日本銀行は4月4日に「量的・質的金融緩和」を導入して,消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を,2年程度の期間を念頭に置いて,できるだけ早期に実現することを約束した。この約束が果たせない場合,岩田規久男日銀副総裁は辞職することになっていた。
 岩田副総裁が就任前の3月5日に国会で所信聴取を受けた模様を伝える記事がこちら。
岩田日銀副総裁候補:2年で達成できなければ辞職-物価目標2% (1)

2年以内に目標が達成できなければ、「責任は自分たちにあると思う」とし、「最高の責任の取り方は辞職するということだと認識している」と言明。2年後の消費者物価上昇率が2%に達しない場合は職を賭すということかとの再度の問いに「それで結構だ」と述べた。

 岩田副総裁は10月18日に,中央大学で講演をおこなった。その模様を伝える記事がこちら。
岩田日銀副総裁:2年で物価2%未達なら見直す-量的・質的緩和

「2年くらいで、なかなか達成できないなら、どこに問題があるかを見直す」と語った。

 2%の目標を果たせなくても辞職しない,というのがニュースである。上記記事から引用する。

岩田氏はその上で、「2%のインフレが今の金融政策だけでは不十分ということになるのは、海外のリスク要因が一番大きい。そういうことがあれば、日銀はまた何らかの対応を当然する」と言明。「それは逐次投入でなく、中長期的に見て、日本経済がやはり2%インフレに到達することが無理だということになれば、また新しい手段を考える余地はある」と語った。

 記事だけから推測すると,2%の目標が果たせないのは海外のリスク要因なので,それに対して辞職という形で責任をとる必要はない,という理屈になるのだろうか。
 金融政策の範囲外の大きな出来事によって物価目標が達成できない場合に,中央銀行に強く責任を求めないことは常識的な対応であり,現実にもよく用いられている。物価目標と免責条項が同時に明確化されるものは,免責条項付きインフレーション・ターゲティングとして知られている。
 ただし免責条項は後出しするのではなく,目標と同時に設定するのがよい。後出しでは責任逃れと見られても仕方がない。

(注) 日本銀行のサイトに掲載された講演原稿とブルームバーグの記事ではトーンが大きく異なる。記事では2%目標が達成できないときの対応に焦点が当てられているが,講演原稿は「海外要因など下振れリスクは存在しますが、『量的・質的金融緩和』を継続していくことにより、2年程度で15年近く続いたデフレから脱却し、賃金の上昇を伴った2%の物価安定目標を達成できると考えます。」で結ばれている。
 トーンのずれの詳細は記事だけからは不明であるが,リスク要因で目標が達成できない場合には講演で表明している見通しが間違ったことになるものの,見通しを誤ったことの責任はとらない,という立場のように見受けられる。

(参考)
【講演】岩田副総裁「『量的・質的金融緩和』の目的とその達成のメカニズム」(2013年10月18日)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko131018a1.pdf