- 山梨は寿司好きの地域。甲州寿司を食べる。
- ノイズ音楽がひびく、オリンピック通り
- 洞穴のような道を進め、カフェロッシュ
- 自然と人為が混ざり合う南アルプス市の棚田
- 江戸時代から続く古民家を10分見る
- 給付金格差を目で追いながら、ワインに焼酎を注ぎ込んだ酒、ぶどうワリを飲む。どてやき下條
- やたらと立派な餃子が出てくる喫茶店、六曜館で夜は更ける
- そして、恐怖の地下街へ
- 朝食に専門店でいなり寿司をたべる
- 甲府の名湯、新遊亀温泉
- 鳥もつ煮でさようなら
最近、山梨に行っていないなと思い、甲府に行くことにした。電車でことこと揺られ、3時間ほどで到着した。甲府駅を降りたとたん、おっちゃんが近寄って来て「君、Youtuberだよね!?絶対そうでしょ。見たことあるよ!」と、これは驚いたというような表情をこちらに向けてきた。
困惑しながら「残念ながらYoutubeはやっていないです」と答えると「え、そうなの? 君に似ているYoutuberを見たことがあるような気がするんだけどな。おかしいな......」と言って、自転車にまたがっておっちゃんは去っていった。
何やら波乱を感じさせる甲府旅の幕開けとなったわけだけど、とりあえず、無事、甲府に到着した。
山梨は寿司好きの地域。甲州寿司を食べる。
山梨県というのは、内陸の県なわけだが、それがゆえに海への憧憬が強いのか、寿司屋の店舗数が非常に多いらしい。また、甲府では、甲州寿司という、田舎寿司のような大ぶりのにぎりで、なおかつ、タレが塗られた状態で提供されるという、独自の寿司文化が存在しているらしいのだ。これは食べない手はないだろうということで、まずは、寿司屋に行ってみることにした。
空気が澄んでいる。アーケードが長く続いていて、なかなか整った印象の街である。ただひたすら、影の中を歩く。小学生のころ、影だけしか踏んではいけない鬼ごっこのような遊びをやっていた記憶があるが、これはもう遊びではない。熱中症防止のための必然的行為である。
角を曲がると信号があった。左から、例のおっちゃんが自転車でやってきた。今度は僕にではなく、隣にいた外国人の女性に話しかけていた。
「どこから来たんですか」
「フランスから来ました」
「フランス、いいですね。私もいつか行ってみたいと思っていたんですよ。今日は旅行ですか」
「はい、初めて山梨に来ました」
おっちゃんは自転車に乗り、ふたたび軽やかに去っていった。どうやら、おっちゃんは誰彼構わず話かけているようだ。僕がyoutuberに見えたというのも、ただ、話しかけるためのネタだったのかもしれない......
勢いのいいおっちゃんに見つからないように息をひそめその場を回避した。魚そうという寿司屋についた。
店内はひとテーブルを残して満席だった。山梨における寿司の人気をうかがわせる。空いていたテーブルに座り、寿司のセットを注文した。
たしかに、一つ一つの寿司が結構大きい。というか、そもそも、大きいネタを切って半分にしているようである。その半分状態でも、気持ち大きいのではないかと思われた。
たれでネタがぬたりと光っている。マグロを食べてみる。甘じょっぱい感じのたれのようだ。酢飯はけっこう酢がしっかり効いている。普通の寿司よりシャリの比率が高い感じがする。
隣では、八十を超えているのではないかと思われる黄色い髪の瀟洒な老婆が、イケイケの茶髪の中学生の孫とわいわいと楽し気に寿司を食べていた。この大ぶりの古い江戸前寿司のスタイルが、海のない、しかし、寿司を愛している街で残っているというのはなかなか面白いものである。
ノイズ音楽がひびく、オリンピック通り
甲府の街を散歩してみることにする。甲府には、オリンピック通りという横丁がある。なんでも前々回の東京オリンピックの1964年に作られたらしい。60年も昔のことである。
古いお店もあるようだが、新しい店舗もけっこう入ってきているようだ。昼間だったので正確にはわからないけれど、横丁として、比較的、活気を維持しているような雰囲気があった。
