拙稿「『接触8割削減』の検証可能性」を公開しました。

 COVID-19対策を検証する自治体があり、国も検証すべきとの声も聴きます。本稿は、2020年春にとられた「接触8割削減」について、検証そのものではなく、根拠とされた数理モデルの検証が困難になっている構造に焦点を当てます。これは、接触が実社会の何を指すのかが明確ではないことから生じる問題であり、同時に対策の社会実装の困難さにもつながっています。
 接触が観測できないと、「数理モデルが正しいとすれば」新規感染者が8割減少していなければ、接触削減が足りなかったことになります。つまり、感染8割削減が目標にされ、どのように努力すればよいかが提示されないまま、目標が達成されなければ一般市民の努力が足りなかったと結論づけられる構図になります。対策を緊急に講じなければならない状況での意図せざる構図だったかもしれませんが、一般市民にとっては不都合なことなので、いま振り返って、どうすればよかったのかを考える価値はあります。

 西浦博教授自身が接触8割削減の検証作業に近いことを2回されており、拙稿ではその位置づけをしています。ひとつは、緊急事態宣言下での作業ですが、結局、検証できていません。モデルの詳細を理解しないと何が起こっているのか把握しづらいですが、拙稿ではできる限り根幹にしぼってわかりやすく説明しようとしています。この話題については、sarkov28氏も考察されており、参考にさせていただきました。
 もうひとつは、第1波収束後に学術論文となっているものですが、こちらはモデルの検証は最初から放棄されています。拙稿「『接触8割削減』の科学的根拠」で指摘したように、当初のモデルの計算結果を示す際に変数を取り違えた図が示されていたので、当初のモデルを正しく使って誤った動きを示すことはできません。接触8割削減の提唱時の分析結果を訂正して当初のモデルを検証する道も考えられますが、その道はとらずに、誤って示された分析結果に沿った動きを示すために別のモデルが用いられました。

(参考文献)
岩本康志(2023)「『接触8割削減』の科学的根拠」CIRJE Discussion Paper CIRJE-J-306

岩本康志(2024)「『接触8割削減』の検証可能性」CIRJE Discussion Paper CIRJE-J-310

(関係する過去記事)
「『接触8割削減』の科学的根拠」(ベータ版)