小学生の頃、東京から、友達が家に泊まりに来た。家の周りは新興住宅街で、100秒歩けば、広大な田園が広がっていた。
クーラーの効く部屋の窓を開けると友達は動けなくなった。この音は何なのだと。
しばし、何のことなのかわからなかった。窓から顔を出した。意識してみると田園から無限のカエルのポリフォニーが聞こえた。こんな大きな音でも、毎日聞いていると、意識から消えてしまっているのだ。
カエルは、手入れを怠った機械の歪みのような音で、ぎこぎこと鳴いていた。友達と家を出て街路樹の隙間を歩いた。夜はどす暗かった。100歩で視界が開けた。溝川の流れの音が聞こえた。広大な田園には、たぷたぷに水が張られていて、月光が不気味に煌々と緻密に水田の水面に照り付けていた。