臨床検査技師が行う検査には、採取した血液や尿、病変の一部などを調べる「検体検査」と、患者や受診者を直接調べる「生理学的検査」の大きく2つに大別されることを前回ご紹介しました。
患者の様々な訴えや症状に対応すべく、臨床検査技師が扱う検査の種類は膨大です。その中の検査一つとっても、専門的で深い知識や技術が求められます。
今回はそんなたくさんの検査の中から、生理学的検査の一つであり「花形」と称されることの多い超音波検査を、臨床検査技師の立場からご紹介します。
超音波検査に従事できる職種
超音波検査は臨床検査技師以外にも、医師をはじめ、看護師、准看護師、診療放射線技師が行うことができ、臨床検査技師の独占業務ではありません。診療放射線技師の超音波検査業務は1993年の「診療放射線技師及び診療エックス線技師法」の改正により認められ、現在超音波検査業務に携わっている医療従事者の多くは、臨床検査技師と診療放射線技師が占めます。主に臨床検査技師と診療放射線技師で構成されている日本超音波検査学会の会員数は2022年9月時点で25,787名です。この数字からも業務に携わる技師の多さや、関心度の高さがうかがえます。
超音波検査の実際
超音波検査とは
「超音波」とは人の耳に聞こえない20,000Hz以上の高い周波数の音です。この超音波を送受信するプローブ(探触子)をからだの表面にあて、体内の臓器や病変からはね返ってくるやまびこ(エコー)を可視化した画像を見る検査が、超音波(エコー)検査です。コウモリやイルカは超音波を発して、その反射音から物の形や距離を測るエコーロケーションを行っていますが、プローブはこのエコーロケーションの役目を果たす器具と言えます。
ちなみに人が超音波を活用するきっかけとなったのは、1912年に起きた豪華客船タイタニック号の沈没事故です。氷山との衝突で沈没したタイタニック号の悲劇をきっかけに、目視できない氷山を探知する手段として超音波が活用され、やがて臨床へと導入されていきました。
超音波検査は、超音波の伝わりをよくするため検査部位にエコーゼリーを塗り、プローブを当てるだけで検査ができます。放射線による被ばくの心配がなく体への負担が少ないため、妊婦や高齢者のみならず、胎児の検査にも使われています。また何らかの理由により同じ体位を長時間するのが困難な方や、じっとしていられない方でも、依頼病変や部位によっては検査が可能です。
プローブと周波数の使い分け
超音波検査は大きく分けて、腹部や乳房領域に代表されるように主に存在診断や質的診断を行う検査と、循環器領域のように機能評価を行う検査があります。対象物が何か、それは表在に存在するのか、深部なのかなど、様々な要素を加味し、使用する周波数やプローブを使い分けます。一般的に周波数が高いほど分解能は向上しますが、診断距離は短くなり深部の観察が困難になるため、表在組織は高周波プローブ、深部組織は低周波プローブで観察します。
プローブは超音波診断装置の付属品となり、1本の値段のほとんどが100万円以上と高額です。検査依頼のない不必要なプローブは購入していないこともあります。依頼部位に検者が対応可能でも自施設の超音波診断装置が対応していない場合もありますので、いつもの検査以外を依頼するときには留意してください。
画像表示方法
画像の表示方法(表示モード)にはいくつか種類がありますが、基本となるのはBモード画像です。皆さんよく目にする、臓器や病変を反映した白黒の2次元画像がBモードで表示されている画像です。
このBモード画像に、血行動態を観察するドプラモードや、動きのある部位を時系列で観察できるMモードなどを適宜加え、診断能の向上に役立てます。
心臓超音波検査 Mモード
造影剤を使用する超音波検査
超音波検査には通常造影剤は使用しませんが、MRIやCT検査のように造影剤の適応となる場合もあります。超音波用造影剤(ソナゾイド)を使用し、主に肝臓の腫瘍に対して適応されますが、膵臓・胆嚢・腸の他、乳腺腫瘍の診断にも有用です。
