心の隙間 2021年09月
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心の隙間

日々感じること・思うこと

 ◆『戦争は女の顔をしていない』  スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 

★★★★★

TVの「100de名著」でやっていたのをチラッと観て、非常に興味深く感じたので読んでみた。

ソ連では第二次世界大戦で100万人を超える若い女性が従軍し、男性と同じく武器を持って戦った。彼女らはスターリンの呼びかけに共鳴し、志願して兵士となった。パイロット、狙撃兵、地雷係・・・戦場では男性以上に頑張らなければならなかった。「だから女は・・・」と言われないために。

しかし戦後はそのことをひた隠しにしていた。

それは何故なのか。戦地に出なかった女性から売女の誹りをうけ、義勇を語れば男性から遠ざけられたから。

著者は元女性兵士500人に根気よくインタビューし、証言を内包したこの本を書いたという。銃後の女性の話ではない、戦地に戦った女性の話を。

ひとつひとつの証言はディティールが細かくリアルで、身につまされる。

著者は言う。

・わたしがしっている戦争の物語は、すべて男性によるものだった。

・男の言葉で語られていた大文字のイデオロギーの歴史ではなく、イデオロギーが隠した感情の記録を書き残したい。

・わたしがインタビュー活動をしているとき、よく男性から忠告を受けた。「女の話は空想と思い込みの嘘ばかり。大局が見えていないどうでもいい戯言だから、本気にしては駄目だ。」というふうに。

著者は、論理が上で、感情が下というヒエラルキーとも戦ったのだ。

著者はジャーナリスト初のノーベル文学賞者であるらしい。

ぜんぜん知らなかった。他の本も読みたい。

 

 

◆『感染症、AI時代を生き抜く』 竹内薫  ★★★☆☆

これからの時代を生き抜くためには、飛び交う情報に惑わされない科学リテラシーを身につけなければならないということで、そのための科学本が紹介されている。科学の専門書は読みこなせないだろうことを前提に、一般向けの本が。紹介文を読むと面白そうと思うけれど、それでも私は理解する自信がない。そういうときは信頼できる科学者の言うことを信じるしかないそうだ。でも信頼できる科学者を見つけるには、自分もある程度は科学リテラシーを高めていくしかないではないか。困った。

とりあえず人間性で選ぼうか。山中伸弥教授とか。

そもそも科学者をそんなに知らないから、内容で選ぶと、「ゲノム編集の光と影」という本と、正常性バイアスのことを書いた「人はなぜ逃げ遅れるのか」は読んでみたいと思った。

 

 

◆『世界史を変えた13の病』 ジェニファー・ライト ★★★☆☆

取り上げられている疾病は、アントニヌスの疾病、腺ペスト、ダンシングマニア、天然痘、梅毒、結核、コレラ、ハンセン病、腸チフス、スペインかぜ、嗜眠性脳炎、ポリオの12種。あと一つは、今からすれば病的といえるロボトミー手術のことが書いてあった。エイズや、今の新型コロナは書かれていない。

今のコロナの状況は、歴史的にどのように位置づけられるのだろう。

それぞれの、病気と闘った医師や英雄的な人物のエピソードや当時の人々の価値観の話は面白かったが、なんというか、世界史うんぬんというには中途半端な感じで、装丁のわりには中身はコンビニで売っている本のようだった。

 

 

◆『ポップ・スピリチュアリティ』 堀江宗正  ★★★☆☆

宗教学とスピリチュアリティ研究者である著者が、肯定・否定の価値判断を留保した中立的な姿勢で、日本におけるスピリチュアリティについて過去20年に渡り分析している。思ったより真面目な本だ。

彼によると、スピリチュアリティの定義は、通常は知覚しえないが内面的に感じられるものへの信念と、それを体験して変化をもたらそうとする実践の総体なのだそうだ。

本来スピリチュアルは宗教と深く結びついているのだが、カルト化した宗教団体や霊感商法への拒否感から、今日の日本では宗教性を意図的に排除しようとしたところでの個人主義的なスピリチュアリティが市民権を得ているという。例えばパワースポットとか、オーラとか、前世とか。

しかし、これらにせよ従来の宗教的価値観を内包していることは隠しきれず、逆にいえば「個人化された宗教」になっているとも言えそうだ。

私は霊の存在とか、前世とか、占いとか、ご利益とかを胡散臭いと思いつつ、自身の不思議体験だけは大切にし、オカルトや超能力、神秘体験などの話が大好きで、そういう小説や映画をわざわざ読んだり観たりする。

