神戸医療産業都市推進機構(FBRI)と日本IBMは9月10日、日本で深刻化するドラッグラグ/ドラッグロス問題の解決と創薬力の強化を目指し、生成AIと医療/健康データ(リアルワールドデータ:RWD)を活用したAI組み込み型の臨床開発を共同で推進すると発表した。
FBRIに属する医療イノベーション推進センター(TRI)と日本IBMは、これまで電子カルテなどの医療RWD活用による治験と患者の早期マッチングに関する調査と検討を行ってきた。今回の協力により、両者はAI組み込み型の臨床開発業務の実現による抜本的な課題解決を目指す。
両者は、開発関連情報検索、電子カルテスクリーニング、治験患者マッチング、同意取得支援、有害事象情報検知、データマネジメント、文書生成支援/プログラム生成支援といった機能を含むシステムを開発する。これを活用し、臨床開発業務全体に生成AIや従来型AIを活用していく予定だ。
特に、治験の長期化に影響の大きい患者の募集活動の早期化に寄与する電子カルテ検索支援と治験患者マッチングについては、医療機関や製薬企業と連携してシステム開発と実用性評価を行う。
電子カルテスクリーニングでは、生成AIが治験プロトコルや臨床研究等提出・公開システム(jRCT)から選択・除外条件を構造化し、電子カルテデータから合致する患者を抽出する。治験患者マッチングでは、患者ごとに電子カルテデータからAIが選択・除外条件に合致する治験候補を提示する。
このほか開発関連情報検索では、生成AIが組織内外の情報を検索し、市場情報やアンメットメディカルニーズ(有効な治療法がない疾患に対する医療ニーズ)、実施治験、競合情報などを回答する。また文書生成支援/プログラム生成支援では、治験実施計画書や関連文書、治験総括報告書(CSR)/コモンテクニカルドキュメント(CTD)、解析プログラムのドラフト作成やレビューを生成AIが支援する。
AI組み込み型の臨床開発の概要
海外で承認された薬が日本で承認されていない、または承認までに時間がかかるドラッグラグ/ドラッグロス問題が深刻化している。今回の発表資料によれば、2019年から2023年までの5年間で米国食品医薬品局(FDA)が承認した新規化合物(NME)243品目のうち、164品目(約67.5%)は日本では未承認であり、そのうちの過半数は日本では開発されていないというのが現状だという。その背景には、製薬企業にとっての日本市場の魅力度低下に加え、治験における被験者募集活動の遅れや手続きの煩雑さなどがある。