先のほうに光が見える。こういう道はついつい通ってみたくなるものだ。夜には勇ましくも、昼にはどこか大げさに見える看板たちもかわいらしく見てくる。昭和な雰囲気とは裏腹に、どこからか、ノイズ音楽のライブ音ようなものが聞こえてきた。甲府は奥深き街である。
洞穴のような道を進め、カフェロッシュ
商店街は人影もまばらだった。アーケードの真ん中では卓を囲んで青空麻雀が行われており、静かな空間にチャカチャカと音が響いていた。そんな感じで散歩などして、カフェロッシュという店に入ってみることにした。以下のような感じの入り口なのだけど、店に入るドアはここから10メートルほど歩いたところにあり、うす暗く、ひっそりとしていた。
カフェというより、バーのような雰囲気である。ドアを開けると、少したばこの香りがした。
カウンターの端のほうに座る。コーヒーゼリーを注文した。
近くに山梨日日新聞があったので読んでみる。僕が旅行でよくすることの一つが地元紙を読むことである。その土地の固有の情報がいろいろ載っていて面白いのだ。
ふむふむなるほどねとページをめくっていると、南アルプス市の棚田に水が張って綺麗です!というような記事が目に入った。棚田か、いいな、見に行ってみたいなと思って調べてみると、南アルプス市の棚田は、車で移動すれば、それほど遠くないようだった。特にこのあと予定があるわけでもなく、というより、時間を持て余し気味だったので、車を借りて行ってみることにした。
自然と人為が混ざり合う南アルプス市の棚田
車に乗り込む。めちゃくちゃ暑い。たまごを置いておいたらゆで卵になるレベルである。エンジンをかけてクーラーを全力で動かす。アクセルを踏んで出発する。信号機で止まる。ちょっとブレーキを踏んだらぎゅっっっと止まる。こういうブレーキがやたらと強いタイプの運転が苦手である。都度、信号でぎゅっっっと止まりながら、甲府の道を駆けていく。
しばらくすると市街地を抜けた、当然棚田があるくらいなので、しばらく坂道が続いていく。大変すばらしい、広大な空と青々とした山。運転もしやすい。ブレーキ問題に悩まされなくて済みそうである。
カーナビでそれっぽいところを入れていたのだけど、いまいちはっきりどこで曲がればよいのかわからず、ぐんぐん進んでいたら棚田を超えて山に突入していた。小さな滝がつつまし気に流れており、ここより先に行っても何もないぞと教えてくれた。
やばいやばいと、車を切り返して、来た道を戻った。ここ通るの?というような細い道に入った。少しぐわっと下って少し上がると、視界が広がった。
棚田を駆けあがっていく。
駐車スペースがあったので、車を止めた。降りると、水が張った田が前面に広がっていた。いくつもの水面が天に向かって大展開している。緩やかに下る棚田の先には、豊かに広がる街と、ちょこんと富士山の先端が見える。
僕は、特に良い景色を見たいのだと思い立って出てきたわけでもないのに、いや、山梨に来たからには、こういう景色をみたかったのだと、一人自らの行動に納得を深めていった。
棚田と棚田の間を歩いていく。山から流れてきている水がしゃぱしゃぱと音を立てている。
ふらっと入った喫茶店で、新聞を読んでなんとなくやってきた。大変なラッキーだった。小学生くらいの男の子が元気に自転車であたりを駆け巡っている。僕からしたら、きれいだなと思うけれど、ここで生活していれば、これはただの生活で、特別どうということのない、日常的な景色なのだろう。
甲府が一望できる。夜に来たらまたきれいなのだろうなと思う。
車に戻った。下り坂が続いていくので、何もしないでも車はどんどんと走っていく。自分の車も持っていないし、特別運転が好きと言うわけでもないのだけど、たまには運転も楽しいものであるなあと思った。ひとしきり坂を下って、平らゾーンに着いた。
江戸時代から続く古民家を10分見る
Googleマップを見ていたら、江戸時代から火災にあうこともなく300年間この地に立ち続けている安藤家住宅という施設があったので行ってみることにした。チケットを買ったら、閉館10分前だった......