これはいったいどういうことだろう。

結局のところ、「科学では捉えきれないもの」への憧れを捨てきることができないのだろうか。


◆『ノマド』  ジェシカ・ブルーダー 鈴木素子訳 ★★★★★

副題-漂流する高齢労働者たちー

映画「ノマドランド」を観て気持ちが揺さぶられたものの、その揺さぶられた複雑な感情が何なのか分からず、持て余したので原作を読んでみた。
数年のあいだ筆者自らが車上生活者となって取材を続けたルポである。
現在、アメリカでノマドと言われる車上生活者は、年々増え続けているらしい。(当時ノマドのイベント参加者は300人くらいだったが、今は3万人)

現役時代はミドルクラスにいたと思われる人達でも、家賃の高騰や少ない年金で生活が立ち行かなくなり、まず一番お金が掛かる家を手放すことから始めるというのが実情だという。かつて貧困層がトレーラーハウスに住んでいた時代があったが、今では月の土地使用料が600ドルという現在、主流は「車に住む」ことに変わった。借金をして車を手に入れる人もいるという。

ここでは、日常の食費はもちろん、ガソリン代をや車の修繕費を稼ぐために、季節労働や最低賃金の単純労働に従事しながら各地を転々として生きる過酷な現実や、彼らを生み出したアメリカの政治・経済問題にも言及している。
差別や偏見、路上での危険性、事故や病気の不安、人間の尊厳の問題も考えざるを得ない。

ただ、この本の良いところは、筆者がノマドたちに寄り添っているところだ。

彼らの生き方を否定せず、彼らの気持ちや生活の信条を通して見えてくる自然との共存や哲学には希望がある。スポットを当てている幾人かの人達の話は物語としても面白く、小説を読んでいるようだった。

でもやっぱり気持ちが揺さぶられたままなのは、とても他人事とは思えないからだ。思わず軽の四駆のキャンピングカーは、中古で幾らくらいなのか、なんて調べ始めてしまった。

 

                                     

◆『家守』  歌野晶午  ★★★★☆

家にまつわるミステリー5編。それぞれ違うトーンの話で、どれも傑作。

この作家はトリックそのものよりも物語の結末が衝撃的で、そこに至るまでの二重三重の伏線の張り方が見事で、何度もやられた~と思う。

表題作の「家守」は読んだことあるような気がしたが、テレビドラマかなにかでやっていたのを観たのかもしれない。それとも実際に似たような事件が

あったとか。

 

 

◆『世界の終わり あるいは始まり』  歌野晶午  ★★★★★

もしかしたら息子は、世間を騒がしている連続幼児誘拐事件の犯人かもしれない・・・疑惑が確信に変わり、もはやどうしようもないと思われたとき・・・

利己的で都合の良い妄想をして問題を回避しようとしても、結局は最悪な結末にしかならない。

題名は忘れたが、キングの“夫は殺人鬼かもしれない”と疑い出す話を思い出した。とても怖かったが、これはそれよりもずっと恐くて、先を読むのが辛かったほど面白かった。

 

 

◆『オオカミ県』 文:多和田葉子/絵:溝上幾久子 ★★★★☆

題名に惹かれて図書館に注文したら、届いたのは絵本だった。

オオカミ県に住んでいたオレは、ネット掲示板に「肉食ってるような奴は田舎者」と煽られているのが気になって上京。

そこは兎じゃないのに兎のふりをしている人々ばかり。

ネット情報、差別、偏見、格差、政府の策略と、社会風刺が効いている。

こうなったら本気で「ぶしゅっとオオカミになろうぜ。オオカミに」

溝上幾久子の銅版画もすごくいい。

 

 

◆『容疑者の夜行列車』 多和田葉子 ★★★★★

ヨーロッパからインド、ソ連、中国の夜行列車に乗った「あなた」の話。

「あなた」はダンサーで、各地の公演を回っている。

それぞれの行き先の違う旅では、列車のコンパ―トメントで出会う文化や言葉の違う人々とのエピソード、知らない土地への旅に付きものの不安や恐怖や好奇心が、現実と空想が入り交ざって描写されている。

二人称で書かれた「あなた」は、ときどき読者である「私」に憑依するのだが、なんてったって多和田葉子である。どうしてこんなに魅力ある文章が書けるのか。やはり本当に旅する作家だからだろう。

