MAKE YOU FEEL COMFORTABLE ~まあおたいらに~Make Yoursef At Home - Haiku Blog of Muku Watanabe | 渡邊むく俳句ブログ~まあおたいらに~ 「雛」掲載句
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背伸びして滅びし世あり豆桜

「雛」掲載句(2020年)

2020/04/10 Fri

   掲載句・掲載記事 (2020年)





  『雛』 2020年3月号


        一の酉やげん堀とは粋な苞

        (いちのとり やげんぼりとはいきなつと)
        2020年3月号 福神規子主宰選



        颯々と老いゆく音の落葉踏む

        (さつさつと おいゆくおとのおちばふむ)
        2020年3月号 福神規子主宰選



        日向ぼこ牡鹿の角のちよと動く

        (ひなたぼこ おじかのつののちょとうごく)
        2020年3月号 福神規子主宰選



        ふるさとの恋しき日なり雪もよひ

        (ふるさとのこいしきひなり ゆきもよい)
        2020年3月号 福神規子主宰選

 選評(秀句鑑賞): たしかむくさんのふるさとは北の地だと伺った。ふるさとはいくつになっても恋しいものだ。「雪もよひ」の季題を得て、一句は詩になった。

句 集 を 読 む

小島一慶句集 『入口のやうに出口のやうに』


 小島一慶さんは主にラジオを舞台に五十年間活躍してこられた著名なアナウンサー。句歴十二年ということだが、昭和十九年のお生まれなので、俳句を始めたのは還暦を過ぎてからということになる。

   道は未知孫六歳のクリスマス

 こんな好々爺然とした句も作者像の一面ではある。しかし、この句集の読者の多くは、むしろ作者の感性の若々しさや詩精神のしなやかさといった面に驚かされるのではないかと思う。

   この先の狂気は知らず初桜

   入口のやうに出口のやうに夏至

   きつと居る浮かぬ顔している水母

   棒立ちといふコスモスのなかりけり

   後の月砂丘は影を置くところ

 対象の捉え方のユニークさや巧みさが際立つ。
 ラジオアナウンサーは言葉と常に真剣の立ち合いが求められる職業。句集の「あとがき」には、その苦労話も披歴されているが、その中で作者は、「アナウンサーの言葉はひたすら外へ向かう」、「沈黙が怖い」、それに対して「俳人の言葉はひたすら内へと向かう」、「沈黙を怖れない」と記している。俳句に惹かれた所以であると言う。

   まんじゆしやげ二度つぶやけば呪文めく

 一見ひょうきんとも取れる軽妙な句だが、話芸の達人である作者が、「呪術性」という言葉の持つ本質の一つをいかに強く意識しているかを窺わせる句である。

   如何やうな罪の烙印山女の斑

 女学生の頃は愚妻も小島一慶ファンだったというほどだから、言葉使いの達人である作者は女性にも大もてだったに違いない。秘かなロマンスがマスコミの俎上に載ったりもした。

   恋なのか愛なのか春泥なのか

   もて余す小骨鰊も人生も

 作者の古傷に触れようというのではない。「叩けば埃の一つや二つ」は誰にもある。

   円熟の果てにありけり柘榴の実

   醜聞といふ華やぎや枯蓮

 家族への過去の不忠も包み隠すことをしない正直な作者である。この句集はそのご家族の温かい協力があって結実したという。

   告白にとほき告知や星祭

 作者は平成三十年七月にステージ4の肺がんの告知を受け、現在闘病中とのこと。作者のご快癒と長命を祈って止まない。作者の母を偲ぶ句を最後に本稿を閉じます。

   秋風やからんと軽き母の骨




  『雛』 2020年2月号


        新しき鹿の疵増え森冬に

        (あたらしきしかのきずふえ もりふゆに)
        2020年2月号 福神規子主宰選



        玄孫と筑前ことば日向ぼこ

        (やしゃまごとちくぜんことば ひなたぼこ)
        2020年2月号 福神規子主宰選



        黄落のもつとも窓を明るうす

        (こうらくの もっともまどをあかるうす)
        2020年2月号 福神規子主宰選




  『雛』 2020年1月号


        見違へて予後を元気に秋の犬

        (みちがえてよごをげんきに あきのいぬ)
        2020年1月号 福神規子主宰選



        鵙高音お中道より下り来しや

        (もずたかね おちゅうどうよりおりきしや)
        2020年1月号 福神規子主宰選



        秋日和全粒粉のパンを焼く

        (あきびより ぜんりゅうふんのぱんをやく)
        2020年1月号 福神規子主宰選

 選評(秀句鑑賞): 全粒粉とは小麦の粒の表皮や胚芽をすべて挽いて粉にしたもので、普通の小麦粉より栄養価が高く、少し茶色っぽいそうだ。秋日和の一日、作者はエプロン姿に見様見真似でパン作りに励まれたようだ。果たして全粒粉のパンがこんがりと焼きあがった。いかにも健康に良さそうだと満足気な作者の笑顔が見て取れる。



