レーニンを拝み、すこし夜の街を散歩することにする。夜景がきれいなことで有名な鷹の巣展望台まで歩いてみる。行き方は簡単。
およそ徒歩40分。ウラジオストクの大通り、スヴェトランスカヤ通りを歩いていく。成田からわずか2時間ちょっとの距離であるにもかかわらず、建物はそうじて洋風で、美しい街並みが続いている。
車どおりはとても多い。鉄道網があまり発達していないので、移動は基本的に車バスがメインなようだ。車は少し古い型のものが走っているらしく、結構空気が汚いなと感じる。ずっと道沿いを歩いているとすこし喉に痛みを感じた。
地下道もいい雰囲気。
スヴェトランスカヤ通りをとぼとぼ歩いていると、花屋が立ち並んでいる建物があったので入ってみる。色とりどり、端麗な花がぽっぽっと並べられている。
ウラジオストクは花束の街だ。道を歩いていると、花束を抱えた人とよくすれ違う。日常的に花束を贈りあう文化があるのだろう。モデルのようなスタイルの若い女性が、いかにもロシア人的なぶっきらぼう態度で、あちらこちらで左手に花束を抱え右手で煙草を吸っていたりする。それは何というか映画の一シーン的で、とても詩的な光景なのである。
あちらこちらに謎の銅像がある。詩人とか文豪とかそんなかんじかな……
ウラジオストクのシンボル的な橋ソロトイモストが見えてきた。21時過ぎでも、小学生の女の子がスケボーに乗って走り去っていったりする。本当に治安が良い街だなと思う。
公園を通り過ぎる。また銅像だ。安全、街並みもきれい、適度な人口密度、なんだかわからないけど銅像もたくさんあるなど、ウラジオストクの夜は極めて散歩に向いた場所であるといえる。
また地下道を歩く。カートコバーンがうつろな表情をしている。グラフィティもたくさんある。
地下道を抜けるとなぞの円形広場に出る。この広場にはベンチが6個ほどおいてあり、ロシアの若い男女が見つめ合って、愛について何事かをささやきあっていた。きっと、デートスポットなのだろうなあ。それにしてもロシアの若者たちの顔の整いっぷりがすごい。もし僕が何か間違ってロシアに生まれていたら、ただならぬコンプレックスを抱えて生きることになっていたかもしれないなあと思う…… 一人でのこのこのやってきた僕は、早歩きで広場を駆け抜ける。いやしかし、道に囲まれた不思議な広場だ……
鷹の巣展望台まで小高い丘を登ってく。ケーブルカーもあるらしいのだけれど、歩くのもなかなかよい。知らない街を歩き回るというのはいつでも楽しいものなのだ。すこし、汗をかきながら、黙々とのぼる。柔らかい風が、海のほうから吹き上がってくる。顔を上げると遠くまで町が見渡せる。少し控えめな街灯りがちらちらと輝いている。極東ロシアのささやかな日常が広がっている。
鷹の巣展望台のてっぺんにやってきた。いったいなぜ鷹の巣展望台と呼ばれているのだろう……真っ暗なのでいまいち見の周りに何があるのかわからない。実は鷹的なにかがあるのだろうか……
肌寒い夜の街を背景に橋が黄金色に光っている。静かな場所だ。遠くで車が音もなく走り去っていくのだ見える。きれいだなあと10分くらい景色を眺めた。こうやって、なんとなくふらっと出かけて、こうやってなんとなくぼおっとしていられるのは、意外となかなか尊いことだなあと思う。
おじさんが一人でぷかーっと煙草を吸っていた。10月の風が吹いていた。
つづく