プレジャーボートの安全運航のために
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 本ページでは、プレジャーボート利用・愛好者のみなさんの事故防止の一助となるよう、発航前の点検、情報収集、航行中における適切な見張りなどのポイント、また、「船舶事故ハザードマップ」より、注意すべき海域に関する情報とともに、公表された事故調査報告書をもとにした事故調査事例についてご紹介しています。

 みなさまの安全運航に向け、お役立ていただければ幸いです。

 

 

1.プレジャーボート関係事故・インシデントの現状

(1)船舶事故に占めるプレジャーボート関係事故・インシデントの割合

プレジャーボート関係事故・インシデントは、約3割と、船種別で漁船に次いで2番目に大きな割合を占めています

(2)プレジャーボート関係事故・インシデントの種類別発生隻数

他船との衝突事故が約4割を占めています エンジン故障や燃料不足などの運航不能インシデントが9割以上を占めています

 

2.安全運航のために

(1)発航前検査と日頃の点検・保守整備

 プレジャーボート関係インシデントの9割以上を占めるエンジン故障や燃料不足などの運航不能インシデントは、発航前検査や点検、保守整備を行っていただくことにより防止することができます。

 このため、ここでは、発航前検査チェックリスト、エンジンの点検と保守整備の実施例についてご紹介します。

① 発航前検査チェックリスト

 国土交通省では、次のチェックリストをホームページに掲載して、小型船舶の操縦者に安全運航の呼び掛けを行っています。

  「発航前検査チェックリスト」(国土交通省)
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 なお、船長には、小型船舶の出航前、発航前検査の実施が義務付けられています。

特に発航前に燃料の残量を確認しましょう

 燃料不足により航行不能に陥るインシデントも目立っています。

 どんなにエンジンの調子が良くても、燃料がなくなったり、バッテリが過放電したりすると航行不能になってしまいます。

 ボートの燃料消費量は波や潮流、風の影響などで大きく変わりますので、ふだんと同じ海域、同じ走行距離であっても、その日の気象状況を考慮して最大の消費量を予測しておきましょう。

 また、予備の燃料タンクを忘れずに携行しましょう。

[事故・インシデント調査事例]

出航前に燃料の残量を確認せず、航行不能となった事例

② 「日頃」の点検と保守整備

 エンジンを運転するために必要な機器や配管の流れを把握して点検と保守整備を行いましょう。操縦者の皆さんが乗船する船舶の機関室等にある機関、機器、配管系統、設備等をよく観て、把握しておくことが重要です。

 以下に代表的なプレジャーボートのエンジンをモデルに、点検及び保守について説明します。

(1)電気系統

 電気配線が、発電機、バッテリといった電源から、配電盤、分電箱、ヒューズボックス、メインスイッチに接続され、その後、電気機器まで接続される流れを見てみましょう。

  1. 接続端子が緩んだり、外れそうになっていませんか。電気配線や電気機器の振れが大きいときには固定支持が重要です。
  2. 電気配線の被覆が硬化して亀裂が入ったり、剥がれていませんか。
  3. 絶縁抵抗の計測を行いましょう。電気機器・電気配線と船体と共に、電気配線の間での絶縁抵抗を測って確認しておくことも重要です。

[事故・インシデント調査事例]

船室内に配線された照明用電線が経年劣化により漏電して過熱したため、発火し、周囲の可燃物に引火した事例

(2)燃料油系統

 燃料油が、燃料油タンクからこし器、燃料油ポンプで機関又は燃料弁まで接続される配管の流れを見てみましょう。

  1. 燃料油タンクが吸い込んだ湿気が結露して水分が溜まり、タンク及び機器内部の錆付き、燃料油の劣化、機関の燃焼不良を起こすことがあるので、燃料油タンクからエンジンまでの間に設けられている燃料フィルター等で定期的に水抜きをしましょう。
  2. 定期的にこし器を開放してエレメントの清掃をしましょう。燃料油に水分が混入していないか確認もできます。

[事故・インシデント調査事例]

燃料油タンク等にたまった水が燃料に混入し、船外機が停止した事例

(3)潤滑油系統

 潤滑油は、機関のクランクケースから、こし器を通ってポンプで吸い込まれた後に、各配管から機関駆動部に供給され、駆動部の潤滑、冷却、清浄等に利用される重要な役割があります。

