着物の種類で「総絞り」という名称を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
一方で、総絞りがどういった着物なのかを理解している方は少ない印象です。
そこで本記事では、総絞りがどのような着物なのかについて詳しく解説していきます。総絞りの種類や魅力・価格・コーディネートについて深掘りして紹介するので、ぜひじっくりと読み進めてみてください。
総絞りの着物とは?
「総絞り」とは、着物全体に絞りが広がっている着物を指します。
袖が短い総絞りの着物は格が低く、小紋と同格になります。街着・おしゃれ着としては活躍しますが、格式高い場面には向いていません。
袖が長い総絞りの着物は、振袖と同格として扱われます。成人式や、未婚の場合は結婚式に参列する際にも着用できます。
総絞りの着物を製作するのには高等な技術を要するため、数ヶ月~数年以上かかるのが一般的です。よって希少価値が高く、価格帯も高めに設定されていることが多いです。
では、そもそも絞りとはどういった着物なのかについて以下で解説していきます。
そもそも絞りの着物とは
絞りは、絞り染めという技術で作られた着物です。絞り染めは奈良時代から受け継がれてきた伝統的な染色技法であり、今でも受け継がれています。具体的な手順は、大まかに以下の通りです。
- 括り:生地を糸で括る・縫う・絞る・挟むなどする
- 染め分け:染める部分・染めない部分を分ける
- 染色:生地を染料に浸して染める
染色を終えた後、最初に括った部分を外すと模様があらわれます。絞り染めで作られた模様には独特な凹凸があり、触るとその感触を楽しむことができます。色合いは繊細で、上品な印象です。
技法次第ですが、絞り染めの作業には数年かかることもあるため、絞りの着物は非常に高級なものが多くなっています。
着物の総絞りには種類がある
総絞りの形にはさまざまな種類があり、それぞれ特徴が異なります。以下で、有名な3種類を紹介します。
- 京鹿の子絞り
- 有松・鳴海絞り
- 南部絞り
それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
京鹿の子絞り
京鹿の子絞りは、子鹿の斑点模様に似ています。京都で生産される絞りの名称で、伝統工芸品にも指定されています。凹凸やシワによる立体感があり、繊細な模様を編み出している点が特徴です。
京鹿の子絞りは他の絞りよりも製作にかかる期間が長く、完成までに1年~2年程かかります。
また、京鹿の子絞りは職人が手作業で一粒ずつ糸を括っていく技法を用いていますが、この括り方によっても絞りの種類がさらに細分化されます。
名称 | 特徴 |
---|---|
疋田(ひった)絞り | 一粒に対して絹糸を4回巻いて括る |
本疋田(ほんひった)絞り | 一粒に対して絹糸を7回巻き、最後に根元でもう1回巻いて括る |
一目(ひとめ)絞り | 一粒に対して糸を2回巻いて括る |
有松・鳴海絞り
有松・鳴海絞りは、その名の通り愛知県名古屋市の有松・鳴海で生産される絞りの総称です。
有松・鳴海絞りの共通点としては、一工程に一人の職人が配置されている点です。各手順において、それぞれの職人が手作業で製作を進めています。
また、有松・鳴海絞りは今回紹介する中で模様の種類が最も多く、その数なんと100を超えます。以下で、有名なものをいくつかピックアップして紹介します。
名称 | 特徴 |
---|---|
唐松(からまつ)絞り | 左右対称の柄を半分に折って外から平縫いし、固く絞った後に染色して模様をつける。大胆な模様が特徴。 |
雪花(せっか)絞り | 三角形に畳んだ生地の表裏両側から、三角形の板で挟んで染色する。雪花のような模様が特徴。 |
木目(もくめ)絞り | 等間隔に引かれた線に沿って平縫いする。木目のような模様が特徴。 |
南部絞り
南部絞りは、青森県から秋田県・岩手県にまたがる南部地方に根付いている絞りです。生地の括り方はさまざまですが、染色方法に特徴があります。具体的には、大きく以下の2種類に分けられます。
名称 | 特徴 |
---|---|
紫紺(しこん)染め | 「ムラサキ」という植物の根から取れる染料で染める。 |
茜(あかね)染め | 「アカネ」という植物の根から取れる染料で染める。 |
いずれも、染料を染みこませるため1日の間で12回も重ね染めを行います。その後は3~5年間程度寝かせ、きれいな発色を待つ流れとなっています。
このように、南部絞りは製作に非常に長い期間を要する貴重な着物です。
総絞りの着物の魅力
ここまでは総絞りの種類について紹介してきましたが、具体的な魅力はどこにあるのでしょうか?総絞りの魅力としては、主に以下の3点が挙げられます。
- 華やかで個性的
- 上品で美しい
- 着心地が良い
順番に詳しく説明します。
華やかで個性的