使用される造影剤はペルフルブタンという気体の小さな泡で、投与後は呼吸により体外に排出されるため、腎臓への負担はありません。製剤の過程で卵の殻の成分が使用されることから卵アレルギーのある患者さんには使用することができませんが、一方で、CTやMRI用造影剤とは成分が異なるため、腎機能低下やこれらの造影剤によるアレルギー反応などの理由で、造影剤が使用できない患者さんにも制限なく使用できる利点があります。造影超音波検査は診断だけではなく、治療を行うときの指標となったり、治療後の評価にも活用します。
昨今のタスク・シフト/シェアによる法改正で、「超音波検査のために静脈路に造影剤注入装置を接続する行為、造影剤を投与するために当該造影剤注入装置を操作する行為並びに当該造影剤の投与が終了した後に抜針及び止血を行う行為」が追加されました。これにより、ますます臨床検査技師が造影超音波検査に関わる場が増えつつあります。
硬さをみる超音波検査:エラストグラフィ
従来の超音波検査ではわからなかった「腫瘤の硬さ」を色で判別する検査です。一般に良性腫瘍は軟らかく、悪性腫瘍は硬いので、「腫瘤の硬さ」を知ることにより腫瘍が良性か悪性か鑑別の一助となります。一方肝臓では肝疾患の進行に伴い線維化が進み実質が硬くなるため、進行度の診断に役立ちます。組織の弾性やその分布を画像に色表示し、腫瘍の良悪性鑑別や線維化等を非侵襲的に評価します。
エラストグラフィにはいくつかの技術があり、組織に圧力を加え、ひずみ具合を相対的な硬さ分布として色表示する方法と、組織からのせん断波の伝搬速度分布を計測して定量的に硬さの分布を表示する方法があります。
一枚入魂!超音波画像
超音波検査は体内の任意の断面をリアルタイムで観察し、記録することのできる検査です。動画での撮像も可能ですが、サーバーの容量問題があるため、検査を全て動画で記録している施設はそう多くはありません。静止画で撮像するときは、基本的には必要な計測の他、その病変をよく反映していると思われる部位を撮像します。
どのような機器設定で観察をするのか、どこの場所の何を主張するために撮像するのか、その一枚一枚の画像は検者の思惑に委ねられます。臨床の先生方が目にしている画像は、検者の珠玉の一枚なのです。
心臓超音波検査 大動脈弁 左 Bモード、右 カラードプラモード
どこまでわかる?超音波検査
全身のほとんど全てが検査対象
超音波は空気や骨、厚い脂肪などは通りにくいとされています。しかし、近年の超音波診断装置の進歩により、肋骨に囲まれ空気を多く含む肺に対しても、気胸の診断や液体貯留の確認などができるようになりました。 骨に囲まれている脳は検査に適しませんが、骨の評価もある程度なら可能です。
腹部や心臓、乳房などの臓器の他、皮膚科領域での皮下腫瘤、整形領域での運動器の超音波検査など、脳以外の全身のほとんど全ての領域が検査の対象となると言っても過言ではありません。
超音波検査でわかること
超音波検査でわかるのは、腹部の臓器のように深いところにあるしこりを作るものばかりではありません。甲状腺炎や蜂窩織炎のような炎症や、リンパ浮腫の評価、心臓超音波検査に代表されるように、動きや血液の流れをリアルタイムに観察することも可能です。
また近年の超音波診断装置は高い空間分解能を有しているため、浅いところ(体表)の疾患に関しても鮮明に描出することが可能となりました。皮膚科領域の粉瘤に代表される皮下腫瘤に対しても、高い診断能を有します。
従来、運動器の画像診断といえば、単純X線検査、CT、MRIで「三種の神器」と呼ばれていましたが、これらは静止しての撮像が必須となります。しかし超音波検査は、侵襲なくリアルタイムで動かしながらの観察が可能であることから、整形外科で扱う運動器と呼ばれる組織(筋肉、腱、靭帯、神経、血管、軟骨、骨など)の病変の診断に活用されるようになりました。単純X線検査でわかりにくい、あるいは映らない微細骨折や捻挫なども評価が可能です。