 カテゴリーの“「雛」掲載句”をクリックすると、過去の全掲載句を一覧することが出来ます。


                月刊「雛」: 編集・発行人 福神規子
                発行所:   〒155-0033 東京都世田谷区代田6-9-10 雛発行所
                誌代:    月900円(年間10,800円)。

 ※ 「雛」の見本誌をご希望の方は上記発行所にご請求ください。
    (または、当ブログのコメント欄にその旨をお書き込みくだされば取次いたします。)
 ※ 「雛」は、高濱虚子、星野立子に師事し、ホトトギス本流の諷詠の道一筋に歩みながら独自の詩境を耕された先師、高田風人子先生主宰の「惜春」の後継誌として発足した、福神規子先生を主宰とする未来を志向する句誌です。)




 ご訪問ありがとうございました。


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テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術

「雛」掲載句(2019年)

2019/11/21 Thu

   掲載句・掲載記事 (2019年)



※ 『雛』2019年7月号、8月号の掲載句を追加更新しました。


  『雛』 2019年8月号


        輝きつ羽ばたく十字揚ひばり

        (かがやきつはばたくじゅうじ あげひばり)
        2019年8月号 福神規子選



        鈴虫草なども見つけて森涼し

        (すずむしそうなどもみつけて もりすずし)
        2019年8月号 福神規子選



        郭公や妻は左を吾は右を

        (かっこうや つまはひだりをあはみぎを)
        2019年8月号 福神規子選



東京吟行会 (2019年6月13日) 福神規子先生選


       枇杷実る路地を曲がれば信誠寺

        (びわみのるろじをまがれば しんじょうじ)


心に残る一冊 (『雛』2019年8月号掲載)

 『剛力伝』 新田次郎著

 新天皇陛下は、皇太子時代のご趣味の一つが登山で新田次郎のファンでもあったと聞き知って親しみを覚えた。健全な精神を養う努力を惜しまない姿勢が感じられたからである。
 『強力伝』は新田次郎(本名藤原寛人)が気象庁に務める傍ら昭和三十年に発表した短編小説である。氏の処女作と言われるこの作品は、洗練された文章ではないにも係わらず、過去にない斬新な内容と評価されて直木賞を受賞した。
 ― 富士山の強力である小宮には、自分は坂田金太郎の再来という秘かな自負があった。小宮は白馬山頂に風景指示盤の石を人力で運び上げるという新聞社の企画に応じて、それに挑んだ。指示盤は何個かの石の組立構造で最も重い石の重量は五十貫(百八十七・五㎏)あった。小宮は五十貫の石を背負って山頂へ担ぎ上げたが、その無理が祟って世を去る ― というのが小説の粗筋である。
 『強力伝』の後書に作者はこう記している ― この小説の主人公は当時富士山観測所(後富士山測候所と改名)の強力をしていた小見山正君をモデルとして書いたものである。作中の風景指示盤は白馬山頂に現存する ―
 映画化されたものも少なくない新田作品にあって、一人の男の不条理な行動を描いたこの短編は未だに映画化されていない。その理由の一つは、不条理を正鵠にメッセージすることの難しさにあるのではないか。そもそも、作者はなぜこの小説を書いたのか、いや、書かずにはいられなかったのか。それを窺い知るヒントが、新田次郎という人の経歴の中に潜んでいるように思う。
 昭和七年、中央気象台(現気象庁)入庁、富士山測候所に配属。昭和十四年、両角てい(後藤原てい=作家)と結婚。昭和十八年、満州国観象所(中央気象台)に転職。昭和二十年、三児の父となり敗戦、ソ連軍の捕虜となり、中国共産党軍にて一年間抑留生活。昭和二十一年、帰国、中央気象台に復職。昭和二十四年、妻ていが満州引揚体験を基に書いた小説『星の流れに生きている』が評判になる。
 新田次郎は妻の成功に動かされて『強力伝』を書いたと言われるが、その希求の根源はやはり抑留・引揚体験だったのではないか。公僕藤原寛人としては妻のように自由に物を書くことに制約もあっただろう。『強力伝』は、その制約の中で、新田が戦争というもう一つの不条理を背負って書いた作品である。




