リスクを取れる深圳人、リスクを取れない日本人 -電子決済が実現する無人○○-
しがないラジオパーソナリティのgamiです.
最近、「深圳」に興味をもって、本を読んだり旅行に行ったり講演を聞きにいったりしました.
みなさんは、深圳と聞いてどんなイメージをもつでしょうか? そもそも知らない?大量の工場で安い賃金で粗悪品を大量生産している?中国のシリコンバレー?
深圳は、いま世界で一番注目されている都市の一つです.
今回は、2018年2月9日〜12日に実際に深圳に旅行をしてみて思ったことを中心に、本や講演で得た情報も含めて書いて行きます.
本を読んだ話はこちら. jumpei-ikegami.hatenablog.com
講演のメモはこちら. jumpei-ikegami.hatenablog.com
3行で言うと
- 東京に比べて深圳が著しく発展した要因は、リスクを取れたかどうか!
- 電子決済はすごい!電子決済があることで、あらゆる「無人化」が一気に現実感を増す
- これからの社会は、メイカーがつくる!
深圳は「下請け工場の街」ではない
深圳では、「ROYOLE」と「DJI」のショールームに行きました.
ROYOLEは、フレキシブルなディスプレイやセンサーで有名な企業です. www.royole.com
白を基調としたROYOLEのショールームには、最新の超薄型タッチセンサーを使った製品が並んでいます.
革製品の上にタッチセンサーを貼ったもの. これでゲーム画面をタッチ操作できます.
巻き取り式の、超薄型キーボードです. 普通に欲しい...
車載装置をイメージした、曲面タッチパネル式コンソール.
また、DJIは、ドローン業界における超有名メーカーです. www.dji.com
蜘蛛の巣のような変な建物の中にあります.
中には、小型のドローンから大型のものまで並びます.
ドローンの実演も行われていました. 写真は、記憶が確かなら、人の動きに反応して高さが変わるドローンです.
今回は訪れませんでしたが、WeChatで知られる巨大新興企業Tencentも、深圳にあります.
どの企業も、深圳に製造部門があるだけでなく、本社機能を構えています.
私は、深圳に行くまで「LEDなどの安い電子部品を大量に作っている街」くらいのイメージしかありませんでした. 実際に行ってみると、そのイメージは間違いであることを知りました.
深圳の街では高いビルやマンションが立ち並び、世界に通用する技術や製品をもった企業がビジネスをしています.
今なお、新しいビルがバコンバコン建設されています.
もちろん、深圳の中には別の企業からの受注生産をする小規模な工場もたくさんあります.
しかし、街としては、ただ小さな町工場が大量に密集しただけの場所ではなくなっています.
深圳の強みは、エコシステム
深圳に関して調べていくと、どうやら世界的にもかなり注目されたハードウェア・スタートアップの中心地であるようです.
深圳を中心とするメイカー・ムーブメントに詳しい高須正和さんの本には、こう書いてあります.
深圳は、机の上のプロトタイプと量産の距離が最も近い街だ。スタートアップが、自分たちとともに試行錯誤してくれるパートナー企業を探しやすい街でもある。日本や台湾にはまだスタートアップを相手してくれる製造業が残っているけど、シリコンバレーではそういうパートナーは探せないから、アメリカ人にとっての深圳の存在は、アジアから見るより重い。
(高須 正和『メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。』OnDeck Books(NextPublishing) :Kindle の位置No.1639-1642)
もし、あなたが自分でハードウェアを作りたいと思ったとき、何が必要でしょうか?
深圳で一番有名な電気街である「華強北」の大通りには、完成品を売っている店と電子部品を売っている店が、モザイク画のように交ざり合っています.
完成品といっても、ガラクタみたいなものやコピー製品もたくさんあります. そんなインディー感あふれるハードウェアを眺めながら、自分が作りたいものを考えます.
作りたいものができたら、早速電子部品とラズベリー・パイを買って、プロトタイプを作ります. 回路が設計できたら、基盤に半田付けして、いくつか試作品を作ります.
売れる見込みがでて、量産したくなったら、どうするでしょう?
深圳には、製品の仕様を伝えると小ロットからでも安価に製造してくれる工場が山のようにあります. また、そんな山のような工場から部品の調達を手伝ってくれる「デザインハウス」もあります.
深圳の街中を地下鉄がつないでいるので、移動も簡単です.
経済発展した深圳の賃金水準は、すでに安くはないそうです. 深圳という街がものすごい勢いで発展しているのは、「安い賃金で大量生産する」という簡単な話ではありません.
