寿司を食べたいなと思って、近所の寿司屋のHPを見ていた。メニューの一覧を見ていたら、野菜寿司セットなるものがあった。配偶者に「野菜寿司だって、けっこうおいしそうじゃん、食べに行ってみない」と伝えると、「え~寿司は魚のほうがいいでしょ」と一瞬ですげなく断られた。鋭い正論だ。
たしかに、普通に考えて、寿司は魚のほうがおいしそうである。それから、しばらく野菜寿司のことが脳から消え去っていた。
しばらくして、大宮に行く用事があり、どこかで昼ご飯食べるかとネットで調べていたら、ふたたび、野菜寿司あるよ、という情報に遭遇した。なんなんだ、野菜寿司なるものが流行っているのかと調べてみると、埼玉県で寿司の人気が低迷していてどんどん店数が減ってきており、コマッタ、起死回生だ!ということで、埼玉寿司組合所属の三十件ほどの寿司屋が野菜寿司なるものを作って売り出し中ということらしいのだ。
僕は、食べてみたいぞ!と思い、配偶者に今一度「大宮の寿司屋で野菜寿司なるものを食べてみよう。もちろん、魚が食べたかったら、そっちで大丈夫だから」と伝えると「おっけ~」と返事が返ってきた。
ということで、やってきた、大宮の日進にある山水という寿司屋。
僕は当初予定通り、野菜寿司を注文した。野菜の種類は指定できないらしく、何貫食べたいかを宣言する形式らしい。すべて食べられる11貫を注文してみることにした。配偶者は、ふつうに魚の寿司を注文していた。
注文を聞きに来たスタッフの人が「ビーガンの方ですか」と聞いてきた。
「いえ、そういうわけではないです」と答えると、では汁物は貝が入っていますのでと言って奥のほうに去っていった。
野菜寿司がやってきた。
おお、野菜だ...... けっこうおいしそうだという気持ちと、皿が光かがやいているという気持ちが同時にやってきた。
赤い寿司はパプリカなのだが、すごく色鮮やかだ。マグロの赤身が進化したような色である。エリンギも、貝の寿司のようだ、一方で、ブロッコリーはまったくおのれを寿司に擬態させることなく、圧倒的ブロッコリー感である。しゃりも見えないし、ほとんど海苔がまかれたブロッコリーである。
「けっこううまそうだね」
「そうだね、おもったよりいいね」と配偶者にも好感を与えたようだ。
とりあえず、真っ赤に輝くパプリカを食べてみた。僕はびっくりした。酢飯にトロっとした食感のものが乗っていると人間はそれを寿司と認識するらしい。一瞬、え、マジでいわゆる寿司じゃんと思い、噛んでいると、パプリカの味わいがやって来て、あ、野菜だったわと認知が統合されていった。
下処理がいい感じで、青臭い感じが適度に抜けて、トロっとしている。
配偶者に、パプリカおいしいよと言って、黄色いほうのパプリカをあげると「けっこうおいしいね。たしかに寿司っぽい」と言っていた。
寿司のうえにちょんと乗っているのはワサビ味噌らしい。米とオクラなんて普通の食べ合わせにおいても定番なので当然ではあるのだけど、おいしい。ただ、山芋は寿司としての一体感はあまりなく、芋と米食べているなという感じだった。野菜にも寿司向きとそうでないものがあるように思える。
エリンギは、食感もよく、キノコとしてのうまみもあるので、貝の寿司を食べているような感覚があった。これはなかなかおいしい。
ブロッコリーは、はっきり言って、かなりブロッコリーだった。アスバラガスが見た目よりもシャリと一体感があって海苔の香りもよく、おいしかった。配偶者に二貫ほどあげたので、かわりにあまり好きでないらしいサーモンをもらった。魚のうまみが強く感じられた。野菜と魚の寿司は別々に食べないと、野菜の寿司の繊細な感じが分からなくなりそうだ。
とはいえ、これはなかなかおもしろい食べ物だなあと思った。
野菜寿司は味付けもすでにされている状態で提供される。それぞれ、下処理も含め、いろいろ考えて作られていることがわかる。海なき埼玉における、寿司屋さんの格闘の成果だった。