超音波検査は侵襲性も少ない上に、対象臓器や病変にもよりますが検査に要する時間は概ね10〜20分程度で済みます。フル活用しない手はないのではないでしょうか。
超音波検査の課題と働き方の深い関係
超音波検査の課題
超音波検査は基本的には検査を行った検査者が、「超音波診断」を記載し依頼医に報告します。依頼医が求めている検査結果を的確に報告するため、依頼内容やカルテ情報から検査に必要な情報を得るのはもちろん、患者の声にも耳を傾けながらリアルタイムで観察し検査を行うことができます。これは利点でもありますが、どうしても検者依存が大きくなる要因ともなりえます。プローブを握る検者の知識や経験値により取得する前情報も変わり、病変の撮像のされ方や検査時間、超音波診断に記載する内容にも個性が出ます。誰がやっても差がない検査結果が報告できるよう、領域毎にガイドラインはありますが、患者の体格や病状、依頼内容に合わせ手技を変える必要のある検査では、なかなかガイドライン通りにいかないことも少なくありません。
超音波検査の精度を保つためには、プローブを握る検者と超音波診断装置の双方の精度管理が必要となります。超音波診断装置の精度管理にはファントムが用いられ、検者の精度管理は、日本超音波検査学会が行っている精度認定制度の活用などでなされます。
また日本超音波医学会の認定制度である「超音波検査士」は、超音波検査に携わる者が遭遇する最初の登竜門的な認定制度で、日本超音波医学会もしくは日本超音波検査学会に在籍3年以上の者に受験資格が与えられます。超音波医学ならびに医療のレベルを維持、向上させることを目的としたこの制度は、精度維持のため5年に一度の更新手続きが求められます。そのためには必修講習会への参加や研修・業績単位の取得が必要です。
このように精度の維持や向上のためのツールはたくさん用意されてはいます。例えば血清を検体とする生化学的検査であれば、コントロール血清を測定し、測定値が基準値内であれば機器の精度が保たれているとわかります。しかし人が行う検査の精度管理は難しく、様々な観点から精度管理の取り組みがなされています。
超音波検査と働き方
超音波検査の検査対象臓器や病変は非常に多いため,全領域をまんべんなく高い技術でできる技師はそう多くはいません。限られた領域を専門とし、そこに特化し高い技術を持って仕事をしている技師もいます。誰がやっても同じ精度で結果を返せるよう、上述したように精度管理は行われますが、誰がやっても同じというわけにはなかなかいかないのが現状です。
そのため依頼医との信頼関係が重要となり、誰が検査を行ったのか、検者個人が重要視されることもあります。単に超音波検査ができると言っても、対応可能な領域、経験値や技術力は個々によって違います。臨床の先生が欲しい情報をしっかり返すことのできる技術力を持った技師は貴重な存在とも言え、それ故に引っ張りだこなんてことも…。超音波検査が臨床検査の「花形」と称される所以です。
フリーランスで働く技師に超音波検査士が多いことや、超音波検査を行う技師を派遣する会社が多く存在することも、需要の多さを反映しています。そのため働く場だけでなく、働き方の幅も広げることができます。 数ある臨床検査の中でも、個人の力量が大きく問われる分、非常にやりがいのある検査が「超音波検査」なのです。
まとめ
このページでは、臨床検査技師が行う検査の一つであり、花形と称されることもある『超音波検査』についてご紹介いたしました。侵襲性が少なく対象臓器の多い超音波検査をフル活用していただくと同時に、臨床検査技師を知っていただけると幸いです。
おわりに
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出典
公益社団法人 日本超音波医学会 https://www.jsum.or.jp/
一般社団法人 日本超音波検査学会 https://www.jss.org/