「雛」掲載句(2020年)
2020/04/10 Fri
雛 掲載句・掲載記事 (2020年)
『雛』 2020年3月号
一の酉やげん堀とは粋な苞
(いちのとり やげんぼりとはいきなつと)
2020年3月号 福神規子主宰選
颯々と老いゆく音の落葉踏む
(さつさつと おいゆくおとのおちばふむ)
2020年3月号 福神規子主宰選
日向ぼこ牡鹿の角のちよと動く
(ひなたぼこ おじかのつののちょとうごく)
2020年3月号 福神規子主宰選
ふるさとの恋しき日なり雪もよひ
(ふるさとのこいしきひなり ゆきもよい)
2020年3月号 福神規子主宰選
選評(秀句鑑賞): たしかむくさんのふるさとは北の地だと伺った。ふるさとはいくつになっても恋しいものだ。「雪もよひ」の季題を得て、一句は詩になった。
小島一慶句集 『入口のやうに出口のやうに』
小島一慶さんは主にラジオを舞台に五十年間活躍してこられた著名なアナウンサー。句歴十二年ということだが、昭和十九年のお生まれなので、俳句を始めたのは還暦を過ぎてからということになる。
道は未知孫六歳のクリスマス
こんな好々爺然とした句も作者像の一面ではある。しかし、この句集の読者の多くは、むしろ作者の感性の若々しさや詩精神のしなやかさといった面に驚かされるのではないかと思う。
この先の狂気は知らず初桜
入口のやうに出口のやうに夏至
きつと居る浮かぬ顔している水母
棒立ちといふコスモスのなかりけり
後の月砂丘は影を置くところ
対象の捉え方のユニークさや巧みさが際立つ。
ラジオアナウンサーは言葉と常に真剣の立ち合いが求められる職業。句集の「あとがき」には、その苦労話も披歴されているが、その中で作者は、「アナウンサーの言葉はひたすら外へ向かう」、「沈黙が怖い」、それに対して「俳人の言葉はひたすら内へと向かう」、「沈黙を怖れない」と記している。俳句に惹かれた所以であると言う。
まんじゆしやげ二度つぶやけば呪文めく
一見ひょうきんとも取れる軽妙な句だが、話芸の達人である作者が、「呪術性」という言葉の持つ本質の一つをいかに強く意識しているかを窺わせる句である。
如何やうな罪の烙印山女の斑
女学生の頃は愚妻も小島一慶ファンだったというほどだから、言葉使いの達人である作者は女性にも大もてだったに違いない。秘かなロマンスがマスコミの俎上に載ったりもした。
恋なのか愛なのか春泥なのか
もて余す小骨鰊も人生も
作者の古傷に触れようというのではない。「叩けば埃の一つや二つ」は誰にもある。
円熟の果てにありけり柘榴の実
醜聞といふ華やぎや枯蓮
家族への過去の不忠も包み隠すことをしない正直な作者である。この句集はそのご家族の温かい協力があって結実したという。
告白にとほき告知や星祭
作者は平成三十年七月にステージ4の肺がんの告知を受け、現在闘病中とのこと。作者のご快癒と長命を祈って止まない。作者の母を偲ぶ句を最後に本稿を閉じます。
秋風やからんと軽き母の骨
『雛』 2020年2月号
新しき鹿の疵増え森冬に
(あたらしきしかのきずふえ もりふゆに)
2020年2月号 福神規子主宰選
玄孫と筑前ことば日向ぼこ
(やしゃまごとちくぜんことば ひなたぼこ)
2020年2月号 福神規子主宰選
黄落のもつとも窓を明るうす
(こうらくの もっともまどをあかるうす)
2020年2月号 福神規子主宰選
『雛』 2020年1月号
見違へて予後を元気に秋の犬
(みちがえてよごをげんきに あきのいぬ)
2020年1月号 福神規子主宰選
鵙高音お中道より下り来しや
(もずたかね おちゅうどうよりおりきしや)
2020年1月号 福神規子主宰選
秋日和全粒粉のパンを焼く
(あきびより ぜんりゅうふんのぱんをやく)
2020年1月号 福神規子主宰選
選評(秀句鑑賞): 全粒粉とは小麦の粒の表皮や胚芽をすべて挽いて粉にしたもので、普通の小麦粉より栄養価が高く、少し茶色っぽいそうだ。秋日和の一日、作者はエプロン姿に見様見真似でパン作りに励まれたようだ。果たして全粒粉のパンがこんがりと焼きあがった。いかにも健康に良さそうだと満足気な作者の笑顔が見て取れる。
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月刊「雛」: 編集・発行人 福神規子
発行所: 〒155-0033 東京都世田谷区代田6-9-10 雛発行所
誌代: 月900円(年間10,800円)。
※ 「雛」の見本誌をご希望の方は上記発行所にご請求ください。
(または、当ブログのコメント欄にその旨をお書き込みくだされば取次いたします。)
※ 「雛」は、高濱虚子、星野立子に師事し、ホトトギス本流の諷詠の道一筋に歩みながら独自の詩境を耕された先師、高田風人子先生主宰の「惜春」の後継誌として発足した、福神規子先生を主宰とする未来を志向する句誌です。)
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テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
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