
1. 薬剤師とは?
調剤や服薬指導などを通じて人々の健康を支える薬の専門家
薬剤師とは、薬に関する幅広い業務を通じて人々の健康を支える薬の専門家です。英語ではPharmacistですが、Pharmaceutical Chemist、Apothecary Chemist*という呼び方もあります。
薬剤師の代表的な業務は薬局や病院、介護施設(老健や介護医療院)での調剤や服薬指導、薬歴管理ですが、そのほかにも医薬品関連企業で医薬品の開発や流通に携わったり、行政機関で薬事衛生に関する業務に携わったりする薬剤師もいます。
2020年に実施された国勢調査によると、薬剤師の数は24.4万人、男女比はおよそ3:7と女性のほうが多い結果となりました。

2. 薬剤師になるには?
薬剤師免許が必要
薬剤師として働くには、薬剤師国家試験に合格して薬剤師免許を取得しなくてはなりません。
そして薬剤師国家試験を受験するには、高校卒業後、大学の薬学部で6年制の薬剤師養成課程を修了する必要があります。

なお、薬剤師養成課程のある大学は一般社団法人 薬学教育協議会のWebページで確認できます。
>一般社団法人 薬学教育協議会|薬科大学・薬学部一覧
tips|薬学部に6年制と4年制がある理由
薬剤師法と学校教育法の改正を受けて、2006年度の入学者から薬剤師養成課程の修業年数が4年から6年に延長されました。
しかし、薬学生には薬剤師として臨床で活躍する以外にも、研究者として製薬企業や大学で新薬の開発に貢献する選択肢もある──との理由から国立大学を中心に4年制課程を残す大学が出てきました。
そのため、現在でも薬学部には薬剤師の養成を目指す6年制課程(例:薬学科、医療薬学科、漢方薬学科など)と研究者の養成を目指す4年制課程(例:薬科学科、創薬科学科、生命薬科学科など)があります。
ただし、研究者になるには修士号や博士号が必要とされることが多いため、いずれにせよ最低6年間は勉強することになります。
なお、2017年度までの入学者に対しては、4年制課程修了後に大学院で実習を含む不足単位を取得することによって、薬剤師国家試験の受験が認められました。しかし、2018年度以降の入学者に対してはその特例がなく、薬剤師国家試験を受験できるのは6年制課程の修了者のみとなっています(参考:文部科学省)。
薬剤師国家試験の概要
薬剤師国家試験は年に一回、毎年2月に実施されます。
- 1月上旬:願書等提出
- 2月中旬:試験日
- 3月下旬:合格発表
薬剤師国家試験は次の配点で全345問出題されます。
- 必須問題90問:180点満点(1問2点)
- 一般問題(薬学理論問題)105問:210点満点(1問2点)
- 一般問題(薬学実践問題)150問:300点満点(1問2点)
薬剤師国家試験の合格基準は次のとおりです。
- 正答率が基準(平均点と標準偏差を用いた相対基準)を上回る
- 必須問題について全体の正答率が70%以上、かつ、各科目の正答率が30%以上
- 禁忌肢問題の選択を加味
過去5年間、薬剤師国家試験の合格基準は正答率60%台で推移しています。
そのほか、薬剤師国家試験に関する最新情報は厚生労働省のページでご確認ください。
>厚生労働省|薬剤師国家試験のページ
薬剤師国家試験の合格率の推移
薬剤師国家試験の合格率は、過去5年間68〜69%台で推移しています。
直近、2025年2月に実施された第110回薬剤師国家試験の結果は次のとおりです。
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
全体 | 1万3,310人 | 9,164人 | 68.9% |
新卒 | 8,061人 | 6,849人 | 85.0% |
既卒 | 5,249人 | 2,315人 | 44.1% |
参考:厚生労働省|第110回薬剤師国家試験の合格発表を行いましたより作成
既卒者の合格率は新卒者の約半分。一発合格を目指すには、自分に合ったペース配分で国試対策を進めることがポイントです。
3. 薬剤師の仕事内容
薬剤師の主な業務は、医師が交付した処方箋に基づいて薬を調剤し、服薬指導、薬歴管理をおこなうことです。さらに、身近な薬の専門家として健康相談に応じたり、薬の正しい服用方法に関して広く啓蒙活動をおこなったりすることもあります。
処方監査・疑義照会
処方箋を受け取ったらまずその内容に誤りがないか監査します(処方監査)。処方内容に疑問点がある場合は医師に問い合わせ、疑問点が解消されない限り調剤してはいけないことになっています(疑義照会)。疑義照会ができるのは薬剤師のみであり、医療過誤や事故を防ぐ“最後の砦”となっています。
調剤・調剤鑑査
処方箋に従って薬(内服薬、外用薬、注射薬)を調剤します。薬剤師には調剤の求めに応じる義務があるほか、医師の許可なく調剤する薬を変更してはいけません。また、調剤後には適切に調剤されているか鑑査します(調剤鑑査)。
服薬指導
患者さんやその身の回りの世話にあたる人(家族や看護師、介護職員など)に対して、薬の効能や服薬方法、服薬時の注意点について説明します。また、必要に応じて薬の服用状況(正しく服薬できているか、体調に変化はないか、残薬はないかなど)についても把握する必要があります。
薬歴管理
患者さんの基礎情報や服薬状況、処方・調剤内容、疾患に関する情報、服薬指導の要点、疑義照会の内容・結果、担当薬剤師の氏名などを薬剤服用歴(薬歴)として残します。薬歴は調剤診療報酬の根拠にもなる重要な記録であり、一定期間保管する義務があります。
医薬品の管理
品質が劣化しないよう適切な環境下で保管したり、不正使用されることのないよう使用した数量と在庫の数量が常に一致していることを確認したりします。中でも薬物濫用などの観点から取り扱いにとくに注意が必要な薬──麻薬(医療用麻薬)、向精神薬、覚せい剤原料、毒薬、劇薬などに関しては、それぞれの規則に従って厳格に管理します。
医薬品の販売
処方箋が必要な医療用医薬品はもちろん、処方箋がなくても購入できる市販薬(OTC医薬品)の中でも要指導医薬品や第1類医薬品に関しては、薬局や薬店(ドラッグストアなど)に薬剤師が不在の場合は販売することができません。
4. 薬剤師の勤務先
薬局、病院、診療所に勤務する薬剤師が全体の約8割を占めるものの、医薬品関連企業や行政機関、大学に勤務する薬剤師もいます。