  『雛』 2019年7月号


        犬ふぐり老師の恙案じゐて

        (いぬふぐり ろうしのつつがあんじいて)
        2019年7月号 福神規子選



        花満ちて吉祥天の空かとも

        (はなみちて きちじょうてんのそらかとも)
        2019年7月号 福神規子選


東京吟行会 (2019年5月9日) 福神規子先生選


       花は葉に四十九日を目前に

        (はなははに しじゅうくにちをもくぜんに)


春 秋 箋 (『雛』2019年7月号掲載)

  「惜春」入会の思い出
 「主人は変っておりまして、マスコミの取材も全部断ってしまいます。もう新しい弟子も取らないと申しています。」そう仰りながら喜子奥様は言葉を続けた。「惜春」に入会したいと、風人子先生のご自宅にお電話を申し上げた時のことである。八月も終りの頃だった。「主人のどんな句が気に入りましたか?」思いがけない質問に面食らったが、咄嗟に「嫌はれてしまへば自由油虫」の句が思い浮かんだ。しかし、この句が好きですとは言いにくく、もう一つ思い出した「前世は竜でありしと蚯蚓言ふ」の句が好きですとお答えした。「それはまた変わった句を…」と奥様。先生のご自宅からは雑木山一つ隔てた吉井に住んでいますとお伝えしたことが功を奏したか、「惜春」の見本誌をお送りいただけることになった。宅配便で届いた小さな段ボールには、横須賀吟行会の連絡先が載っている見本誌と共に、先生の句集『惜春譜』、『明易し』と『一言多言集』が同梱されていた。先生に初めてお目にかかったのは翌九月の横須賀吟行会。集合場所の横須賀中央駅のYデッキに、杖を手にしてエスカレータで上がって来られるや、「渡邊むくさんはいますか?」。初めてお聞きした先生のお声に、早世して久しい父に会ったような懐かしさを覚えた。




  『雛』 2019年6月号


        松毟鳥しらびその枝に雪残り

        (まつむしり しらびそのえにゆきのこり)
        2019年6月号 福神規子選



        花ミモザボンボニエールに収めたき

        (はなみもざ ぼんぼにえーるにおさめたき)
        2019年6月号 福神規子選

選評(秀句鑑賞): ボンボニエールとは砂糖菓子を入れる小さな丸みを帯びた菓子器で、日本では皇室のお祝い事に贈られる品として知られている。その器にミモザの花を入れたいとの遊び心はお洒落だ。


        頬白の声に背筋を意識して

        (ほおじろのこえに せすじをいしきして)
        2019年6月号 福神規子選




  『雛』 2019年5月号


        枯葎あやふく撃たれさうになる

        (かれむぐら あやうくうたれそうになる)
        2019年5月号 福神規子選



        紅梅のわけても好きなをのこ吾

        (こうばいのわけてもすきなおのこ われ)
        2019年5月号 福神則子選



        宿木に連雀の来て山湖春

        (やどりぎにれんじゃくのきて さんこはる)
        2019年5月号 福神規子選


東京吟行会 (2018年3月14日) 福神規子先生選


       苗札やハイウェイローズとはどんな

        (なえふだや はいうぇいろーずとはどんな)


春 秋 箋 (『雛』2019年5月号掲載)

 海抜千メートルの山中湖村は山梨県内の全市町村でもっとも寒いとされている。蠟梅も梅も育たず、柿も渋柿しか実らない。そんな寒冷地の冬にも鳥たちは元気。四十雀・小雀・日雀・山雀・柄長・河原鶸・赤啄木鳥・青啄木鳥・小啄木鳥・掛巣・鵙・鴲・鷽・菊戴・瑠璃鶲などの留鳥、尉鶲・鶫・花鶏などの渡り鳥である。湖畔の高木には毬のような宿木が実をたわわに実らせて、この村の春告鳥である黄連雀や緋連雀が来る日を待っている。



