いま論じられなければいけない経済政策は,3つの性格のものに分かれる。まず,金融危機への直接的な対策。第2に,金融危機に起因する世界経済の減速に対処する,安定化政策。第3に,来年度予算編成に向けて,さまざまな構造的な問題に対応すること。
これらをきちんと峻別して,適切な手を打っていかなければならないが,30日にまとめられた追加的経済対策(「生活対策」)では,すべてが景気対策のなかにまぜこぜになっている。これが,追加的経済対策の最大の問題点だ。
(1) 第3の構造問題は別に長期的視点から議論しなければいけない問題である。ところが,十分に議論が詰められていない政策課題に唐突に結論が出されている。例えば,「成長力強化税制」の導入,住宅ローン減税(個人所得課税)の延長・拡充等は,税体系の整合性をとって,税制改革のなかで結論を得る問題である。
地方公共団体支援策について,以下のような項目があがっている。
○道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方の実情に応じて使用する新たな仕組みを作る
○地方自治体(一般会計)に長期・低利の資金を融通できる、地方共同の金融機構の創設について検討する
○地域活性化等に資するきめ細かなインフラ整備などを進めるため、「地域活性化・生活対策臨時交付金」(仮称)を交付する
○景気後退や本対策に伴う地方税や地方交付税の原資となる国税5税の減収等について、地方公共団体への適切な財政措置を講じる
国と地方の財政関係は,これまで大きな問題になっていたことであり,景気対策の形で結論を出すべき問題ではない。
(2) 経済対策(安定化政策)の主役は,金融緩和。これは31日の日本銀行の政策決定会合を見守りたい。
財政政策は自動安定化装置によって安定化機能を果たす。今年度の税収が予算より大幅に減少することで,赤字国債が追加発行される。2次補正予算か3次補正予算のどちらかに組み込まれるだろうが,これが財政政策の柱。
それに追加しての財政出動として,2兆円の定額給付金が盛り込まれた。財政赤字が深刻な時期の減税は,将来の増税で相殺されると思う国民が増えるので,その効果は小さくなると考えられる。将来の増税に備えて減税分を全部貯蓄すれば景気刺激効果はないし(リカードの等価命題),増税の悪影響や財政破綻を懸念して減税分以上に貯蓄してしまうと逆効果(非ケインズ効果)になる。今回は3年後の消費税引き上げに言及しているので,現状が切迫している(流動性制約にある)家計をのぞいては,大部分は貯蓄に回ると見てよいだろう。非常に効率の悪い政策である。定額給付金はやらない方がいい。
(3) 財源は「埋蔵金」を流用して赤字国債に頼らないことについて,麻生首相は記者会見で「安易に将来世代に負担のつけを回すことはしない」と説明したが,これは間違い。埋蔵金の流用は,赤字国債発行と実質的に同じであり,将来世代にツケを回している。
(4) 金融危機への直接的対応がやはり最重要だが,首をかしげる対策が混入している。
例えば,銀行の自己資本比率規制の一部弾力化は,考え方がまったくおかしい。株価低下で自己資本比率が低下して,貸し渋り,貸しはがしをする羽目になるのを未然に防ぐために,自己資本比率規制が用意されているのであり,ルールを曲げる必要はない。元利保証した債務に対して,大きく価格変動するかもしれない株式を銀行が保有することがそもそも間違い。規制を緩めるのではなく,きちんと早期是正措置をとり,経営者の責任を追及することで,銀行の株式保有行動を変えていくべきだ。また,銀行が保有する株式を買い取る案が引き続き検討されるようだが,もし実現すれば,株価が下がれば政府が買い取ることが実質的にルール化されるので,銀行の株式に対するリスク評価が大きくゆがむ。この対策も必要ない。
(参考)
麻生首相記者会見(10月30日)
http://www.kantei.go.jp/jp/asophoto/2008/10/30kaiken.html
現下の経済情勢への緊急対応
http://www.kantei.go.jp/jp/keizai/
これらをきちんと峻別して,適切な手を打っていかなければならないが,30日にまとめられた追加的経済対策(「生活対策」)では,すべてが景気対策のなかにまぜこぜになっている。これが,追加的経済対策の最大の問題点だ。
(1) 第3の構造問題は別に長期的視点から議論しなければいけない問題である。ところが,十分に議論が詰められていない政策課題に唐突に結論が出されている。例えば,「成長力強化税制」の導入,住宅ローン減税(個人所得課税)の延長・拡充等は,税体系の整合性をとって,税制改革のなかで結論を得る問題である。
地方公共団体支援策について,以下のような項目があがっている。
○道路特定財源の一般財源化に際し、1兆円を地方の実情に応じて使用する新たな仕組みを作る
○地方自治体(一般会計)に長期・低利の資金を融通できる、地方共同の金融機構の創設について検討する
○地域活性化等に資するきめ細かなインフラ整備などを進めるため、「地域活性化・生活対策臨時交付金」(仮称)を交付する
○景気後退や本対策に伴う地方税や地方交付税の原資となる国税5税の減収等について、地方公共団体への適切な財政措置を講じる
国と地方の財政関係は,これまで大きな問題になっていたことであり,景気対策の形で結論を出すべき問題ではない。
(2) 経済対策(安定化政策)の主役は,金融緩和。これは31日の日本銀行の政策決定会合を見守りたい。
財政政策は自動安定化装置によって安定化機能を果たす。今年度の税収が予算より大幅に減少することで,赤字国債が追加発行される。2次補正予算か3次補正予算のどちらかに組み込まれるだろうが,これが財政政策の柱。
それに追加しての財政出動として,2兆円の定額給付金が盛り込まれた。財政赤字が深刻な時期の減税は,将来の増税で相殺されると思う国民が増えるので,その効果は小さくなると考えられる。将来の増税に備えて減税分を全部貯蓄すれば景気刺激効果はないし(リカードの等価命題),増税の悪影響や財政破綻を懸念して減税分以上に貯蓄してしまうと逆効果(非ケインズ効果)になる。今回は3年後の消費税引き上げに言及しているので,現状が切迫している(流動性制約にある)家計をのぞいては,大部分は貯蓄に回ると見てよいだろう。非常に効率の悪い政策である。定額給付金はやらない方がいい。
(3) 財源は「埋蔵金」を流用して赤字国債に頼らないことについて,麻生首相は記者会見で「安易に将来世代に負担のつけを回すことはしない」と説明したが,これは間違い。埋蔵金の流用は,赤字国債発行と実質的に同じであり,将来世代にツケを回している。
(4) 金融危機への直接的対応がやはり最重要だが,首をかしげる対策が混入している。
例えば,銀行の自己資本比率規制の一部弾力化は,考え方がまったくおかしい。株価低下で自己資本比率が低下して,貸し渋り,貸しはがしをする羽目になるのを未然に防ぐために,自己資本比率規制が用意されているのであり,ルールを曲げる必要はない。元利保証した債務に対して,大きく価格変動するかもしれない株式を銀行が保有することがそもそも間違い。規制を緩めるのではなく,きちんと早期是正措置をとり,経営者の責任を追及することで,銀行の株式保有行動を変えていくべきだ。また,銀行が保有する株式を買い取る案が引き続き検討されるようだが,もし実現すれば,株価が下がれば政府が買い取ることが実質的にルール化されるので,銀行の株式に対するリスク評価が大きくゆがむ。この対策も必要ない。
(参考)
麻生首相記者会見(10月30日)
http://www.kantei.go.jp/jp/asophoto/2008/10/30kaiken.html
現下の経済情勢への緊急対応
http://www.kantei.go.jp/jp/keizai/