新時代へ:弁護士の採用人事と人工知能(AI)の未来図 - 日本組織内弁護士協会|JILA

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2020.05.27| オンラインジャーナル

新時代へ:弁護士の採用人事と人工知能(AI)の未来図

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筆者

大島 義則(おおしま よしのり)

弁護士(第二東京弁護士会。長谷川法律事務所)。慶應義塾大学大学院法務研究科講師、広島大学大学院人間社会科学研究科客員准教授。元消費者庁総務課課長補佐。

主な著書として、『消費者行政法』(編者・分担執筆。勁草書房、2016年)、第二東京弁護士会情報公開・個人情報保護委員会編『AI・ロボットの法律実務Q&A』(編集長・分担執筆。勁草書房、2019年)等。

 

1 AI時代の法務

第三次AIブームの到来により、AIが実社会に実装されつつあります。弁護士にとって、AIの社会実装は大きく2つの面で関わりがあります。一つはクライアント企業(インハウス弁護士であれば自分の勤める企業)がAIを活用することによる法務機能の変化です。もう一つは、法務機能を代替するようないわゆるリーガルテックと呼ばれる技術の登場です。
 
このように法律を扱う者の環境は激変していることから、否応なしに弁護士の採用・人事にも影響は生じてくることでしょう。
 
この記事では、AI時代における弁護士の採用・人事を中心に、AIに関する近年の動きを簡単に紹介してみたいと思います。
 

2 人事におけるAIの近時の動き

AIの導入によって、人事のあり方は急速に変化しつつあります。AIは就職活動、採用、雇用管理、人事評価、退職という人事のライフサイクルのあらゆる側面に組み込まれるようになってきています。小規模な法律事務所ではAIによる採用・雇用管理はなされていない状況にありますが、例えば、大企業におけるインハウス弁護士や法務部員の場合、既にAIによる雇用管理や人事評価の対象になっているケースもあるのではないでしょうか。今後、AI技術が進展して社会に十分に浸透した場合、この傾向はますます加速していく可能性があります。
 
近年、注目されているのが、「AI」と「人事」をミックスさせた「ピープルアナリティクス」や「HR(Human Resource Technology)テクノロジー」といった概念です。ピープルアナリティクスの手法は、職場の従業員に関する人事データを活用して統計分析等をすることにより適切な人事施策を打ち出すことに役立ちます。HRテクノロジーは、人材・労働市場等に関する人事上の課題を解決できるような技術のことであり、採用、雇用管理、人事評価等の過程にAIを組み込むことが現実に行われています。
 
「ピープルアナリティクス」や「HRテクノロジー」の具体例を少し上げてみましょう。例えば、Digital HR Competition2019実行委員会主催のDigital HR Competition 2019 「ROAD」(https://digital-hr.jp/road.php)では、ピープルアナリティクス部門とHRテクノロジーソリューション部門に分けてコンペティションが行われています。ピープルアナリティクス部門グランプリは、株式会社村田製作所のセンサー技術を用いて採用面接におけるコミュニケーションを可視化する技術、HRテクノロジー部門グランプリは株式会社ギブリーのプログラミング教育のための「学習・試験」プラットフォーム」の技術が受賞しています(https://peopleanalytics.or.jp/2019/11/01/digital-hr-competition-2019-%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AA%E6%B1%BA%E5%AE%9A%EF%BC%81/)。
 

3 人事データ利活用原則

人事データを活用するAIは社会の効用を増大させるため、今後ますます活用されていくでしょう。しかし、人事データの利活用は必然的に従業員等の個人情報の利活用を含みますので、個人のプライバシーや個人情報に十分に配慮することが必要不可欠になります。特に、AI技術を用いると単純な個人情報であっても複数の個人情報からその者の思想、信条等のセンシティブな情報をプロファイリングによって推知できてしまう、という現象も起きます。このようなセンシティブ情報については特に個人の権利・利益を保護する要請が強いといえるでしょう。
 
AIを利活用することが不可避となっている現在では、人事データを用いて社会的効用を増大させるという要請と個人の権利・利益を保護するという要請を、うまく調和させていく必要があります。特に企業がピープルアナリティクスやHRテクノロジーを利活用する際に、プライバシーや個人情報に配慮できていないことからネット上で「炎上」が発生して深刻なダメージを負うこともあります。
 
このような状況を踏まえて、私もアカデミックアドバイザーを務めさせていただいている一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会(https://peopleanalytics.or.jp/)では、2020年3月19日に人事データ利活用原則を策定し、人事データやAIを活用する際に留意すべき9つの原則を提示しました。9原則の内容は、①データ利活用による効用最大化の原則、②目的明確化の原則、③利用制限の原則、④適正取得原則、⑤正確性、最新性、公平性原則、⑥セキュリティ確保の原則、⑦アカウンタビリティの原則、⑧責任所在明確化の原則、⑨人間関与原則となっています。
 
各企業の皆様が人事データをより安全に利活用するために、この人事データ利活用原則がお役に立てるのではないかと思います。

 

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