  『雛』 2019年4月号


        寒暁の紅富士色の鷽の胸

        (かんぎょうのべにふじいろのうそのむね)
        2019年4月号 福神規子選



        左義長やここにも富士の浅間社

        (さぎちょうや ここにもふじのせんげんしゃ)
        2019年4月号 福神規子選



        双子よとよろこぶ妻や寒玉子

        (ふたごよとよろこぶつまや かんたまご)
        2019年4月号 福神規子選

選評(秀句鑑賞): 割ってみるとまん丸い黄味が二つ並んでいた。思わぬ嬉しさを素直に喜ぶ妻や愛し。寒玉子の「寒」が効いている。




  『雛』 2019年3月号


        さ牡鹿の目のやさしさを悲しめり

        (さおしかのめのやさしさを かなしめり)
        2019年3月号 福神規子選



        日の昇り山湖しばらく冬の霧

        (ひののぼり さんこしばらくふゆのきり)
        2019年3月号 福神規子選

 ※ 原句「日昇りて山湖しばらく冬の霧」添削(規子先生):「添削によって言葉に余裕が生まれる分余韻が増す。」




  『雛』 2019年2月号


        日本のもみぢを描く子カナダの子

        (にっぽんのもみじをかくこ かなだのこ)
        2019年2月号 福神規子選



        妻の着くバスを待ちゐて冬ぬくし

        (つまのつくばすをまちいて ふゆぬくし)
        2019年2月号 福神規子選

選評(秀句鑑賞): 作者がむくさんと分かれば山中湖での作品か。一日早くやって来た作者は妻が乗っているはずのバスを楽しみに待っておられるのだろう。冬日に包まれながら…。



        実のはぜて真弓いよいよ真くれなゐ

        (みのはぜて まゆみいよいよまくれない)
        2019年2月号 福神規子選


東京吟行会 (2018年12月13日) 福神規子先生選


       師いく度通ひ来し道冬もみぢ

        (しいくたびかよいきしみち ふゆもみじ)

 ※ 規子先生のご指摘に基づき後日「師いく度通はれし道冬もみぢ」と推敲。


       激論を交せしあとの燗熱う

        (げきろんをかわせしあとの かんあつう)
        席題:熱燗


        冬薔薇一病を得て人やさし

        (ふゆそうび いちびょうをえてひとやさし)


春 秋 箋 (『雛』2019年2月号掲載)

 山中湖の名物のような霧。秋になって朝晩冷え込むようになるにつれ、夜が明けると湖面から霧が立ちあがる日が多くなる。湖の霧の上に浮かぶように聳える富岳は幻想的ですらある。冠雪の富士は曙光が差すとともに山頂から次第にうす紅を注してゆく。夏の赤富士に対し、これを紅富士と呼んだりもする。週末ともなると、富士山絶景ポイントでは厳寒にも負けないカメラマンが徹夜で紅富士を待っている。



  『雛』 2019年1月号


        塔頭の塀より高き紫苑かな

        (たっちゅうのへいよりたかき しおんかな)
        2019年1月号 福神規子選



        富士澄めりコスモスの色日々に濃く

        (ふじすめり こすもすのいろひびにこく)
        2019年1月号 福神規子選




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                月刊「雛」: 編集・発行人 福神規子
                発行所:   〒155-0033 東京都世田谷区代田6-9-10 雛発行所
                誌代:    月900円(年間10,800円)。

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 ※ 「雛」は、長年高濱虚子、星野立子に師事し、ホトトギス本流の諷詠の道一筋に歩んで来られた先師高田風人子先生主宰の「惜春」の後継誌として発足した、福神規子先生を主宰とする句誌です。)




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「雛」掲載句(2018年)

2019/05/10 Fri

   掲載句・掲載記事 (2018年)




