために罰金や懲役といった刑罰を科すだけでなく、警告・禁止命令を行うことができます。警告は、警察本部長等が、加害者に対して行います。
その後、加害者が、警察本部長等の警告を無視してストーカー行為を続ける場合、公安委員会は、聴聞を経て禁止命令を行います。ただし、平成28年改正によって、緊急性が認められるような場合では、警告を経なくても被害を受けている相手方の申し出や職権で禁止命令等を発令することが可能となりました。この禁止命令に反してストーカー行為を行った場合、刑が加重されます。
ストーカー被害者の支援などについて、警察は、ストーカー被害者のためにストーカー被害を防止するための教示や防犯ブザーの貸出しをおこなっています。また、被害者が警察に相談してストーカーに警告した結果、9割程度の人がストーカー行為をやめるそうです(警視庁発表)。
□ 兵庫県下における被害状況
平成26年の警察への被害相談件数 1148件
被害者のおよそ90%は女性で、20歳~40歳までが約60%と過半数を占めています。
被害者と行為者の関係としては、全体の約85%が面識のある者によるストーカー行為であり、半数以上が元交際相手や元結婚相手によるものとなっています。
対応の状況としては、警告が128件、禁止命令が6件、援助が360件、事件検挙164件となっています。
(以上、兵庫県警察HPより)
~ストーカー事件における弁護活動~
・ 示談交渉
これまで、ストーカー行為は、親告罪とされていたため、被害者との示談の成立などにより、告訴の取下げがなされれば、処罰を回避することが可能でした。しかし、平成28年の改正によるストーカー規制法の強化により、非親告罪とされたことに伴い、告訴の取下げに成功したとしても、必ずしも処罰されないということではなくなりました。とはいえ、被害者との示談等により、処罰感情を和らげたり、安全を確保する措置に協力する等の活動は、不起訴処分や執行猶予付き判決の獲得につながります。ストーカー事件では、被害者が恐怖や憎悪の気持ち、強い処罰感情を抱いていることが多くあります。そのため、示談交渉が難航することも多いです。示談を成立させ円満な解決を図るためには、信頼できる弁護士にできるだけ早く相談することが重要です。
・ 身柄解放活動
ストーカー事件では、被害者との接触が懸念されるため、逮捕や勾留による身柄拘束が長期化しやすい類型の犯罪です。ストーカーから殺傷事件に発展したような事件では、警察の初動捜査の問題を指摘されることがあるように、一般にもストーカーを放っておくことの危険性が認知されています。身柄の開放には司法も慎重であるといえるでしょう。特に、警察からの警告や、公安委員会からの命令に従わずに起こした事件の場合には、釈放・保釈することにより、再度被害者と接触する恐れが高いと判断されやすいため、身柄拘束を解くのは非常に困難です。
しかし、そのような場合でも、被害者との示談の成立や、カウンセリング等の治療、環境改善、加害者に真摯な反省を促し、被害者との接触を含め、証拠隠滅や逃亡のおそれがないことを捜査機関や裁判所に主張し、身柄解放に向けた弁護活動をします。
・ 情状弁護
ストーカー事件の事実に争いがなく有罪を免れない場合でも、被害者との示談が成立している・再犯可能性が低いなど、被告人に有利な事情を的確に指摘し少しでも量刑が軽くなるようにします。執行猶予判決を獲得することが出来れば、刑の執行を免れます。
~ストーカー事件の被害者のための活動~
弁護士はストーカー事件の被害者から相談を受けることもあります。ストーカー事件については、平成28年の改正による規制が強化されているように、年々その対策は強化されつつあります。しかしながら、SNS等の普及とともに、ストーカー行為により悩まされる方が増加していることや、初期段階での捜査機関の対応が甘い事例も見受けられるところです。このような場合には、弁護士が間に入ることで、警察等へ働きかけ、警戒強化や積極的に事件化を促したりする活動を行うことが可能です。また、ストーカー犯が繰り返し無言電話をかけてくる場合、弁護士を通じて電話会社にその電話の発信者の照会を行います。このように発信者を特定した後、その者に対して、ストーカー行為をやめるよう警告することも考えられます。
ストーカー加害者のみならずストーカー被害者も弁護士に相談すれば、何かしら解決の糸口が見つかる可能性があります。