分厚い屋根が印象的である。ただ、あまりにも時間がなかったので、何なのかいまいち深く理解することはできなかった
ただただ立派であった。日本には、いろいろなところに軽く数百年前のものが残っているので面白い。
給付金格差を目で追いながら、ワインに焼酎を注ぎ込んだ酒、ぶどうワリを飲む。どてやき下條
10分で観光を追え、車で甲府の市街地まで戻ってきた。車は返却した。タイムズカーシェアは便利である。ホテルでチェックインをすませた。
ここは行ってみたいなと思ってメモしておいた居酒屋を調べてみると、人気店でなかなか入れないとの情報があり、まだ時間的には17時で、夕飯には少し気が早いような気がしたけれど、逃すべからずということで店へ向かってみることにした。
大きなアーケードを抜けると、その店はあった。どてやき下條である。外観はリフォームをしたのか、最近のマンションのようないで立ちであった。
どてやき下條は、白ワインを焼酎で割る「ぶどうワリ」という飲み物が名物ということを聞いていたので、とりあえず、その、ぶどうワリなるものを頼んでみた。大将がグラスと瓶を持ってやってくる。ワインを1~2センチそそいだら、瓶に入った焼酎がどくどくと注がれていく。僕はそれを、しばし、じっくりと見つめた。混じった酒は、コップから飛び出ていきそうな力強さを感じさせた。
口をつける。度数高いなあ、バチバチだと思った。氷すらないので、瞬時に酔うやつである。空腹を避けるため、さっそくどてやきを貰う。
モツの独特の香りが少し残っているが、ぶどうワリと戦わねばならぬのだから、いい塩梅である。味付けは優しめの味噌で、食感はそれはもうプルプルである。
どうぞ、といってお通しとして、テカテカの何かがやってきた。箸で割ってみるとどうやらジャガイモのようだった。カレーがかかっている。なかなか味わい深いお通しである。これでも結構お腹にたまるがお通しとしてそれはどうなのか、などと一瞬思ったりしたのだが、疑念は無粋である。我々は、ぶどうワリと戦うのだ。
このジャガイモがいかしているなと思ってツイートしたら、フォロワーの人が、甲府というのは、江戸時代に甲府を飢饉からジャガイモが救ったというような歴史があるらしく、それもあって芋食というのが一つの文化として存在しているということのようだ。
隣に白髪が勢いよく立ち上がった老人がやってきた。手慣れた手つきで、吊られている新聞紙をちぎってカウンターに敷いた。周りを見ると、どうやら、皆、新聞紙をナプキン、もしくはコースターのようにして使っていることに気が付いた。僕も天に吊られた新聞紙を見様見真似で引きちぎって、コップの下に置き、コースターにした。給付金格差の字を追いながら飲む酒というのもなかなか染みるものがある。
こんな感じだ。
一杯でも、それなりのパワーであったが、もう一杯くらいは飲む必要があるだろうと思い、今度は、梅ワリのほうを頼んでみた。合わせて、キャベツ炒めなるものを注文した。
この、キャベツ炒め、キャベツをソースで炒めたという極めてシンプルな食べ物なのだけど、直球のソースと胡椒の香り、そして、キャベツの甘味がなぜかとても記憶に残った。
家に帰ってわざわざ作ってみた。
真似して作った。ソースと酒と胡椒。 pic.twitter.com/3XThTCE0cO
— きくち (@zebra_stripe_) 2024年5月13日
やたらと立派な餃子が出てくる喫茶店、六曜館で夜は更ける
腹5分目くらいで店を出た。まだ、陽が暮れていなかった。1日が長いぞ。
ホテルが近かったので、いったん戻って少し休憩した。腹が減ってきたので、また街に出ることにした。甲府には六曜館という有名な喫茶店があって、夜には、半分居酒屋のようにして営業をしているとのことだったので行ってみることにした。
六曜館は甲府で昔営業していたスマロという店のレシピを引き継いだ餃子が有名らしく、カウンターに座ると、横一列、皆、餃子を注文しているようだったので、僕も、注文してみることにした。喫茶店なのに、餃子を食べている人ばかりというのも不思議空間である。
とりあえずハイボールを飲む。
カウンターに座っているので、目の前で店主が餃子を焼いているのが見える。小さなコンロで、餃子に火が通されていく。もやしをつまんでいたら、すぐ餃子ができた。きれいに焦げが入って、端正な渦を巻いている。
自家製らしいラー油をかける。これは美味しい餃子だ。ハイボールを飲む。炭酸がぷつぷつ口を刺激する。ここは本当に喫茶店なのだろうか。
隣のカップルはパフェを食べ始めた。後ろでは鍋を食べているようである。街にこんな不思議な空間があるのはいいことだなあと思う。