  『雛』 2018年12月号


        初鵙や何か急かされゐるやうな

        (はつもずや なにかせかされいるような)
        2018年12月号 福神規子選



        富士に灯の絶へて即ち秋気満つ

        (ふじにひのたえて すなわちしゅうきみつ)
        2018年12月号 福神規子選



        秋気満つ日々に親しきけものたち

        (しゅうきみつ ひびにしたしきけものたち)
        2018年12月号 福神規子選


雛 散 歩

 忍野富士と岡田紅陽


 現在使われている千円札や旧五千円札の裏にデザインされている富士山は、プロ写真家の草分けである岡田紅陽(明治二八~昭和四七年)の作品「湖畔の秋」を図案化したものである。一眼レフすらまだ世に登場していなかった時代に、若き紅陽は東京府の委託によって関東大震災(大正十二年)の記録写真を撮り、これを写真集として出版して世に知られるようになった。乾板、銀板を使って写真を撮影していた時代の話である。
 もとより富士山撮影に生涯を捧げると決めていた紅陽は、拠点と定めた富士山北麓の忍野村を中心に、五十余年にわたって約四十万枚の富士山写真を撮った。当初、忍野へは大月から富士道を歩いて通ったという。
 厳寒の忍野は気温が氷点下十五度ぐらいまで下がる。紅陽は撮影のためには真冬の富士山に登ることも辞さなかった。重そうな三脚の傍に褞袍を羽織り手拭で頬被りして立っている紅陽の肖像写真が残っている。
 忍野の村や近郷の山から撮った富士山、河口湖や本栖湖に足を伸ばして撮った富士山など、紅陽が撮った数々の、時には奇跡的でさえある白黒の富士山には、今日の富士山写真家の色彩感溢れる作品よりも胸を打たれる。風景写真を芸術にまで高めた紅陽の執念が伝わってくる。紅陽は富士山写真以外にも「国立公園十二勝」などの多くの風景写真を撮り、日本各地の観光発展に寄与した。
 忍野村を訪ねた時に夏野菜畑で出遭った老人がこう語った。「岡田紅陽写真美術館がある場所から、以前は佳い富士山が見えた。カメラマンが毎日行列していたよ。今は来なくなったね。」
 景色も変わったのだろうが、人々の写真撮影スタイルも変わったのだと思う。当世は、車を運転しさえすれば、紅陽の時代には考えられなかったほど簡単に目的の撮影地に行けるようになった。夜明けのパール富士撮影も夕暮れのダイヤモンド富士撮影も、車の中で待っていれば大いに寒さをしのげる。携帯電話で仲間と「今〇〇に来ている。赤富士は今イチかも。そっちはどう?あ、そう。今から移動しようかな。」などと連絡も取り合える。
 カメラも、今ではフィルムなど要らないデジタル一眼レフ時代になった。万事便利になった時代を、紅陽はどんな顔で見守っているのだろう。

