好評の歌舞伎初心者向け、オススメ度の星評価表!!現在、東京・歌舞伎座で公演中の「秀山祭九月大歌舞伎」(昼の部)の初心者向けのオススメ度表です。★が多いほど必見です。満点は★★★★★。
公演会場での「盛り上がり度」、「眠っている人度」、「口コミ度」などを総合的に判断しました。
★:オススメ、☆:イマイチ
<昼の部>
★★★★☆(1)彦山権現誓助剱 毛谷村(11:00-12:18)
★★★☆☆(2)仮名手本忠臣蔵 道行旅路の嫁入(12:48-1:21)
★★★★☆(3)極付 幡随長兵衛 (1:41-3:16)
【総評】
・総合点★★★☆☆
総合点でビギナーにとって三つ星。今月の秀山祭九月大歌舞伎はズバリ「地味で堅実だけど奥深い」。海老蔵さん、勘九郎さんなどの人気役者さん出演はないため、配役が渋い印象ですが、吉右衛門さん、雀右衛門さんなど「ザ・歌舞伎」を実感できる公演です。幕見席もどれも売り切れはないようですので、ちょっと気になる演目があったら、一幕見席に挑戦してみましょう。おすすめは昼の部3幕目「幡随長兵衛」ですね。
ビギナーのわたしが思うに、今月の秀山祭九月大歌舞伎は「『歌舞伎ビギナー』にとどまり続けるか」と「歌舞伎ビギナーを超えた『歌舞伎ファン』へ飛躍できるか」の試金石だと思います。正直言って今月は歌舞伎ビギナーには、難しくて眠たくなる演目が多いです。ハードルが高いです。でも、その中に「あれ?歌舞伎ってこういうところが面白いのかも?」と気づかせる要素がたくさんあるように思えます。遠くから聞こえてくるお客さんのいびきを聞きながら、「ああ、この場面で寝るなんてもったいない」と思った瞬間、ビギナーからちょっと卒業した気分になれるはずです。ぜひご観劇ください。
<9月3日の観劇結果です>
<昼の部>
★★★★☆(1)彦山権現誓助剱(ひこさんごんげんちかいのすけだち) 毛谷村(けやむら)
仇討ちものです。長さは1時間20分。朝一番からいきなり体力を使いますのでしっかり予習をして臨みましょう。義太夫狂言の名作です。元が人形浄瑠璃なので動きが少ない場面が多く要注意です。さらに人間関係も複雑です。だからこそ面白いですから、引かないでください。別途人間関係図も用意する予定です。
配役は、人の良い六助を染五郎さん、その妻のお園を菊之助さん、悪者弾正を又之助さんと安定した布陣です。染五郎さんが演じる「六助」の人の良さぶりに注目です。全体と通してストーリーはわかりやすいのですが、動きの少ない場園が多く単調かもしれません。お園があたふた家事を始める場面や、怒り心頭に達した六助が庭石を踏み込むシーンが印象的でした。最後に六助が仇討ちに燃えるシーンで終わるのですが、最後のノリトもちょっと長かった・・・。この演目は、2016年4月の歌舞伎座では、仁左衛門さんによる六助、孝太郎さんによるお園が演じられていましたが、染五郎さんも仁左衛門さんに負けない演技をしておりましたから。
しかし、ビギナー的には、この演目の最大のポイントは、「彦山権現誓助剱」をきちんと読めるようになるか、ということも重要です。このタイトルを見て「ひこさんごんげんちかいのすけだちはさあ、六助が・・・」など話せると、かっこいいと思いません?
★★★☆☆(2)仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 道行旅路の嫁入(みちゆきたびじのよめいり)
藤十郎さんの戸無瀬、壱太郎(かずたろう)さんの小浪で演じられる演目です。壱太郎さんは藤十郎さんの孫ですから、祖父と孫の舞台ですね。歴史の一場面を観ているのかもしれないと思うと、寝る暇がありませんでした。
仮名手本忠臣蔵の一場面の舞踊ものなので、本格的な舞踊を期待している人にはものたりないと思います。ただ、人間国宝の藤十郎さんの舞台だ、ということに満足しましょう。背景を知らなくても混乱はしませんが、どういう場面から切り抜かれたものかを予習してのぞむとベストでしょう。仮名手本忠臣蔵は奥が深いですから。
ビギナーのわたしはオペラグラスで藤十郎さんと壱太郎さんの顔を見比べながら、あと50年後には、彼らの子孫が同様に演じているのだろうか、と考えてしまいました。こうなるとSF小説の世界ですよね。
★★★★☆(3)極付 幡随長兵衛 (きわめつき ばんずいちょうべえ)
世話物の名作です。粋な江戸っ子の悲しい物語。河竹黙阿弥の作品らしく、あきないストーリーで人間関係も複雑ではありません。幡随長兵衛を、今月秀山祭の主役である吉右衛門さんが、染五郎さんは悪役の水野十郎左衛門を好演していました。ビギナーとしてははずせない演目です。
冒頭の劇中劇は、昔の歌舞伎はこんな感じだったのだ、と感じることができるシーンです。それが終わると、同じ舞台でのセリフのやりとりが続く場面が多く、ビギナーには睡魔との戦いだと思います。はっきりいいますと、最後まではどうぞゆっくりお休みください。寝てもしょうがないと思います。ただ、最後の風呂場のシーンは絶対に観て欲しい。
最後は、幡随長兵衛が風呂場で殺されるシーンなのですが、その場面はぜひ最後の集中力を注いでいただきたく思います。まわり舞台が静かにまわると、壁一面、木の茶色が美しい風呂場の場面となります。ここからは緊張したやりとりた続きます。とくに、すべての下座音楽がとまった中で、幡随長兵衛最後の立ち回りは、悲しいけど美しい。日本人の美学が集約されているような気がしました。そして、歌舞伎の素晴らしさを体験できると思います。
この幕、大向こうさんが中央通路の入り口付近で立ち見で声を出していました。張り切って声を出していましたので、こちらもおもわず声をあげそうになってしまいました。
夜の部の報告は少々お待ちください。