  1. こし器の蓋を開けて内部の点検をしたあと清掃をしましょう。ゴミ、スラッジ、金属粉、水分等の有無を確認します。金属粉があった場合は重大な故障の前兆です。また、エレメント、ゴーズワイヤに破損がないか確認しましょう。
  2. 油溜まりの潤滑油の油量は適正ですか。また、燃料油等の臭いがせず、スラッジ等の混入や粘度の低下等がなく性状(質)は適正ですか。
  3. 燃料油や潤滑油の供給配管は、外観を観て、振動や接触で亀裂、折損、破損等をしていませんか。機関運転中、配管の振れが大きいときには、支持金物で固定することが重要です。

[事故・インシデント調査事例]

潤滑油が漏出し、クランク軸が焼き付いて運航不能となった事例

(4)冷却清水系統

 冷却清水が、清水ポンプで送り出され、冷却器(クーラ、ラジエータ)から機関へ流れ、その後ポンプに吸い込まれる循環ラインを見てみましょう。清水タンクがある場合、冷却清水の水位は適正ですか。

[事故・インシデント調査事例]

主機冷却清水の清水冷却器に破口が生じ、冷却清水が海水側に漏えいし主機の運転ができなくなった事例

(5)冷却海水系統

 海水が、船底に設置された船底(海水吸入)弁からこし器を通って、海水ポンプに吸引、吐出され、冷却器へ供給された後に船外に排出されます。船によっては、排気ガスと一緒に排出される船もあります。ふだんから船外に排出される海水量を確認しておくことも重要です。

  1. 海水系統のこし器、海水ポンプ(ヤブスコポンプ)は、定期的に開放して掃除と点検を行いましょう。海水ポンプ内のゴム製インペラは、消耗することが多く、取扱説明書を参考に定期的な開放点検が重要です。ゴム製インペラが衰耗してくると冷却海水の排出量が減少してきます。
  2. 海水管、海水により冷却する冷却器本体に錆や茶色の染みがあるときは漏水や腐食を疑って点検を行い、必要であれば、交換、補修を行うことが重要です。船尾管軸封装置への通水状態は大丈夫ですか。
  3. 冷却器の海水側カバーには、防食保護亜鉛が取り付けられています。取扱説明書を参考に定期的な開放点検及び整備が重要です。

[事故・インシデント調査事例]

冷却海水吸入管の亀裂から機関室に浸水して航行不能となった事例

③ 「定期的」な点検と保守整備

 保守整備基準においては、開放整備など原動機メーカーや修理業者に依頼して行うことを勧めるものがあります。

 船舶所有者は、メーカーの定期点検、整備基準に基づき、保守整備等を実施し、実施日、実施内容をチェックリストに記録(機関来歴)をつけておくことが、船舶の安全運航を確保するために重要です。また、メーカーや修理業者から手渡される点検リスト又は工事報告書、交換部品リスト等をクリアファイル、ボックス等にひとまとめにして保管しておくとよいです。

 これらのことにより、点検や保守整備の不足や過剰を避けることができ、船舶の運航及び管理のうえで、経済性が向上することにもなります。


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④ 小型船舶機関故障検索システム(S-ETSS)の活用

 運輸安全委員会では、発航前点検や日頃の点検の参考としていただくため、小型船舶の機関(エンジン)故障による航行不能事例を検索できる「小型船舶機関故障検索システム(S-ETSS)」をHPで公開しています。

 S-ETSSでは、事例検索に加え、どの部分にどんな故障が発生しやすいのかを分かりやすく、ランキング形式により確認できるようにしています。

 具体的には、S-ETSSのトップページ画面から、機関配置型式(船外機、船内機等)、燃料種類または故障部位(潤滑油系統、排気系統、電気系統等)の検索項目を選択して検索を行うと、機関部位別の故障件数を多発順に確認することができます。さらに詳しい内容を知りたい場合には、一つ一つの事例の概要や原因を一覧で確認できるほか、個別の事故等調査報告書を確認することも可能できるようになっています。

S-ETSSトップページ S-ETSSリーフレット


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[参考]小型船舶の安全運航に向けた情報

(2)航行予定海域の事故発生傾向の確認と水路調査

① 船舶事故ハザードマップの活用

 プレジャーボートの事故の過半数は、衝突事故や乗揚事故が占めています。こうした事故を防止するためには、航行しようとする海域の事故発生傾向を事前に確認することが役立ちます。そこで、運輸安全委員会では、地図上から事故の発生場所や事故情報を把握できる、「船舶事故ハザードマップ」及び 「船舶事故ハザードマップ・モバイル版」をHPで公開しています。

 モバイル版は、タッチパネルに対応した表示ボタンやレイアウトに変更して操作性を向上させ、モバイル端末のGPS機能を利用して現在地付近の情報を表示することができるようにもなっており、プレジャーボートや遊漁船などの小型船舶のユーザーに、航行しようとする海域の事故情報や航行の参考となる情報を簡単に確認していただけるようになっています。