   富士澄めりコスモスの色日々に濃く  むく





  『雛』 2018年11月号


        診療所吾も避暑地の村人と

        (しんりょうじょ われもひしょちのむらびとと)
        2018年11月号 福神規子選



        盆の月富士に灯の連なりて

        (ぼんのつき ふじにあかりのつらなりて)
        2018年11月号 福神規子選



        釣舟草水流れては澱みては

        (つりふねそう みずながれてはよどみては)
        2018年11月号 福神規子選



        妻に聞こへ吾に聞こへぬ鉦叩

        (つまにきこえわれにきこえぬ かねたたき)
        2018年11月号 福神規子選




  『雛』 2018年10月号


        星涼し妻のめまひの治まりて

        (ほしすずし つまのめまいのおさまりて)
        2018年10月号 福神規子選


        老二人ほどよき汗をかやと山

        (おいふたりほどよきあせを かやとやま)
        2018年10月号 福神規子選


        大型のキャンピングカー老元気

        (おおがたのきゃんぴんぐかー おいげんき)
        2018年10月号 福神規子選


        日盛やきれいにお辞儀して行く子

        (ひざかりや きれいにおじぎしてゆくこ)
        2018年10月号 福神規子選

選評(秀句鑑賞): かんかん照りの中を礼儀正しくお辞儀して去ってゆく子を見かけた。その健気さに好感を持っての一句。



  『雛』 2018年9月号


        若葉冷灯油の匂ふ杣の家

        (わかばびえ とうゆのにおうそまのいえ)
        2018年9月号 福神規子選



        遊船の桟橋閉ぢて湖暮るる

        (ゆうせんのさんばしとじて うみくるる)
        2018年9月号 福神規子選



        句座久し現るる人みな涼し

        (くざひさし あらわるるひとみなすずし)
        2018年9月号 2018年7月22日横須賀吟行会 風人子先生後選




  『雛』 2018年8月号


        朴の花標高高き出湯の宿

        (ほおのはな ひょうこうたかきいでゆのやど)
        2018年8月号 高田風人子選



        幼らの気付かざりしよ朴の花

        (おさならのきづかざりしよ ほおのはな)
        2018年8月号 高田風人子選



        朴の花訛り豊かに杣語り

        (ほおのはな なまりゆたかにそまがたり)
        2018年8月号 福神規子選




  『雛』 2018年7月号


        海うしの雨ふらしのと春の磯

        (うみうしのあめふらしのと はるのいそ)
        2018年7月号 高田風人子選



        ささやかに耕し大き富士仰ぐ

        (ささやかにたがやし おおきふじあおぐ)
        2018年7月号 高田風人子選



        花こぶし富士の農鳥遠からず

        (はなこぶし ふじののうとりとおからず)
        2018年7月号 福神規子選



        天と地の何かが違ひ花冷ゆる

        (てんとちのなにかがちがい はなひゆる)
        2018年7月号 福神規子選




  『雛』 2018年6月号


        髭剃つたり剃らなかつたり老の春

        (ひげそったりそらなかったり おいのはる)
        2018年6月号 高田風人子選



        忘れ雪一誌にありし彼女の名

        (わすれゆき いっしにありしかのじょのな)
        2018年6月号 高田風人子選



        雛飾る手作りの遺句集も添へ

        (はつしぐれ ひびにでんわはするものの)
        2018年6月号 福神規子選

※ 2018年1月7日義母田島伸枝逝く。遺句集は義母が所属していた『天為』横須賀句会の松浦泰子さん他の諸氏の手による。


        啓蟄や菜園のある庵欲し

        (けいちつや さいえんのあるいおりほし)
        2018年6月号 福神規子選




  『雛』 2018年2月号


        母強し嬰をも負ひて秋の尾根

        (ははつよし ややをもおいてあきのおね)
        2018年2月号 高田風人子選



         一山を無事にくだりて社秋

         (いちざんをぶじにくだりて やしろあき)
         2018年2月号 高田風人子選



         初しぐれ日々に電話はするものの

         (はつしぐれ ひびにでんわはするものの)
         2018年2月号 福神規子選



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                月刊「雛」: 編集・発行人 高田風人子 福神規子
                発行所:   〒155-0033 東京都世田谷区代田6-9-10 雛発行所
                誌代:    月900円(年間10,800円)。

 ※ 「雛」の見本誌をご希望の方は上記発行所にご請求ください。
    (または、当ブログのコメント欄にその旨をお書き込みくだされば取次いたします。)
 ※ 「雛」は、長年高濱虚子、星野立子に師事し、ホトトギス本流の諷詠の道一筋に歩んで来られた高田風人子先生主宰の「惜春」の後継誌です。(「雛」主宰:福神規子先生)




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「雛」掲載句(2017年)

2019/05/09 Thu

   掲載句・掲載記事 (2017年)




(2017年11月号)



 雑詠(風人子選)

         さがみ野の果てて足柄稲の花

         (さがみののはててあしがら いねのはな)


         山百合や十里木関所址とあり

         (やまゆりや じゅうりぎせきしょあととあり)


 かぎろひ抄(福神規子選)

         提灯の火影に仄か夜干し梅

         (ちょうちんのほかげにほのか よぼしうめ)



(2017年10月号)



 雑詠(風人子選)

         花合歓の雨に濡れゐる別れかな

         (はなねむのあめにぬれいる わかれかな)


         釣人であつたか動かない日傘

         (つりびとであったか うごかないひがさ)


 かぎろひ抄(福神規子選)

         黄鶲やペールギュントの靄の朝

         (きびたきや ぺーるぎゅんとのもやのあさ)



(2017年9月号)



 雑詠(風人子選)

         友来ると空の気がかり梅雨入前

         (ともくるとそらのきがかり ついりまえ)


         尾根に人五月富士見て箱根見て

         (おねにひと ごがつふじみてはこねみて)


         いま一つ登りたき山梅雨入前

         (いまひとつのぼりたきやま ついりまえ)


 かぎろひ抄(福神規子選)

         散るときの楓の花の竹とんぼ

         (ちるときのかえでのはなの たけとんぼ)


         山登り留守居の妻に電話をし

         (やまのぼり るすいのつまにでんわをし)


 7月23日横須賀吟行会(風人子選)

         炎昼や古墳にあんにやもんにやの木

         (えんちゅうや こふんにあんにゃもんにゃのき)



(2017年8月号)



 雑詠(風人子選)

         雉啼いてまた雉啼いて日の暮るる

         (きじないてまたきじないて ひのくるる)


         鉄線花藍深ければ姉のこと

         (てっせんか あいふかければあねのこと)


 かぎろひ抄(福神規子選)

         巴里に食ぶソフトクリーム橡の花

         (ぱりにたぶそふとくりーむ とちのはな)



(2017年7月号)



 雑詠(風人子選)