 

 

◆『アメリカ‐非道の大陸』 多和田葉子 ★★★★☆

こちらはアメリカ大陸に渡った「あなた」の話。

「ノマド」を読んでもつくづく思ったが、アメリカは車社会である。

飛行機を除く移動方法のほとんどはバスか乗用車であり、車の免許を持たない「あなた」は、ちょっとしたどこかに行くにも他人の車に乗せてもらうしかない。その数分から数時間の同乗体験は、心地よいこともあれば緊張を要することもある。美術館、映画館、講演会、知人のホームパーティーで出会う様々な人種がいるアメリカならではの出来事を これまた妄想を交えて描かれていく。面白かったが、やはりアメリカはヨーロッパの雰囲気とは随分違うように感じた。

 

夢 その1
修学旅行らしい。場所はよくわからない。

宿に着いて割り当てられた部屋に行くと、他に誰もいない。
確か8人部屋だったと思うのに私一人が余ったらしい。一人なら一人でいいのだけれど、大勢が泊まれる広さの座敷に一人というのは、なんとも淋しい。
気を取り直して館内を散策していると、廊下で友人のアキに会う。

夕飯は一緒に食べようねと言ってくれたのでほっとするが、これからお風呂にいくの。と他の友達とはしゃぎながら行ってしまった。

私も大浴場の方に行ってみると、浴室がガラス張りで廊下からまる見えである。

でもみんな一向に気にする様子もなく裸でくつろいでいる。

自分は入るのをよそうと思う。
部屋に戻ると窓のある奥の間の襖が閉まっていて暗い。
襖を開けると髪の長い30代くらいの女性が後ろ向きで座っていて、首だけクルッとこっちを向いた。すごく驚いてギャ~!と叫んでしまう。
幽霊かと思ったら普通の人間で、聞けばこの部屋が空いているからと旅館側から言われて来たという。こちらには何の断りもなく、知らない人と相部屋にさせられるなんて・・・と、ちょっと悲しい気持ちになったが、ま、いいかと気を取り直して外に出かけることにする。
実は昼間見て買えなかった金魚をどうしても諦めきれなくて、やはり買おうと思ったのだ。夕食の時間までには戻って来られるだろう。

旅先で金魚を買って、どうやって持ち帰るというのだ。いやそれは後から考えよう。あの金魚とは運命の出会いなのだ。世界でたった一匹の私の金魚が待っている。
行き先は駅の向こうの公園だ。途中、ぐちゃぐちゃした繁華街を歩いているうちに迷子になる。そのうち人通りが途切れ、だんだん日が暮れてきて心細くなるも、やっと公園の入り口が見えてきた。
あの金魚売りの屋台はまだやっているだろうか。
夕日に染まった公園の奥からガムランが聴こえてくる。(9.7.2021)

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ここで目覚まし音が鳴り、目を覚ましてしまったので、金魚を買うことができなかった。
ガムランと目覚まし音がシンクロして、しばらく現実感がなかった。
それにしても、なぜそんなに金魚にこだわっていたのだろう。
旅館の廊下で会った友人のアキというのは、今思うと知らない子だ。
夢の中で、クラスメイトと思っていただけだ。なんか、今まで出会った調子のいいフレンドリーな人たちを全部混ぜて一人にした感じの子だった。
襖の奥にいた髪の長い女性が振り向いた時は、ほんとうに怖かった。
この夢がホラーの方向に進まなくてよかった。




夢 その2
夜道を歩いてどこかに行こうとしている。
なんだか口の中に違和感があって、歯の収まりが悪い気がしていたら、上の前歯が1本ポロっと抜けた。
抜けた歯は道に転がってどっかに行ってしまった。
わっ、どうしよう!と思っているうち、今度は隣の歯も抜けた。
舌で確かめると、歯があった場所は歯茎の感触しかなく、他の歯もグラグラしていて今にも抜けそうだ。
ああ、最悪・・・。 (9.10.2021)


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と思ったところで目が覚めた。
目が覚めてすぐ、歯の状態を確かめたが、ちゃんとしっかり付いている。
グラグラもしていない。夢で良かったとしみじみ思う。
実は、歯が抜ける夢を見るのはこれで3回目。
三度とも夢とは思えないくらいリアルな感触で、どうして経験もないのにこんな夢を見るのか分からないが、歯に不安でもあるのだろうか。
夢で良かったベスト10に入るぐらい不快な夢である。