「深圳という街に、ハードウェアの量産に必要なすべてが集まっている」という、エコシステムとしての力なのです.
電子決済で加速する「無人化」
深圳の街で遊んでいると、電子決済が使えるWeChatのアカウントがあれば、ほとんど現金を出すことがありません.
レストラン、自動販売機、タクシー、どこでも電子決済が使えます. 現金で払おうとすると、嫌そうな顔をされることもありました.
また、深圳では自由にレンタルできる自転車が歩道のあちこちにあります. これらも、現金決済は無く、WeChatPayやAlipayなどの電子決済でしか支払えないようになっています.
話題になった「無人コンビニ」にも行ってみましたが、電子決済とRFIDタグでセキュリティを担保したまま完全無人化を実現していました.
こちらがRFIDタグ. 薄い.
さて、僕が先日、五反田の立ち食いうどん屋さん『おにやんま』に並んでいると、ちょうど私の目の前で券売機が壊れてお釣りが出なくなりました. 忙しそうに働く店員さんを呼ぶと、券売機の中を開けて紙幣の詰まりを手で直し始めます. 開けられた大きな券売機の中身を見ると、そのほとんどが、現金を管理するための部品に見えました.
私たちの社会は、「現金を管理する」ということに対して、コストを支払い過ぎています.
例えば、深圳では最近、「無人カラオケボックス」が流行っているようです.
実際に使ってみましたが、電子決済で料金を支払うと、指定した時間だけカラオケ端末を操作できるようになります.
これも、もし現金決済を可能にしようと思うと、現金を扱うための機構を付けるためにもっとカラオケ端末は大きくて高価なものになるでしょう. また、個室でカーテンを閉めることもできるので、現金が盗まれるリスクも非常に高いです.
電子決済しかできないようにしてしまえば、もっと単純な機械で無人カラオケを実現できるし、セキュリティについて考えなくてもよくなります. これは大きなコスト削減になるでしょう.
まず電子決済を強引に進めてしまえば、あらゆるものを無人化できるようになり、無駄な仕事はなくなるのです.
リスクを取れる深圳人、リスクを取れない日本人
深圳に住んでいるのは、なにも優秀な若者ばかりではありません. それなのに、スマホアプリで電子決済をすることが日常化していて、「街としてのITリテラシーの高さ」を強く感じました.
なぜ深圳の街は、こんなに人々のITリテラシーが強いのでしょうか?
深圳の電気街を歩いていると、パクり製品がたくさん売られています. 品質が低い製品であっても、それを売ることに対しては誰も文句を言いません.
(訪問した時期は、ちょうど旧正月で休んでいるお店が多かった)
道に面したスペースには、Appleマークを掲げた、非公式スマホ修理店が辺り一面に並んでいます.
レンタサイクルはどこで乗ってどこで降りてもいいので、歩道が自転車に占拠されてまともに通れないこともたくさんありました. それでも、便利なレンタサイクルは深圳の街の人に愛されているようです.
これらと同じことを日本でやろうとすると、どこからともなく反対の声が上がって中止に追い込まれる気がします.
「観光客も来る電気街で、偽物ばかり売っているのは国の評判を下げるのではないか?」
「自転車がいっぱいの歩道で高齢者が歩けなくなったらどうするんだ?」
もちろん、これらの声を無視していいことにはなりません.
しかしながら、パクリ製品をたくさん作ったことで技術力を付けた深圳の工場の中から、ROYOLEやDJIのような有名ハードウェア・スタートアップは生まれているのも事実です.
好きに乗り回せる自転車が街のどこにでもある生活は、自分の自転車を管理しなくてもいいのですごく便利でしょう.
十分に便利になってしまったいまの生活では、代償を何も払わずにさらに生活が便利になるような、「魔法のようなテクノロジー」はそうありません.
プラスとマイナスを計算して、黒字になればいい. そんな器の大きな合理性の中で、街としてリスクを取れるかがとても大事だと思いました.
電子決済の大敵、電池切れを防ぐための、モバイルバッテリー自販機も、その合理性の1つの結果でしょう.
インターネットが変えた「Make」
ものすごい勢いで発展していく街、深圳. 東京に住む私は、指を咥えて見ていることしかできません.
街には定期的に新しい「無人○○」が登場し、電気街の店頭で売られる玉石混淆の商品が目まぐるしく変わっていく、そんな街が楽しそうで仕方がありません.