         腹病みて逝きし御仏花樒

         (はらやみてゆきしみほとけ はなしきみ)


         春惜しむ「折々のうた」ありて今日

         (はるおしむ おりおりのうたありてきょう)


 かぎろひ抄(福神規子選)

         小鈴振る観音堂の花馬酔木

         (こすずふる かんのんどうのはなあせび)


         山桜この道ここで行き止まり

         (やまざくら このみちここでゆきどまり)



(2017年5月号)



 雑詠(風人子選)

         頬白に倣ひてまろき背を伸ばす

         (ほおじろにならいて まろきせをのばす)


         花あけび垣根を低う谷戸に住む

         (はなあけび かきねをひくううやとにすむ)


 かぎろひ抄(福神規子選)

         紅が佳し更紗が好きと木瓜の花

         (べにがよしさらさがすきと ぼけのはな)


         山妻の春光纏ひ戻り来し

         (やまづまの しゅんこうまといもどりきし)


 4月23日横須賀吟行会(風人子選)

         杖を手に十二単を見てをられ

         (うえをてに じゅうにひとえをみておられ)




(2017年4月号)



 雑詠(風人子選)

         少しづつ暮しの変はり去年今年

         (すこしづつくらしのかわり こぞことし)


         事故原因調査報告初仕事

         (じこげんいんちょうさほうこく はつしごと)


         寒すばる羽田を発ちし深夜便

         (かんすばる はねだをたちししんやびん)


 かぎろひ抄(福神規子選)

         遠山に雪クレヨンの絵のごとく

         (とおやまにゆき くれよんのえのごとく)



(2017年3月号)



 雑詠(風人子選)

         行者めき片足に立つ冬の鷺

         (ぎょうじゃめき かたあしにたつふゆのさぎ)


         万歩計冬の朝日が今沖に

         (まんぽけい ふゆのあさひがいまおきに)


         髭剃つて顎に傷つき十二月

         (ひげそってあごにきずつき じゅうにがつ)


 かぎろひ抄(福神規子選)

         奈良よりの師の参られし報恩会

         (ならよりのしのまいられし ほうおんえ)


 1月12日東京吟行会(風人子先生後選)

         とある駅寒梅の紅濃かりけり

         (とあるえき かんばいのべにこかりけり)



(2017年2月号)



 雑詠(風人子選)

         菊花の日昭和も遠くとは言はじ

         (きくかのひ しょうわもとおくとはいわじ)


         付き合つてあげると言ふ子冬うらら

         (つきあってあげるというこ ふゆうらら)


 かぎろひ抄(福神規子選)

         釣れるたび父呼ぶ少女磯小春

         (つれるたびちちよぶしょうじょ いそこはる)


         紅葉かつ南京櫨の実のま白

         (もみじかつ なんきんはぜのみのましろ)



(2017年1月号)



 雑詠(風人子選)

         妻何か編む色鳥を待ちながら

         (つまなにかあむ いろどりをまちながら)


         野紺菊あさぎまだらはいつ旅へ

         (のこんぎく あさぎまだらはいつたびへ)


         小鳥食べきれぬほどの実山法師

         (ことりたべきれぬほどのみ やまぼうし)


 かぎろひ抄(福神規子選)

         新走り卒寿の母と交はすべく

         (あらばしり そつじゅのははとかわすべく)


         大津絵の鬼も仏も秋うらら

         (おおつえのおにもほとけも あきうらら)


 11月10日東京吟行会(風人子先生後選)

         席題:「柿落葉」

         柿落葉色愛づるべく拾ふべく

         (かきおちば いろめづるべくひろうべく)


 11月27日横須賀吟行会(風人子選)

         浮寝鳥入江ときどき魚の跳ね

         (うきねどり いりえときどきうおのはね)


         吾も今朝は少しく寝坊浮寝鳥

         (あもけさはすこしくねぼう うきねどり)



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                発行所:   〒155-0033 東京都世田谷区代田6-9-10 雛発行所
                誌代:    月900円(年間10,800円)。

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「雛」掲載句(2015年~2016年)

2016/01/30 Sat

   掲載句・掲載記事




(2016年12月号)



 雑詠(風人子選)

         来し方の思ひ出の縷々曼殊沙華

          (こしかたのおもいでのるる まんじゅしゃげ)


         葛の花こぼるる小谷戸水早し

          (くずのはなこぼるるこやと みずはやし)


         妻に名を訊ねてばかり草の花

          (つまになをたずねてばかり くさのはな)


