株式会社スターチテック | 米粉商品開発等支援対策事業 取組事業の紹介

秋田県立大で育種された独自の米品種、その特徴を生かした米粉から新たな商品開発へ

株式会社スターチテック(以下スターチテック)は、秋田県立大学発ベンチャー企業。同大学が育種した米の新品種の利活用と販売をミッションとして2019年に設立されました。今回、同社が販売権を持つ「まんぷくすらり」と「あきたさらり」の良質な米粉を開発しました。

秋田生まれの新しい米品種、米粉で利活用を促進

「私たちの米の品種はとてもユニークです。それらを米粉にすることで、さまざまな商品の材料としてその特徴がより生かされると期待しています」。そう話すのは、同社代表取締役で理学博士の中村保典さんです。スターチテックが取り扱っている米品種のうち2品種の米粉を新たに商品化しました。

秋田生まれの新しい米品種、米粉で利活用を促進
秋田生まれの新しい米品種、米粉で利活用を促進

そのひとつ「まんぷくすらり」の特徴は、難消化性デンプン(レジスタントスターチ)含有量の多さ。通常米の10倍以上の量が含まれています。
「難消化性デンプンは消化されにくい成分で、食物繊維と非常に似た機能性があります」と話すのは、秋田県立大学生物資源学部教授でスターチテック取締役の藤田直子さんです。

「まんぷくすらり」のプロトタイプの炊飯米は、食べた直後の血糖値が一般的な品種と比べて上がりにくいことが証明されています。同社ではその焙煎玄米をグラノーラなどに加工して販売していますが、今回改めて米粉に製粉加工しました。難消化性デンプンが多い米粉の市販は現時点で「まんぷくすらり」由来のものしかありません。同社では、「まんぷくすらり」を機能性表示食品として届出し、、その作用をうたっていくことを目指しています。

もうひとつの「あきたさらり」の特徴は、高アミロース米であることです。「あきたこまち」や「コシヒカリ」のアミロース含有量が19%程度であるのに対して、「あきたさらり」は29%という高い値を示しています。
「主食用品種として流通している米粉でパンをつくるとモチのようにベタベタしますが、高アミロース米はさらりとしているので麺やパンに向いています」と藤田さんはその利活用の可能性を話してくれました。

念願の小型製粉機の導入で、商品開発を加速

オリジナル品種の「まんぷくすらり」「あきたさらり」。「これらの一番の特徴は、純ジャポニカ米であることです。これまでの高アミロース米の全てがインディカ米の遺伝子を持つなかで稀有な存在です」と中村さん。それらの米粉をパンや麺の原料として利活用するために、そのユニークな特性に合わせた製粉をする必要性を感じていました。

「試したいことはいろいろありますが、製粉を外注するがゆえに商品開発が進みませんでした」と中村さん。製粉会社に外注委託して製粉していましたが、品質・性質のバリエーションがつくりにくく、その最小ロットは数百kg単位でベンチャー企業のテスト的な商品開発のスケールをオーバーしてしまいます。
また、これらの品種は水に浸してから製粉する湿式に向いていますが、外注した場合、その浸漬時間のテストも自由にできません。原料としての利用拡大を推進するために、自社設備として小型で高性能な製粉機を切望していました。

念願の小型製粉機の導入で、商品開発を加速

2023年9月、スターチテックはついに念願の製粉機を導入。本事業がそれを後押ししました。中村さんが、製粉機の選定でこだわったのは性能でした。製パン・製麺用の米粉の開発には、粒度が小さく、デンプン損傷度が低いことが条件になるからです。

最終的に500gから1kg単位の小ロットから製粉でき、信頼と実績があり熱意が感じられる西村機械製作所(本社・大阪府八尾市)の小型機を選び、大学キャンパス内の建屋に設置。業務用、家庭用の両方をターゲットに、「まんぷくすらり」「あきたさらり」の特徴が生かされる製パン・製麺に最適な米粉の開発と、その米粉を活用した商品づくりが本格的にスタートしました。

デンプン質の構造から研究、米粉の無限の可能性

デンプン質の構造から研究、米粉の無限の可能性

「まんぷくすらり」「あきたさらり」の製粉テストを重ね、良質の米粉が完成した翌2024年、スターチテックは、主に「あきたさらり米粉」を活用した最終製品の開発テストに取り組んでいます。

製麺では、それまで外注で製粉していた「あきたさらり米粉」10%入りのうどん乾麺「ゆりの舞」を最新のスペックで製粉した米粉に置き換え、「新ゆりの舞」として開発。べたつきがなく噛み応えのあるおいしい麵ができました。製パンでは、グルテンフリーの冷凍パンを製造するチカップお米パン(秋田市)とのタイアップで、同店から新しくなった「あきたさらり米粉」入りのパン(食パン、三日月型パンなど)が開発されています。

社内でも日々ホームベーカリーでパンを焼き、米粉をテストしているというスターチテック。「『あきたすらり米粉』入りのパンは、食味がよく甘さが感じられますが、それを科学的に裏付けるデータを用意して、業務での導入を促進したい」と中村さん。藤田さんが「家庭でも条件の最適化ができるように、レシピを徹底的に研究して、消費者の方へ情報をつけて販売することが私たちの希望です」と言葉を続けます。

デンプンに関する研究開発は同社の強み。パン、麵のほかにも、米粉ゲルやおかゆなどの嚥下食、発酵食品などでの商品開発にも取り組んでいます。
「今後、より米品種の特徴が生きた製品をつくっていきます」と中村さん。「米のデンプン構造が変わればそれが食感につながります。米・米粉のバリエーションを増やして、いろいろな米粉商品をつくり、小麦粉ではできなかった新たな商品もできてくると思います」と藤田さん。米粉の可能性は無限大です。

デンプン質の構造から研究、米粉の無限の可能性