薬局
薬局に勤務する薬剤師は、主に医師の発行した処方箋に基づいて薬の調剤や服薬指導、薬歴管理をおこないます(保険調剤)。保険調剤以外にも処方箋が不要な市販薬(OTC医薬品)を販売したり、薬や健康に関するさまざまな相談に応じたりすることもあります。
調剤薬局の多くが門前薬局のため、近隣の病院や診療所の規模や診療科目によって、客層や忙しさが変わってきます。
患者さんの自宅や介護施設への訪問サービスを主におこなう薬局もあり、そこで働く薬剤師は在宅薬剤師(訪問薬剤師)と呼ばれます。
在宅薬剤師の仕事について詳しくはこちらの記事で解説しています。
ドラッグストア
ドラッグストアにも薬剤師の求人はあります。ドラッグストアで扱う市販薬(OTC医薬品)の中でも、要指導医薬品や第1類医薬品に分類されるものは薬剤師が不在の場合、販売ができないためです。
とくにOTCのみのドラッグストアの場合、OTC医薬品の販売業務に加えて、店舗で取り扱う生活用品などの品出しやレジ打ちに携わることが多くなります。
保険調剤に対応している調剤併設のドラッグストアの場合、保険調剤を担当するか、医薬品販売を担当するか、両方を担当するか、お店によって方針が異なるため、求人応募時にはよく確認しましょう。
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病院
病院に勤務する薬剤師は、主に入院患者さんに処方された薬の調剤や服薬指導、薬歴管理を中心におこないます。
ほかにも持参薬の鑑別や院内製剤、注射製剤、外来化学療法服薬指導*、医薬品管理、医薬品情報管理(DI業務)*、治験業務、各種委員会活動*に携わるなど、病院薬剤師はチーム医療の一員として医者や看護師、検査技師などと連携しながら、患者さんの近くで治療に携われるのが魅力です。
*医薬品情報管理(DI業務):医薬品に関する情報の収集・分析・評価をおこなう業務
*委員会活動:薬事委員会、NST(栄養サポートチーム)委員会、褥瘡対策委員会、院内感染防止委員会、医療安全管理委員会、防災対策委員会などがある
病院薬剤師の仕事について詳しくはこちらの記事で解説しています。
>ドラマ『アンサング・シンデレラ』から知る「病院薬剤師」の仕事とは?
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一般企業
薬剤師の中には一般企業で薬の開発や流通に携わる人もいます。例えば、次のような職種です。
- 研究職:製薬会社で新薬などの開発に携わります
- 治験コーディネーター(CRC):SMO(治験施設支援機関)で治験の進行をサポートします
- 臨床開発モニター(CRA):製薬会社やCRO(医薬品開発業務受託機関)で治験の進行状況の監視や調査をおこないます
- 医薬品情報担当者(MR):製薬会社の営業
ほかにも、薬に関する知識を活かして化学メーカーや化粧品メーカー、食品メーカーで製品開発に携わる薬剤師もいます。
5. 薬剤師の働き方
薬剤師の仕事着
白衣のイメージが強い薬剤師の仕事着ですが、職場によっては動きやすさを重視してスクラブを着用することもあります。
〈白衣〉
医療従事者の象徴とも言える白衣は、薬剤師にとって最も一般的な仕事着です。白衣は薬品や血液が付着したときに目立つことはもちろん、長い袖には薬品から身を守る効果もあります。有資格者であることが一目でわかることから、薬局やドラッグストアに勤務する薬剤師の制服としてよく採用されています。
〈スクラブ〉
近年はスクラブを着用する薬剤師も増えてきました。スクラブはカラーバリエーションやデザインが豊富で、白衣よりも親しみやすい印象を与えます。動きやすくお手入れもしやすいため、病院や介護施設など運動量の多い職場で採用されることが多いようです。
〈足元〉
薬剤師の仕事は長時間立ちっぱなしということも多いため、足元はスニーカーや革靴などの疲れにくい平らな靴が好まれます。
薬剤師の仕事道具
数多くある薬剤師の仕事道具の中でも主に調剤で使用するものについてご紹介します。
〈個人で用意する道具〉
- 薬学辞典:紙、電子辞書、アプリなどさまざまな種類がある
- 印鑑(調剤印):処方箋に日付と名前を同時に捺印できる調剤印は薬剤師のマストアイテム。キャップレスタイプは素早くきれいに押印できる
- 電卓:薬剤師専用の電卓なら散剤(粉薬)の力価計算やピッキングの余り計算、次回来局日の計算などが簡単にできる
- 医療用ハサミ:薬の入った箱の開封やテープの切断に使用。テープがつきにくく、刃先に安全ガードのついた医療用ハサミが便利
- 多色ボールペン:インクの種類は3〜4色あると便利。摩擦熱や水で消えない油性タイプが良い
- メモ帳:新人薬剤師はメモをたくさん取る。丈夫なリングタイプがおすすめ
〈職場で使う道具〉
- 分包機:錠剤や散剤を自動で袋詰めする装置
- 錠剤半錠器:錠剤を半分に割る道具。半錠バサミ、半錠カッターなどがあり、錠剤の形状や硬さによって使い分ける
- はかり:薬剤の計量に使用。デジタル式で小数点以下第2位まで測れるものを使用
- 薬さじ(スパーテル):散剤を容器から量り取るスプーン。薬匙(やくし)とも言う
- 乳鉢、乳棒:散剤を混ぜるために使用
- メートルグラス:液体を測るために使用
- 薬価本:薬の販売名、成分名、薬効、薬価などが記載されている。保険診療で必要な薬価を調べるために使用
薬剤師の一日
薬局薬剤師の一日は「患者さんが持参した処方箋に従って調剤と服薬指導をおこない、薬歴に残すこと」の繰り返しです。処方箋の内容や患者さんの話などの限られた情報から、医療過誤・事故が起こらないよう適切に処方監査・調剤・調剤鑑査等をする必要があります。