 10月23日横須賀吟行会(風人子選)


         一輪の茶の花留守を守る母へ

          (いちりんのちゃのはな るすをもるははへ)


         野のものの常かな油点草こぶり

          (ののもののつねかな ゆてんそうこぶり)



(2016年11月号)



 雑詠(風人子選)

         銀輪に親しみ街へ夕立あと

          (ぎんりんにしたしみまちへ ゆだちあと)


         オムレツを返すは苦手避暑の朝

          (おむれつをかえすはにがて ひしょのあさ)


 9月25日横須賀吟行会(風人子選)

         曼殊沙華思ひは徐々に昔へと

          (まんじゅしゃげ おもいはじょじょにむかしへと)


         久々の朋みな笑顔小鳥来る

          (ひさびさのともみなえがお ことりくる)




(2016年9月号)



 雑詠(風人子選)

         金蘭花溶岩の樹海の木漏れ日に

          (きんらんか らばのじゅかいのこもれびに)


         茱萸沢のここより棚田雪解富士

          (ぐみさわのここよりたなだ ゆきげふじ)


         茱萸摘みて先の戦の話など

          (ぐみつみて さきのいくさのはなしなど)




(2016年8月号)



 雑詠(風人子選)

         山笑ふ噴煙のやや鎮まりて

          (やまわらう ふんえんのややしずまりて)


         往来を雉悠然と渡りけり

          (おうらいを きじゆうぜんとわたりけり)




(2016年5月号)



 雑詠(風人子選)

         雪だなやくらんこむくりして遊ぼ

          (ゆきだなや くらんこむくりしてあそぼ)


         胼薬捨てようとして母のこと

          (ひびぐすり すてようとしてははのこと)


         同郷の女将嬉しや凍大根

          (どうきょうのおかみうれしや しみだいこ)


         凍つる夜の回つてゐない観覧車

          (いつるよの まわっていないかんらんしゃ)




(2016年4月号)



 雑詠(風人子選)

         引いてから山雀の来る初御籤

          (ひいてからやまがらのくる はつみくじ)


         海に日の薄き一日かいつぶり

          (うみにひのうすきいちにち かいつぶり)


 2月11日東京吟行会(風人子先生後選)

         ひと回り雀小さくなつて春

          (ひとまわりすずめちいさくなって はる)


         二ン月の原爆ドームに行くと言ふ

          (にんがつの げんばくどーむにゆくという)




(2016年2月号)



 12月27日横須賀吟行会(風人子選)

         メンバーズカード流行りや街師走

          (めんばーずかーどばやりや まちしわす)




(2016年1月号)



 雑詠(風人子選)

         母も外へ出でて見上ぐる鷹柱

          (ははもとへいでてみあぐる たかばしら)


         落城の悲話に十月桜かな

          (らくじょうのひわに じゅうがつざくらかな)




(2015年12月号)



 雑詠(風人子選)

         嫌はれて自由の風に悪茄子

          (きわわれてじゆうのかぜに わるなすび)


         草の名を訊ね訊ねてホ句の秋

          (くさのなをたずねたずねて ほくのあき)


 10月25日横須賀吟行会(風人子選)



         また一羽鵯の来る寺庇

          (またいちわひよどりのくる てらびさし)
          ※ 「俳句四季」2015年12月号掲載句


         教会のバザー賑はふ秋一日

          (きょうかいのばざーにぎわう あきひとひ)




(2015年11月号)



 9月27日横須賀吟行会(風人子選)

         桐一葉平和憲法危ふき世

          (きりひとは へいわけんぽうあやうきよ)




(2015年8月号)



 6月28日横須賀吟行会(風人子選)

         灯台の螺旋階段夏の雲

          (とうだいのらせんかいだん なつのくも)


         近ごろの髪のカラフル合歓の花

          (ちかごろのかみのからふる ねむのはな)





                月刊「雛」: 編集・発行人 高田風人子 福神規子
                発行所:   〒155-0033 東京都世田谷区代田6-9-10 雛発行所
                誌代:    月900円(年間10,800円)。

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プロフィール

Muku Watanabe-渡邊むく

Author:Muku Watanabe-渡邊むく
英語通訳業はほぼ自主引退。愛妻と二人で神奈川県秦野市でスローライフしています。山中湖の別宅で野鳥観察三昧に耽ったり。俳句のことに限らず、お気軽にコメントをくださると励みになります。

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