船舶事故ハザードマップ


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船舶事故ハザードマップ・モバイル版


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 船舶事故ハザードマップでは、事故の発生状況から、「事故からみた海の難所」をわかりやすく知ってもらうため、「注意喚起情報」を掲載しています。注意喚起情報掲載海域の詳細は以下をご覧ください。

注意喚起情報(船舶事故ハザードマップより)

② 海図やGPSプロッターを用いた水路調査

 プレジャーボートによる事故種類としては、乗揚事故が衝突事故に次いで多くなっています。乗揚事故に多い原因として、浅瀬を把握していない等の水路調査不足、自船の位置を把握していなかったもの、他の作業をする等見張りを行っていなかったものなどが挙げられます。このため、発航前の十分な水路調査や、自船の位置を正確に把握することが乗揚事故を防止するためには重要です。

 特に、海図や水深表示可能なGPSプロッターを用いて事前に航海計画を立て、航行予定水域に存在する浅所の位置、潮位変化と可航域の状況及び航路標識の位置、灯質等の状況を把握することが重要です。

 また、夜間又は初めての海域を航行したときには、防波堤等の障害物に気付かずに衝突や乗揚に至っているものも多く、発航前に防波堤等障害物の位置を十分に確認しておく必要があります。

[事故・インシデント調査事例]

夜間において水路状況を知らずに乗揚

[事故・インシデント調査事例]

夜間、船長が防波堤の存在を知らず、防波堤に向かっていることに気付かずに衝突

(3)発航後の見張り、レーダー・AISの活用

① 常時適切な見張り、レーダー・AISの活用

 プレジャーボートの事故の約4割は他船との衝突事故が占めています。そして、他船との衝突事故の多くは、衝突あるいはその直前まで相手船の接近に気付いていなかったために発生しています。

 相手船に気付かなかった要因としては、①航行中に他の船舶等に注意を向けていたことのほか、②前路に船舶がいないだろうという思い込みなどによって見張りが不十分になっていたことや、③航行中に作業をしていて見張りが不十分になっていたことが挙げられます。

 衝突防止のためには、油断せず常時適切な見張りを行い、見張りを支援するレーダー等を活用しましょう。レーダーの搭載が難しい小型船舶では、簡易AISやAISアプリを使用することも有効です。

 また、航行中に船首が上がるなどして、死角が生じ船首方が見えなかった事例も多く、船首方の死角を補う見張りを行い、死角となる船首方の視界を確保することが大切です。

 さらに、相手船が避けてくれると思い回避行動が遅れて衝突に至った事例もあります。他船を認知した場合は、他船が自船に気付いていない可能性もあるので、見張りを継続し、必要に応じて汽笛での注意喚起等を行い、衝突を避ける措置をとりましょう。

[事故・インシデント調査事例]

A船が帰航中、船首方に死角が生じた状態で航行し、漂泊中のB船と衝突

[事故・インシデント調査事例]

両船が共に魚群探知機等を見ながら航行中、互いに接近し衝突

② 漂泊・錨泊していても、まわり見て!

 漂泊・錨泊しているのだから、「見張りをしなくても大丈夫だろう」「航行船が避けていくだろう」という思い込みで漂泊・錨泊し続け、衝突に至るケースが多数あります。見張りを必ず行いましょう。相手に期待をせず、余裕のある時機に、自身が避けることを意識しましょう。

[事故・インシデント調査事例]

漂泊中のZ船と航行中のY船とが衝突

3.おわりに

 プレジャーボート操船者の皆さまにおかれては、安全に配慮され日々操船されていることと思います。

 海上での運航不能などのトラブルは、ふだんの整備や発航前の点検で防止できるものがほとんどです。また、見張りの補助としてのAISアプリの開発も進み、衝突回避に向けた情報をより容易に利用できるようになってきました。

 海上では、ちょっとした手間を惜しんだり、うっかり忘れてしまったりといったことが、人の生命に関わる重大事につながることがあります。また、こうしたことは、たまにしか乗らない方のみならず、乗り慣れているはずのベテランの方でも起こり得ることです。

 楽しいはずのプレジャーボートの操船が悲しいものにならないよう、常に安全第一を心掛けておくことが肝要です。

 ご紹介した内容が、皆さまにとって安全確保に繋がることを願っております。

 現在までに運輸安全委員会が公表したプレジャーボート関係の 事故調査報告書はこちら からご覧になれます。

参考資料

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