ジーニー(新宿区、従業員数303人)は、日本のほかにシンガポール、インドネシア、ベトナム、タイ、インドで事業を展開するテクノロジー企業だ。
主力業務は、デジタル広告と、商談管理や営業管理などのマーケティング管理ソフトの開発で、2015年にソフトバンクグループから出資を受けて2017年12月に東京証券取引所マザーズに上場。現在急成長している注目の国内スタートアップの1社である。
最大1カ月の承認プロセスが最速数秒に
同社は2017年5月、シンガポールのGeniee Internationalなどのグループ会社とともに展開する海外向け業務効率化のため、アドビ(品川区、旧アドビ システムズ)の電子署名サービス「Adobe Sign」を導入した。当時は新規株式公開(IPO)を目指していた時期であり、電子署名の導入によって目の前に生じていた問題の解決を図ったのである。
具体的な動機としては、「(1)スピードとプロセスの問題、(2)上場企業としてのコンプライアンス強化、(3)出張が多い経営陣とそれに対応しなければならない従業員の煩雑な業務フロー――という3つの理由があった」とジーニー 経営企画兼 Geniee International 執行役員の磯部融輝氏は語る。
磯部融輝氏
スピードとプロセスの課題としては、「海外のクライアントやパートナーと契約する場合、電子署名導入前は、海外拠点で紙の書類を受け取り日本本社に郵送、校閲、やり取りというプロセスだった。電話ベースで大枠の合意ができていても最大1カ月かかってしまうという問題があり、それによって機会損失やプロジェクトの遅延などの問題が発生していた」(磯部氏)という。
上場を視野に入れていた当時、戦略的に海外進出をアピール。投資家からのスピード感追及が予想されていたという。遅延問題の速やかな解消のため電子署名を導入し、「申請から数秒以内に双方間の締結ができる仕組みとなり、圧倒的にスピードの問題を解決できるようになった」と磯部氏は効果を語る。
上場企業に求められるコンプライアンスに対応
上場企業には求められるコンプライアンス項目が多く、スタートアップがステップアップしながら上場を目指す過程では、さまざまな問題が生ずる。例えば、「経営陣が引き継ぎをしないで退職してしまい、契約書類自体を紛失してしまう」(磯部氏)というようなことも起きかねないという。
「電子契約の仕組みを導入することで、そのような問題もなくせるうえ、契約書類がそのまま監査に使えるようになる。Adobe Signでは各国間の規制についてもコンプライアンス上の問題をチェックする仕組みも備えているため、コンプライアンス強化の問題に対応できた」(磯部氏)
出張の多い経営陣の承認を得るために
当時から6カ国展開を視野にいれ、経営陣は営業活動や事業開発活動で海外を飛び回っていたという。オフィスにほとんどおらず、従業員が署名を得ること自体が困難だったと説明。「今日の仕事から場所を割り出し、その近くの拠点から印刷、スキャンするといったプロセスが発生していた」(磯部氏)と、関連する従業員が抱えていた煩雑な業務を語る。
「(導入により)承認のスピードが加速し、業務を素早く開始できるようになった。その分だけ早く収益を認識できるとともに、サービス開発に着手できる時間も短縮された。明確な効果金額は算出できないが、換算しても大きな効果があると捉えている」。また、国内に存在する社判などのハンコ文化に起因するセキュリティなどの観点からの効果もあると加える。