有限会社若松屋 | 米粉商品開発等支援対策事業 取組事業の紹介

米粉に切り替えた新名物、稲作ゆかりの伊勢に根ざす

伊勢市駅前の山田三方(やまださんぽう)は、三角形の大判焼きを実演販売する店。伊勢かまぼこの老舗メーカー、有限会社若松屋(以下若松屋)が、2021年に始めた新事業です。伊勢神宮と稲穂の縁にちなんで、2023年11月に生地の主原料を小麦粉から米粉に変更しました。同社代表取締役の美濃松謙さんに米粉の魅力を聞きました。

地元で愛され、社会のニーズに応える

地元で愛され、社会のニーズに応える

伊勢詣で土産の銘菓は数あれど、伊勢市民に愛される菓子をつくりたいと異業種にチャレンジした若松屋4代目の美濃さん。惜しまれながら暖簾を下ろしたたいやき店で粒あんづくりを修業して、その製法と味を受け継いで出した店が山田三方です。

「伊勢駅前はかつての地名を山田と言い、室町から江戸時代まで山田三方という自治組織が置かれたことを後世に伝えたい」と美濃さん。教育委員会から山田三方を店名に使用する許可を得て、三方にちなんで三角形の大判焼きの実演販売を始めました。

しかし、「店を始めた当時は米粉を使うことはまったく念頭にありませんでした」と、美濃さんは振り返ります。小麦粉から米粉への切り替えに取り組んだ背景には、世界的な小麦価格の高騰、特に海外からの旅行客に求められるグルテンフリー対応、本業でも食品を扱うメーカーとして、アレルギーに配慮した商品づくりへの責任感もありました。

「やはり日本は米の国なので、祈年祭で日本各地の米が奉納される伊勢から米の文化を発信していきたいという思いもあります」と美濃さん。三方焼の生地を小麦粉から米粉へ全量切り替えるために、これまでに取り扱ったことのない米粉との格闘が始まりました。
「ノウハウがまったくなかったので、市販の業務用米粉を買って店でスタッフに試作してもらいましたが、餅のようになってしまいました。やはり単純に置き換えるだけではうまくできないことがわかりました」と美濃さん。卸売会社から三重県産うるち米の米粉(群馬製粉製)を仕入れ、目指したのは、小麦粉と遜色のない米粉の三方焼。そのレシピが完成するまでは試行錯誤の連続でした。

地元で愛され、社会のニーズに応える
米粉と向き合ってわかったその利点

米粉と向き合ってわかったその利点

まず、小麦粉と米粉では吸水率が異なります。最適な水分量を見極めるため、店舗ではスタッフが水分量を少しずつ替えながら焼き上がりの実験を繰り返しました。最終的に水分量は従来の8割、卵の量を3倍にしたことで、ふんわり・しっとりした食感が生まれ、材料の配合のバランスが取れたと言います。

また、甘さを控えて炊いたあずきをはじめ、カスタード、チョコレートでも、あんのほのかな甘みを引き立てる生地に仕上げるために、塩分量のさじ加減も少しずつ変えながら試作を重ね、ついに2023年の11月21日、全商品の小麦粉から米粉への切り替えが完了しました。

「常連のお客様が米粉に変わったことに気づかないほど小麦粉と遜色がありません」と店舗スタッフの橋本愛子さんと峠莉音さん。気づいたお客様もほとんどが「よりやさしく柔らかい食感になった」と好意的です。「和の味わいが感じられるのが良い」という声も聞かれました。「小麦粉の三方焼は翌日に硬くなるのをなんとかしたいと思っていましたが、米粉に変えてからは翌日も柔らかいのも良いですね」と美濃さん。「表面をオーブントースターで加熱すると薄くパリッとした食感も楽しめますよ」とスタッフが教えてくれました。

この取り組みを通して、製造工程でも米粉の利点を生かせたことも大きな収穫です。日々店舗で種の仕込みから焼成まで三方焼をつくっているスタッフからは、「米粉はダマにならないので生地の仕込みがしやすくなった」「種を落とすハンドブレンダーの口が詰まらず開閉がスムーズになった」「焼き機に付着しても水でサッと洗い流せる」などの声が。オペレーションの効率化につながったことも、米粉にトライしたからこその成果です。

米粉と向き合ってわかったその利点
ストーリーを載せて、フランチャイズも視野に

ストーリーを載せて、フランチャイズも視野に

伊勢市駅前の店舗には、三方焼を買い求める地元のお客様の姿が絶えません。店内には4席ほどのイートインスペースもあり、伊勢志摩サミットで振る舞われた焙煎・ブレンドコーヒーと共に焼きたてが楽しめます。

三方焼が市民に愛されることで、山田の地名を伝えたい。そんな思いで始めた事業は、米粉と紐づいてストーリー性がより強くなりました。『日本書紀』には、天照大御神が初代天皇に斎庭(ゆにわ)の稲穂を授け「これで国を治めなさい」と告げたことが記されています。その地、伊勢の三方焼はおむすびの三角を思わせます。

その三方焼をギフトや遠方へのお土産にできるようにと、同店では冷凍品も販売し、その米粉への切り替えも進んでいます。焼成の機械化による量産も目指してきましたが、小麦粉・米粉にかかわらず、三方焼の生地の食感は、焼き台での手焼きでしか出せないこともわかりました。

「機械化はかないませんでしたが、店頭でのオペレーションが確立され、米粉を使うことで時短にもつながります。熟練度を高めてより多くの三方焼を提供したい」と美濃さん。焼き台一つあれば実演販売が可能。フランチャイズ展開も視野に入れ、日本ゆかりの米・米粉の良さを伝えてくれることでしょう。