病院薬剤師の場合、調剤室と病棟を行ったり来たりする一日となります。薬の監査や調剤だけでなく、薬が効いているか副作用が出ていないかを日々確認し、カンファレンスでは薬物治療に関する意見を述べるなど、薬の専門家としてチーム医療に携わります。

救急を受け入れている病院の場合は、当直やオンコールがあることもあります。
▼薬局薬剤師の一日密着動画を見る
薬局薬剤師の仕事に密着! 地域に根ざし、在宅にも対応する調剤薬局の一日より
薬剤師の休日
薬剤師の休日は変則週休2日となることが一般的です。
基本的に薬局やクリニックは週休2日のうち日曜祝日が固定休となることが多いのに対して、病院やドラッグストアは365日稼働する必要があるため固定休がありません。
6. 薬剤師の給料
ジョブメドレーに掲載されている求人から薬剤師の賃金相場を算出しました。なお、残業手当など月によって支給額が変動する手当は集計対象外のため、実際に支払われる賃金はこれより多くなる可能性があります。
【全国平均】薬剤師の時給・月給・年収の相場
2024年12月時点の全国の薬剤師の時給・月給・年収の相場は次のとおりとなりました。
下限平均 |
上限平均 |
総平均 |
|
---|---|---|---|
パート・アルバイトの時給 |
2,067円 |
2,513円 |
2,189円 |
正職員の月給 |
30万4,353円 |
44万7,313円 |
35万5,932円 |
正職員の年収* |
426万942円 |
626万2,382円 |
498万3,048円 |
薬剤師が活躍する場は多岐にわたり、勤務先や勤務地、雇用形態などにより給料は異なります。詳しくはこちらの記事をご確認ください。
>薬剤師の給料は安い?都道府県別の月収・年収・賞与ランキングと初任給について紹介
7. 薬剤師の将来性
医薬分業の普及にともない、処方箋枚数や薬局数、薬剤師数は右肩上がりで数を増やしてきました。しかし、医薬分業率(処方箋受取率)*は70%を突破し、成長の余地は少なくなりつつあります。

また、日本の医薬分業は特定の医療機関から処方箋を受ける点分業が多く、本来あるべき“患者本位の医薬分業(面分業)”とは乖離があると指摘されてきました。
そこで、厚生労働省が2015年に発表したのが「患者のための薬局ビジョン」です。ここでは、2025年までにすべての薬局が患者の服用薬を一元的・継続的に把握する“かかりつけ薬局”としての機能を持ち地域包括ケアの一翼を担うこと、地域住民の健康の維持・増進をサポートすることなどがあるべき姿として示されています。
薬剤師の業務も薬中心から患者中心にシフトしつつあり、薬剤師には今まで以上に専門性やコミュニケーション力が求められています。
参考
- e-Gov 法令検索|薬剤師法
- 厚生労働省|薬局・薬剤師に関する情報