総絞りの着物を持っている方は少ないため、着ているだけで個性的な印象を与えることができます。振袖や小紋などさまざまな種類がありますが、どんな場面で着てもインパクトを残すことができるでしょう。
総絞りの着物は生地全体にシボがあるので、華やかさを演出する効果もあります。無地であったり模様が控えめであったりしても、地味になりすぎず、見た目が豪華に感じられるのは総絞りが持つ魅力です。
上品で美しい
総絞りの着物は、括り・染め分け・染色の過程を丁寧に行い、長期間かけて繊細に製作されるので、仕上がりが上品です。色は黒や赤をベースとしたものが多く、柄も無地もしくは落ち着いたものがほとんどであるため、大人らしい美しさを身に纏うことができます。
また、総絞りは伝統的な着物であり、長く受け継がれてきたものなので、時代の流行に左右されません。世代を超えて長く愛用できる、上品で美しい着物であると言えるでしょう。
着心地が良い
総絞りの着物は生地に凹凸があり空気を含んでいるので、ふんわりと柔らかく、着心地が良いです。肌触りや手触りが良いため、長く着ていても疲れづらい点も魅力です。
また、生地表面の凹凸には滑り止め効果があり、他の着物と比べて着崩れをしにくいといったメリットもあります。
他には無い着心地の良さをぜひ総絞りで味わってみてください。
総絞りの着物の注意点
総絞りは他の着物よりもさらに繊細なので、保管方法に注意が必要です。
まず、総絞りが持つ生地の凹凸を保持するためには、上に重いものを乗せてはいけません。何着も着物を重ねて保管する場合は、総絞りを下の方に置かないようにしてください。他の着物とは分けて保管すると安心でしょう。
また、総絞りの着物は水分や湿気にとても弱いことも特徴です。水分や湿気を多く含むことで絞りの形が崩れてしまう可能性があります。たとう紙に包んだり桐箱・桐タンスに入れたりと、水分や湿気を逃がす工夫をしましょう。定期的に箱から出し、湿気を逃がす方法も効果的です。
総絞りの着物の価格
絞りや染色の技法などにもよりますが、総絞りの着物を製作するのには数ヶ月~数年以上かかるケースがほとんどです。よって市場への流通が少なく、希少価値が高いです。
総絞りの着物を着る場合にはいくらかかるのかを、購入する場合とレンタルする場合に分けてお伝えします。
購入する場合
総絞りの着物を購入する際の価格は、数十万円~数千万円と幅広いです。百万円台~数百万円が相場であると言えます。
費用が前後する理由としては、製作期間も挙げられますが、その他に生地・染料・産地・製造者といった要素も影響しています。
特に製作者が人間国宝である場合、価格は一千万円台にまで跳ね上がるケースがほとんどです。
レンタルする場合
総絞りの着物は、レンタルすれば購入するよりも価格を安く抑えられます。十万円~百万円の間に収まるでしょう。
総絞り振袖の場合、製作期間や生地・染料・産地・製造者といった要素だけでなく、レンタルする時期によっても価格が変動します。成人式や卒業式など、着物をレンタルする方が増えるオンシーズンの時期は価格高くなる傾向にあります。
総絞りの着物のコーディネート
最後に、ここまで読み進めて「総絞りの着物を着てみたいかも!」と感じた方に向けて、おすすめの総絞りの着物のコーディネートを紹介していきます。ぜひ参考にしてみてください。
真っ赤な総絞り振袖×紺色の袴
真っ赤な総絞り振袖に、紺色の袴を合わせています。
振袖に絵柄は入っておらず、袴も無地ですが、絞りの模様にインパクトがあり見た目は華やかです。また、使用している色味が限られているからこその統一感も感じられる、品格のあるコーディネートです。
黒をベースとした総絞り小紋
黒色がベースの着物ですが、絞りの模様によって印象が重たくなりすぎず、上品で大人らしい雰囲気を放っています。帯もシックで大人らしいものを選んでいるため、帯・帯留め・帯揚げに施された花柄のモチーフが良い存在感を示しています。
柄がたくさん入った総絞り振袖
総絞りの着物の中でも、たくさんの柄が入っている種類です。非常に豪華でかわいらしいですよね。着物に使われている色は黒・赤などと落ち着いている分、髪飾りや帯・帯締め・帯揚げなどに使われている黄緑色が際立ち、全体として、はつらつとした印象が残ります。
まとめ
本記事では、総絞りの着物の種類や魅力・価格・コーディネートについて、ひと通り解説してきました。総絞りがどういった着物であるか理解できたでしょうか。
「総絞りについてもっと詳しく知りたい」「自分で総絞りを着てみたい」と思った方は、教室でより深く学ぶことも可能です。着物のプロから直接教わることで、知識やノウハウを効率的に身につけることができます。
以下の記事で、初心者におすすめの着付け教室を7つ厳選して紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。