おばちゃんへの道 誉めたくなる衝動
昔、姉がまだ20代の頃の話・・・。
母と一緒に出かけた姉が、帰ってくるなりえらく怒っていた。
姉が話し始めた。
母と電車に乗っていると、自分たちの向かい側に
姉も息をのむような・・・肌が透けるように真っ白で
それはそれは美しい女性が立っていたそーな・・・。
姉はその女性に聞こえないように小さな声で母に言った。
「ねぇ、すごく肌が綺麗な人ね」
すると、母は何を思ったか、
いきなりスタスタとその女性の元に歩いて行き・・・
その女性に向かって、恥ずかしがることもなく、
堂々とこう言ったという。
そして、それだけ伝えると、何もなかったように
また元も場所へ戻ってきた・・・。
姉は言った。
姉は、私に話しながらまた恥ずかしさがこみ上げてきたようで、
勘弁してもらいたわ! と言った感じに怒っていた。
ところが、母はというと、全然懲りてはいない様子で・・・
良いことをしたような満足げな表情でそう言った。
そんな母を見て、私は思った。
自分はおばさんになっても、こんなことはできやしないと。
その数日後のこと。
ロサンゼルス便に乗務した時のことだ。
私はいつも通りに仕事をしていた。
10時間以上のフライトを終え、まもなくロサンゼルスに到着だ。
私がギャレー(カーテンで仕切られた台所)の後片付けをしていた時だった。日本人の若い女性が私に声を掛けてきた。
彼女は私に向かってこう言った。
ヒーーーッ!!
同業者とは嫌なものだ。
自分もそうしてしまうように、ついつい他社のサービスを
厳しい目で観察してしまうもの・・・。
「そうなら、そうと始めから言ってよ!」(言う必要なんてないけどさ)
と心の中で毒付きながら・・・
一体何を言われるというのだ? 私は身構えた。
すると、彼女は話し始めた。
この頃、仕事が楽しくなかったこと。
辞めてしまおうかと悩んで、そして、気分転換で休暇を取ってこのフライトに乗ったこと。
でも・・・
あなたの笑顔に感動しました!
私もまたあなたのように笑顔でお客様にサービスしたいと思ったんです! ありがとうございました。
驚いたことに、彼女は泣いていた。断っておくが、私は勤務態度を誉められるような優秀な客室乗務員では決してなかった。いつも笑顔で最高のサービスを心がけるパーフェクトな乗務員には程遠いドジでのろま・・・いえ、せっかちな亀・・・いえ兎? 与えられた仕事は、何でも素早く雑にこなすだけの。
でも、彼女にそんな話をされたら・・・私まで号泣だよ!!
なぜかギャレーの中で、その女性と抱き合って、ワンワン泣いてしまった。まるでご対面番組の1シーンのように・・・。一緒に泣いて下さる徳光さんはいないけど・・・いや、いないどころか、他の乗務員が何事か? と怯えていたわ・・・。(そりゃそーだ)
その時、思った。
彼女の一言で私はすごく嬉しかったし、大きな励みになった!
母が言った。
「誉められて嫌な気持ちになる人はいない」
って、わからなくもないわ・・・と思った出来事。
でもね・・・う・・・ん。
やっぱり電車の中でいきなり初対面の人に
「肌が綺麗ね~」なんて言うのと、これは違うわよね・・・。
私には出来ない! 絶対に出来ない!
20代の私はそう思っていた。
ところが、どうしたというの?
遺伝子のいたずらか? いいえ、加齢がなせる業というべき?
この頃、私は見も知らない人であれ、良いところが目に入ると、
誉めてあげたい、いえ、誉めたい衝動に駆られるようになってきたじゃない?
しかし、私はまだまだ母の域には達せない。
わずかに残る羞恥心がそれを邪魔する。
でも、言いたいけどとても言えないわ・・・。
だって、そんなこと言ったら、ただの変な人じゃない私?
ところが、先日、いつも行くスーパーで、
実習生のバッチをつけた青年がテキパキと仕事をこなしていた。
才能があるのだろう。実習生とは思えないスピードである。
バーコードを瞬時にどこについているのか探し、バーコードリーダーに
読み込んで行く・・・無駄な動きが1つもない。とてもクールに仕事をこなしていく。
休日のタイムセールの時間帯、レジ待ちはどこも長蛇の列だ。
しかし、彼の担当の列だけ、すごい順番が進むのが早かった。
そして、会計が終わると、最高にスイートな笑顔で挨拶した。
それはまるでクールなウエンツがスイートなウエンツに挟まれている? と錯覚してしまいそうな・・・
私は正直に言いたかった。
でも、言えない! わずかに残る乙女心がそれを阻止する。
でも、誉めずにはいらなかった。だって、本当に素晴らしかったんだもん。
そうだ! 長々言ったら、引かれるし、おばちゃん臭いけど、
この感動した気持ちを短く伝えるだけなら・・・別にいいよね?
そう思った時、私の口が開いた。
「実習生なのに、よく頑張った!」
それだけ言うと私はレジを後にした。
伝えたいことを伝えられて、大満足で袋つめの台で
作業に取り掛かった私に向かって、一部始終を見ていた夫が冷ややかにこう言った。
そして、続けた。
「それにあなた、何様だよ・・・?
スーパーの店長が言うならまだわかるけどさ・・・」
いいのだ! いいんだ!
感動したこの気持ちが伝えられて・・・私は大満足なんだから・・・。
そう、おばちゃんの特徴・・・
ゴーイングマイウェイ、他人の意見に耳を貸さない。
このようにして私も確実におばちゃんの階段を上がっていくんだ。
いや、もうかなり上がっている?
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前回の記事にもたくさんのコメントどうもありがとうございました。あーん、ほうれん草、えのき、水菜・・・わかるわかる! ほうれん草なんて、雑に取ろうとすると、裂けちゃって大変なことになってしまいますね~わかる!
皆さんのコメント読んで、大爆笑! しかし、実は笑えない・・・すべて経験済み・・・。
では、今日も最後までお付き合いくださり、ありがとう!
コメント
コメント一覧 (1)
特に駅のエスカレーターの時なんかそうね。
「あら、前の人カッターシャツに(古い言い回し)髪の毛ついてるわ。取ってあげたい」とか「あのスーツシワシワ。奥さんアイロンしてあげないのかな?独りもんか?」等。
多分私が駅の階段を使えばそんなこと考える暇はないはずだわね!
髪の毛やら糸屑やら、ストッキング伝線などうっかり触ったり声かけたら今のご時世、気味悪がられるから黙ってこらえるけど。おばちゃんになってきた証拠ね。