そして、恐怖の地下街へ
最後に、老舗のバーに行ってみることにした。馬酔木という店で、地下でひっそりと営業しているらしい。六曜館から歩いていく。甲府の街は夜も治安がよさそうである。
地下バー街の文字につられて、階段を降りていく。
びっくりすくらい静かな空間があった。非常口の緑の明かりが壁に滲んでいる。音のかけらもしない。どういうことだ...... こんなくらいところにバーがあるのか?ととりあえず端から端まで歩いてみる。甲府で最も静かな空間かもしれない。自分の足音だけが響いている。
どこがバーの入り口なのか分からなかった。端までついてしまったので、折りかえす。階段付近まで戻ってきたら、ドアの入り口に本日臨時休業と書いてあるのが目に入った。運のよい一日だったけれど、最後に旅行の神は去っていったようだ。まっすぐ帰ることにした。
朝食に専門店でいなり寿司をたべる
ぐっすりと眠った。ホテルでペットボトルの水が無料だったので、ぐびぐび飲んだ。朝食はついていなかったので、何かないかなと探してみることにした。Googleマップを見ていると、ホテルから10分ほど歩いたところに、いなり寿司屋があり、朝から営業しているようだったので、そこを朝食会場とすることにした。
機嫌が悪そうな猫が出迎えてくれた。
甲府民は寿司をよく食べるらしいが、いなり寿司もよく食べるのだろうか。営業しているのかよくわからず、覗き込んでいると、店の人が出てきて「どうぞ」と声をかけてくれた。
今は、このメニューしかやっていないんですけど大丈夫ですか、と聞かれ、ではそれで!と告げて待っていると、いなり寿司がやってきた。
「ご旅行ですか」
「そうです。埼玉からきたんです」
「そうなんですか。楽しんでくださいね」
いなり寿司を口に放り込むとほわっとした油揚げからじゅわっとたれが染み出て米によくまとわいついた。
「このいなり寿司美味しいですね!古くからやっているんですか」
「そうですね、明治時代からやってます」と店の人は答えた。奥の厨房に帰っていったのだけど、何か冠婚葬祭があるのか、弁当のような包みにいなり寿司を詰め込む作業が行われていた。人気の老舗なのだなあと思った。朝からいいものを食べた。
甲府の名湯、新遊亀温泉
甲府には、いろいろ温泉があって、泉質もけっこう多様だと聞いたことがあり、少し疲れてきていて、ゆっくりしたい気分だったので向かってみることにした。歩いていたら、徐々に気温も上がって来て、体から汗がじわじわと噴き出してきた。
おいおい、暑いな、ていうか、リュックも二日目ともなってくると、重く感じてくるものだなと心の中で愚痴をこぼす。体を前かがみに、じりじりと歩いた。20分ほど歩いた。近くの薬局で小さなタオルを買った。準備は万端である。
新遊亀温泉に着いた。
温泉に突入した。茶色系のすこしトロっとした泉質のようだ。肌にしみこむようである。とても気もちよく(そもそもそんなに温泉に入っているわけではないのだけど)今年はいった温泉ランキングでは断トツの一位であるように思われた。しかも、自分以外には一人ご老人がいるだけで、なんとも心静かな時間を堪能することができた。うーん、いい!とひとり呟きながら天井を見上げた。
甲府の街には、こういう小さな温泉施設がいろいろあるらしい。この新遊亀温泉もかなり良かったので、次くるときは、甲府湯めぐりをしなければならないと思った。
鳥もつ煮でさようなら
そろそろ帰宅列車の時間が迫っていた。急いで甲府駅へと向かって歩く。最後に何を食べようか考えた。やはり名物っぽいものがよいよなあとおもい、調べてていると、甲府には鳥もつ煮という食べ物があるらしいことを知った。その名の通り、鳥のもつを甘じょっぱく煮たというもののようだ。
ということで、駅前の鳥もつが食べられる店に入った。
蕎麦セットにした。
「鳥もつは七味をかけてお召し上がりください」と言って店員は去っていった。鳥のレバーときんかんが煮込まれているようだ。
僕はあまりレバーが好きではないのだけど、臭みが七味でいい感じに緩和されており結構おいしく食べることができた。ああ、なるほど、これは昼に食べるというよりはどっしりとした酒と一緒にちびちびと食べるようなものなのだろうなと思った。温泉に入って、これを食べ、日本酒などを飲む。これがいいんだろうなあと思った。
時間がなかったので、一気に食べ終えた。駅に小走りで向かった。やべ、山梨と言えばほうとうだというのに、ほうとうを食べていない!と最後に食い意地が発生し、とにかく時間がないというのに、駅でほうとうセットを買った。ホームに電車はすでに着いていた。電車に向かって走り、ギリギリ帰宅列車に乗り込んだのだった。