そんな深圳のメイカー文化に、「自分を接続」させる方法はないのでしょうか?
ありがたいことに、深圳は世界に開かれています.
もちろん、有名なことに中国国内はグレート・ファイアウォールと呼ばれるインターネット検閲システムの中にあります. とはいえ、「インターネット」無しに深圳や世界のメイカーは活動できません.
エリックはよくプレゼンで、深圳の製造業のスケールを、グーグルマップで「Manufacture」( 製造業)と検索した結果のスライドで説明する。スライド上に数え切れないほど見える赤い点は全部製造業で、(中略)実際にはとうていカウントできない膨大な数の製造業があると言えるだろう。このような小さい工場の製造力と先進国のアイデアマンがインターネットを介して結びついたのは、メイカームーブメントのエコシステムが生まれた、大きな要因だと思う。
(高須 正和『メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。』OnDeck Books(NextPublishing) :Kindle の位置No.1172-1178)
世界のメイカー文化につながるために、必ずしも現地に住む必要はありません. まず、何かを作って、それを発信すればいいのです.
インターネットの登場によって、自分で何か面白いものを作ってみた人は、それを簡単に発信できるようになりました. ピンとこない人は、ニコニコ動画で「ニコニコ技術部」のタグがついた動画を見てみるといいと思います.
「スイッチをONにすると自動でOFFにするロボット」や「ねるねるねるねをよく練る機械」や「エクセルでスーパーマリオを作ってみた」など、全く役に立たない愛すべきメイカー達の作品が見つけられます.
「何かを作りたい」と願う人が、作る側であっても、考える側であっても、インターネットを介して出会うことができます.
これからの社会は「メイカー」がつくる
いまの社会は、「SFの世界」にどんどん近づいています.
例えば、少し前までは、機械に「電気消して」と声でお願いする光景も、SFの中にしかありませんでした. いまの私は、毎日Google Homeに話しかけて部屋の照明を消しています.
これからも、「SF的な試みをするメイカー」が社会を変えていくでしょう.
もちろん、すべての「メイカー」の試みがうまくいくわけではありません. 特にインターネットを介してヒトや情報がつながったいま、テクノロジーの発展や複雑さの加速度はかつてないほどに大きくなっています.
そんな複雑なテクノロジーの発展の中で、筋のいい「メイカー」や「プロダクト」を見極めて、投資をしていくことになります.
筋のいい「メイカー」を高い精度で見極められるとしたら、それは「メイカー」によってだけです.
世界有数のVCであるY Combinatorは、Lispハッカーであるポール・グレアムや、世界初の「ワーム」を作ったロバート・T・モリスらが創立しました.
シンガポール首相のリー・シェンロンはケンブリッジ大学で数学とコンピュータ工学を学び、最近でも「数独」を自動で解くプログラムをC++で書いて公開し話題になりました.
同じくシンガポールのヴィヴィアン「スマート国家」推進担当大臣は、元眼科医であり、趣味でロボットや時計の組み立て、無線デバイスやアプリのプログラミングをしているそうです.
何かを作る側だけではなく、それを見極め投資するビジネスや政治の側についても、「メイカー」がリーダーシップを取る時代が来ています.
まとめ
深圳では、東京の街から見ると羨ましいほど、SF的な製品やサービスが社会にインストールされていました. 遅かれ早かれ、いずれは日本を含む世界の多くの国が、似たような方向に進むのだと思います.
「爆発的な技術進歩」の兆候は、すでに深圳の街から見てとることができました. そのときのために、個人としても、社会としても「準備」をする必要がありそうです.
技術進歩に飲まれるのではなく、うまく乗りこなしたい. そのためには、深圳の街が電子決済や無人レンタサイクルを受け入れたように、リスクを取って受け入れて、痛みを伴いながら慣れていくしかありません.
プログラムでもハードウェアでも、面白いと思ったものは自分で作ってみることでより深く理解することができるでしょう. そしてそれをするための作り方や一緒に作る仲間は、この果てしなく広大なインターネットの世界を覗けば、いくらでも見つけることができるのです.
ラズパイでPython書いて6個のフルカラーLEDをランダムに光らせることに成功した!GPIOとのしんみつどが3あがった! pic.twitter.com/hETl1yl4H4
— gami@しがないラジオ (@jumpei_ikegami) 2018年1月29日
参考
メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。 (OnDeck Books(NextPublishing))
- 作者: 高須正和
- 出版社/メーカー: インプレスR&D
- 発売日: 2016/03/28
- メディア: Kindle版
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